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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第6話

 瓦礫が地面に散乱している。

 至る所に血痕の跡が染み付いている。

 ここからは、壊れた城壁を見上げることができた。

 太陽は雲に遮られ、辺りには血の匂いが漂う。

 兵士の頭をその大きな手で掴むその姿は悠然の一言。


 薄緑の肌に黒い鎧を纏っている。

 魔力を纏った鎧に、指には装飾品である赤く光る指輪をはめている。

 悪魔によって生み出されると言われる魔物、暗黒騎士である。


 頭を掴まれ動けない兵士が抵抗するが、胸を剣で貫かれる。

 暗黒騎士は痛みにもがく兵士を喜ぶように笑う。

 赤黒い口が笑っているのが鉄兜の隙間から見えるのだ。


 「くそが、なんで笑ってやがる」


 地に伏す兵士が血管を浮かべながら叫ぶ。

 剣も鎧も全てが破壊された。

 他の兵士たちは、壁に吹き飛ばされてたのか後頭部から流血している。

 意識はないようだ。


  そして、他の魔物もいなかった。

 別の場所に向かったのか、はたまたここにいる兵士で倒してしまったのだろうか。

 剣で貫かれた兵士の足が動かなくなる。

 暗黒騎士は飽きたのかのように剣を抜き、兵士を放り捨てた。


 そして、倒れ伏した兵士の元に近づいていく。


 「ち、次は俺か。最後の足掻きぐらいはさせてもら

おう」


 その兵士は腕と足を折られているのか、ヨロヨロと立ち上がる。 

 折れた剣は真っ直ぐに暗黒騎士に刃を向けている。

 だが、虚しくも暗黒騎士は魔法の刃で横殴りに兵士を両断しようとした。


 紫色の魔力を纏う伸びた斬撃が、兵士の横から向かってくる。


 死んだか、そう思った兵士が折れた剣でなんとか受け止めようとした瞬間、金属がぶつかる音が鳴った。

 なんの音だ、朦朧とする意識の中、兵士が見たものは長いオレンジ髪を風に靡かせる少女である。


 「ごめんね。遅れちゃって。あとは任せて」


 兵士はあまりの衝撃に薄い意識が鮮明になる。


 「な、なんでここに来た。死ぬぞ! 俺が時間稼ぎしている間に散らばった魔物を倒してくれ。そいつらが民衆を襲う方がまずい」

 

