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太陽の騎士団  作者: 丸居
第二章 ドワーフの国の厄災
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第25話 いざ、ドワーフの国へ

  騎士叙任式を終えたサニーは、リリィにアスラの病気のことを伝えた。隣にはアスラとヘルメスもいる。


 「私は結晶病を持っているんだ。リリィ様なら、何か治療法を知っているんじゃないかと」

 「…心臓にできた結晶を取り除けばいい。でも、私では無理ですね」


 「リリィ様、どうにかならないかな?」


 思い詰めるような顔で、サニーが懇願する。リリィはひとしきり悩み、答えを導き出した。


 「王都には医学書、聖魔法の学問などの知識を溜め込んだ図書館があります。王家の伝手を借りて、情報を集めてみますね。ただ、やはり、見つかっても、心臓の中を手術するんです。天才的に器用な人がいないといけない」


 「…ありがとうございます」

 「アスラ…」


 サニーが心配する目で見つめるが、アスラはニコリと笑った。


 「いいんだよ、私のためにみんなが協力してくれたんだ。それが、何よりの宝物だよ」


 「諦めるのはダメですよ。今、私が思いつくのは、エルフですね。あの種族は、繊細な弓を生まれながらに扱えると言われます。魔力操作にも長けている。もしかしたら、エルフの中にいるかもしれません」


 「分かったよ」

 「頑張ってみつけよう、アスラ」

 「ああ、アスラが諦めても、俺らが諦めねぇ」


 二人の言葉にアスラはうんと頷いた。その顔はとても満足そうな顔をしていた。

 それから、サニーたちは客人が泊まる部屋に案内された。


 「ふっわふわー!」


 サニーは、綺麗に整えられたベッドに、真っ先にダイブする。

 その様子をメイドが目を点にして見ていたが、すぐに見ないふりをした。


 「おいおい、はしゃぎすぎだろ。ここ王城だぞ」

 「緊張しすぎるのもダメだよ。長い旅が始まるんだから、ちゃんと休まないとね。ご飯もたらふく食べたし、後は、寝るだけー」


 シーツに頭を擦り付けて足をバタバタとする姿は、全くもって、はしたない。


 「サニーの言う通りだよ。ほらほら、ヘルメスは別室だよね? 後でウィリスも来るんだし、男は去るんだね」


 「バイバイ、ヘルメス兄。メイドさんありがとー!」

 「わっーたよ。メイドさん、案内をお願いします」


 律儀に頭を下げ、自分に当てられた部屋へとヘルメスは行った。


 「ああー、緊張したね、叙任式」

 「ね、あんな大勢の偉い人たちの前にでるなんて、初めてだよ」

 「そう言えばさ、リリィ様から聞いてるのかい? 今後の方針とか」


 アスラに聞かれたサニーは、リリィからの言伝をそのまま伝えた。


 「ドワーフ、獣人、エルフ、三つの種族に出現した厄災を倒して、メルビンを打ち倒すための援軍を募る。それが、私たちの役目。メルビンはもう厄災認定が降りてるらしくて、最後の砦に兵を集めてるみたい」


 「私たちの旅が終わるまでの時間稼ぎだっけ?」


 「うん、リリィ様からは無理のない範囲で、出来る限り早くに帰ってきて欲しいって言われてるよ。それに、厄災を連続で相手するからすごい心配してた。任せてってドヤ顔したら笑われたけど」


 その状況を再現するかのように、ベッドの上で親指を上げ、ドヤ顔をするサニー。

 それを見て、アスラはクスクスと笑った。

 

 「ははは、サニーらしいね。そう言えばさ、騎士団の団員はどうするんだい? 私は当然として、ヘルメスや第一部隊のみんなになるのかな」

 

 「みんな一緒だよ。アスラの家でもあるし、みんな頼りになるからね」


 「サ、サニー」


 アスラは、サニーの言葉に少し気恥ずかしそうに、

ニヤニヤとする。自分のことを考えてくれたことに喜んでいるのだろう。嬉しさのあまり、サニーに抱きついてしまった。


 「ちょ、くすぐったいよアスラ」


 お腹にぐりぐりと擦られるので、こしょばそうにする。そうしてじゃれていると、扉が開かれ、ウィリスが姿を現した。

 じゃれている二人を見ると、頬を膨らませてムッとし、眉を曲げた。


 「あ、ウィリス、助けて!」


 助けを求めるサニーを見て、ずんずんと二人に近づいていく。


 「ずるいです。私も混ぜてください」


 そう言って、アスラの隣に座ってサニーに抱きつく。

 二人に抱きつかれたサニーは、少し苦しそうだ。


 「う、苦しい」


 サニーの声に反射的に手を離して、二人は謝った。

 

