SS 抗えない欲望
もしかしたら、訂正版を作る際に本編に組み込むかもしれない話です。忘れないうちに、SSという形で残しておきます。話数が増えちゃう。
これは、ラーハスト襲撃後の第一部隊の訓練で、郊外にあるお花畑でのお話。
訓練を終えた第一部隊は、すでにヘトヘトであり、帰る気力すら無くなっていた。
それに比べてサニーは元気満タンという感じで、彩りのある花畑を堪能している。
「みんな、立てそう?」
「無理です!」
「メシが欲しいー! けど、歩けねぇ」
「ならば、私たちがとってこようー」
兵士たちは頭に疑問符を浮かべる。ラーハストから食糧を持ってくるなど、いくらサニーでも無理な話。一人二人ならまだしも、ここには総勢20名程度がいるのだ。
「ヘルメス兄、アスラ、ひと狩りいこうよー」
「久しぶりの動物狩りか。楽しみだ。いい肉があるといいな」
「いいよー。でも、あまり狩りはやったことないんだよねぇ。色々と教えてね」
兵士たちを置いて、3人は颯爽と森の中を駆け抜けていった。
残された人達は、風邪で運ばれる花の香りに包まられており、甘い匂いが鼻を通り抜ける。
新鮮な動物の肉は貴重だ。ラーハストでも食べれるが、腐らないように加工された物が大半であるためか少し硬いのである。
しかし、狩りでとった肉はその日に食べるため、肉が比較的柔らかいことが多い。
そして、肉が焼かれている光景を目にするのは基本的にないため、兵士たちは柔らかく芳醇で、肉の脂を想像して涎を垂らしている。
「狩ってきたよー!」
そう言って、サニーが担ぎ上げている物は兵士たちの想像と違った。
その動物はトサカと鱗、尻尾の先端に大きな丸い岩がある。魔力の残り火がかすかに残っていた。
アリエルがその光景を見て、あり得ないものを見たかのように口を開く。
「サニー隊長、それ、一人で担いで」
「え、うん、ダメだった」
「いえ、気にしないで下さい。それよりも、聖教会の聖書では血の通った動物を食べることは禁じられてます。血は出ましたか?」
「血は出てないよ。だから、食べて大丈夫!」
アリエルとの問答の後に、サニーはすでに解体ショーを行っている。
「この子は尻尾の筋肉がすごい発達してるから、そこが美味しいよ。結構大きいから切るのが大変だけど、ほいっと」
サニーはこういう時のための手持ちナイフを買っていた。ラーハストで売っていた物だ。
ナイフの刃先を奥に入れ込んで、手前の刃を一気に下へと押し込む。それを手早く繰り返すと、胴体と尻尾が切断されあ。
「サニー、君、すごい手慣れてるね」
「私の家はフラフィの世話役だったから。たまにこういうことはしないといけなかったの」
「それは、やっぱり、辛いのかい?」
「辛いよ。特に子供の時はそうだった。でも、今は、村にとって色んな意味で必要な存在だったし、誰かがやらないといけないって思ってるから、耐えられる。子供の時は泣いちゃって、ヘルメス兄やお父さんにやってもらってたの、後悔してるよ」
アスラはサニーの後悔を聞き、後ろめたさを感じてしまう。
サニーの顔は別に悲しんでいたりはしないのだが、話を聞いてる側からすれば良く思う話ではない。
「…サニー、私にも教えて」
「うん、いいよ…ありがとう、アスラ」
「サニー隊長、俺ら、ここに焚き火を作りますんで、少し待っていてください」
「うん、お願いね」
兵士たちやアスラに笑顔を向けるサニー。
その様子をヘルメスは眺めて、胸をそっと撫で下ろし、満足そうに目を細めた。
花畑や草木のない土色の地面が広がる場所で解体しているので、ここでそのまま調理しても問題はない。
アスラと一緒に肉を切り分けたので、いくつかの焚き火の上で焼いていく。
「うぐ、血は出てないはずなのに生臭い匂いが。やっぱ、苦手だよ」
「頑張って耐えてね。アスラ」
服の袖を嗅ぐと、鼻にじんわりと広がる生臭さ。
