第25話 いざ、ドワーフの国へ
騎士叙任式を終えたサニーは、リリィにアスラの病気のことを伝えた。隣にはアスラとヘルメスもいる。
「私は結晶病を持っているんだ。リリィ様なら、何か治療法を知っているんじゃないかと」
「…心臓にできた結晶を取り除けばいい。でも、私では無理ですね」
「リリィ様、どうにかならないかな?」
思い詰めるような顔で、サニーが懇願する。リリィはひとしきり悩み、答えを導き出した。
「王都には医学書、聖魔法の学問などの知識を溜め込んだ図書館があります。王家の伝手を借りて、情報を集めてみますね。ただ、やはり、見つかっても、心臓の中を手術するんです。天才的に器用な人がいないといけない」
「…ありがとうございます」
「アスラ…」
サニーが心配する目で見つめるが、アスラはニコリと笑った。
「いいんだよ、私のためにみんなが協力してくれたんだ。それが、何よりの宝物だよ」
「諦めるのはダメですよ。今、私が思いつくのは、エルフですね。あの種族は、繊細な弓を生まれながらに扱えると言われます。魔力操作にも長けている。もしかしたら、エルフの中にいるかもしれません」
「分かったよ」
「頑張ってみつけよう、アスラ」
「ああ、アスラが諦めても、俺らが諦めねぇ」
二人の言葉にアスラはうんと頷いた。その顔はとても満足そうな顔をしていた。
それから、サニーたちは客人が泊まる部屋に案内された。
「ふっわふわー!」
サニーは、綺麗に整えられたベッドに、真っ先にダイブする。
その様子をメイドが目を点にして見ていたが、すぐに見ないふりをした。
「おいおい、はしゃぎすぎだろ。ここ王城だぞ」
「緊張しすぎるのもダメだよ。長い旅が始まるんだから、ちゃんと休まないとね。ご飯もたらふく食べたし、後は、寝るだけー」
シーツに頭を擦り付けて足をバタバタとする姿は、全くもって、はしたない。
「サニーの言う通りだよ。ほらほら、ヘルメスは別室だよね? 後でウィリスも来るんだし、男は去るんだね」
「バイバイ、ヘルメス兄。メイドさんありがとー!」
「わっーたよ。メイドさん、案内をお願いします」
律儀に頭を下げ、自分に当てられた部屋へとヘルメスは行った。
「ああー、緊張したね、叙任式」
「ね、あんな大勢の偉い人たちの前にでるなんて、初めてだよ」
「そう言えばさ、リリィ様から聞いてるのかい? 今後の方針とか」
アスラに聞かれたサニーは、リリィからの言伝をそのまま伝えた。
「ドワーフ、獣人、エルフ、三つの種族に出現した厄災を倒して、メルビンを打ち倒すための援軍を募る。それが、私たちの役目。メルビンはもう厄災認定が降りてるらしくて、最後の砦に兵を集めてるみたい」
「私たちの旅が終わるまでの時間稼ぎだっけ?」
「うん、リリィ様からは無理のない範囲で、出来る限り早くに帰ってきて欲しいって言われてるよ。それに、厄災を連続で相手するからすごい心配してた。任せてってドヤ顔したら笑われたけど」
その状況を再現するかのように、ベッドの上で親指を上げ、ドヤ顔をするサニー。
それを見て、アスラはクスクスと笑った。
「ははは、サニーらしいね。そう言えばさ、騎士団の団員はどうするんだい? 私は当然として、ヘルメスや第一部隊のみんなになるのかな」
「みんな一緒だよ。アスラの家でもあるし、みんな頼りになるからね」
「サ、サニー」
アスラは、サニーの言葉に少し気恥ずかしそうに、
ニヤニヤとする。自分のことを考えてくれたことに喜んでいるのだろう。嬉しさのあまり、サニーに抱きついてしまった。
「ちょ、くすぐったいよアスラ」
お腹にぐりぐりと擦られるので、こしょばそうにする。そうしてじゃれていると、扉が開かれ、ウィリスが姿を現した。
じゃれている二人を見ると、頬を膨らませてムッとし、眉を曲げた。
「あ、ウィリス、助けて!」
助けを求めるサニーを見て、ずんずんと二人に近づいていく。
「ずるいです。私も混ぜてください」
そう言って、アスラの隣に座ってサニーに抱きつく。
二人に抱きつかれたサニーは、少し苦しそうだ。
「う、苦しい」
サニーの声に反射的に手を離して、二人は謝った。
「すみません、見苦しいことをしました」
「ご、ごめんね、サニー」
しょぼりとする二人にサニーは、やれやれと言う感じで謝罪を受け取った。
「いいよー、でも、抱きつきたいなら一人ずつだよ。それならいつでもしてあげる」