 「すみません、見苦しいことをしました」

 「ご、ごめんね、サニー」


 しょぼりとする二人にサニーは、やれやれと言う感じで謝罪を受け取った。


 「いいよー、でも、抱きつきたいなら一人ずつだよ。それならいつでもしてあげる」


 その提案に二人は「なんか、それは恥ずかしいような」と思うが、頷いた。

 自分の我儘な部分を恥ずかしく思うぐらいの理性はあるみたいだ。

 サニーが聞きたいことを思い出したように、口を開く。


 「あ、ウィリスも私たちと一緒に来てくれるんだよね」

 「はい、クリスさんも一緒です。あとは、ゼルさんもですね」

 「クリスもくるんだ! それにゼルも!」


 サニーは手を挙げて喜んでいる。しかし、アスラにとって名前の知らない人間がいた。


 「ゼルって誰だい? 私は多分、会ったことないと思うんだけど」


 「ゼルさんはドワーフの鍛治師です。さっきまで、鍛治工房に籠りきりでした」


 「なにだい、引きこもりなのかい?」


 アスラの言葉を手で制し、ウィリスが淡々と一言を告げた。


 「不敬ですよ」

 「ん? お偉いさんかなんかなのかい?」


 「それはまたのお楽しみに。色々とお話を聞かせてくれると思いますから」


 「気になるねぇ」


 そして、三人はこれから先の楽しみや不安、目標など色々と話し、長い夜は終わりを遂げた。

 太陽の騎士団は朝食を終え、リリィの前に六人が集まっていた。

 太陽の騎士団の団長であるサニー。その兄であるヘルメス。ハンマー使いのアスラ。小さな聖女のウィリスとベテラン聖魔法使いのクリス。そして、最後に、ドワーフの鍛治職人であるゼルだ。


 「ゼルー、久しぶり! もらった剣が本当に使いやすいよ!」

 「ゼル、本当にありがとう」


 「…構わない。お前たちのために作ったものだ」


 照れ隠しのように顔を俯きながら話すが、サニーたちから見れば無愛想にしか見えなかった。

 声質が少し低く、物静かな雰囲気だからだろう。


 「さて、厄災を討伐しにいくのですが、順番を決めないといけませんね」


 三種族の中で、リリィが勧めるのはドワーフだった。


 「ゼルはドワーフの王子でもありますから、色々と融通が効くでしょう。なので、まずは、ドワーフの国から行ってください。それから…」


 「ちょちょちょ、待ってリリィ様」

 「はい?」


 リリィがなんで止めるんだと言う顔でサニーを見つめる。サニーは少し声をあげて、確かめるように聞いた。

 「え、ゼルってドワーフの王子様なの?」


 「ああ、言ってなかったですね。ゼルの姉や父は健在でして、国を空けて色々な場所を回り修行をしているみたいです。騎士団に入ると言い出した時は、流石の私も狼狽えましたが。まあ、それはおいといて、話を続けますよ」


 一同のゼルを見る目が、一瞬で変わる。

 この静かなドワーフが王子をやっている姿など想像ができない。

 だが、どうにか飲み込んでリリィの話を聞く。


 「流れはこうです。まずはドワーフの国、次に獣人の国、最後にエルフです。エルフは排他的な種族ですから、他の種族の援軍要請の手紙と私の手紙の三つがあれば、首を縦に振ってくれるはずです。森の中にも入れるでしょう」


 リリィは心配そうに、サニー達を見つめる。

 

 「あなたたちには、危険な任務を任せることになります。ですが、必ず帰ってきて、私達の国に希望を届けて下さい」


 リリィの言葉に全員が強く頷き、旅の準備に取り掛かった。

 

 「食料、お金、水、衣服、その他諸々の用具、揃っていますね」


 持ち物のチェックは、ウィリスがやると決まった。長い旅であるため、それを維持するための家計を管理する人は大切だ。

 元第一部隊の兵士たちもウィリスの手伝いをしている。

 総勢、二十名で構成される。

 リーダーである、ガイア、ラズル、アリエルは手の空いた時に、訓練を行っていた。

 日々の鍛錬は欠かさずやっているようで、すでに習慣になっている。


 「サニーさんとヘルメスさんは、おとなしくしててください。アスラさんは、旅に必要なものとかの確認をお願いします。クリスさんは医療品の管理を私と一緒に」


 「わかったー!」

 「分かったよー」

 「分かったわ」


 ウィリスの的確な指示で、旅の準備は整っていった。

 途中に「ウィリスさん、ぬいぐるみを持っていってもいいですかー? あれがなきゃ眠れないんですよー」と話す団員がいたが、ウィリスが満面の笑みで「ダメです」と優しく答えていた。団員はしょんぼりしている。

 