少しサニーはニヤニヤとその光景を見ている。
「ちょっと、楽しそうだね」
「まぁね!」
棒に突き刺した肉が焼ける音はあたりに広がり、芳醇な香りが漂う。
肉の脂が地面へと落ちていく様を、無言で兵士たちは見つめている。
疲れもあるのだろうが、食事のありがたさを噛み締めているのかもしれない。考え事は人それぞれであり、寝そべる人や手を合わせる人、焼かれた肉をただただ見つめる人など、様々だ。
サニーはうつ伏せになって、両手で頬を包み、足を軽やかに動かしている。
アスラは目の前の炎に釘付けであり、ヘルメスは槍を肩に乗せて、乱雑な座り方をしている。
「アスラは旅人なのにあまり狩りをすることはなかったの?」
「ないね。一人で食べ切れる大きさじゃないし。するにしても、村に立ち寄ったついでにとかかな。やっぱり、残しちゃうのは勿体無いような気がするんだよね」
「えー、肉を食べれない旅ってなんかやだなぁ」
「まあ、都市とか街とかに行けば食べれるだろ?」
ヘルメス兄は分かっていないと言わんが如く、サニーは、お肉の良さを語り始める。
「いーや、毎日お肉は食べるべきだよ。食べないとまず物足りないよ。骨から出汁をとって、野菜と一緒に煮込めば温かくて美味しい物が簡単に食べれるし、満足感もあるでしょ? 今はお鍋とかないから出来ないけど、アスラにはまた作ってあげるからね」
「そんなに良いなら、楽しみだね」
「サニーって、結構、食にうるさいからなぁ」
「ヘルメス兄だって変わんないでしょー!」
やれやれと言いたげにヘルメスが言い返した。
「流石に俺だって虫までは食わん」
「ん?」
アスラや他の兵士たちがその話を聞いて、目を点にさせる。
「え、君、虫、食べるの?」
「え、食べるけど。いや、でも、なんでも食べるわけじゃないよ? 蝶々とかじゃなくて、地面の中にいる身が肥えた奴とかを、水で洗ってから焼いて食べるの。美味しいよ?」
サニーの言葉に一同は首を曲げる。目線は全く合わせようとしない。
「ほら、ドン引きだろ」
「ヘルメス兄も、食べてたのに」
ジト目で兄を見つめる妹。
みんなもヘルメスをサニーと同じ目で見ていた。
「おま、いや、俺は違うぞ。勧められたら断れないだろ」
「驚いた顔しながら美味しいって言った」
ヘルメスはサニーの言葉に無言を貫く。
「君、嘘つくの苦手なのかい? 全く、野生味が溢れてるね。君たち兄妹は。流石の私もそこまでじゃないけど、まあ、気になるね」
他の兵士たちが本気で言っているのかという気持ちで、アスラを見つめる。
徐々に仲間が増えてきたサニー達は、このまま兵士たちを巻き込もうとする。
「みんなも、食べてみる? 私、村でおかなすいた時に見つけては食べてたから、すぐに人数分は集められるよ?」
「おう、そうだな。思ったより美味しい奴だし、全部食えとは言わん。無理にとは言わない。試しに一口だけ食べるのもありだ。口に合うなら、旅をする時に役立つぞ」
兵士たちは田舎で過ごした人間の恐ろしさを体感した。
野生味という点では、都会っ子が田舎っ子に叶うはずもないのである。
「サニー隊長、あれ、本気で言ってるんだよな。なら、食ってみたいかも」
「俺も、食おうかな。ワイルドだし」
「お、俺は様子見で」
とまあ、こんな感じであれを食べることになったのである。
サニーがぱぱぱっと集めてしまい、それもついでに焼くことになった。その虫の色は白色で硬い殻で覆われているが、殻を取り除いたその身は大変美味なのである。
焼彼ら姿が、頬張っている肉よりも脂身が多く、肉厚な気がするのは気のせいだろう。
虫が焼けたので、サニーが真っ先に頬張る。
油と肉厚な感触が歯を伝い、ワイルドに頬張っていた。
兵士たちが何人か思い切って、噛みちぎってみると、意外に美味しいことに驚く。
「けっこう、うめぇぞこれ」
「ああ、見た目があれだが、いけるいける」
