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太陽の騎士団  作者: 丸居
ドワーフの国の厄災
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第29話 都市崩壊


 ジリジリと照りつける太陽を浴び、サニー達は進軍をする。

 「はあ、はあ、暑いー」


 川で汲み、浄化を施した水はすでに無くなっている。

 団員達もみな辛そうな顔で、額に出る汗を腕で拭き取っていた。

 「服があっついなぁ」

 「まだ、マシだね。もし、兵士や騎士が着る鋼鉄の鎧とかだと、干からびてるよ」

 

 服装は砂漠の民とは言えないが、旅は長いために軽装備だった。

 騎士の紋章は腕に巻かれており、質素な服装ではなく上等な布で通気性の高いものを利用して作られた服である。


 「サニー団長ー!」

 「どうしたのー?」

 

 前を先行していた団員の一人が大声で呼ぶと、サニーは顔を出して、返事をする。

 「前にドワーフが埋まっているんだ!」

 

 「お、おまえ、暑さにやられて」


 「いや、嘘じゃないって!」


 サニー達は一度カルペロから降りて、本当か確かめに行った。

 すると、首から頭だけを出す傷だらけのドワーフと、カルペロが埋まっている。

 カルペロは仲間の無惨な姿に、早く引き上げろと鳴いていた。


 「治療するわ。引きずり出してくれる?」


 クリスの言葉を受け、ヘルメスがそのドワーフに近づいていくと、突然、ぽつりと話した。

 

 「に、逃げ、ろ?」


 「何言ってんだ。置いていけないだろ。死ぬぞ」


 ヘルメスが怪訝な顔をするが、忠告を無視して、砂漠に手を突っ込み、脇腹を掴もうとする。

 「よし、掴んだ。引っ張るぞ」


 引っ張ろうとすると、ドワーフとヘルメスの体が僅かに沈んだ。

 全員が何かの予兆を感じ取る。

 危険を感じたサニーは、ヘルメスに手を貸してドワーフを引っ張り上げた。

 カルペロは自身の羽と脚を上手いこと使い、罠から自力で抜け出す。

 

 「何です? 何か、います」

 「これは…確か」

 「蟻地獄だ」


 ドワーフがいた場所を中心に、砂漠はゆるやかに沈んでいった。

 

 「ここまででかい罠を貼る奴はいない。しかも、囮を使うなど」

 

 「つまり、強敵ってことね」


 その魔物は砂中から胴体を、大仰に曝け出す。そして、虫の悲鳴のような叫びを辺りに轟かせた。

 その叫びに呼応するかのように、細いナイフのような脚、赤黒い胴体を持つ魔物も現れた。


 「ゼル! あの魔物はどんな性質があるの?」

 

 「罠に嵌めた獲物を仕留めるタイプだ。罠から抜け出した獲物は追わない」

 「クルルルーー!」

 体重の重いカルペロにとって、この砂の罠は、足を取られやすいようだ。

 傷ついていた仲間を必死に引っ張りながら登ろうとする。

 「カルペロを守りながら登るよ! まずは罠から抜け出そう!」


 サニーの言葉が伝わると、団員の数人がせっせとカルペロを引っ張り誘導する。

 カルペロ達も現状を理解しているのか、誘導に従っていた。

 

 「中心にいる奴は、蟻地獄。あいつはあそこから動かんが魔法を飛ばしてくる。周りの奴はデーモンアリだ。こいつらは近接で襲ってくるぞ。前脚の刃は強力だ。気をつけろ」


 「了解、なら、魔法は聖女ズに任せるぞ。俺たちは、デーモンアリだな。絶対に近づけるなよ」


 地獄アリはサニー達を静かに見ていたが、魔力を貯め始めた。

 胴体が熱く燃えていき、溶けた鉄のような色になる。

 地獄アリは炎を吐き出し、サニー達に火の手が迫った。

 「クリスさん、いきますよ!」

 「ええ」


 カルペロに乗っている二人は息を合わせて、大きいシールドを展開する。

 いつもは言うことを聞かないカルペロも真剣な目で、上を目指している。

 阻まれた炎のブレスは、絶えず放たれていた。

 シールドはカルペロが上に登っていくにつれて少しずつ後退していく。

 その側面からデーモンアリが攻撃を仕掛けてきた。

 「かてぇ!」

 応戦する団員が、デーモンアリの前足を受け止めた瞬間、驚くように声を上げる。

 その脚は細長く、力強く横から殴れば折れてしまいそうだ。だが、そうはいかない。

 それは、デーモンアリと呼ばれる所以のひとつで、鉄鎧の兵士など容易く両断するのだ。

 サニーも魔力剣で応戦するが、同等の力で跳ね返される。


 「けっこう、魔力使ってるのに刃が折れない。胴体ならどう?」


 サニーの攻撃を、デーモンアリは飛び跳ねて避けた。

 

