44話目
「あの方は助かりません。そう、わたくしの予知で分かっております。仮に、ここでナノマシンを飲まずとも、彼女が起こした事故の遺族が彼女を刺し殺す未来が待っているだけでしたわ。それなら、お金を稼いで死ぬこの未来の方がまだと思いまして。そして、次の薬品でわたくしが死ぬことは無いと分かっているため、次の薬を所望したいですわ」
「・・・・・・」
マリアが淡々とアサミが死ぬと宣言したため、どう返事をしていいか分からない。カエデ達は、さっきまで食堂で話していたアサミが、あんな状態になったため感情の整理が追い付いていないのだ。
「・・・おそらく、5番の症状はナノマシンが想定外の再生機能を使ったため、体中のエネルギーが不足した事による極度の栄養失調だろう。つまり、君達も怪我をすると同様の事態が起こると考えられる。次の薬品は、ナノマシンのエネルギー補充のための薬だ。それを飲んで解決するかもしれないが、ナノマシンが体になじむ前に飲んでも無駄だと想定しているのだが・・・」
「先ほどの彼女を見たでしょう? わたくしたちの体の中で、急速にナノマシンは増殖し、すでに体中に行き渡っていますわ。むしろ、早くしないと、今も徐々にナノマシンにエネルギーを取られ、わたくしたちも彼女と同様になりますわよ?」
「わ、分かった。すぐに取ってくる」
アオイは、自分の論よりもなぜか説得力のあるマリアの進言を採用し、すぐに薬を取りに行くことにした。アオイが薬を持ってきたあと、ミカコが戻ってきた。
「残念だけど、田野さんが亡くなったわ・・・」
「・・・そうか。彼女には、手厚い補償を」
「分かっています・・・。それで、まだ治験を続けるつもりですか?」
「ああ。むしろ、今やめると彼女たちが危ないようだ。だから、早急に次の―――」
アオイがミカコと話している途中で、マリアがアオイが持ってきた試験管の中から自分の番号が書かれた試験管を抜き取る。その液体は、青色をしていた。番号ごとに色が違うため、中身が違うのかもしれない。そして、マリアは説明も無しにその液体を飲み干す。
「クソまずいですわね、けれどこれでわたくしは新たな力を得ることが出来ましたわ。残念ながら、これで未来視の力は消えてしまいますが、こうすれば問題ありませんわね」
マリアは、4番の試験管を抜き取ると、床へ叩きつける。
「な、何をしているんだ1番! これは希少な動植物から取り出したDNAを含む薬品で、代わりは無いのだぞ!」
「だからこそ、わたくしの中で不確定だったカエデさんの未来を閉ざさせてもらったのですわ。ふわーぁ、体になじむまでは少し眠くなるようですわね。では、ごきげんよう」
マリアは、眠そうに欠伸をすると部屋を出て行く。
「え・・・私の、薬が・・・?」
「おい、どういう事だ!」
「わ、私にも分からん! だが、とりあえず君たちは自分の番号の薬品を飲め。少なくとも、今よりはマシになるだろう」
「でも、カエデちゃんの薬が!」
「とりあえず、今は自分の事を優先しろ!」
アオイとアヤヒが言い争うが、そうしている間にもナノマシンに徐々に体のエネルギーを吸われているため、全員体の倦怠感を覚え始めていた。
「・・・私の薬をカエデちゃんにあげるのではだめなの?」
「これは、検査の結果を見てそれぞれの体質に合う様に調合したものだ。他人の薬を飲んでも、どのような結果になるのか全く分からん。最悪、何の効果も無いどころか悪化する可能性がある」
「ユカリさん、アヤヒさん、私の事よりも先に自分の事を優先してください」
「カエデちゃん・・・」
カエデの勧めもあり、ユカリとアヤヒは自分の番号の試験管を抜きだして飲む。恐ろしく不味いようで、さっきのナノマシンよりも苦悶の表情だ。だが、命がかかっているためどれだけ不味かろうと飲み干すしかない。ちなみに、ユカリの液体は緑色で、アヤヒの液体は赤色だ。割れたカエデの薬品は白色で、アサミの薬品は黄色だった。
「私は、床に落ちた薬品を舐めてみます」
「無駄だ、少なすぎる。最低8割は摂取しないと効果が無い」
「でも、このままじゃ私、死ぬのを待つだけじゃないですか」
「・・・それなら、5番の薬を飲む方がマシだ。さっきはああいったが、5番はまだ4番に一番体質が近いだろう」
「アサミさんの薬を・・・」
アサミはすでに亡くなっていると知らされたが、彼女専用の薬を自分が飲んでいいのかどうか心情的に迷うが、何もしなければ死ぬだけだ。カエデは、5番の試験管を抜きだして口へ含む。
(うぐっ、まるで粘土を飲んでいるみたい)
想像以上に不味い味に、吐きそうになりながらも、無理やり喉奥へと流し込むのだった。




