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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第7話

今話で襲撃編は閉幕です。


 暗黒騎士の体の崩壊は始まっていた。

 鎧が燃えカスのような小さな埃と化し、宙を舞っている。


 「しっかし、とんでもねぇ魔物だな」


 ヘルメスは周囲の惨状を見ながら、暗黒騎士の強さを感じていた。

 サニー達を囲むように瓦礫が散らばっており、崩れかけの家が転々とある。

 天気は曇天で、光は雲の上にある太陽しかない。

 そのため、暗黒騎士の姿がよりおぞましく感じる。


 「来るよ」


 暗黒騎士はまず手負いのサニーに狙いを定める。

 血だらけのサニーは、とにかく避けることに集中して、体力を回復することに専念した。

 そのため、ヘルメスが攻撃を受け止めることになった。

 「おもい」

 暗黒騎士の魔力剣を受け止めた瞬間、衝撃がヘルメスの体全身に走る。

 鍛え上げられた腕の筋肉は血管が浮き出し、ぷるぷると震えていた。

 攻撃が受け止められようが、暗黒騎士は何度も攻撃を行う。

 アスラが隙を伺いながら近づくが、高速で迫る魔力剣により、近づくことができない。


 「なぁ、体の崩壊が始まってるみたいだが、時間稼ぎすれば勝てるだろ?」

 「ダメ、時間稼ぎしてるって思われたら、避難してる人を殺しに行くと思う。あの魔物は今、私に執着してるから全力で相手しないと」

 「なるほど。悪趣味だな、あの魔物は」


 アスラは声を張り上げて言った。

 「誰かが真正面から行かないと近づけないね」


 アスラが得意とするのはハンマーの攻撃力による一撃必殺だ。

 先ほどは跳ね返されたが、無防備ならば必ず潰せる自信があるのだろう。

 だから、ヘルメスに暗黒騎士を怯ませて欲しいと提案した。 


 「いいぜ、なら、全力で攻撃しないとな」

 「私が時間を少しだけ稼ぐよ」

 「頼んだ」


 サニーがヘルメスを守るように側に立つ。

 剣を持ち、痛みと血で崩れそうな足は真っ直ぐと伸びている。

 ヘルメスは槍に魔力を込めていく。

 その間はサニーとアスラが暗黒騎士からの攻撃を担う。

 そして、槍に魔力が溜まり、渾身の蓮撃をお見舞いした。

 槍型の魔力が槍から伸びて、暗黒騎士を幾度となく突き刺す。

 高速で突かれる槍は残像を放っていた。

 暗黒騎士はあまりの猛攻に防御体制を取ることしかできない。

 攻撃が鎧にぶつかる度に、ヒビが入り砕けそうになる。

 その無防備な状態をアスラは逃さなかった。

 先ほどと同じように上空から、ハンマーを振り下ろした。

 暗黒騎士は頭上から地面へと叩き潰される。

 鎧が砕け散る音がサニー達の耳に届く。


 「ヘルメス兄!」

 「おーけーい」


 暗黒騎士と一番長く戦ってきたサニーだからこそ分かるのだろうか。

 最後の力を振り絞った抵抗が来ることが。


 「なっ!」


 アスラが驚いたように声をあげ、頬には汗が噴き出る。

 暗黒騎士は背中でハンマーを押し上げて、そのまま、振り返りざまにアスラに魔力剣で吹き飛ばす。

 のけ反ったアスラには回避する術がなかった。

 だが、そのお陰でヘルメスとサニーはトドメを刺すことができる。

 ヘルメスが突撃して、暗黒騎士からの攻撃を受け止めた。


 「これで、終わりだよ!」


 ヘルメスの左下からサニーが風の魔法により高速で接近した。そして、胴体を回転させながら、剣を横に思い切り振った。

 サニーが今放てる全力の攻撃だ。

 もはや、崩壊寸前の鎧は防具の意味を成さず、剣は肉を割く。血は出ていない。暗黒騎士の胴体は真っ二つにされたのだ。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 息遣いは荒く、足には力が入らない。

