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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第24話

 

 昼頃、最後の砦を出発したサニー達は2時間後ほど歩き、王都ラヴィエルに到着した。


 精巧な石壁と赤いレンガが街並みを綺麗に整え、荘厳な建物もまばらに見える。中央付近は特に巨大建築が多く、村の人間なら誰もが憧れるお城もあった。


 サニーやヘルメスなど、王都に初めてくる人々は、一度はその景色に目を奪われる。

 城下町は地平線まで続いてるかのように見え、サニーの冒険心をくすぐるほどに、謎が溢れている。   


 サニーは、チラチラと周りを高速で見ていた。


 「うぐぅ、いろんなところ見てみたいけどー」


 勝手に飛び出さないように本気で我慢しているようで体が震えていた。

 サニーの頭をぽんと叩いて、ヘルメスが自制するよう促す。


 「ほれほれ、荷解きを手伝うぞ」

 「はーい」


 避難民達を受け入れる準備は、衣服や食事、飲料などが主であり、住居までは与えられない。

 

 「まあ、仕方ないわね。流石に、厨房や釜がある家なんて与えられるはずないわ。避難民だって、いつかはここを出ていくのだし」


 「すみません、これが限界でして。厄災が討伐されるまで辛抱をお願いします」

 

 ウィリスが避難民達に律儀に謝罪しているが、誰も責めたりはしない。逆にありがたく思われ感謝の言葉がかけられたぐらいだ。


 彼女が一人の聖女として奔走していた姿をみんなは見ているからだろう。


 取り敢えず、簡素な仮設住宅を建てていく。避難民達も体が動く人は参加しており、サニー達も手伝っていたが、早々にリリィから呼ばれた。


 「どうしたの? リリィ様? それにグラセム様も」

 「まあ、そこに座ってください」


 リリィはサニーの肩を掴んで座らせる。


 「え、なに?」


 まずは、グラセムから話が始まった。


 「サニーの名前が広まってるんだ。厄災にトドメを刺した英雄としてな。兵士たちや避難民の話を聞いた市民が噂として広めているらしい」


 「はえー、不思議な気分だね。知らない所で有名人だなんて」


 「ふふ、初めての王都で冒険心も疼いている頃でしょう。本当なら王都観光の時間を与えたいのですが、その前にやってもらわねばならない事があります」


 リリィは淡々とサニーに告げた。


 「私、この王女の凱旋パレードがありまして。ついでに、新しい英雄であるあなたの姿を紹介しようかと。なので、サニーには、グラセムの横を歩いてもらいます」


 グラセムの横を歩く。それは、英雄グラセムと同等の立場ということを、国民全員に示すことになる。しかも、王女の凱旋で行われるのだ。サニーは、名実ともに名を挙げることになる。


 「それだけ?」

 「あら、緊張しないんですか?」

 「…うん」


 「ほうほう、初めての時は私もキョロキョロと周りを見て恥ずかしい思いをしたのですが。でも、その方がいいですね。胸を張って、目を前に、グラセムに負けないような姿で行進して下さいね?」


 にやにやとリリィが笑うが、サニーは何も考えず楽観的に頷いていた。


 「うん」


 サニーは、あんまり王女の凱旋というものを想像できていない。想像できないものに、苦痛も快楽もない。

 だが、それはすぐに味わうことになるのだ。


 「やっばい」


 サニーはグラセムの隣を行進していた。

 カチコチである。それはもう、血液が凝固したのかと言えばいいほど、動きがカチコチである。


 至る所に手を振り声援と歓声を上げる人々。明るく軽快で、愉快な音色と共にサニーは歩く。


 あまりの人の多さとその熱狂に目がグルグルと回り始めており、後ろにいたアスラとヘルメスも心配している。


 二人もそれどころではないのだが、サニーの動転ぶりに逆に冷静になったのだ。


 「気圧されるな、サニー。リリィに厄災を全て倒すと宣言したのだろう?」


 「う、うん。でも、これは緊張するよ」


 「今はまだだが、これから全ての民の期待が向けられる。この重圧に耐えられないと、リリィからの命令を遂行できないぞ。そして、これは言っちゃダメなことなんだが」


 間を置いて、サニーにひっそりと言うように呟く。


 「リリィも同じ重圧を抱いているんだ」


 人々の賑やかな声、家の窓からサニー達を覗く目。

 みんなの表情の全ては安堵と喜びから来る笑顔に染まっている。

 この笑顔を守るために、どれほどの覚悟がいるだろうか。


 「リ、リィ様も」

 「ああ、そうだ。過去には荒れた時期もあってな。それを乗り越えて今のリリィがいるが、重圧は安心に変わることはなく、耐えて抗うことしかできない。リリィに、暗に頼れと言ったのだろう? なら、悲しませるな。不安にさせるな。それに、騎士ならば、一国の姫の笑顔くらい守らないとな」