 「ゼルさん、そんなに山盛りの武器は持っていけないですよ」


 「こんな時勢だが、久しぶりの故郷だ。少しくらい、家族に修行の成果を見せてもいいだろう」


 「気持ちはわかりますが、二つくらいにとどめて下さい。お願いします」


 「そうか」


 武器を抱え込んだゼルの腕の力が抜けてしまった。

 必要な荷物以外は詰め込む気はない。そんな余裕はないと、ウィリスは徹底しているようだ。


 「でも、そうですね。団員に譲って頂ければ、かさばりません」


 「ふむ、ならば、俺の工房から人数分の武器を持ってこよう。騎士団に相応しいものをな。サニーたちの武器もだ」


 「へ、あ、ありがとうございます…そんなに見せたいんですね」


 ゼルの言葉に、団員やサニーたちは喜んでいた。

 ドワーフは物作りの民。それは、よく広められた話で、人間の鍛治職人が作るものと品質は段違いだ。

 そのことを知っている団員たちは興奮気味であり、感激に震えていた。

 ゼルが必要な武器の種類の聞き取りを行い、自分の武器工房に取りに行く。

 その後ろ姿を見送って、サニーは心底不思議そうに疑問を放った。


 「やっぱり王族に見えないよ」

 「なあ、やっぱ、ゼル様って呼んだ方がいいのか?」


 ヘルメスは礼儀正しい性格のため、ウィリスに判断を仰ぐ。すると、すぐに答えが返ってきた。


 「人間の国と違って、ドワーフは地位や名誉をそこまで気にしないと本人から聞きました。そんなものよりも、大切な心があるらしいです。だから、敬称は不要です」


 「なら、ゼルでいいか」

 「なんだか堅苦しいもんね。村でゼルに会ってるからか、余計に様付けが難しいよ」


 「まあ、そうだよな。今更だしなぁ」


 兄妹はお互いにうんうんと頷き合う。

 そんな具合に旅の支度は終わった。


 それから、サニーは先日に約束していた聖教会にやってきた。

 目的は天使の憑依であり、ここは召喚の儀式の間で、誰にも見られたことはない奥の部屋にある。ウィリスが儀式を執り行い、聖教会の神官方もその様子を見守っていた。


 騎士が天使を宿すことは、類を見ないことなのだが、刻一刻と迫る脅威と王女の命令の前に、彼らは首を縦に振ったのである。しかし、多少の審査はあった。サニーは神官の言葉に嘘偽りなく答え、天使を宿す資格を得たのである。

 

 「サニーさん、別に憑依させることはないんですよ。今でも十分戦えますし、聖魔法は修練を重ねて使えたとしても、たいした効果は得られないかもしれません」


 「それでもやってみたい」


 「分かりました。では、召喚の儀式を行いますね。魔法陣の上に座ってください」


 ウィリスはサニーに魔法陣の中に座り、祈るように手を添えた。

 一番、自分の想いが伝わると考えたやり方でいいらしい。

 サニーは目を閉じて、手の指を隙間なくギュッと閉めた。

 すると、積層型の魔法陣が青い光を放ち、サニーを囲む。


 それは、徐々に収束してサニーを包み込み、解き放たれた。すると、光の屑が舞い上がり、その中に一際極めて眩い光球が現れた。その光球は、小さな妖精のような姿になり、サニーの周りを、何か確かめるかのように飛んでいる。そして、満足したのか、サニーの体へと入り込んだ。


 ウィリスはその光景をハラハラと見ていたが、天使がサニーを受け入れたことを確認すると、胸を撫で下ろした。


 「終わりです」

 「終わったの? もう?」


 「はい。体は崩壊していませんから、成功です。これで、聖魔法を扱えるようになります。練習は、旅の間にでもやりましょう」


 こうして、サニーは天使を宿した。

 そのあとは、ゼルが武器を持って来て、団員たちに配っていた。

 ゼル目線で合いそうな武器を見繕っており、感激で胸があつくなる団員が後を絶たなかった。


 サニーたちも、綺麗で華やかな装飾が施された武器に、目をキラキラとさせる。

 そして、全ての準備が整ったため、国を出ることになった。その際に、サニーたちは王都から城壁まで歩き続ける。


 太陽の騎士団の勇姿を国民たちは見届けて、その姿は後世に絵として残されそうだ。


 城門の外、リリィやグラセムが人々から正体を隠して見送りに来てくれた。


 「太陽の騎士団のみなさん、あなたたちの旅路に天使の祝福を」


 「必ず帰ってくるんだ。俺たちで時間稼ぎはいくらでもしてやる。焦らず、しかし確実に歩みを進めるんだぞ」

 

 二人の言葉は、慈しみに溢れており、団員たちのやる気を底上げした。


 「ウィリス、援軍の手紙は頼みました」


 リリィの手紙をウィリスは丁寧に受け取り、腰に巻きつけた小さな手紙鞄に入れる。

 

 「はい! 必ず届けます。任せてください!」

 

 その威勢にリリィは満足して、笑みを浮かべた。

 

「リリィ様、グラセム様、行ってくるね! いざ、ドワーフの国へ!」

 

 サニーの言葉に団員たちは、拳を上げて応える。

 そして、太陽の騎士団は、ドワーフの国を目指して走り去った。

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