表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
20/26

第20話

視点が3つ以上あると読みにくいので分けることにしました。なので、今回は文字数が少なめです。

 結界が破られたことに気づいたクリスは、冷静だった。衝撃音と風が吹き荒れていたが、リリィ達が攻撃を防いだのを察したからである。


 結界の再構築を始めるべきか悩んでいたが、その思考はやめた。先ほどの衝撃音はどのような攻撃が来たのか容易に想像できる。

 もはや、結界など意味がないことを推測したのだ。


 「クリス様」


 リーズが心配そうにクリスを見つめている。

 クリス自身は気づいていないが、自分の焦りが顔に出ているのだろう。

 心配するのは当然だ。

 また、結界が破られたことに対する不安もある。

 

 「リーズ、大丈夫よ。みんなを避難させるわ。手伝ってくれる?」

 「避難ですか?」

 「ええ、その方がいいでしょうね。人命優先よ」

 「なら、ラーハストは…」


 クリスは力強く目を閉じて、言いたくないかのように口を開く。


 「…捨てることになるわ、ごめんなさい」

 

 リーズはここが生まれ故郷だ。

 そのことを知っているクリスは、申し訳ないように言う。


 「ク、クリス様、私は大丈夫です! 聖女を目指しているのは、みんなの命を守るためですから!」

 「ええ、ありがとう、リーズ、頼りにしてるわ」

 「はい!」


 クリスは励ましの言葉に和やかな笑みを浮かべる。リーズは人知れず心が成長していたようだ。

 初めて治癒園に来た頃から見守ってきたリーズをクリスは、誇りに思う。


 「伝令、伝令!クリス様はここにおられるか」

 「どうしたの?」

 「クリス様! リリィ様より王都に向けて避難民の誘導を開始せよとのことです!」

 「わかったわ。ありがとう」


 伝令兵は慌てて戦場へと戻っていった。


 「さて、始めましょうか。リーズ」


 クリスは治癒園を出て、リーズと共に避難民の誘導を開始する。

 しかし、避難民の抵抗は激しかった。

 野次や批判が飛ぶのではない。

 ただ、頑なに、ラーハストから離れたくはないと拒むのである。

 ある女性は、悲しみを打ち明ける。


  「私の家族の魂はラーハストにあるのよ。離れるわけにはいかないわ」と。


 あるお爺さんは、不安を告げる。


 「ワシは若い人間とは違って動けんよ。逃げるなら置いていけ」


 ある兵士は子供に嘘を告げる。


 「大丈夫だ。なんせ騎士団が来てるからな」


 戦場を知らぬ市民と戦場を鮮明に想像できているクリスとの間で、乖離が生じていた。


 リーズも説得しようとするが、上手くはいかない。

 俯いた表情を向けるが、健気に何度もお願いをする。


 「見捨てるなんてできないわでも、どうすればいいの?」


 彼らの言い分はよく理解できる。彼らの主張は心の安定を保つためにあるものだ。それを蔑ろにしては、精神を病む危険がある。

 そうなっては、避難もままならず、護衛の兵士たちもろとも壊滅しかねない。

 しかし、人命を優先したいクリスにとっては、その危険性を承知の上で避難させたい。

 究極の選択肢をクリスは強いられていた。


 「これが、ジレンマという奴ね。どうしましょう。どっちをとっても誰かの意思を排除することになる」


 市民の主張を優先することはつまり、リリィの意思すらも排除することを指していた。また、兵士たちの守りたいものすら蔑ろにしている。


 「やっぱりダメです。みなさん、騎士団のことを信用しすぎてるのもあって、逃げようとしてくれないです…」

 「…リーズ、聖女の力の源って何だと思う?」

 「想いです!」

 「そう、そうよね。それが天使に好かれ力を貸し与えられる理由。その力は強大…なら、私の想いを伝えるしかないわ」


 クリスは自身の力を信用することにした。

 言い方は考えねばならない。

 上手くいくかは分からない。

 だが、やれるだけのことをやってから、後のことは考えるべきだろう。

 少し高い指令台の上に立ち、柔らかな声で、しかしはっきりと力強い言葉で話す。


 「皆さん、聞いて欲しいことがあるわ」


 クリスの言葉に兵舎に集まる市民たちは顔を向ける。