 覚悟を決めろと、言っているのだろう。これはいわば、先の英雄からの助言である。サニーもそれを理解した。


 「…ありがとう、グラセム様。やっと、現実味が湧いてきたよ。しっかりしないとね」

 「…」


 グラセムは軽く頷いて、目線をまっすぐと前に向ける。続いて、サニーも同様に前を向いた。


 先ほどまでのサニーではない。覚悟さえ決まれば、切り替えの速さはダントツなのだ。王女の凱旋に相応しい姿で、サニーはお城の前の大きな広場まで行進し続けたのである。


 「お疲れ様、サニー。途中から勇ましい姿だったね。後ろから見てたけど、惚れ惚れする感じだったよ」

 「そうみえてた? ならよかった!」

 「最初はおどおどしてて、あんな緊張してたけど、頑張ったよね」

 「あ、はは、恥ずかしい」


 アスラに褒められたサニーは笑顔で元気に返事をするが、すぐに茶化されて顔を赤らめる。


 「誰だってそうなりますよ。後ろの兵士の方も、チラチラと目線が動いてましたからね」


 ウィリスの言葉に第一部隊の兵士たちは、一瞬だけ飛び跳ねたかのように体を揺らす。

 彼らもサニーと同様に初めての行進だ。気持ちは同じなのである。


 「そう言えば、クリスとかライゼンはどこに行ったの?」


 「クリスさんなら聖教会に行きましたよ。ライゼン兵士長は、兵舎に行くと仰っていました」


 「あ、そうなんだ。一緒には行かないんだね」

 「そう見たいですね。では、中に入りましょう」


 サニー達が見上げると、巨大なお城が少し遠くに見える。

 

 なぜ少し遠いのかという、大きな城門を通ると、自然に埋め尽くされた大きな庭があるからだ。


 そこでは、兵士や騎士達と共に子供達が遊ぶ姿。それを見守る親。庭を散歩する人。実に様々な人が日常を送っている。しかし、中には格好が質素な人や子供もいるが、楽しく談笑している姿があった。


 「リリィ様だー!」


 子供の一人が気付いたのか、駆け寄ってくる。

 すると、他の子供達もすぐに集まってきてもみくちゃにされる。


 サニーは助けるべきか悩むが、グラセム達はただ見守るだけでなく、自由に他の市民と交流していたので何もしなかった。


 「こらこら、お客さんを待たせているのです。だから、邪魔しちゃダメですよ」

 「お客さん?」


 ちらりと子供達がサニー達に首を回すと、騒ぎ出した。


 「誰ー? 初めて見る!」

 「新しい英雄さんです。これから騎士になるんですよ」


 子供達が周りを取り囲み、騎士や兵士たちにちょっかいを出し始めた。


 あたりは一気に喧騒へと包まれ、サニーの腕にも子供がぶら下がるように揺れている。

 騒ぎを聞きつけたのか、他の子ども達も集まってきた。


 「ちゅうもーく、ほら、いつものやりますよー!」


 リリィは錫杖に魔力を込めて、光の玉を数十個生み出す。

 そこに追加で聖魔法をかけて、解き放った。


 終始、目で追っていた子ども達は光球を追いかけていき、嵐は過ぎ去ったのだった。


 「さて、ではいきましょう」


 王宮へと向かうため、また庭の道を歩き出す。


 「あの魔法、なんだったの?」

 「あれは、手に触れた人に聖魔法を付与します。そして、周りの人にも効果が及ぶものです」


 リリィは、遠くに走っていく子供達を見つめながら、サニーに言う。

 そして、ウィリスが付け足すように言った。


 「家に帰った子どもの家族にも聖魔法の力を僅かでも与えられるんです。ああすれば、色んな事情で聖教会に来れない人にも恩恵がありますし、不平等を感じにくいですから」


 「…あれって、私にもできるかな?」

 「聖魔法は天使をその身に宿さないといけないですよ?」


 そう言って、ウィリスは天使を顕現させた。


 「あれ、ラーハストでリリィ様が行使してたやつと全然違うね」

 「あれは大天使って呼ばれるもので、もっと上位の存在です。普段は、この小さい人形に羽の生えた妖精みたいな天使から、力を借りています」


 つんつんと、透明感のある妖精を突くとくすぐったそうに動いている。

 初めて見る妖精にヘルメスとサニーは釘付けだった。


 「サニー、聖魔法を使いたいのか?」

 「え、うん。傷を癒せるし、とってもあったかいから、使えるようになりたい」


 サニーの意欲にウィリスは悩みながら答える。


 「天使様はなんでか分からないですが、武器を持って戦う人間にはあまり力を貸さないんです。なので、仮にサニーさんが天使を宿しても、聖女のような強力な聖魔法は行使できないと思います。それでもいいなら、宿してもいいかも。その前に色々と審査とかありますけど」


