第4話
初めての戦いから夜が明けた。
サニー達はすでに寝床から起き上がっており、朝食を取っていた。
「回復魔法ってすごいんだね。ほら、もう怪我治ってるよ!」
「ほんとにな。俺、潰されてたと思うんだけど、治ってて驚いたよ」
悪魔に蹴られて青黒くなっていたサニーの脇腹は、綺麗な肌色へと変わっていた。
「こら、はしたないからやめなさい」
父が嗜めるようにサニーに言う。
ウィリスはサニーに同意するように話した。
「成熟した回復魔法は、一瞬で傷を治してしまいますから。私も精進しないといけません」
ふんすっと鼻息を荒げて、自分も努力しないといけないと発破をかける。
「今日はリリィ様とグラセム様から特訓を受けるんだろう? ほら、早く朝食を食べるんだ」
父の催促を受けて、サニー達は朝食を済ませ、リリィ達のもとへと向かった。
「待っていましたよ。サニー、ヘルメス、ウィリス」
「あれ、ヘルメス兄とウィリスもやるの?」
サニーが知らなかったという顔で二人を見る。
すぐにリリィが疑問に答えた。
「ええ、ついでにです。サニーが寝た後、目が覚めた時に私から声をかけたのです。ウィリスは強制参加ですが」
ヘルメスは感謝感激とリリィに挨拶をする。
「今日はよろしくお願いします」
サニーとウィリスも続けて挨拶をし、リリィの講義が始まった。
どこから持ってきたのか、木の看板に綺麗な白い紙が何枚か貼られている。
「さて、ウィリス。魔力はどこにありますか?」
「私たちの心臓から湧き出ています。自然にもありますが、空気中の魔力を取り込むことはできません」
「ええ、そうです。心臓から湧き出る魔力は普段は垂れ流しになっています。空気中の魔力を取り込みすぎる可能性があるので、それを制御して魔法を扱うことになるのですが…ヘルメスは魔力を流すのが初めてですよね?」
リリィの言葉にヘルメスは頷いた。
「サニー、魔力を流した感覚はどんなものでしたか?」
サニーは思い出すように、ぽつりぽつりと話す。
「えっと、なんか体がすっごく熱くなって、痛みが走ったと思う」
「それは、魔力路が開通した証拠です」
「魔力路?」
「魔力が通る道です。私たちの体には血が流れているでしょう? 血が通る道が魔力路になります。初めて魔力を使う者は、開通した反動で体全体に痛みが走るのです。取り敢えず、ヘルメス、魔力を流してみましょうか」
悪魔と戦っていた時、サニーがしていたのと同じように、ヘルメスは心臓から手へと魔力を流していく。
「心臓から手に流せていますね。はい、やめてください」
リリィに言われて、止めると電撃が走ったかのようにヘルメスの体に痛みが走る。
「ぐぉっ! なんだこれ?」
「はい、順調ですね。では、両手両足に流していきましょう。サニーもやってください」
サニーも言われた通りにやる。
「はい、やめてください」
リリィは淡々と支持をしていく。
ウィリスも練習とばかりにサニー達に付き合っているが、そこまで辛くはなさそうだ。
「い、いた! い、いたたたたたたた!」
「ざ、ざにー。大丈夫が」
二人とも生まれたてのフラフィのように足をガクガクとさせている。
「ウ、ウィリスはなんで平気なの?」
震えながら話した声が少し面白かったのか、ウィリスは少し笑みを浮かべている。
「私はすでに経験済みですから」
「ああ、思い出します。ウィリスも同じような姿になっていて。こうして手足を突ついていたずらをしたものです」
にんまりと笑顔を浮かべて、足や手を突っついていく。
「リリィ様、それだめ!」
「ウ、ウィリス、止めてくれ!」
痺れた足や手に指が当たる度に、リリィは何度も面白がるように触れた。
たまらず、ウィリスに懇願するが目線を横にそらしてジト目になる。
「頑張って耐えてください。私にはどうすることもできませんので」
諦めたかのように錫杖を握り締めて、決して目線を合わせようとしない。
サニーとヘルメスを助け出す人はいないようだ。
そして、地面に倒れ伏すサニー達の出来上がりだ。
「リリィ様、ひどい」
サニーが力のない声でリリィを糾弾する。
ウィリスはあまりの残酷さに口を手で抑えていた。
「これも練習ですよ。魔力切れを起こす寸前は、同じような感覚になります。それでも、戦わないといけない時は、どれだけ痺れていたとしても剣を振るう根性が必要ですから」
「初めての人間にやることじゃない」
リリィがそれとなく理由付けをしたとしか思えないのか、ヘルメスは力無く糾弾した。
「ほら、立ち上がってください。魔法を教えますよ」
魔法という単語にサニーは飛びつくように起き上がった。
続いてヘルメスもゆっくりと立ち上がる。
リリィの講義は続いていく。
「風の魔法は一番有名です。これがあれば、移動も戦闘もやりやすくなります。使い方はそうですね」
リリィの足が突如、風を帯びる。
