第5話
「あれがラーハスト」
サニー達は高い丘の上にいた。
ここからだと、城門に囲まれた建造物が見える。
それは、サニー達が目指していた場所。
ヒューマンの国の都市の一つ、ラーハストである。
故郷から旅立ったサニーとヘルメスは、一番近くの都市までたどり着いたのだ。
丘の上から降りて、ラーハストまで歩みを進める。
城壁の前に立てば、その高さに驚かされることになった。
「すっごい高い!」
「ああ、こりゃすげぇ。こんなの作れるんだな」
田舎者にとって、これほど大きな建造物は初めて見る。
驚くのも無理はない。
上を見上げていると、城壁の上にいた兵士がサニー達に怒鳴り声で怒る。
「おい、あんたら何してんだ! 城門はあっちだぞ! そんなんしてっと、魔物にでも間違われんぞ!」
「あ、ごめんなさい!」
兵士に叱られたため、城壁に沿って城門へと向かうことにした。
城門には関所のような窓口があり、数少ない商人がいそいそと荷物をまとめて、城門を通り抜けていく。
サニー達は、その列に並びながら順番を待ち、サニー達の番になった。
「あのー、中に入りたいんだけど」
「お、あんたら田舎から来たのか?」
「うん、これ身分証のお金」
サニーは鞄から路銀の入った袋を出して見せる。
兵士は中を確かめて4枚ほど銀貨を取り出した。
「ふむ、これで十分だ。名前は書けるか?」
「書けるよ」
田舎者は文字を書けない人もいるのだろう。
サニー達もそのことを知っているから、特に怒ることもせず、拙い字で紙に書いていく。
「サニーとヘルメスか。良い名前だ。ちょっと待ってな」
兵士は窓口から離れ、手早くゴリゴリと何かを削っている。恐ろしく早い手捌きだ。
「よし、これが身分証だ。無くすなよ」
サニーとヘルメスはお礼を言い、身分証を受け取り、その場を後にする。
身分証は金の縁と滑らかな木材が使われている。
形は長方形であり、手で収まるサイズだ。
前には名前が刻まれており、後ろには銀色の紋様が描かれている。
城門を通り抜けた先、サニー達の目に映るのは一直線に伸びる大きい街路。
街路の横脇には路地がいくつもあり、それらに沿って家が並んでいる。
遠くを見ても、近くを見ても人が多い。
サニー達の目には、溢れんばかりの人がいた。
そして、レンガの屋根に磨かれた石壁が光っている。
見る物全てが、サニー達にとって新鮮だった。
「うわぁ! ヘルメス兄、ぜんぶたっかいよ!」
「あ、ああ」
ヘルメスが見たこともない光景に呆然としてるいる。
取り敢えず、中央に続く街路を歩いていく。
サニーとヘルメスの仕草に田舎っぷりが現れているのか、横切る人々は少し笑っていた。
「ちょ、サニー」
それに気付いたヘルメスがちょっと恥ずかしそうに、サニーに声をかけた。
しかし、そこにサニーはいなかった。
「あれ、どこ行ったんだ?」
キョロキョロと周りを見渡しても、サニーの姿は無い。
ヘルメスは迷子になった。
迷子になったヘルメスを置いてけぼりに、サニーは
近くの商店に顔を出した。
網の上にフラフィの肉をサイコロ状に切ったものが4つ、棒で突き刺さされている。
それは、秘伝のタレがふんだんに使用されており、おいしそうな焦げ目がついている。
ここは、フラフィの肉屋さんだ。
どうやら、サニーはこの香ばしい匂いに釣られてしまったようだ。
「お、食べるかい?」
「うん、食べる。4本ちょうだい」
「あいよ、4銅貨だ」
サニーが硬貨袋から、銅貨を4枚取り出し、両手を使い、指で棒を挟む。
「ありがとー」
「まいどー」
サニーはヘルメスの元に戻ろうとすると、ふと気付いたのである。
「ヘルメス兄と食べよー。あれ、ヘルメス兄、どこだろ?」
サニーも、迷子になってしまったようだ。
辺りをキョロキョロと見回してもヘルメスはいない。
状況を次第に理解していったのか、サニーの顔から汗が湧き出てくる。
「がぶ。どうしよ」
先ほど買ったフラフィの串焼きを頬張りながら、思案する。