 「機動力もあるじゃねえか。デーモンってたいそうな名前が付くわけだ」


 納得するようにヘルメスも槍の連撃で魔力槍を飛ばすが、それも簡単に刃で受け止められる。


 「うまいこと流しやがって。近くで戦わないと倒せないぞ」

 「ドワーフの治療とカルペロの援護が優先だよ! それに、囲まれたら出られなくなっちゃうし!」


 サニーは魔力剣を振り回して、回り込まれるのを阻止していた。反対側では、アスラが応戦している。アスラはハンマーによる力技で、デーモンアリを吹き飛ばしていた。


 「あいつら、思ったより軽いのか。よっしゃ、俺たちもぶっ飛ばしていこう」


 団員達もアスラを真似て、倒すことは諦めた。そして、近づけないように飛ばすことにした。

 各々のやり方で足止めをしているのだ。

 ゼルは設計図を手に持ち、魔力を込める。

 すると、カルペロ達の前に透明な魔力の道が浮かび上がる。

 「ウィリス、小さいシールドを俺の後ろに出してくれ」

 「はい? どうぞ」


 ウィリスは疑問に思いながら、シールドを出した。

 ゼルは風の魔法を用いて、足に力を込める。

 右手には小さいハンマーを持っていた。

 ゼルは、シールドを地面にして飛んでいく。その衝撃で、ウィリスやクリスの髪が揺れる。

 ゼルの行動が気になった二人は、咄嗟に後ろを見た。

 目に見えるのは、ゼルが転がり続けながらカルペロ達の通る道をハンマーで叩き上げ、クラフト魔法で瞬時に作り上げている光景だ。


 「え、あれ、なんですか?」

 「分からないけど、カルペロ達が楽に登れる道を作ってくれたみたいね」


 兎にも角にも、逃げるのに役立つものを作ってくれたなら、有り難く利用しなければならない。

 ウィリスは戦っている団員全員に叫ぶ。


 「撤退スピードが上がります。みなさん、置いていかれないようにしてください!」

 言葉を受け取った全員が風の魔法を用いて上へと登る。


 「アスラ! 逃げる先に魔物が出現してないか見張ってもらえる?」

 「行ってくるよ」

 ひとっ飛びでゼルの方へと風の魔法でアスラは飛び出した。

 ジリジリと後退していき、誰も欠けることなくデーモンアリと激しい魔法の攻撃を退けていく。

 しかし、蟻地獄は魔法の射程外に入ったのか攻撃をやめた。その代わりに、デーモンアリが側面と正面から突進してくる。

 「やべぇ! 前からもくるぞ! 時間を稼ぐんだ!」

 ガイアが叫び、団員達は魔力剣を用いて必死に応戦する。

 後方へと回り込むのを阻止するために、ヘルメスとサニーは側面を陣取って対応している。なので、正面は団員達で頑張るしかない。

 アリエルも槍の攻撃で魔力槍を飛ばして、ドミノ倒しのようにデーモンアリを下り坂へと突き落とす。

 彼らの奮闘は続いたが、綻びが見え始めた時、団員達の上空を魔力弾が通り過ぎていく。


 「ハンマーを衝撃を抑えるクッションとして使うなんてね」

 「すまん。だが、飛んでいってしまうものでな」

 

 その正体はゼルの武器から発射される魔力弾だ。


 「それ、銃っていうのかい?」

 「ああ、厄災スライムを見て魔光線を放てる武器が欲しくなってな。これは試作段階のものだ」


 ゼルは指先に魔力を込めていき、それを銃に流し込んでいく。魔力の流れは煌めき、一点に収束すると、魔力弾がデーモンアリへと叩き込まれる。

 撃つたびに衝撃波が出ている。

 ゼルの援護もあり、カルペロ達は蟻地獄の罠から抜け出すことに成功した。


 「よし! みんな、もう逃げても大丈夫だよ!」

 「サニー団長、あいつら放っておいていいのか?」

 「守るものがあると、あの強い魔物達を殲滅するのは難しいからね」


 罠を抜け出し離れると、デーモンアリは騎士団を見守るだけで追って来なかった。

 仕留め切れないのであれば、戦っても勝てないことを悟っているのだろう。


 「賢い奴らだな。罠に嵌めても狩れない相手はどうせ勝てねぇから諦めるのか」


 「でも、あの体が理性もなく暴れ回る姿はあまり想像したくないよ」


 団員達も同意して、脅威が去ったことに胸を撫で下ろす。

 サニーは持ち前の本能的な直感は危険とは告げていない。


 「ドワーフさんの治療を始めますね」

 「うん、ありがとう。みんな、終わるまでは警戒を緩めないでね」

 

