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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第22話


 城壁の上、リリィはウィリスを見送り、サニー達が悪魔と戦うのを見守っていた。


 次なる魔光線が放たれるまで時間は刻一刻と迫っている。


 スライム兵士や回転スライムはグラセムの指揮のもと数を減らしているが、同時にこちらの被害も大きい。


 「リリィ、前線の兵士の治療をしに来たわ」


 風の魔法でやってきたクリスがリーズを下ろす。

 リーズは頭がクラクラとして酔っているようだ。


 「クリス、来てくれたんですね。避難の方はどうですか?」

 「無事にいけたわ」


 クリスはどんなことをしたのかを話し、リリィは感嘆していた。


 「…そうなんですね、ありがとうございます」


 リリィは少し考え事をしたあと、お礼の言葉を述べる。

 それを見たクリスが心配そうに「どうしたの? 何か悩み事でもあるの? 手短かになら聞くわ」と言うと、リリィは答えた。


 「…厄災からもう一発、魔光線が放たれそうな感じなんです。ラーハストを守るためにシールドを貼るか、それとも捨てるか、悩んでます」


 「1人で防ぐつもりなの? それは無理があるわよ」


 リリィは少し俯いた笑みをクリスに向ける。

 クリスは下を向いたリリィの目線を追うと、血で描かれた魔法陣があった。

 

 「あなた、まさか、大天使を召喚するつもりなの?」


 覚悟を決めたようにリリィは頷いた。


 「あなたがやることではないでしょ? あなたの身は変えがきかないのよ」


 「…ええ、しかし、ここに王家のものがここにいるのに、何もしないで見捨てるなどできません。それに、私がラーハストを見捨てなかったことが、後に必ず、復興へとつながるでしょう」


 あなたの話を聞いて確信したのです、とリリィーは言っているようだった。


 確かに、王家の姫が身を呈してラーハストを守ることは、それはつまり、王家がラーハストを見捨てる気持ちはないと民衆に知らせることを意味する。


 例え、ラーハストが滅ぶことになったとしても、その気持ちまでは民衆の中に残り続けるのだ。


 民衆は大層、喜ぶであろう。王家の威光はより増すだろう。しかし、一つの身しかない王家の姫が成すことではない。

 そのことをクリスも理解しているが、止めようも無かった。


 それが、王家の意向であるために。王家は大きい。ひいては、リリィーが背負うものも大きいのだ。


 「クリス、行ってください」

 「分かったわ、頑張ってね」


 クリスはリーズを連れて城壁を飛び降りる。

 戦場へと向かう時、リーズはクリスに聞いた。


 「大天使ってなんですか? 聞いたことないです」

 「大天使は召喚魔法でね。自身の血で魔法陣を描いて大天使って呼ばれる上位存在を召喚するの。大天使の力を借りれれば、聖女は奇跡を起こせるのよ。ここら一帯のスライムなんて一瞬で祓えると思うわ」


 「すごいですねそれ!」

 「でも、代償があるの」


 クリスは心底嫌そうに言う。あまり言いたくないようだった。


 「一回使えば、寿命が10年分減ると言われてるわ」

 「…天使様なのに代償がいるんですか?」

 「ええ、天使様なのにね。普段の祈りだけでは、足りないみたいね。しかも、召喚の方法はあるけど、不発に終わることもある」


 「失敗することもあるんですか?」


 ウィリスの疑問にクリスはにっこりと笑った。


 「ええ、簡単に言えば、召喚する聖女本人が幸せじゃないとダメらしいわ」

 「リリィ様、失敗したら死んじゃうのに。すごい覚悟です」


 リーズが佇むリリィの姿を見る。

 不安を全く顔に出さない彼女を純粋な眼差しで尊敬していた。そのことにクリスも頷く。


 「さあ、私たちはやることやりましょう」

 「はい」

 