「うーん、そうだね。行くとしたら武器屋とかかなぁ?」
ヘルメスが行きそうなところを回ることにするようだ。
取り敢えず、サニーは町の人に聞き、近くの武器屋に駆け込むことにした。
串焼きのタレが当たらないように、華麗に人混みの中を通っていく。
冷めないうちに食べ終わり、棒はゴミ箱にでも捨てた。
街路の横には路地裏や狭い街路があり、目当ての武器屋はそこを歩かなければならない。
サニーは、先ほど住民に言われた通りに、狭い路地を歩いていく。
少し歩くと、看板らしきものが見えた。
騎士の銀の剣と鎧のマークがある看板だ。
「あ、ここだ。ヘルメス兄、いるかな」
扉を開けた先に、ヘルメスはいなかった。
その代わり、青髪の女性がいた。
長い髪に旅装束に身を包み、背中にはハンマーを担いでいる。
サニーのことをチラリと見るが、鉄鎧に視線を向けた。
一瞬見えた目元は少し暗く、背中は浮浪者のように見えた。
鉄鎧は、御伽話に出てくる英雄が初めて装着したと言われる鉄の鎧だ。
実際の騎士は、全身を鉄鎧で身を包むことはないが。
そんな彼女が見ている鎧を見て、サニーは自分と同じかもと思い声をかける。
「ねぇ、あなたも騎士になるの?」
「私?」
青髪の女性が周りを見て、自分に指をさしたのか確認する。
それにサニーは頷いた。
「…そうだね。騎士になりたいのかも。分かんないや。君はいかにもって感じだね」
「うん、私は騎士になるためにこの町に来たんだよ。この鉄鎧、カッコいいよね!」
「そうだね」
青髪の女性はサニーの言葉に同調するかのようにゆっくりと言った。
そして、羨むように話し始める。
「…君は目的がはっきりしてて良いね。私はずっと迷ってる」
「何に迷ってるの?」
「君に言う程のものじゃないよ。私の問題でね」
あまり詮索するのはよろしくないと感じたサニーは、それ以上聞くのをやめた。
青髪の女性が疲れた顔をしていたからだ。
「そうなんだ。あ、私はサニー。名前は?」
「アスラ。また会う事もないだろうけど」
かなり冷たい印象を感じるが、サニーは大して気にもしていない様子だ。
「アスラって名前なんだ。覚えとくね」
「…なら、私も覚えとくよ。サニー」
アスラの返答に満足したのか、サニーはニンマリと笑った。
そして、武器屋の扉が開かれる。
誰か入ってきたようだ。
「お、いたか」
「うん。一緒に迷子になっちゃったね」
「ああ、都会はすえ恐ろしいぜ。ん、そいつは誰だ?」
アスラははヘルメスとサニーを見比べて気付いたように言った。
「君、兄がいたんだ」
「うん、ほら、自己紹介! 都会でできた初めての友人だよ!」
何がなんだかわからないヘルメスだが、取り敢えず、名前を言った。
「お、おう。ヘルメスだ。よろしくな」
「アスラ。よろしくね」
そのまま沈黙の時を過ごす。
それもそのはず、サニーとヘルメスは故郷以外で人と話したことがない。
故に、いつもは好奇心旺盛なサニーもあまり話しかけれなかった。
アスラのあまり近付き難い雰囲気も気まずさに拍車をかけているのだ。
この雰囲気に耐えられなくなったのか、ヘルメスはサニーを引っ張り出し、アスラに背を向けて文句を言った。
もちろんコソコソ話でだ。
「おい、なんであんなクールな人に話しかけたんだ!」
「思わず」
「思わずじゃねぇよ。あいつと行動するつもりなのか」
ヘルメスが早口で捲し立てるが、サニーは楽観的だ。
「大丈夫だよ。騎士を目指してるっぽいし。それに、なんだかほっとけない感じがするんだよね。なんか迷子になってるような感じがして」
「おま、まぁ、いいや。てか、誘うのは今からか?」
「そうか、どう誘うんだ」
「こう誘うの」
コソコソ話をやめて、サニーがアスラに勢いで言う。
「アスラ、私たちと一緒にこない?」
誘い方は明快であった。
握った拳の親指を自分に指し、努めて明るく思い切ってサニーは言った。
少し顔や指が震えている。
ヘルメスは後ろでうんうんと頷いていた。
二人の自信がありそうでなさそうな振る舞いを、アスラはじっとみる。