 「倒した」

 「え」


 倒したよ、とサニーはもう一度兵士に言う。


 「助けてくれたらまずはお礼じゃない?」

 「あ、ああ、ありがとう」


 暗黒騎士が再び複数の斬撃を浴びせるが、サニーは弾き返す。


 「す、すげぇ」


 斬撃が無駄だと誘ったのか、暗黒騎士が手に嵌めた指輪に魔力を注いだ。


 「まずい、爆撃だ!」


 指輪にある結晶は、どんどんと赤く淡い光が強くなっていく。

 そして、光が一気に強くなった瞬間、サニーと兵士の側で爆発が起こった。


 危険を感じたサニーは自身の直感を信じて兵士を担いで逃げたため、難を逃れることができた。

 連鎖するかのように、またしても爆撃がなん度も行われる。

 爆発の起こった地面はクレーターのような模様を残している。


 直撃であれば、粉々になるのは明確だ。

 爆撃が止んだのか、もう爆発音は聞こえない。

 あの指輪は幾度もの魔法の行使により耐えられなくなったのだ。

 幾度もの爆撃により、土煙が舞い上がるのは自然であった。


 「ごめん、邪魔だから投げ飛ばすね。声は出しちゃダメだよ」


 「あ、ああ」


 兵士を担いでの戦闘はしたくないのか、サニーは土煙が残っているうちに遠くへと投げ飛ばした。

 それと同時に動き出す。


 「魔物、なのかな? 魔法を扱うんだね。爆発とかはできないけど、さっきの斬撃は私にも真似できるよ」


 サニーは剣に魔力を込めた。

 銀色に輝く剣が魔力を帯びる。


 「リリー様とグラセム様に教わった通りに、魔力で剣のリーチを伸ばしながら、大きく振る!」


 サニーの魔力は暖かい太陽の色だ。

 オレンジ色の魔力でリーチが伸びた魔力の剣が暗黒騎士を襲う。

 脇腹を抉るように振り抜かれたそれは、暗黒騎士の目には土煙の中から突然現れたように感じただろう。

 重い衝撃音と鎧を削る音が辺りに響く。

 そして、吹き飛ばされ壁へと激闘した。

 壁が崩れ、大きい穴ができている。

 サニーの薙ぎ払いにより土煙はもう消え去っている。


 「む、一発じゃ倒せないよね」


 サニーの目に映るのは、悠然と立ち上がる暗黒騎士の姿。

 だが、攻撃痕は残っていた。

 鎧が砕けて、赤黒い肌からは赤い血が流れていた。

 赤い血が不気味な肉体をより一層、不気味にしている。

 暗黒騎士は激怒しているのか、血を蒸発させ魔力に変換している。


 「全力が来る」


 明確な殺す意志を感じ取ったのか、サニーは剣を握る手を強めた。

 暗黒騎士の紫色の魔力が剣にベールのように纏わりついている。


 暗黒騎士は剣を天空に上げ、振り下ろした。

 空気を切るような音と共に、伸びた剣がサニーの頭上に接近する。


 サニーは横に避けるが、追いかけるように魔力の剣が迫ってきた。

 それをしゃがんで避ける。

 剣筋にある建物は見事に切断された。一度でも喰らえばサニーの体は真っ二つになるだろう。


 それからは、伸びた剣でサニー目掛けて幾度もの攻撃が仕掛けられてくる。

 サニーはそれを避けるか、力一杯受け止めるか、もしくは受け流して戦う。

 サニーは心の中で思う。


 「思ったりより猛攻が激しい。風の魔法で接近したいけど、急停止とかできないから、難しいな」


 サニーはどうすれば接近するのかを考えているのだ。

 サニーも魔力の剣でリーチを伸ばし攻撃を敢行したが、暗黒騎士の剣とぶつかるとあっさりと消滅する。

 攻撃力も頑丈さもまだまだ未熟なのだ。


 「やっぱり、直接狙わないと。ちょっと無理すればいけるかな」


 人手がいる、ヘルメス兄かアスラか、もしくは他の兵士か、誰でもいいから来て欲しいと心の中で考える。

 サニーの無意識の焦りを感じ取ったのか、暗黒騎士はサニーへの攻撃をより苛烈にした。

 より早く、より強靭な魔力の剣がサニーを襲う。

 たが、鍛え上げられてきた肉体が悲鳴を上げることはなかった。

 サニーは伸びる魔力剣を全て受け流し、最後の一撃を思い切り弾き返す。

 そして攻撃が止んだ。

 その瞬間、風の魔法で音を置き去りにし暗黒騎士へと急接近する。

 暗黒騎士は先程の猛攻による魔力の反動により動きが鈍くなっている。

 オーバーヒートのようなもので、肉体から湯気が出ている。

 だから、風の魔法で飛んでいる最中でも攻撃されることはない。

 「てぇぃやっ!」

 今なら倒せると、そう思いながら剣を振るうサニー。

 手と腕の血管が浮き上がっていた。

 その剣を暗黒騎士は弾き返すが、力強いサニーの攻撃に思わず体勢を崩してしまう。

 それを逃さず、サニーが剣を一閃した。

 その剣が砕かれた鎧から見える肌に触れようと近づく。

 だが、暗黒騎士の魔力によって阻まれる。

 「っっ!」

 膨大な魔力の上昇を感じ取ったサニーは、すぐにその場から離れて暗黒騎士を見た。

 砕かれた鎧が一瞬で治っており、魔力はどす黒く揺らいでいる。

 剣は黒い炎を纏い、目は体のうちから湧き出る魔力がはみ出し、もはや見えない。

 兜の隙間から見える口元はより歪んだ笑みをしている。

 