その証拠に、ゆらゆらと長い髪が揺れている。
サニーが確かめるように触ると、風を感じる。
「すごい! ほんとに風がある!」
「これをですね。こう、足裏から出すようにして、一気に魔力を放出すると」
足裏に魔力が集中し、それが一気に爆発するかの如く拡散する。
サニー達の髪や看板に貼られた紙も吹っ飛んでいきそうだ。
リリィは数十メートル先にまで飛んでいったのを、サニーとヘルメスは目を見開い驚く。
「あれなら、騎士団が王都から走ってくるのも納得だ」
ヘルメスは納得するように、呆然と言った。
少し遠くにいるリリィがまた、風の魔法を使い戻ってきた。
着地の寸前には衝撃を和らげるように、地面に波紋ができる。
「とまぁ、こんな感じですね」
「私もやりたい! リリィ様、教えて!」
催促するサニーを手で制して、説明を始めた。
「やり方は教えますが、一回だけですよ?」
「うん!」
「では、靴を脱いでください。ヘルメスもですよ」
顔に疑問符を浮かべてながらも、靴を脱いで裸足になった。
「足裏を見せてください」
足裏を見せると、リリィが足首を掴み、魔力をサニーとヘルメスに流していく。
そうすると、魔法陣が足裏に刻まれた。
「なにこれ?」
「風の魔法陣です。これで、風の魔法が使えます」
「これに魔力を流せばいいのか」
思いついたようにヘルメスが試しに魔力を流していく。
リリィと同じように風が生まれた。
サニーも遅れてやってみると割と簡単にできた。
だが、力が弱くリリィのようにはならない。
「それを、足裏に集めて一気に放出してみてください」
サニーは言われた通りにやってみると、突然意識が飛んだかのように景色が変わる。
大きく空を舞ったのだ。
しかし、すぐに地面にぶつかった。
ちなみにヘルメスはあらぬ方向へと飛んで行った。
「ぺぶぅ、いったぁー!」
顔を押さえて悶えるサニー。
ヘルメスは後頭部を押さえながらリリィのもとに足を引き摺りながら戻ってきた。
ウィリスは心配そうにみているだけだ。
「足が痛いでしょう? 魔力の放出は足に負担がかかりますから」
サニーはリリィに言われて気づいたのか、足が思うように動かなくなっていることに驚いている。
「一回だけでこんなになっちゃうなんて」
「初めてにしてはマシな方です。魔力を全力で放出してしまって、足が使えなくなる人もいるんですよ」
どうやら、本当は危険なことだったらしい。
リリィがいるから大丈夫なのだろうが、それでも、足の痺れや震えに恐怖は覚えるものだ。
「これって、何回も使うの?」
「はい、魔物との戦闘では数百回を超えることがあります。なにも魔物は一体だけとは限りませんから」
常に一対一の戦闘が出来ると考えてはいけないとリリィは言う。
「リリィ様、どうやったら耐えられるようになりますか?」
ヘルメスが律儀に聞くと、リリィは快く答える。
「走って下さい。とにかく、足を鍛えるんです。何かを蹴るのもいいでしょう。私もそうやって鍛えましたから。グラセム、あなたが教えて下さい」
リリィがパチンと手を叩くと、グラセムが来た。
「俺の番か」
相変わらずの淡白とした声だ。
「グラセム様、お願いします!」
「ああ」
そして、グラセムの講義が始まる。
と言っても、その中身は一緒に訓練をするだけだ。
リリィとウィリスの聖女服は走りやすいようにデザインされている物なので、特に着替える必要はない。
「まず、体力をつけるためにやれることは走ることだろう。1日に走れるだけ走るんだ」
「倒れるまでってこと?」
「そうだ」
リリィはなぜかやる気満々になっていて、早速行きましょうと催促してくる。
村の外周を回ることになり、取り敢えず軽く走っていると、グラセムが当然スピードを上げる。
「俺について来い」
グラセムはそのまま地面を強く蹴って、すぐに遠くに行ってしまった。
「「え」」
サニーとヘルメスは驚くが、ウィリスは驚かず先に前を走っていく。
リリィもいつの間にか、グラセムの後ろにいた。
追いつけるように全力疾走で二人は走る。
数十分後、サニーが地面に倒れ伏す。
「はぁ、はぁ、はぁ。じぬぅ!」
なんとか立ちあがろうと足を地面で踏むが、立ち上がれなかった。
リリィとグラセムはすでに見えない場所にいるが、どこにいるのだろうか。
「サニー、周回遅れだな」
「ほら、サニー、立ち上がって走って下さい」
どうやら、すでにサニーを追い越すまでには近かったようだ。
リリィはにっこりと笑みを浮かべて、サニーを立ち上がらせる。
まだ休んではダメだと言うことらしい。
「うう、頑張る!」
「ええ、死ぬ気で走って下さい」
そして、数時間後、やっと走り込みは終わった。
リリィとグラセムはウィリスとヘルメスを担ぎ、サニーが倒れている場所にまで来た。
「さて、終わりですね。よくがんばりました」
ぐったりとしたまま、力無くウィリスとヘルメスは倒れる。