そして、少しクスッと笑った。
「あはは、行くよ。一緒に行く」
「やったぁ〜!」
サニーとヘルメスがハイタッチで喜ぶ。
「これからよろしくね」
アスラがそう言うと、サニーが心底喜んだ。
外に出てこれから先のプランを考えようと思った矢先、アスラが言った。
「もしかして、ラーハストは初めて?」
ヘルメスとサニーが頷くと、アスラは呆れるように言った。
「はは、初めて来て早々に迷子になったんだ。というか、どこに行くつもりなんだい? 騎士になるには兵士にならないといけないけど」
「え、そうなのか」
ヘルメスは知らなかったようだ。
サニーも同様の反応で、さらにアスラは呆れた。
「騎士は貴族と一緒の地位だし、武器の携帯を認められるためには、兵士の身分証が必要なんだよ。私たちみたいな旅人っぽい見た目なら許されることが多いけどね」
「し、知らなかった」
「え、どうすればいいの?」
あわあわとサニーが聞くと、アスラは大丈夫かこの子と思いながらも話してくれる。
「兵舎に行けば、兵士として働けるかも。兵士志願者はそこに行ってるのを見たことがあるね」
「よし、ならそこに行ってみよー」
サニーがアスラとヘルメスの手を引っ張って、出発しようとすると、突如、鐘の音が街中に鳴り響いた。
そして、数秒後に轟音が轟く。瓦礫が地面にぶつかるような音だ。
「何があったんだろ」
上を向いて、至る所から騒がしい声をサニーとヘルメスは聞いていた。
轟音に入り混じった悲鳴が聞こえてくる。
「これ、誰か襲われてる」
サニーが確信したかのように言った。それに対して、アスラはポツリと言った。
「魔物の襲撃」
アスラがそう言った後、建物の屋上に飛び上がる。
サニー達もなんなくと、後をついていった。
「あれは、城壁が崩れてるな」
「魔物が町になでれ込んでるのかも。よーし、助けに行こうー!」
サニーの言葉が終わると同時に、アスラは建物の屋上をジャンプしながら飛び乗っていく。
真っ先に戦場に向かったのは、身体が自然に動くだからだろうか。
「アスラ! まってー!」
慌ててサニーとヘルメスも追いかける。
後方から聞こえる声にアスラは言い放った。
「魔物の襲撃は、広範囲に広がりやすい。別れた方がいいよ」
「分かったー」
「じゃ、俺は左側行ってくるわ」
「んじゃ、私は右側の方に行ってくる。アスラは真ん中だよー! 終わったら真ん中で集合ね!」
アスラはサニーの言葉に後ろを振り向いて、軽く頷く。
サニー達はそれぞれの武器を手に持った。
サニーは片手剣、ヘルメスは槍、アスラはハンマーだ。
そして、先ほど決めた目的の場所に各人、向かっていった。
サニーの目的地、北東方面では兵士たちが魔物と応戦している。
民衆を守るように街路の前に立ち塞がり、魔物の侵攻を抑えていた。
魔物の目的は何か。それは、兵士たちにはわからない。
しかし、ここに守るべき民がいるのであれば、目的がどうあれ、食い止めること自体に意味があるのだ。
魔物もただ真正面から侵攻するだけではない。
彼らは残虐で非道で道理を弁えない。
戦いを求めているのではなく、悲鳴を聞くために人々を襲う魔物もいた。
狼型の魔物が建物の屋上に飛び跳ねて、逃げ惑う民衆を獲物を狩るが如く狙っている。
兵士たちに邪魔されない一瞬を狙うのだ。
その姿は狩り人の如く。
魔物は獲物を見つける。
兵士から少し離れた場所にいる子供だ。
それに気付いた兵士はすでに遅かった。間に合わない。
「まずい、おい、誰かいないか!」
その兵士にはすでに守っている民がいた。
そのため、助けにいけなかったのである。
しかし、その声は確かに伝わったのだ。
屋根から飛び跳ね、魔狼が一直線に少女の元へ牙を向けようとした瞬間、一人のオレンジ髪の少女が横から蹴りを入れて魔狼をぶっとばす。
「未来の騎士、サニー、参上!」
サニーは決め台詞が決まって嬉しいのかドヤ顔だ。
魔物に襲われそうだった少女に振り向き、大丈夫かと問う。