その提案に二人は「なんか、それは恥ずかしいような」と思うが、頷いた。
自分の我儘な部分を恥ずかしく思うぐらいの理性はあるみたいだ。
サニーが聞きたいことを思い出したように、口を開く。
「あ、ウィリスも私たちと一緒に来てくれるんだよね」
「はい、クリスさんも一緒です。あとは、ゼルさんもですね」
「クリスもくるんだ! それにゼルも!」
サニーは手を挙げて喜んでいる。しかし、アスラにとって名前の知らない人間がいた。
「ゼルって誰だい? 私は多分、会ったことないと思うんだけど」
「ゼルさんはドワーフの鍛治師です。さっきまで、鍛治工房に籠りきりでした」
「なにだい、引きこもりなのかい?」
アスラの言葉を手で制し、ウィリスが淡々と一言を告げた。
「不敬ですよ」
「ん? お偉いさんかなんかなのかい?」
「それはまたのお楽しみに。色々とお話を聞かせてくれると思いますから」
「気になるねぇ」
そして、三人はこれから先の楽しみや不安、目標など色々と話し、長い夜は終わりを遂げた。
太陽の騎士団は朝食を終え、リリィの前に六人が集まっていた。
太陽の騎士団の団長であるサニー。その兄であるヘルメス。ハンマー使いのアスラ。小さな聖女のウィリスとベテラン聖魔法使いのクリス。そして、最後に、ドワーフの鍛治職人であるゼルだ。
「ゼルー、久しぶり! もらった剣が本当に使いやすいよ!」
「ゼル、本当にありがとう」
「…構わない。お前たちのために作ったものだ」
照れ隠しのように顔を俯きながら話すが、サニーたちから見れば無愛想にしか見えなかった。
声質が少し低く、物静かな雰囲気だからだろう。
「さて、厄災を討伐しにいくのですが、順番を決めないといけませんね」
三種族の中で、リリィが勧めるのはドワーフだった。
「ゼルはドワーフの王子でもありますから、色々と融通が効くでしょう。なので、まずは、ドワーフの国から行ってください。それから…」
「ちょちょちょ、待ってリリィ様」
「はい?」
リリィがなんで止めるんだと言う顔でサニーを見つめる。サニーは少し声をあげて、確かめるように聞いた。
「え、ゼルってドワーフの王子様なの?」
「ああ、言ってなかったですね。ゼルの姉や父は健在でして、国を空けて色々な場所を回り修行をしているみたいです。騎士団に入ると言い出した時は、流石の私も狼狽えましたが。まあ、それはおいといて、話を続けますよ」
一同のゼルを見る目が、一瞬で変わる。
この静かなドワーフが王子をやっている姿など想像ができない。
だが、どうにか飲み込んでリリィの話を聞く。
「流れはこうです。まずはドワーフの国、次に獣人の国、最後にエルフです。エルフは排他的な種族ですから、他の種族の援軍要請の手紙と私の手紙の三つがあれば、首を縦に振ってくれるはずです。森の中にも入れるでしょう」
リリィは心配そうに、サニー達を見つめる。
「あなたたちには、危険な任務を任せることになります。ですが、必ず帰ってきて、私達の国に希望を届けて下さい」
リリィの言葉に全員が強く頷き、旅の準備に取り掛かった。
「食料、お金、水、衣服、その他諸々の用具、揃っていますね」
持ち物のチェックは、ウィリスがやると決まった。長い旅であるため、それを維持するための家計を管理する人は大切だ。
元第一部隊の兵士たちもウィリスの手伝いをしている。
総勢、二十名で構成される。
リーダーである、ガイア、ラズル、アリエルは手の空いた時に、訓練を行っていた。
日々の鍛錬は欠かさずやっているようで、すでに習慣になっている。
「サニーさんとヘルメスさんは、おとなしくしててください。アスラさんは、旅に必要なものとかの確認をお願いします。クリスさんは医療品の管理を私と一緒に」
「わかったー!」
「分かったよー」
「分かったわ」
ウィリスの的確な指示で、旅の準備は整っていった。
途中に「ウィリスさん、ぬいぐるみを持っていってもいいですかー? あれがなきゃ眠れないんですよー」と話す団員がいたが、ウィリスが満面の笑みで「ダメです」と優しく答えていた。団員はしょんぼりしている。
「ゼルさん、そんなに山盛りの武器は持っていけないですよ」
「こんな時勢だが、久しぶりの故郷だ。少しくらい、家族に修行の成果を見せてもいいだろう」
「気持ちはわかりますが、二つくらいにとどめて下さい。お願いします」
「そうか」
武器を抱え込んだゼルの腕の力が抜けてしまった。