 カルペロの上に簡易的な治療室を作る。ゼルはクラフト魔法で大きな板と紐を作り、それをカルペロの鞍に繋ぎ合わせ固定する。その板の上でウィリスが治療を始めていた。

 クリスは聖魔法の透視を用いて、地中に魔物が現れないか見張っている。


 「先の失敗を繰り返すわけにはいかないでしょ?」ということで、警戒中は常に魔力を行使するつもりだ。


 「無理しないでね」

 「この程度ならいくらでもいけるわよ」


 しばらくしてドワーフの治療が終わる。

 時刻は夕方ごろで、廃墟と化していた小さな村にキャンプを作る。

 その時に、ドワーフは目を覚ました。


 「ドワーフさんが目を覚ましましたよ!」


 ウィリスの呼び声で団員達は集まる。

 まじまじと見てくる人間達にドワーフは少し困惑気味であったが、状況を理解したようだ。

 そのドワーフの元に、共に埋まっていたカルペロも近づいてくる。コブを擦り付け、隣に座った。


 「そうか、助けてくれたのか。礼を言わねばならん」


 力強い野太い声で、感謝の言葉を告げる。そして、ゼルの姿を目に留めると、電流が走るかのようにかしずいた。


 「ゼ、ゼル! なんと、王子が」

 「ああ、ゼルだ。お前の名はなんだ?」

 「ガルシアと申す。この度は、救援要請の札を受け取り、ヒューマンの国へ渡す手筈でした。なのに、蟻地獄の罠に嵌ってしまうとは、申し訳ない」


 「そうか、無事で何よりだ。それに、お前の目的は達成された」

 

 ガルシアは神妙な顔をしていると、サニーが見せつけるように紋章を引っ張る。

 それは、騎士団の団長に賜われる栄誉の証であり、正式な騎士団の証であった。


 「その紋章は騎士団か。誠に幸運だ。すでに、ヒューマンの姫君は状況を察していたのか。しかし、貴殿達は…初めて顔を見るな」


 「そこら辺は後で話そう。夜が来てしまうからな」

 「おお、そうだな。キャンプ地を作っているのだな。なに、わしに手伝えることがあれば言ってくれ! ゼル王子!」


 「ふん、共同作業といこうか」

 「がはははは、いいねぇいいねぇ!」


 ゼルの肩を横柄に掴んで、ルンルン気分でゼルのテントへと向かっていく。

 ゼルはその背中をぽんぽんと叩き返した。

 

 「ゼル、嬉しそうだね」

 「サニーさん、分かるんですか?」 

 「うん、なんとなくだけどね。それに、すこーしだけ、唇の横が広がってるし」

 サニーは実演するように、唇の横を少しだけ引っ張る。

 「というか、王族にフランクになりすぎだろ」


 「ドワーフは全員、あんな感じです。性格の違いはありますけど、みなさん陽気で賑やかで、常に酒に酔ってるみたいだと言われるぐらいですよ」


 「暑苦しい人を救ったわね」


 

 キャンプ地の用意はつつがなく終わり、ゼルとガルシアは鍋を囲んでいた。その隣には、サニーやヘルメス、アスラも同席している。聖女組は今日の被害具合の確認や、怪我人の治療にあたっている。


 「ねぇねぇ、ガルシア。ゼルってさ、ドワーフの国ではどんな感じだったの?」


 「おうおう、教えてやろうじゃあねぇか」


 ガルシアは民はゼルをどのように感じているのかを伝えていく。


 「ゼル王子はクラリス姫の弟だが、姫さんと一緒で結構な人気なんだぜ!」


 「ふ、姉上と同列とは思わんな」


 「何言ってんだよ! 俺たちはあんたのひたむきで、情熱的で、輝いた瞳も、物を作る時のその微笑も大好きなんだぜ! くそ、酒がねぇとは。好きなものを語るに語れねぇよ。かぁー!」