少女は頷いた。
「よーし、他の魔物も近づいてきてるから、あの兵士さんに投げ飛ばすよ。口閉じててね」
「??」
サニーが殴り飛ばした魔狼以外にも仲間が3匹ほど走ってきているのが見える。
このまま少女を守り切ることができないと考えたサニーは、少女の両脇を掴み、思い切り投げ飛ばす。
少女は両手をバタバタとして、兵士の胸の中に顔をぶつけることになった。
ぶつかった衝撃で、少女の目には涙が浮かんでいる。
「助かった、ありがとう。すまないが、援軍が来るまでそいつらの相手をしといてくれ! 俺も市民を安全な場所に送り届けたらすぐに戻る!」
「分かった、避難誘導は任せるね」
兵士を背に町の中央へと避難していくのを見つめ、サニーは魔狼達を見る。
殴り飛ばされた魔狼は痛みに呻きながら立ち上がり、駆けつけてきている仲間の魔狼たちの元へと駆けていく。
サニーの眼前には4匹の魔狼。
横に並ぶ姿は街道を占領する侵入者そのもの。
人よりも数倍は大きい魔物だ。
1匹は手負いであるが、人間一人で相手をすることは危険である。
だが、魔狼に怯むサニーではない。
両方ともに相手の出方を伺いながら数秒がたった。
先に動くのはサニーである。
地面を足で押し、足を力ませる。
そして、風を残し魔狼のもとへ一直線に飛ぶ。
風の魔法だ。
故郷の村で鍛えた技が産声をあげる。
「てぇやぁっ!」
思わぬ速さに反応が遅れた1匹の魔狼が一刀両断される。
他の魔狼の斜め後ろで止まることになったサニーはそのまま流れるようにもう1匹の魔狼を横から剣を振り下ろし仕留めた。
原型を保てなくなった魔狼はそのまま魔力を維持できずに消え去った。
「血が出てない。生まれたばかりで人を食べてないんだね。良かった」
サニーはそう言うと、もう二匹の魔狼を見据える。
左右にいる魔狼が吠え合い、何かを伝え合う。
「なに?」
初めての経験なのか、サニーは思わず疑問を口にしてしまう。
仲間と意思疎通をする魔物との遭遇は初めてなのだ。
「まぁ、いっか。先手必勝で終わらせよう」
サニーは風の魔法で近づき、魔狼を一刀両断しようとしたが、魔狼は待っていたと言わんばかりにサニーの剣を避ける。
そして、サニーを中心に囲み、二匹の魔狼が円を描くように走る。
グルグルと持ち前の脚力でサニーの周りを走っているのだ。
人間の目線では到底追いつけないスピード。
どこから攻撃が来るのかは全く見当もつかない。
「どこからでもかかってきなよ」
後ろか横か、少なくとも真正面はないとサニーは考えている。
そしてそれは正解であった。
真後ろから鋭い牙がサニー目掛けて接近する。
それを難なくと交わし、ついてに魔狼を切り刻んだ。
よし、あと一匹だ。
サニーは心の中でそう思い、最後の魔狼を見据える。
だが、それはサニーの勘違いだ。
真横からもう一匹の魔狼が姿を現したのである。
魔狼は全部で五匹いたのだ。
一瞬判断が遅れたサニーの腕を食いちぎろうと、牙が寸前まで迫った。
最後だと思っていた魔狼も呼応するかのようにサニーの真正面から向かってくる。
だが、サニーは落ち着いていた。
父から魔物と戦う時は常に心を落ち着かせろと言い聞かされているからだ。
軽やかに避ける。
一歩下がればいい。
そう考えたサニーは、風の魔法を少しだけ行使して、瞬時に後ろに下がった。
そして、目の前を魔狼が通り過ぎていくのを見逃さず、剣で胴体を切断する。
真正面から向かってくる魔狼も、避けて切断してしまった。
「よし、倒せた。魔狼の中にもこんな連携技見せてくるのがいるんだね」
剣を鞘に納め、街の崩壊具合を確かめる。
城壁の方では家や壁がぐずれ、瓦礫が散乱していた。
その光景に顔を顰めるサニーであるがすぐに気を引き締めた。
魔物と応戦する兵士たちの声がサニーの耳に聞こえてくるからだ。
「まだまだ魔物がいるみたいだね」
そう言葉を残し、サニーは声のする方へと走り去っていった。
襲撃戦は後2話ほど続きます。
お待ち下さいね。