 「全力じゃなかった? いや…死ぬつもりで戦うのを選んだんだ。じゃあ、どうして笑ってるの? あなたには、嫌なことでしょ?」

 

 暗黒騎士の考えはサニーには分からない。

 魔物の考えは魔物の立場に立たねば理解することはできないのである。


 暗黒騎士はゆっくりと剣を一閃した。

 その剣筋を凝視しながら、サニーは目で追う。

 しかし、残像しか見えない。


 危険を感じたサニーは、直感的に跳び跳ねる。

 すると、伸びる魔力剣が後ろにある家々を一瞬で真っ二つにした。

 サニーは受け止めることをせず、避けることを選んだのは正解だっただろう。

 暗黒騎士は攻撃の手を止めることはない。


 幾度もの攻撃で、街はより崩壊していった。

 轟音が鳴り止まず、土煙が何度も発生するが、暗黒騎士の魔力剣により一瞬で消え去った。

 だから、当然だったのかもしれない。

 隠れていた兵士が見つかってしまうのは。


 「まずい!」


 サニーが助けた兵士は焦ったように逃げようとする。

 だが、体の至る所で骨が折れている重症だ。

 動けようがないだろう。

 無理をして動かした結果、血を大量に吐くだけになった。


 「がはっ! 走れ、迷惑かけてどうする!」


 自分に言い聞かせるように言うが、体は動かない。

 兵士に気付いた暗黒騎士は、飛び跳ねて兵士の前に立つ。


 「ダメ!」


 サニーは兵士を守るように暗黒騎士の前に立った。

 近距離で相対すると分かるが、暗黒騎士はサニーの数倍はでかい。


 「俺のことは守らなくていい。もう死んでるのと変わらねぇ」

 「いやだ、見捨てるなんて騎士の恥だよ」

 「………」


 サニーは凛とした表情で、力強く言った。

 至近距離での対面。

 今の暗黒騎士をこの近さで相手にすることはサニーにとって自殺行為に近い。

 暗黒騎士の命を糧にした攻撃がサニーを襲う。

 それに対し、サニーも魔力をふんだんに用いて応戦する。

 攻撃の苛烈さを証明するかのように、剣と剣がぶつかり合う度に衝撃波が生まれていた。

 髪が激しく揺れていた。


 サニーの体は衝撃に耐えきれず、腕から血が漏れ出る。

 壮絶な痛みが走っていることは、兵士の目から見ても分かることだ。

 それでもなお、悠然と立ち、逃げも泣きもしない未来の騎士の背中を兵士は目に焼き付ける。

 この若い少女の背中を目に焼き付ける。


 「あの攻撃を真正面から。だが、そりゃモタねぇだろう…」


 口に残る血を吐き出しながら、無念そうに言った。


 「騎士の恥、ね。すまねぇな」


 ここで死なせてはいけない命だ、そう兵士は思った。

 だから、兵士は自分の折れた剣を持ち上げる。

 天高く真っ直ぐと持ち上げる。

 そして、それを両手で持ち、自分の腹に思いっきり突き刺した。


 肉に食い込む折れた剣が、血を吸うかの如く真っ赤に染まる。

 暗黒騎士は兵士の奇妙な行動を見ていたため、攻撃を止めた。


 それを不思議に思うサニーは最初、油断することなく暗黒騎士を見つめていた。

 だが、兵士の血反吐を吐く声が聞こえ、後ろを振り向くと、信じられない光景を目にすることになった。


 「え」


 自分の剣で自分を刺している兵士を見つめ、思わず驚きの声をあげる。

 時が止まったように感じた。


 暗黒騎士はそんなサニーに剣を振り、すんでのところで受け止めるが、瓦礫の山へと転がりぶつかる。

 地面に残る血の跡が、戦闘の激しさを物語っていた。