 魔法水を一気に飲み干しているが、酒を飲んでるのかと全員が思うぐらいには、ガルシアの興奮は大きい。

 

 「ドワーフの民は大袈裟だ。当てにはするなよ」


 「ぐわははは、なんでも大袈裟でいいじゃねえか! なんでもちょっと盛るくらいで丁度いいんだよ! しっかし、驚いたぜ! あのゼル王子がよ、一緒にクラフト魔法を使ってものづくりをしてくれるなんて! わしゃ、今日からドワーフの羨望を浴びることになる! めでてぇぜ! クラリス姫から恨まれちまうぜ!」


 「もし、姉上にあったらどうするつもりなんだ?」


 「そりゃ、あんたの弟、あんたより先に俺と一緒にクラフト魔法を楽しんじゃったぜー、とか煽り散らかしてやるよ! この宝物を自慢して、嫉妬に染まる顔を見るのが楽しみだぜ!」


 「姉上の怒りが目に見えてくる」

 


 すっかり場はガルシアの独壇場である。割と不敬な気がするが、ゼルは全く問題視していない。


 「やっぱ、だめじゃね? このドワーフ」

 「ヘルメスもそう思うかい?」

 「ドワーフってのはこんなものだ。今のうちに慣れていくといい」


 こんな感じで会話を楽しみ、ご飯を食べ終わった後、サニーは前のめりになってゼルに迫った。


 「ねぇ、ゼル! 戦闘の時から気になってたんだけどー、あれって新しい武器だよね!」


 「ああ、銃と命名した」


 すると、ゼルはクラフト魔法で銃を生み出した。少しずつ魔力によって形が固定されていくのが面白い。

 「コンセプトとしては、真光線を放つ武器だが、まだまだ改良しなければいけない」


 「ゼル王子も面白いことを考える。問題だらけだがな」


 「問題だらけ?」


 「使ってみるか、サニー?」

 「いいの? ありがとう」


 銃を受け取ったサニーは、早速、吟味するような手付きで触る。

 魔力が放たれる太い銃身は、焚き火の光を反射し輝いている。


 「魔力を貯めて引き金を引くと、魔力弾が出る。やってみてくれ」


 「これかな?」


 サニーは銃に魔力を流し込み、引き金を引いた。

 銃身から飛び出した魔力弾は衝撃波を放って飛んでいく。砂漠の地を吹き飛ばした。


 「うお、風が」

 「サニー、衝撃で吹き飛んで行ったよ」

 「うわぁー! 俺のテントが!」


 衝撃は至る所に被害をもたらした。杭が足りなかったテントは荒ぶり、

 魔力弾を放ったサニーは後方へと飛んでいき転がり回った。


 「にぺぷ!」


 止まったサニーは、少しの間一時停止した。呆然としている様子だ。そして、テクテクと帰ってきた。

 

 「ご、ごめん、壊れちゃった」


 眉を下げて、申し訳なさそうにゼルに言う。

 ゼルは特に怒らず、当然だという顔だ。


 「まだまだ改良しなければな。こんな強度では魔光線は放てない」


 「ゼル王子、手伝うぜ!」

 「わ、私も手伝ってもいい?」


 サニーは壊したことに対しての責任を取るつもりらしい。


 「ああ、サニーの魔力を使わせて欲しい。十分なサンプルになる。助かる」

 