アスラは少し噛んでみて、コリコリの感触を楽しんでいた。
「こりこりしてるところもあるし、食べ応えあるね。よく、こんなの見つけたね」
「サニーが本能的に見つけたみたいなんだよ。村では肉が大量に食えない。でも、筋肉は栄養を求めた。だから、あの虫に目が釘付けになっあんだろうな。誰も進んで食べようとはしないから、取り放題だ」
「虫で強くなったってことかい。虫食い騎士じゃないか」
「ぶふ、カッコ悪すぎだろそれ」
意外にも虫が美味しかったことで話は持ちきりなり、第一部隊はラーハストの治癒園へと帰った。
訓練による怪我を治してもらおうと、クリスを呼んだ。
サニー達を見たクリスの第一声は、怒りに満ちていた。
「あなたたち、遅すぎよ。心配したじゃない! それと、何? その体から湧き出る匂いは!」
「ご、ごめん。動物とか虫を狩って食べてた」
「なによそれ! 私にもよこしなさいよ!」
「ちょ、クリス様クリス様」
リーズが宥めるように、クリスに話す。しかし、クリスは止まらない。日頃の疲れが湧き出て止まらない。
「聖教会は清貧を謳ってるんですから、ダメですよ」
「人を治癒する仕事で清貧を謳うとか舐めてるでしょ! あれは、人々の前で見せちゃいけないってだけで、裏ではしっかりご飯をとってもいいのよ!」
「え、そうなんですか!」
クリスの怒り具合に、流石にやばいと感じたサニーは、提案をする。
「その、クリス、さん。あの、明日にお肉を持ってくるよ」
「それは無理よ。治癒園にお肉なんか持ってきてると、バレるでしょ」
「なら、虫しか…」
「虫? 虫なんか食べてるの?」
兵士たちも会話に混ざって、クリスを宥めにかかる。
自分の怪我が治るか治らないかの瀬戸際なので、必死だ。
「サニー隊長から勧められたんだが、うめぇ虫がいるんですよ! それなら、誰も文句言わねぇ」
「よし、背に腹はかえられないわ。明日、それ持ってきて。日頃のお礼だと思って」
クリスの発言にリーズが肩を揺らして慌てたように言う。
「ちょ、聖女が虫を食べるなんて、そんなのやですよ! 虫食い聖女じゃないですか。そんなふうに言われても良いんですか?」
「もう良いのよ、リーズ! 私は襲撃からの復興やらなんやらで疲れ果てているの!」
リーズの言葉に同調したのは、サニーだった。
「でも、確かに、聖女が虫を食べるのを想像すると、嫌かも。だからさ、ラーハストの全員とは言わないけど、襲撃で家がないみんなの分と一緒なら、クリスも食べることができると思うよ」
クリスは思い切り立ち上がって、サニーに指を向ける。
「それよ! お願いするわ!」
「なら、5匹ぐらいは狩ってくるよ。でかくて美味しいやつね。血が出ない動物を持ってくるから期待しててね」
「ふふふ、これでお肉が食べられるわ、リーズ!」
「クリス様、そんなに辛かったんですね」
満足そうに笑顔を浮かべたクリスは、今回の治療を天使の笑みを浮かべながらしてくれた。
後日、サニー達は訓練が終わった後に、獣を狩り、治癒園まで持っていった。
道中、異様な目で見られたが、立派な動物の肉に人々は釘付けで、食事を楽しんだ。
クリスもそうであり、サニー達の治療を行う時には傍に串焼き肉を数十本くらい置かれている。
寄付されたものらしくて、大変満足そうだ。
しかし、串焼き肉を頬張りながら聖魔法を行使する姿は滑稽である。
「クリス…食い意地あるんだね」
「しやぁ、ほぉこぉににゃらひなしゃい。ひゃっひ、ほわりゃへるはよ」
頬張りながら喋るクリスに、サニーはうんうんと頷く。
「なんでか、クリスの言葉が分かるよ」
「そりゃ…毎日、治療してもらってたらな。いつもありがとう。クリス」
「ありがとうね。何かして欲しいことがあったらどんどん言って!」
「ひゃりがどう」
そんなクリスの姿を見て、サニー達は苦笑いを浮かべ、リーズはちょっと残念そうに眉を下げるのであった。




