35話目
カエデは自然と目を覚ます。時計を見ると5時だった。いつもよりも少し遅く寝たカエデであったが、いつもの習性で自然といつもの時間に目が覚めたのだ。
「えっと、今日はシャワーを浴びてから集合でしたよね。でも、時間はまだありますね」
集合時間は9時。朝食を食べた後にシャワーを浴びても十分に間に合う時間だ。むしろ、直前の方がいいだろうと思い、何をしようかと考えていた所、ドアをノックする音が聞こえた。カエデはドアへ近づくとすぐに声がかかる。
「おはようございます。カエデさん、少しお話してもいいかしら?」
「あ、おはようございます」
ドアを開けると、そこにはマリアが居た。着ているのは検査衣ではあるが、マリアが着ているとシスターのようにも見える。
「えっと、どうぞ・・・」
「はい、ありがとうございます。お邪魔しますわ」
正直、カエデはマリアとほとんど話したことが無いのでどうしようかと一瞬迷ったが、断る理由も特に無かったので中へ入れた。マリアは丁寧に部屋へ入る。カエデは、椅子をマリアに勧める。
「何か飲みますか?」
「いいえ、気を使って貰わなくて大丈夫ですわ」
「分かりました。それで、用件は何でしょうか?」
時刻はまだ5時過ぎ。まだ、普通の人なら寝ている時間だろう。しかし、マリアはまるでカエデが起きているのを知っていたかのように起床時間ぴったりに訪れた。カエデは寝起きは悪くないので、すぐに対応できたが普通ならこんな時間に人の部屋へは来ないだろう。
「今日、カエデさんは薬を飲むつもりでしょうか? わたくしは、それを確認しに来ましたの」
「今日の薬、ですか?」
カエデは、今日の治験で薬が出るとは知らなかったが、どうやらマリアは確信している様な話しぶりだ。
「はい。わたくしには、今日のカエデさんの行動次第で未来が変わる事が分かりますわ」
「未来・・・ですか?」
カエデは、そう言えばマリアのこの宗教的な雰囲気が怪しくて避けていたことを思い出した。しかし、面と向かって話していると、まったくそういう雰囲気を感じないのだ。
「そうですわ。未来の分岐点。その一端をあなたが握っているのですわ」
「私が、ですか?」
カエデの頭の中は「?」でいっぱいになった。いきなり未来と言われても分からないし、具体的にどうなるかも分からない。薬の効果も分からない。分からないことだらけで返答が出来ないでいると、マリアは椅子から立ち上がった。
「これ以上、わたくしの口からは説明する事が出来ませんが、判断をお間違えにならない様に」
「え・・・、飲むのと飲まないの、どっちがいいんですか?」
「では」
マリアはそれだけ言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。質問にすら答えてもらえなかったカエデは、呆然とするしか無かった。