 2人の聖女が戦場へと到着した頃、サニー達は既に厄災へと攻撃を仕掛けていた。

 だが、最初に攻めた頃よりも過激な反撃で近づけなくなっていた。


 「もう回復してるんだ」


 厄災の状態を知ったサニーは焦るが、ウィリスはそうでもなかった。

 魔光線が放たれるまでに仕留めきれなかった時、どうするかをリリィから聞かされていたからだ。

 リリィから言われた言葉をそのまま三人に伝える。


 「リリィ様がもう一度魔光線を防ぐそうです。その後なら、必ず仕留められます!」


 「え! 大丈夫なの?」

 「はい、大丈夫です!」


 ウィリスはサニーの死角からやってくる回転スライムをシールドで防ぐ。


 「分かった! なら、道はしっかりと空けとかないとね! ヘルメス兄!」

 「りょーかい」


 兄妹は厄災の上空へと飛び立てるように、空中で魔光線を放つ浮遊スライムを、魔力剣の斬撃で切っていく。


 「アスラさん!」

 「合わせるよ」


 ウィリスが浄化の魔法を使うとスライム兵士や巨大スライムが眩しそうに顔を屈める。


 そして、アスラは無防備な魔物達をハンマーで赤い核を潰していった。

 準備を整えていると、厄災スライムが動きだした。


 「魔光線が来る!」


 サニーが叫ぶ。

 厄災の赤い核が戦場を再度、赤い彗星のように照らす。

 空中に飛んで厄災スライムから、特大の魔光線が放たれた。


 準備していたリリィはすぐさま召喚魔法を行使する。

 

 「我ら疾しき無辜なる祈りを愛するものよ。我らの喜びを祝福し、愛をお与えください。大天使、召喚!」


 大きく柔かい白い羽と彫刻のように精巧な胴体と顔。白く輝くエネルギーを纏い、赤い液体が螺旋状に模様を描く。その姿は、神聖さは、触れてはいけない存在を現世に顕現したことを意味した。