 それから3人は設計図を片手に、銃の改良へと入った。

 他の団員が眠っている間、テント内で灯りを囲み、討論をする。会話が終われば、外に出て、魔力弾を放つ。

 みんなは、彼らが深夜には疲れて寝るだろうと思っていたが、銃の改良は早朝まで続いた。

 そして、夜警当番であったヘルメスやその他の団員達は呆れ返った。

 疲れ果てた3人が机に突っ伏して眠っていたからだ。

 ヘルメスがテント内に入った時の顔は、想像しやすい。


 「おまえら…」

 「頭が痛い」

 「魔力使いすぎたかも…」

 「がはは」


 ガルシアの笑い声には力強さもなく、ゼルは頭を抱えている。

 サニーは魔力の過剰使用で体全身に痛みが走っているようで、震えている。心なしか顔色も悪い。


 「何やってんだよ、全く。旅の途中だぞ」

 行動不能な三人をカルペロに乗せて、太陽の騎士団は出発した。


 「酒だ。酒をくれ」

 「酒なんてねぇよ、我慢しろ。じいさん」

 「がは」

 「ほれほれ、前進するぞ」

 「あ、世界が回ってる」


 揺れ動くカルペロの乗り心地は最悪だ。しかも、皮膚を焼く光の下では、尚更である。

 見かねたウィリスが治療を始め、事なきを得た。


 「はあ」

 「ウィリス、ありがとう」

 「感謝する」

 「聖女殿、寛大な心に感謝しよう」


 やれやれ顔のウィリスに大仰に三人はお礼をした。


 「いいの? 少しくらい痛い目見せないと、またやらかすわ」

 「はい、なので、次やったらクロスチェインで足を縛り上げて、引きずりながら連れて行きます」


  ウィリスは冷たい目線で見下ろす。

 二度と馬鹿な真似はしないと三人は約束した。

 聖女の前で誓いを破ることはないだろう。


 「これは王都に着いてからやってください。みなさんの力が旅の間は必要なんです。それでは、設計図は没収しますね」


 ニコリと笑うウィリスに、三人は頷くしかなかった。 

 ガルシアの案内をもとに、太陽の騎士団は前進を続けた。


 昼は灼熱、夜は凍える毎日を過ごした。

 そして、3日が経ち、大きな砂丘を登りきった先に広がる光景に、呆然とする。


 「あの砂丘を越えれば、都市が見える」


 ガルシアがそう言った時、団員達は歓喜の声を上げる。

 慣れない砂漠は執拗に体力と気力を奪い続けていた。魔物の襲撃や地中に潜む魔物にも気をつける日々は、辛いものだったのである。

 だが、団員達の喜び具合とは違い、ガルシアの声には、力がなかった。


 「ガルシア、なぜそんな顔をする」

 「そうだよ。神妙な顔して」

 「行けば分かる」


 そして、砂丘の頂上に来た太陽の騎士団は、目の前の光景に唖然とする。


 眼前には都市が巨大ワーム達によって飲み込まれていた。

 轟音が鳴り響き、瓦礫が崩れる様に、ヘルメスは「嘘だろ」と言葉を放つ。

 

 太陽の騎士団の全員が呆然と、都市が崩壊する様子を見届けるしかない。

 サニーは、動こうと思った。だが、足は動かない。


 「あれって、まさか、厄災か?」

 「ああ、厄災ワームだ。あいつらは、都市を一つ一つ食い荒らしていきやがる」


 ガルシアは手を握りしめ、遠くの都市を見つめる。


 「団長さんよ。あの都市は、放棄されたのだ」


 サニー達が見つめる間も、巨大ワーム達は瓦礫を飲み込んでいく。

 その周りには大量のデーモンアリが蔓延っていた。


 「なんで、放棄したんだろ?」


 「あの攻撃を前に、我らは無力なのだ。防ぐ手段が見つかるまでは、戦うなとドワーフ王は命令した。そして、目をつけられた都市は、王都に来いと」


 涙を堪えながら、ガルシアは想いを吐露する。

 

 「我らの愛を込めた作品がたくさんあるのにも関わらず、我らの宝物を見捨てろと。クラリス姫ですら、我らの宝を愛するクラリス姫ですら、厳しく戦うなと言った。貴様らには分からんだろうが、あそこには、多くの宝物があったのだ」

 「ガルシア、父上と姉上は」

 「わかっているのだ、王子よ。王族の最も愛する作品は、我らドワーフの民であることは知っているのだ。だが…」

 自身に言い聞かせるように、ガルシアは目の前の光景を焼き付ける。

 その背中には、誰も声をかけることができなかった。

 「少しだけ、別れを告げる時間をもらうのは許されるだろう」


 ガルシアは一粒の涙をこぼす。涙は砂漠の大地に落ちるが、すぐに消え去った。


 「…やっぱり、厄災は厄災よ。簡単に、大切なものを奪っていく」


 クリスの言葉に、みんなが同意した。太陽の騎士団は、世界を救う旅に出る英雄のような気分でいたが、それは、目の前の光景一つで瓦解した。

 厄災は、人が戦っていい相手ではないのだ。

 

 御伽噺に出る英雄達も、きっと、同じ気持ちを味わったのかもしれない。

 この旅の責任は、考えているよりもずっと重い。


 「行こう。あのワーム達よりも早く、ドワーフの王都につかないといけない。案内をお願いするよ、ガルシア」

 「ああ」


 サニーが号令をかけると、太陽の騎士団は力強く歩み始める。

 大きな不安と責任感を背負い、照り光る太陽の下へと進み続けた。




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