 「ラーハストの結界は先ほど、厄災による攻撃で破られました」


 市民から同様の声が漏れるが、クリスはすかさず落ち着くように声をかけた。


 「落ち着いて、大丈夫。今はまだ大丈夫よ。だけど、またラーハストに攻撃が来れば、ここもろとも

消滅しかねない。だから、王都に避難して欲しいの」


 「だから、何度も言わせないでくれ。それは無理だと言ってるだろ!」


 市民の一人が怒鳴り声を上げる。すると、次々と野次がクリスに向けて飛んでいく。

 ただ、静かに見つめる人もいた。


 「あなたたちの気持ちはよく理解できるわ。ここを離れたくない想い、ラーハストの郷愁もよく理解できる。でもね」


 クリスは一息ついて話し始めた。


 「でもね、ラーハストもろとも私たちが消えてしまえば、誰がラーハストを復興するの? 誰かラーハストのことを思い出すの? 誰がラーハストに眠る人を思い出すの? 復興には時間も労力もお金だって必要。それは、並大抵の力じゃ足りない。だけど、私たちが生き残って、その想いを糧にすれば、復興への道は必ず開かれる。それだけ、人の想いは強いの。だから、だから、お願い。今は自分たちの命を優先して欲しい。お願いよ」


 クリスの演説に市民は静まりかえる。

 その市民たちをクリスは不安そうに見つめていた。


 静寂はどれくらいだっただろうか。


 クリスは、自分の想いが伝わって欲しいという想いと同時に、狡い手を使うことになってしまう自分に対するやるせなさを感じていた。


 その罪悪感に蝕まれそうなった時、市民たちは慌てて避難の準備を初めていく。


 「おい、早く準備を始めるぞ!」

 「老人は背負っていけ!」

 「妊婦は荷車で運ぶぞ。用意するんだ!」


 市民が動き出すと、兵士たちも動き出す。

 その光景にクリスは安堵のため息をついた。


 「クリス様! やりましたね!」

 「…ええ」


 笑顔でリーズが微笑む。


 「クリス、お疲れだな」

 「ライゼン?」


 前線で兵士全体の指揮を取っていたライゼンがやってきたことにクリスは驚いた。


 「指揮とってたんじゃないの?」

 「いやなに、指揮権はライゼン様に預けてきた。俺は今から避難民の護衛の指揮を取る。人命優先だからな」


 ライゼンの後ろから兵士たちがゾロゾロとやってきて、市民の避難準備や荷車、フラフィが引っ張っている馬車など、必要なものを市民に渡していく。


 「さっきの演説は見事だった。あまり細かいことは気にするなよ。それぞれの事情は避難中にゆっくり聞くしかない。そこら辺は俺の方で都合を立てよう」

 「…ありがとうね」


 クリスが感謝の言葉を述べると、ライゼンはああと頷いた。


 「…俺たちはラーハストを出て、王都へと向かう。前線の兵士は傷ついている。クリス、治療を頼めるか?」


 「分かったわ。リーズも行くわよ」

 「え、私もですか?」


 リーズは素っ頓狂な声をあげて、自分の顔を指差す。


 「ええ、人手が足りないわ。リーズも必要よ。さあ、きなさい」

 「あわわ」


 リーズの手を引っ張り、風の魔法を用いてウィリスはひとっ飛びで兵舎の壁を超えていく。


 リースから叫び声が上がるが、お構いなしでクリスは前線へと向かった。


 「よし、さっさとラーハストを出るぞ!」

 「おう!」


 兵士たちに声をかけて、ライゼンも準備に混ざった。そして、準備はものの数分で終わる。


 老人は兵士たちが背負うか、人と荷物を寄せる大型の荷車に乗ってもらい、それをフラフィで引っ張ってもらう。

 フラフィワゴンと呼ばれるものだ。

 フラフィの足は早い。


 逃げるための脚力は尋常ではないのだ。

 今はとにかく早くラーハストから出ることが大切なため、全速力で街を駆け抜けていく。


 道を駆け抜ける時、襲撃でサニーに助けられた少女が荷車から街を見回していた。

 王都は北側にあり、戦場は南側だ。少女の目線は戦場へと向けられていた。


 「おねぇちゃん、大丈夫かな?」

 「ええ、大丈夫よ。強いって言ってたからね」


 少女の母が頭を撫でる。

 少女はうんと頷き、ラーハストの北門を通り抜けてもなお、見えない戦場をじっと見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