必要な荷物以外は詰め込む気はない。そんな余裕はないと、ウィリスは徹底しているようだ。
「でも、そうですね。団員に譲って頂ければ、かさばりません」
「ふむ、ならば、俺の工房から人数分の武器を持ってこよう。騎士団に相応しいものをな。サニーたちの武器もだ」
「へ、あ、ありがとうございます…そんなに見せたいんですね」
ゼルの言葉に、団員やサニーたちは喜んでいた。
ドワーフは物作りの民。それは、よく広められた話で、人間の鍛治職人が作るものと品質は段違いだ。
そのことを知っている団員たちは興奮気味であり、感激に震えていた。
ゼルが必要な武器の種類の聞き取りを行い、自分の武器工房に取りに行く。
その後ろ姿を見送って、サニーは心底不思議そうに疑問を放った。
「やっぱり王族に見えないよ」
「なあ、やっぱ、ゼル様って呼んだ方がいいのか?」
ヘルメスは礼儀正しい性格のため、ウィリスに判断を仰ぐ。すると、すぐに答えが返ってきた。
「人間の国と違って、ドワーフは地位や名誉をそこまで気にしないと本人から聞きました。そんなものよりも、大切な心があるらしいです。だから、敬称は不要です」
「なら、ゼルでいいか」
「なんだか堅苦しいもんね。村でゼルに会ってるからか、余計に様付けが難しいよ」
「まあ、そうだよな。今更だしなぁ」
兄妹はお互いにうんうんと頷き合う。
そんな具合に旅の支度は終わった。
それから、サニーは先日に約束していた聖教会にやってきた。
目的は天使の憑依であり、ここは召喚の儀式の間で、誰にも見られたことはない奥の部屋にある。ウィリスが儀式を執り行い、聖教会の神官方もその様子を見守っていた。
騎士が天使を宿すことは、類を見ないことなのだが、刻一刻と迫る脅威と王女の命令の前に、彼らは首を縦に振ったのである。しかし、多少の審査はあった。サニーは神官の言葉に嘘偽りなく答え、天使を宿す資格を得たのである。
「サニーさん、別に憑依させることはないんですよ。今でも十分戦えますし、聖魔法は修練を重ねて使えたとしても、たいした効果は得られないかもしれません」
「それでもやってみたい」
「分かりました。では、召喚の儀式を行いますね。魔法陣の上に座ってください」
ウィリスはサニーに魔法陣の中に座り、祈るように手を添えた。
一番、自分の想いが伝わると考えたやり方でいいらしい。
サニーは目を閉じて、手の指を隙間なくギュッと閉めた。
すると、積層型の魔法陣が青い光を放ち、サニーを囲む。
それは、徐々に収束してサニーを包み込み、解き放たれた。すると、光の屑が舞い上がり、その中に一際極めて眩い光球が現れた。その光球は、小さな妖精のような姿になり、サニーの周りを、何か確かめるかのように飛んでいる。そして、満足したのか、サニーの体へと入り込んだ。
ウィリスはその光景をハラハラと見ていたが、天使がサニーを受け入れたことを確認すると、胸を撫で下ろした。
「終わりです」
「終わったの? もう?」
「はい。体は崩壊していませんから、成功です。これで、聖魔法を扱えるようになります。練習は、旅の間にでもやりましょう」
こうして、サニーは天使を宿した。
そのあとは、ゼルが武器を持って来て、団員たちに配っていた。
ゼル目線で合いそうな武器を見繕っており、感激で胸があつくなる団員が後を絶たなかった。
サニーたちも、綺麗で華やかな装飾が施された武器に、目をキラキラとさせる。
そして、全ての準備が整ったため、国を出ることになった。その際に、サニーたちは王都から城壁まで歩き続ける。
太陽の騎士団の勇姿を国民たちは見届けて、その姿は後世に絵として残されそうだ。
城門の外、リリィやグラセムが人々から正体を隠して見送りに来てくれた。
「太陽の騎士団のみなさん、あなたたちの旅路に天使の祝福を」
「必ず帰ってくるんだ。俺たちで時間稼ぎはいくらでもしてやる。焦らず、しかし確実に歩みを進めるんだぞ」
二人の言葉は、慈しみに溢れており、団員たちのやる気を底上げした。
「ウィリス、援軍の手紙は頼みました」
リリィの手紙をウィリスは丁寧に受け取り、腰に巻きつけた小さな手紙鞄に入れる。
「はい! 必ず届けます。任せてください!」
その威勢にリリィは満足して、笑みを浮かべた。
「リリィ様、グラセム様、行ってくるね! いざ、ドワーフの国へ!」
サニーの言葉に団員たちは、拳を上げて応える。
そして、太陽の騎士団は、ドワーフの国を目指して走り去った。