 頭上に瓦礫がぶつかったせいか、眼と頬に血が流れ痛々しい。だがサニーは痛みよりも、あの兵士を守れなかったことに狼狽していた。


 「守れなかった」


 あの兵士はなんであんなことをしたんだろうと、そんな疑問で思考が飲まれる。

 疑問を解決する暇もなく、暗黒騎士による攻撃は続く。

 伸びた魔力剣は空気を切る音がする強力な攻撃だ。

 受けとめるが、たちまち何度も吹き飛ばされ、地面に転がる瓦礫の山に頭から突っ込むことになる。


 受け止めきれないのは当たり前だ。

 先ほどの真正面からの斬り合いはサニーの体に大きく負担をかけていたからだ。


 剣を握る手は、震えている。

 手と腕は血だらけだ。

 足の動きは覚束無い。

 衝撃に耐えきれず、痺れが取れないからだ。


 そんな自分の体の状況を理解して、サニーは疑問に答えを見出す。


 「そっか。守られたんだ」


 情けない。

 理想の騎士には程遠いと、サニーは思う。

 だが、あの兵士の行為を無駄にすることはできない。


 「でも、堪えるなぁ」


 倒れ伏しながら、拳に力を込め、そう言った。

 弱音を吐きながらも立ち上がり、深呼吸をして暗黒騎士を見据える。

 魔力剣による遠距離戦か、それとも接近戦か。

 暗黒騎士は、トドメを指すために選んだのは。


 「はやっ!」


 サニーの風の魔法と同等の速さで巨体が迫り、横振りに一閃した。


 サニーは魔力を込めた剣で受け止める。鈍い金属音が響き、火花が散る。

 だが、案の定、衝撃に耐えきれず、地面を転がる結果になった。


 そして、暗黒騎士は倒れるサニーに目掛けて、魔力剣で上から叩きつけようとする。

 地面に仰向けに倒れたサニーの目には、上から魔力剣が降ってきたように見えるだろう。

 その魔力剣がサニーを襲う。

 しかし、それは防がれた。


 「すまん、遅くなった」

 「ヘルメス、兄」


 ヘルメスは槍を横に持ち、持ち手の部分で受け止めている。

 あまりの攻撃力に、足元の地面にクレーターができた。

 地面がへこんだのだ。 


 「アスラもいるぜ」


 暗黒騎士は突然の援軍には大して驚かず、笑みを浮かべるだけであった。

 そんな暗黒騎士の後ろ側からアスラが屋根から飛びだす。

 そして、ハンマーに魔力を込めた。

 アスラのハンマーは徐々に大きくなり、数倍の大きさになる。


 家を一撃で瓦礫に変えそうなぐらいの大きさだ。

 それを、後ろから暗黒騎士に振り下ろす。


 魔力によって強化されたそれは、重さも相まって 暗黒騎士の鎧を打ち砕くことは容易だった。

 両腕に嵌められた防具が耐えられず、崩壊する。

 だが、今の暗黒騎士には通じず、腕の力だけで弾き返されてしまう。


 「普通は潰されて終わりなんだけど」


 アスラは驚くように言い、ハンマーを握る手を更に強めた。

 「サニーは?」

 「無事だ! サニー、立てるだろ?」


 ヘルメスは分かっているかのように聞いた。

 その問いかけにサニーは思わず嬉しくなる。


 「うん、このまま引き下がれないから、立てる」


 サニーは自分の足で立った。

 騎士は一人でも戦える存在だからだ。

 そんな騎士に仲間がいれば、倒せない魔物など存在しない。


 「ヘルメス兄とアスラがいるなら、絶対に勝てる」

 「ああ、二回戦といこう」


 3人はそれぞれの武器を構えて、暗黒騎士と相対した。

襲撃戦は次回で終わります

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