 手で上半身を支えて、暗黒騎士がいた場所を見る。

 暗黒騎士は朽ち果てるように消滅していく。

 そして、最後には黒いモヤが上空へと飛んでいき、風に吹かれるかのように消えた。


 「倒した」  


 倒した、心の中でもそう思い、喜びそうになる。

 だが、それは一瞬のことでアスラのことを思い出す。


 「アスラ!」

 「大丈夫だよ」


 アスラは倒れているサニーに走って向かってくる。

 うまく受け止めたのか、特に怪我は無かったようだ。

 ヘルメスもサニーの下へと駆け込んでいく。


 「倒したな」

 「倒したね」

 「倒した!」


 息を荒くしながら、三人は笑顔でそう言い合った。

 そして、数分後のことだ。

 サニー達の元に兵舎からの援軍が到着する。


 「すまない、遅くなった」


 傷だらけの兵士たちが多く、血生臭い匂いがする。

 鉄鎧がへこみ、渇いた血がへばりついている。

 リーダーらしき兵士がサニー達の前に片膝を曲げて謝る。

 他の兵士たちは、息がある兵士や瓦礫の下に埋もれた者がいないかを探している。


 「いや、構わない。その傷、どうしたんだ?」


 兵士がヘルメスの質問に健気に答えてくれた。


 「反対側でも戦いがあってな。君たちには感謝しきれない。君たちがいなければ、避難民は挟撃にあい、被害は甚大なものになっていただろう。直に隊長が来るから、待っててくれるか? 旅の人よ」


 「うん、分かった。私たちにできることはない?」

 「いや、大丈夫だ。後のことは、我々兵士に任せてくれ。本当に感謝する。君たちのおかげで、壊滅的な被害は免れたからな」


 サニーは周囲の惨状を見て思う。

 壊れた城壁には、どんよりとした雲が見え、あたり一帯は瓦礫の山だ。

 この状況では、いつもの生活に戻れるのにどれほどの時間がかかるのか分からない。


 「これって、壊滅的な被害じゃないの?」

 「…まだ、人が生きてる。なら、復興できる、さ」

 「…そっか」


 兵士はさも当然かのようにそう言い、去っていった。

 兵士の言葉をサニーはどのように受け取ったのだろうか。

 あの魔物一体が暴れまくっただけでここまでの被害がでることに驚いたか。

 それとも、なにも守りきれていないと、そう考えているのか、本人にしか分からないだろう。

 遠くを見る目は凛としていて、何か決心を持った表情でありながらも儚さを感じる。


 「何も守れてない」


 サニーの言葉に、ヘルメスは何も言わず目を瞑っていた。

 サニーにかけるべき言葉は誰にも分からないだろう。

 だが、アスラは口を開いた。


 「マシな方だよ。町そのものが消えることだってある。これが村なら確実に滅んでるよ」


 アスラは悲しそうに言いながら、自分に納得させるように言う。

 村という言葉に、サニーはぴくりと反応した。

 あの魔物がもし、自分たちの村に現れていたら守れていただろうか。

 グラセムやリリィなら守れていたかもしれない。

 そう考えるだけで、自分がまだまだ弱いことをよく理解できてしまう。

 あの守れなかった兵士のことも思い出すと、余計にそう思うのである。

 サニーは、くたびれた体を地面に預けたいが、お礼を言わなければいけないことを思い出した。


 「あの兵士、どこだろ?」

 「どうしたんだ?」

 「サニー、今は休んだ方がいいんじゃないかい?」

 