サニーは仰向けになって、息を荒くしながらも、意識はぼんやりとしていた。
「あー、リリィ様とグラセム様だ。私、もう、死んじゃう」
黄泉の国に旅立とうとするサニーの言葉を聞いたリリィは追い打ちをかけるように、脇腹をくすぐる。
「サニーは7回抜かされましたね。と言うことで、7秒間のこちょこちょの刑です。こちょこちょこちょこちょ」
「あははは、それ、ダメ! しんじゃう!」
「サニーさん…」
ウィリスもされたのか、哀れみの目でサニーを見つめていた。
リリィが張り切っていたのは、このためだったのかもしれない。
意外にお茶目なのだろう。
「これを毎日続けるんですよ。そうすれば、何度魔法を使用してもすぐに体が悲鳴を上げることはないでしょう」
「これを毎日…か。すげぇな」
ヘルメスは少し落ち込んでいるが、尊敬の目でリリィとグラセムを見てそう言った。
「ちゃんとした走り方を教えてやる。後、根性の付け方もな」
「命を燃やすつもりで頑張って下さいね」
仁王立ちをして、リリィとグラセムが獲物見つめるようにサニー達を見下ろす。
そんな二人に対して、ウィリスは諦めたように頷き、サニーは元気よく頷いた。
それからは防御の仕方やそれぞれの武器について話していると、ゼルが片手剣と槍を持ってきてくれた。
正真正銘の魔法武具だ。
サニーはキラキラとした目で、剣に映る自分の姿を見ている。
ヘルメスも槍をついてみたりと、触り心地を確かめていた。
そして、扱い方を学び、それぞれの訓練方法も教えてもらったことで、サニーとヘルメスはいつでも訓練することができるようになった。
「今日はもう終わりです」
サニー達は訓練の終了宣言に、地面に倒れ伏す。
「サニー、ヘルメス。私たちは明日に帰ります。今日のことは忘れずに、毎日続けてくださいね」
「分かったー」
疲れ切った言葉で返事をする。
ヘルメスも小さく頷いた。
そして、夜が明け、リリィ達は帰ることになった。
村の人々が見送りにぞろぞろと集まっている。
「サニーさん、ヘルメスさん。次に会う時は、共に戦って悪魔を倒せるぐらいに強くなりましょう! 絶対にですよ!」
ウィリスが笑顔でサニーとヘルメスに言った。
それに応えるように、サニーは抱きつく。
サニーの力強い抱擁をウィリスはただ受け止める。
「私は騎士になるからね! 絶対、強くなるよ!」
「ああ、必ず強くなることを誓おう」
ヘルメスも力強く笑顔で言った。
そして、お別れの時だ。
サニーは大きく手を振る。
腕がはち切れそうだが、それでもサニーは騎士団が見えなくなるまでずっと振り続け、ヘルメスも横でずっと見ていた。
そして、2年後。
サニーとヘルメスは旅立ちの日を迎えた。
騎士団と別れてから2年の月日が経った。
今日の天気は快晴。
旅立ちの日にふさわしい空の色である。
2年も月日が経てば、当然、体は成長する。
ヘルメスはより筋肉質になり、槍を構える姿が似合う男になった。
サニーは相変わらずの長髪が風に揺られており、顔はあどけなさが少し無くなっている。
ヘルメスとサニーは、田舎者が都会に出てくるような服装だった。
履きなれた靴と小さな鞄をベルトにかけている。
サニーは剣の鞘をベルトで固定し、ヘルメスは肩に乗せて抱える。
上半身は身綺麗にしてあるが、襟元は少し緩い。
随分と、騎士とは程遠い服装といえよう。
「すまない、大したものが用意できなくて」
父がそう言って、謝るがサニーは喜んでいた。
「気にしなくて良いよ、田舎者の騎士だって、最初はこんな服装だったんだよ?」
「ははは、そうだな。ま、流石に街に着いたら立派な鎧やなんや買うさ」
サニーの言葉に同意して、ヘルメスは笑った。
父は申し訳ない顔をしていたが、送り出すためには笑顔でなければならないため、顔を引き締めた。
「サニー、ヘルメス。お前達は強くなった。だが、油断するな。ここらに出る魔物は比較的脅威ではないが、世の中には強い魔物がいるんだ。頼むから無理はしないでくれよ」
娘と息子の肩を叩いて、念を押すように言うが、サニーとヘルメスは笑顔で安心させるような声で応える。
「父さん、心配しないで。必ず、顔を見せにくるから」
「ああ、心配するなって。ほら、泣きそうな顔してないで、俺たちを笑顔で見送ってくれ」
「ああ、分かった」
サニーとヘルメスは父に背中を向けて走り出す。
村のみんなも総出で見送りに来ており、「またねー」や「頑張れよー」と言葉を送っていた。
それに顔を向けず、手を挙げて返事をする。
父は自身の子供の姿が見えなくなるまで、ずっと、その背中を見つめていた。
これにて、前日譚は終わりです。
この先の展開は色々とあるのですが、時間をかけてゆっくりと投稿するつもりです(ネームはある程度のところまで出来てますが、じっくり書きたいので)
ここまで、読んでいただきありがとうございます。