 「審査って何?」


 サニーは食いつくように聞き、リリィも聞き耳を立てている。


 「日々の生活態度、物の考え方とか色々なことを総合して、天使に好かれるかどうか試されます」


 「私が許可を出しておきます。サニーは天使を宿すくらいならいけるでしょう。体が崩壊するなんてことはまずありません」


 「ほ、崩壊するんだ」


 そうこうと話している内に、お城の目の前へとやってきた。

 ついに、城内に入るのである。


 グラセム達とは一旦別れ、サニー達は騎士叙任式の用意をするために大部屋へと案内された。


 色とりどりの家具や高級な絨毯、大きな扉、どれをとっても初めて見る物で溢れている。


 第一部隊の全員は案内されるがままであったが、うずうずと途中で飛びだしたくなっているほど、興奮していた。


 「サニー様、ヘルメス様、アスラ様、こちらにいらしてください」


 大部屋に入って束の間、サニーとヘルメス、アスラの3人が別室に、メイドに連れて行かれる。


 ウィリスも背中を追い、第一部隊の兵士たちとはお別れになった。


 彼らも騎士叙任式に随行するため、場内のメイド達から、服や顔を仕上げられる。


 それは、サニー達も同様であった。

 別室にて鏡の前にサニーは座らされる。


 「ふふふ、私自ら、ていねていねいにやらさせてもらいます」


 ウィリスが櫛を持って、キリッとした顔で背中に立つ。

 なにやら、とても嬉しそうである。


 1時間ほどで、サニー達は相応しい姿になった。


 サニーの髪は、ロングで綺麗な艶のある髪を生かして、三つ編みをハーフアップした。普段は野生みが溢れているが、ここでは華やかさを感じる姿に変化した。服装は手触りが良く、赤を基調とし、金の刺繍が施されている。王家の式典などで用いられる制服だ。


 ヘルメスは清潔感を感じるように髪は毛先が一本たりとも跳ねていない。髪は全て後ろにあげてしまい、一際顔がよく見える。


 アスラの髪もサニー同様に長い。しかし、サニーとは違って、無難なポニーテールになった。理由は、アスラがあまり華やかで可愛い髪型を恥ずかしがったからである。


 ウィリスはごねたが、ポニーテールもよく似合っており、美しい首元がくっきりと見えて凛々しかったので、矛を下げた。

 そのせいか、ちょっとアスラは疲れている。その反面、サニーは鏡の前で自分の姿をじっくりとみて、後ろ髪が揺れるのを楽しんでいた。


 そうこうしているうちに、礼儀作法を学ぶ時間になった。

 ウィリスの真似をする形で、サニー達も少しずつ体に覚えさせていく。ついでに、言葉遣いなども注意を受けていた。短い時間ではあるが、付け焼き刃でも十分だ。貴族たちもサニーたちがただの平民だとは知っているので、それなりの礼儀があれば感心される。

 お茶会とかでは絶対に話しかけられることはないだろうが、そんな予定はないので何も問題はない。


 「う、ウィリスが怖い」

 「サニーさん、よそ見しない! それに、今は敬語を使ってください!」

 「はい! 了解しました!」


 ヘルメスやアスラも、ウィリスの変わりように驚いており、背筋が立っていた。 

 緊張続きの講義が終わった後は、夕方まで休憩時間を取った。

 そして、時刻は午後の17時ごろ。


 騎士叙任式が玉座の前で行われた。


 リリィも王女の姿で、美しいドレスや簪を刺しており、綺麗な肌とマッチしている。


 周りには、宰相やグラセム騎士団、貴族や聖女などもいる。皆々、新しい英雄の姿がどんなものか話し合っていたようだ。

 それと、これから来るメルビンとの戦いについての話もあり、喧騒としている。

 しかし、ウィリスが扉を開けて中に入ってくると、教会の中のような静けさに包まれた。


 ウィリスに続いて、サニーが先頭に立ち、ゆっくりと歩き出す。

 その背中にアスラとヘルメスが付いていき、第一部隊の兵士達も続く。

 リリィから少し離れた場所で立ち止まり、サニー達は一斉にかしずいた。


 リリィの隣にいる若い宰相が、その年齢から考えられもしない威厳のある力強い声を放つ。


 「これより、騎士叙任式を始める」


 式は滞りなく行われていった。

 厄災を討伐したことに対する感謝と、その武勲に対して騎士の地位を与えることが話されていく。


 そして、騎士の証明である勲章が与えられる。

 その際に、王女自らが宝剣を持ち、授与する騎士の肩を叩くのである。


 サニーは慇懃に勲章をもらい、それを胸ポケットに飾った。そして、思い出が蘇るかのような顔立ちで、その勲章を眺めている。


 きっと、これまでのことを思い出しているのだろう。

 勲章を渡したリリィはにっこりと笑って、サニーも微笑んだ。


 「あなたを騎士と認め、王女直々に命令を下します。来るメルビンの厄災に打ち勝つため、各種族に出現した厄災を倒し、援軍を募りなさい。そのために、騎士団を与えます。あなたの戦う姿は、太陽の光のようにみんなを導きます。ならば、名は太陽の騎士団が相応しいでしょう。人々の輝かしい未来のために、その身を捧げることを誓いなさい」


 「はい」


 サニーは首を垂れて、リリィはその誓いを受け取った。

 式は粛々と終わりを告げ、ここに太陽の騎士団が生まれたことを喜ぶ鐘の音が、国中に響き渡ったのであった。

 


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