 その存在はリリィへと膨大な魔力を受け渡し、肩に巨石が乗ったようにずっしりと重く、思わず足がすくむ。

 だが、リリィは見事に制御して、錫杖へと魔力を流す。

 そして、聖魔法を行使した。


 「聖壁」


 それは、シールドのあるべき姿。


 魔力のエネルギーは電流が実体化したように溢れ出し、障壁が空間に生み出された。

 その神々しい光からは光線が放たれ、戦場にいるスライムを浄化していく。

 直後、魔光線は聖壁と衝突した。

 リリィの目の前には、光が一転に集まり、魔光線が横へと流れていく。


 衝撃派と光に兵士たちは目を守るように腕を上げ、終わるのを待つ。

 スライム兵士も浄化されてしまい、赤い核ごと溶けてしまう。

 魔光線は徐々に収束し、城壁は変わらず姿を残している。


 上にはリリィが錫杖を構え、目の前を見据えていた。

 背後にいる大天使の姿も相まって、その神々しい。


 誰もがリリィを見ていた。しかし、4人は違った。

 サニーは嬉しそうに笑みを浮かべてヘルメスに声をかける。


 「行くよ! 終わらせよう!」

 「おう」


 2人は飛び跳ね、ヘルメスは空中で槍の先端部分を用いてサニーをさらに上へと押し上げる。


 厄災スライムの斜め上空にたどり着いたサニーは、力を一時も残さずに剣に魔力を込め出す。


 その時、兵士たちの目に二つの太陽が現れたのだ。

 そして、それは重なった。


 サニーの魔力により剣は光とオレンジ色が混じったような色合いになる。

 その魔力は膨大で、この戦場にいる誰もが感じ取ったのだ。

 もう1人の英雄を気配を。


 風の魔法で厄災の真上に来たサニーは、剣を巨大化させていく。それは、すぐに手に収まらなくなり、そのまま下へと落ちていく。


 厄災スライムを身の危険を感じ取ったのか、逃げようとするが、それは叶わない。


 「クロスチェイン」


 ウィリスが拘束系の魔法を行使したのだ。

 光輝く鎖が厄災を拘束する。


 巨大化した剣が隕石のように落ちていくのを厄災スライムはただ見守ることしかできないのだ。

 サニーの剣は水色の液体を切り裂き、赤い核を真っ二つにした。


 そして、地面へと突き刺さり、衝撃により地表の岩石や土壌が粉砕され、土埃が激しく舞った。

 地面に大きな切り傷ができたのである。


 「サニー!」


 ヘルメスが風の魔法で飛び、上空で舞うサニーをキャッチする。

 そして、地面に着地して腕からおろした。


 ヘルメスの肩を借りながら足をフラフラさせるサニーにアスラとウィリスが飛びつく。


 「わぷ!」

 「やりました!」

 「やったね」


 血と汗が混じった腰と上半身に抱きつく2人に、サニー眠たそうに笑みを浮かべる。


 土埃が風で消えると、遠くから兵士たちが歓声を上げてサニーの勇姿を喜んでいた。


 それに、サニーは拳をあげて応える。


 そして、魔力の過剰行使により、疲れからか目を閉じようとしたが、勝利の余韻に浸る言葉できなかった。

 いち早く気付いたのはヘルメスだ。


 魔力剣による斬撃が突然、4人目掛けてやってきたのだ。


 最初の一撃にヘルメスが対応し、攻撃に気付いたアスラはサニーを抱える。ウィリスはいつでもシールドを使えるように構えていた。


 3人の目線の先にみえるのは、何か。


 「やあ、お見事だね」


 現れたのはメルビンとダグラス、そして、暗黒騎士の軍勢である。厄災スライムを倒した直後、次の番だと言わんばかりに登場したのだ。


 しかし、彼らに立ちはだかるのは騎士団とグラセムである。


 第一部隊もサニーたちを守るように護衛していた。

 グラセムは目の前の2人の魔人と暗黒騎士をゆっくりとみる。


 厄災スライム以上の脅威に思える。そして、敵は本当にこれだけなのかと、メルビンとダグラスを見て思うのだ。


 グラセムは予定通り、撤退の道を選ぶことにした。

 このまま戦えば、相打ちになる可能性がある。いや、恐らくだが、勝てない。


 必要な準備が足りていないのだ。2人の魔人を同時に相手取れるほど、今の騎士団に余裕はない。


 それに、リリィもサニーはこれ以上は戦うことはできないのである。例え勝ったとしても、2人を失う可能性は高く、それは勝利とは言えないのだ。


 「撤退の笛を鳴らせ!」


 騎士の1人が、空に向かって笛を鳴らす。

 兵士たちは各隊長の命に従いながら、避難民を追うように走っていく。


 「ああ、正解だよ、全く」


 メルビンが魔力を解放していく。

 その魔力は戦場全体へと広がり、兵士たちに恐怖を与えた。


 地面を伝う魔力が暗黒騎士を生み出す。まるで、死者が蘇ったかのように。


 その光景を目の当たりにした兵士は、ガタガタと震える。厄災との戦いを終えたばかりの兵士たちにこれ以上の戦闘続行はできなかったのだ。


 逃げるために必要な時間はなかった。至る所で戦闘が始まる。

 戦場は再び阿鼻叫喚となり、兵士たちの死体が積み上げられていく。


 しかし、まばゆい光が兵士たちを照らした。

 リリィーの浄化の光だ。大天使の力を用いた光は暗黒騎士を塵に変えていく。


 「勇ましき兵士たちよ、王都へと歩みを進めてください!」


 リリィーの言葉は拡散し、兵士たちの耳元へと届く。

 その言葉通り、驚きで足を止めてのを怪我人や呼びかけをしながら、王都へと走っていった。


 「がは、ごふ」


 リリィは力を使い過ぎたためか、血反吐を吐いてしまう。手のひらが真っ赤に染まり、震える手をみる。


 「ま、だ、やることがあります」


 にこりと笑ったリリィが錫杖を天高く掲げると、光が集まる。それは地面を伝い、浄化の効果を持っていた。光は戦場全体へと広がり、上空にまで天高く聖なる魔力が放たれている。


 また、メルビンたちを取り囲むように光が魔力を地面を伝っていく。


 「おやおや、囲まれちゃったか。大天使の力は初めて見たけど、これはとんでもないね。僕の力に対抗してるよ」


 メルビンたちが囲まれる光景を見た騎士団と第一部隊は撤退を始めた。


 「よし、時間稼ぎは必要ない。撤退するぞ」

 「グラセム様、リリィ様は…」

 「俺が担いでいく。ウィリス、リリィの治療を真っ先に頼んだぞ」


 サニーたちはラーハストを横切り走り去る。


 「また、来るからね」


 ポツリと呟き、サニーはラーハストを後にした。


 グラセムはリリィの元に参ると、力を行使し続けているようだった。


 リリィの立っている場所は血溜まりあり、それは、服の下から流れ落ち、少しずつ広がり続けている。


 リリィは、側に来たグラセムにニコリと笑って理由を話す。


 「1日だけでも、休息の時間が必要です。これから、長い戦いが始まりますから」

 「だが、とっくに限界だろう? もう休んだほうがいい」

 「ええ、そう、ですね」


 錫杖から手の力が抜け、リリィは崩れ落ちる。

 すると、大天使も消え去った。

 赤い服に染まる聖女服は戦いの証だった。


 「リリィ、担ぐぞ」

 「は、い」


 朧げに返事をしたリリィを背中に乗せて、遥か後方の聖女の光を後にし、グラセムは王都へと向かった。

 これにて、厄災スライムとの戦いは幕を閉じたのだ。

厄災戦、終了〜

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