 サニーは二人の声が届いていないのか、気にもせずに、何かを探すように首を回す。足をよろめかせながら、記憶を辿り、あの兵士を探した。

 そして、腹に折れた剣が突き刺さる兵士を見つける。

 その兵士の顔は、安らかであった。


 「ごめんね、守れなくて」


 サニーの後ろを心配そうに着いてきたヘルメスとアスラは、声をかけるか迷ってしまっている。

 サニーとこの兵士だけ、この空間だけが世界から切り離されたように感じるからだ。

 サニーはゆっくりと剣を抜いて、兵士の手にしっかりと剣を握らせた。

 サニーの手に血がこびりつくが、気にもしない。

 そして、腰を下ろし、空を見つめる。

 太陽を遮る雲により青い空は見えない

 空は未だ晴れることを知らない。


 「君たちか、ここで戦ってくれたのは」


 そんなサニー達に声をかける者がいた。

 後ろからの声にサニー達は同時に振り向く。

 罰の悪そうな顔をした青年だった。

 赤髪と少しウェーブのかかった前髪が両サイドに流れている。後ろ髪は短い。疲れた表情で笑っている。


 「ああ、疲れているのにすまない。自己紹介をさせてくれ。俺はここラーハストにある兵舎の隊長だ。名をライゼンという」


 サニー達はそれぞれ名前を言う。

 ライゼンは、感謝の言葉を言って、本題に移った。


 「兵舎に来てくれるか? そこで休憩できるし、怪我も見てやれる」


 ライゼンの提案を受け入れて、サニー達は後をついて行った。

 サニー達は終始無言で、兵舎に向かう。

 それを気まずく思ったのか、ライゼンが前を向きながら声をかける。


 「服装を見ればわかるが、旅人なんだろ? 何のために旅をしていたんだ?」


 「…騎士になりたいから、王都を目指してた。ここは、その途中で寄ったの」


 「そうか。騎士、か。俺も騎士だったがやめちまったな」


 サニー達からはライゼンの顔を伺うことはできない。

 ライゼンが切ない思い出を話すような声をしているため、悲しい顔をしているのかもしれない。


 「何で、やめちゃったの?」


 ライゼンはサニーの言葉に一瞬歩みを止めるが、また歩き出す。


 「そうだな。そんなに強くないから、だろうか」

 「………」


 強くないという言葉は今のサニーにとって、心臓に棘が何度も突き刺さるような言葉だ。

 サニーは思わず、口を閉ざして俯く。

ライゼンはそんなサニーにまた話しかける。


 「今日の惨状のせいでやめたくなったか?」

 「……いや、もっと強くなる決心がついたよ」

 「そうか、強いな。俺にはないものを持ってるのが羨ましいよ」


 ライゼンの言葉の意味を理解できないのか、サニーは、不思議そうに眉をひそめる。


 「それで、他は?」


 まずは、ヘルメスが答えた。


 「俺はまぁ、サニーの付き添いって感じだな。ほっとくとどこまでも無理をするから、監視しとく奴がいねぇと。知らず知らずのうちに死んでたらたまったもんじゃねぇ」


 次にアスラが答えた。


 「私も騎士になりたいから、かも?」


 アスラはちょっと自信無さげに言うが、ライゼンはあまり気にもせずに、そうかと頷くだけだった。


 「なら、三人とも兵士になるか?」

 それは、サニー達にとって喜ばしい提案だ。


 「いいの?」

 「ああ、試験は免除だ。提案を受け入れてくれるなら、すぐにでも兵士になれるよう手続きを進める。強いやつの勧誘はしないといけなくてな」


 サニー達はお互いを見合い、サニーが口を開く。


 「じゃ、お願いするね。ありがとう」

 「礼などいらんさ。これから大変だからな。戦力が増えたのはありがたい」

 「まだ、何かあるの?」


 ライゼンが立ち止まるが、話を逸らした。


 「まずは治療と食事だな。それを終えてから、先の話をしよう」


 サニー達の前に見えるのは兵舎だ。

 高い石壁と監視砦が四つの角にあり、正面にはアーチ状の入り口がある。

  かなりの大きさで、目を細めるほどに石壁の端は遠い。

 話しているうちに、辿り着いたようだ。

 兵舎の周りは広場のようになっており、避難を終えた住民が、敷物を広げて寝たり座ったりしている。

 多くの住民がいるが、元気がないのかコソコソと話す声だけが聞こえる。

 子供は親の元でぐっすりと寝ており、静かだ。

 血を流しているものや、魔物の恐怖に怯えているのか、体を震わしている人もいる。

 その中を通り抜けるライゼンの後ろをついて行くと、兵士たちが敬礼をして去っていく。

 医療道具らしきものや、簡易テントのようなもの、食事に必要な材料や鍋を集めており、受け入れ準備を進めているようだ。

 中には、修道女らしき人もおり、傷ついた兵士に微力ながら回復魔法をかけている。


 「なぁ、これって、結構な数がいるよな」


 「ああ、南地区の半分が壊滅したからな。生き残ったものは数千人か。それがここに集まっている。北地区でもほぼ同様の被害が出たから、かなりの人数が兵舎を取り囲むように集まっている」


 「ここでみんな夜を越すの?」

 「そうだ。被害の軽い地区からは、毛布や食事の提供があるから、まぁ、何とかなる。着いたぞ、中に入ろう」


 アーチ状の入り口を通り、サニーは兵舎の中に入って行った。

 サニーは後ろを振り帰るが、すぐに前を向き歩く。

 「サニー、あまり気にしすぎるなよ」

 ヘルメスがサニーの様子を心配したのか気遣う言葉をかける。

 「うん、大丈夫だよ」

 サニーは笑みを浮かべるが、すぐに目線は下を向いてしまった。

 後ろから聞こえてくるいくつものすすり泣く声を後に、サニー達はその場を去った。

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