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ゾンビにされた  作者: 斉藤一


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1話目

 中学校の帰り道、二人の女子中学生が歩いていた。そのうち一人の子は、お腹を押さえている。


「はぁ・・・お腹空いたなぁ」

「出た出た、カエデの口癖」

「仕方ないよ、本当の事だもん」

「やっぱり、給食だけじゃ成長期の中学生には足りないんじゃないの?」

「でも、給食って持ち帰ったりしちゃダメでしょ?」

「当たり前じゃ無い。持ち帰って何かあって、学校の責任にされたら困るでしょ」

「うー、私は絶対にそんな事言わないのに・・・」

「楓の為だけに特例を作るわけには行かないでしょ。ほら、今度またクッキーを作ってきてあげるから」

「本当!? ありがとー。エリちゃんの事大好きだよ!」

「カエデったら、本当に単純なんだから」


 いつも空腹な方の女子生徒は本渡楓。その友人は喜多村英梨だ。二人は小学校からの親友で、エリはカエデの家庭事情を知っているため、食事については偶に援助している。

 カエデの家庭事情とは、5年生の時に母親が父親との喧嘩の末、出て行ったのだ。そして、カエデの父親は結構なクズで、家の事は何もしないどころか暇があれば酒を飲んでいるアルコール中毒者だった。そのくせ、仕事はトラックの運転手をしている。

 母親が出て行った次の日の朝、父親はおもむろに財布から一万円を取り出すとカエデに渡した。


「これがお前の一か月分の生活費だ」

「え・・・一万円?! 本当に、私が貰っていいの?」

「ああ。その代わり、父さんは面倒な事は全部やらないからな」

「分かった。私、家事を頑張るよ」


 カエデは喜んだ。同級生のお小遣いが一か月500円から1000円くらいしかもらっていない中、自分は一万円も貰えるのだと。だが、カエデは気が付いていなかった。父親は、本当に一か月分の生活費として一万円を渡していたことを。

 カエデが気が付いたのは、親友のエリにお菓子を奢ってあげて帰ってきた夜だった。


「あれ? お父さん、晩御飯は?」

「朝、金を渡しただろう? その中から好きな物を買って食えばいい」

「好きな物を食べていいの? ありがとう!」


 母親が居た時は、健康のため野菜を食えだとか、甘い物ばかり食べるなとか言われていたため、好きな物を食べられるのは誕生日や何かの記念日くらいだった。それが父親だけになった時には好きなものが食べられる。

 さっそく、カエデは近くのスーパーに行って自分の好物を買って来て晩御飯にする。久しぶりに食べたお弁当のハンバーグはすごくおいしかった。


「お母さんが出て行ったのはすごく悲しいけど、好きなものが食べられるのは嬉しいなぁ」


 しかし、カエデは次第におかしいと感じ始めた。昼食は学校給食があるからいいけれど、朝飯、夕飯はカエデが貰った一万円の中から出さなければならなかった。さらに、学校の給食費すらもその一万円に含まれていると言われた。それどころか、学校で使う文房具も、髪を切るための床屋代も含まれているという。

 カエデは、十日も経たないうちに一万円を使い切ってしまった。


「ねえ、お父さん・・・。お父さんから貰った一万円、使いきっちゃったんだけど・・・」


 カエデは、一万円の残りが数十円になり、晩御飯が買えなかった為、父親からお金を貰おうと思って、怒られるかもと思いながらも思い切って話を切り出した。


「なんだ、もう使い切ったのか?」

「うん・・・」

「仕方のない奴だな」


 意外にも、父親は怒らなかった。しかし、それ以上の返事も無かった。


「・・・お父さん、今日の晩御飯代頂戴・・・?」

「言っただろう? 今月は一万円で生活しろって。もうお金はないぞ。来月から気を付けるんだな」


 父親はそれだけ言うと、酒をあおる。本当に、カエデにお金を渡す気は無いようだ。話しかけても無駄だと思ったカエデは、晩御飯を我慢して寝る事にした。しかし、次の日の朝ごはんも無い。父親はいつの間にか仕事に出かけたのか、すでに居なかった。


「お腹空いたなぁ・・・。とりあえず、給食まで我慢するしか無いかなぁ」


 カエデは、お腹が鳴らないように水筒に水を詰め、空を水で満たす事によって空腹を我慢する事にした。その日の給食は、いつも以上に食べまくるカエデを見てみんな驚いていた。


「カエデ、どうしたの? 今日は午後の体育も休んでたみたいだし。体動かすの、好きだったじゃない? 体調が悪いの?」

「ううん・・・動くとお腹すきそうだから・・・」

「別に、それが普通じゃない」

「違うの。今日の晩御飯、何も無いから・・・」

「え?」


 エリは、カエデから話を聞いてカエデの父親に腹を立てる。しかし、小学生であるエリにも、それ以上の事は何もできなかった。家も決して近いとは言えず、晩御飯をおすそ分けに行くには小学生の足では遠すぎると感じる距離だ。

 その日の夜は、カエデは水だけで腹を満たし、起きているとお腹が空くのですぐに寝る事にした。まるで、急に乞食になったような生活が始まったが、本当の地獄は学校が休みの土日だった。


「お腹・・・空いた・・・」


 冷蔵庫には何も食べる物が無く、朝、昼、晩と水だけで過ごした。父親は土日も仕事なのか、一切帰ってこなかった。仕方なく、カエデは何か食べ物が無いかと家中を探し、海苔や缶詰などを見つけてはすべて食べきってしまっていた。

 月曜日に学校が始まり、給食を食べられた時には涙が浮かんできたほどだ。よく、給食前に給食室から食料を盗まなかったと自分を褒めたいくらいだ。

 父親はあれから帰ってきていないのか、カエデが学校に行っている間に帰ってきているのか分からないが会うことが無かった。そんな生活でも何とか一か月を乗り切ると、月初めに父親が家に居て、一万円を渡してきた。


「今月の生活費だ。大事に使えよ」

「うん・・・ありがとう、お父さん・・・」


 本当は文句も言いたかったが、文句を言うとこの一万円を取り上げられそうだったので素直に受け取る事にした。久しぶりにハンバーグ弁当を買って食べる事が出来た時、本当に涙が出るほどおいしかった。

 次の日、カエデが学校から帰ってきた時、家に異変があった。電気が使えなくなっていたのだ。


「お父さん? 居ないの? 電気が点かないんだけど」


 停電でもなさそうで、近所の家は明かりがついている。ブレーカーも一応見たけど、よく分からないけど大丈夫の様だった。電球が切れているわけでもなさそうだったが原因は分からなかった。幸い、ガスは使えるようで、暗くはあったが風呂に入ることは出来た。ドライヤーは使えなくなっていたので、髪を乾かす事は出来なかったけれど。ただ、洗濯機も使えなかった為、下着や服を手洗いし、干す事になった。

 カエデは、今度こそ一か月間食べるのに困らないように、一日に使えるお金の額を決める。単純に割って一日約300円。しかし、給食費や文房具代を考えるとそれ以下だ。


「平日は給食があるから、食事代は朝と夜の分でいいよね。ううん、朝は我慢できるから、夜ご飯だけおいしい物を食べようかな・・・」


 カエデは思考を巡らし、スーパーで腹持ちのいい物、カロリーが高い物と少しでも節約する術を考える。当然、弁当は割引後の物を買うし、日用品も最低限の物しか買わない。さすがに、トイレットペーパー無しはありえない。

 だが、カエデの生活はさらに厳しくなっていく。次の月には、ガスが使えなくなったのだ。


挿絵(By みてみん)

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