29話目
カエデとアヤヒがそんな会話をしていたのを見計らったかのように、ドアをノックする音がして2人はビクッとする。
「田野だけど、居るか?」
「あ、ああ。居る、わよ」
「ちょっと話をしたいんだけど、入ってもいいか?」
アヤヒは目線でカエデに「どうする」と尋ねる。カエデは、今はまだ敵か味方かも分からない状態なので、拒否するよりも用件を聞く方が良いと判断し、こくりと頷く。
「いいけど、他の部屋の人たちも居るけどいい?」
「おっ、それは逆に好都合だ。4番の部屋にも行ったけど、誰も居なかったからな」
アサミはすでにカエデの部屋を訪問済みだった。そして、次である3番目の部屋を訪ねたのだ。アサミはドアを開け、3人が遊んでいるのに気づく。
「あ、悪い。邪魔したか?」
「トランプをしていただけだから大丈夫よ。えっと、椅子の方が良いかな?」
「ああ、すまねぇ」
アヤヒは、思ったよりも雰囲気が怖くないと感じた。なので、松葉杖をついているアサミが座れるように椅子を用意する。ちなみに、3人は床に座っていたので椅子は余っていた。
「それで、話って?」
「なぁ、あんたたちは、うちよりも早くここに居るんだろう? この治験って安全なのか?」
アサミは3人を順番に見回す。しかし、カエデも来てからまだ1日だし、アヤヒもそれより1日早いだけだ。ユカリもそれほどアヤヒと変わらない知識しかない。正直、今日が一番説明された日だったからだ。
「正直、あたしは分かんないかな」
「私も、分かりません」
「・・・知らないわ」
「そうか・・・。うちは、見ての通り怪我をしている。これは、うちがバイクで事故を起こしたから自業自得なんだけど、怪我させた相手にはそうは行かない。だから、うちは賠償金を払う気はあるんだけど、お金は無かった。うちはまだ働いてないから、銀行なんかにはお金は借りれなくて、闇金で借りたんだけど、返す当てがない。そしたら、ここを紹介されたんだ。うちはその時、よく考えずにお金が得られると思って安易に契約しちまったんだけど、実際に来たら心配になっちまって」
家族に縁切りされ、お金を借りるあてのないアサミは、手っ取り早く闇金に手を出してしまった。闇金も慈善事業ではない。それどころか、銀行なんかよりもよっぽど取り立てが厳しい。もし、返すことが出来なければアサミは体を売る事になるだろう。ただ、今は怪我をしているため、闇金は横のつながりのあるこの研究所を紹介したのだ。もし、ここを断るならば臓器を売る事になると脅して。ただ、その事は伝えるつもりは無い。
「でも、今日の感じでは危険そうだと感じたら、飲むのを断れそうでしたけど」
「でも、それだとお金は得られないんだろ?」
「一応、飲まなくても1日1万円は貰える・・・んですよね? アヤヒさん」
「うん、あたしはここに来た時にそう聞いたよ。あたしもあんたと同じく闇金でお金を借りたし、気持ちは分かるよ」
アヤヒも闇金で金を借りたが、アヤヒの場合は仕事もあるため無理強いされていなかった。しかし、早く借金を返したかったアヤヒが自主的に治験を受けた形になる。




