第17話
サニー達は満身創痍である。
一体だけでも大怪我を負わされた暗黒騎士が数十体はいるのだから当然だろう。
しかし、怪我の具合は以前よりもマシであった。
「手加減されてるね」
アスラがポツリと呟くとヘルメスもサニーも同意する。
何が狙いか分からないので、サニーは素直に聞くことにした。
「ねぇ、なんで手加減してるの?」
「死んでほしくないから」
「だったら、あなたに近づいてもいいよね?」
サニーはメルビンの方に歩き出す。いつでも剣を抜け出せるようにしているため、無警戒に突っ込んでいるわけではない。
1歩2歩と近づき、メルビンと距離が近くなると、ダグラスが拳を突き出した。
魔力を纏った拳が超高速で迫る。
それはサニーが両手を横に広げても足りないぐらいの大きさの魔力の拳だった。
受け止めることは無理だと感じたサニーはとっさに横に避ける。
通り過ぎていく魔力の拳はそのまま暗黒騎士の包囲網に穴を開けた。
暗黒騎士は魔力の拳に当たったと同時に消滅する。
あまりの威力に、ヘルメスとアスラは呆然としていた。
「死んでほしくないけど、僕もここで死にたくないんだよね。あまり僕の機嫌を悪くするような行動はやめて欲しいな。でも、仕方ないか」
暗黒騎士の攻撃が再び始まる。
しかし、手に持つ武器は剣ではなく棍棒のような形の硬い金属の塊であった。相手を痛ぶるための武器だ。
「死ぬ寸前まではやっちゃっていいもんね?」
それからのサニー達の末路は蹂躙の一言である。
金属の棍棒は、サニー達の骨を砕く。
サニーとヘルメスは応戦していたが、なんども鉄の金属で殴られれば、たちまち意識が朦朧とする。たまらず、地に伏せてしまった。
ゴミを捨てるかのように暗黒騎士はその二人を放り投げる。
この中で一番体が強いのは、年長者のアスラで、最後まで残ってしまった。
その状況にアスラは徐々に涙を溜めるが、懸命に堪える。
「ダメだよ。死んじゃだめだから」
二人を守るようなアスラはハンマーで暗黒騎士が近づいてこないように、振り回す。
気の狂った犯人が、ナイフを振り回すように。
それをメルビンは死んだ目で見つめる。
「あー、見たことある見たことある」
「見たとあるって何だい!」
アスラの怒鳴り声が聞こえるが、メルビンは素直に答えてあげる。
「いやさ、君たちみたいな連中を同じ状況にして殺したことがあってさ、僕って一回見ちゃったものは飽きちゃうんだよねー。はぁ」
「メルビン、こいつらやっぱ殺していいんじゃないか?」
「ダメダメ。お? きたきた」
メルビンが何か感じたのか、喜んでいた。
まるで退屈な時が過ぎ去った時のようにである。
サニー達を囲う暗黒騎士の群れが、風の音がする方向へと歩みを進めた。
「な、なに?」
「援軍だよ。良かったね」
森の奥深くから姿を現したのは白髪の騎士、グラセムだ。
その後ろを騎士団とリリィがぴったりと張り付いている。
グラセムは風の魔法で超高速で接近し、サニー達を囲う暗黒騎士を一撃で倒していった。
「無事か?」
「あ、ありがとう」
三人を守るように、メルビンとダグラスの前に悠然と立つ。
「サニーさーん!」
リリィによる浄化の光の後に、ウィリスが大声で叫びながら、後ろから近付いていた暗黒騎士を足蹴りで吹っ飛ばした。
「ウィリス、二人を頼みます」
「はい!」
リリィはグラセムの横に立ち、眼前にいる敵を睨む。
「後ろのお客さん方のお相手を」
メルビンは残った暗黒騎士に会話を邪魔されないように命令をする。
「応戦してください!」
リリィの命令により、ゼルや他の騎士は暗黒騎士と応戦する形となった。
「流石は不動の騎士団だね」
その動きにメルビンは素直に感心する。
「君たちのお相手はこの子達だよ」
地中から水色の液体が漏れ出す。
それは広がり続けるが、ある一瞬の時に一点に収束した。
そして、爆発するかのように液体が弾けると、巨大なスライムが誕生する。
そのスライムを守るかのように、小さなスライム達が地中から這い出てきた。
その小さなスライムは、丸い球体だが、突然形を変えた。
人型の姿を取り、足と腕は鋭い刃。頭には赤い核がある。
通称、スライムナイトと呼ぶべき魔物である。
「あれは」
「この圧と気配。厄災だ」
敵はダグラスとメルビン。そして厄災。
この三体を相手どれるほど、リリィ達に余裕はなかった。
「どうする、リリィ。俺は戦ってもいいぞ」
「ま、待ってください!」
頭にこめかみを浮かべるグラセムをリリィではなくウィリスが制した。
ウィリスが焦った声で報告する。
「サニーさんとヘルメスさんの治療が先です! この場だと治せません!」
久しぶりに会う友人の姿に動揺しているのか、ウィリスは狼狽えている。
リリィはサニー達を内心、大いに気にかけているが、眼前のメルビンとダグラスから全く目を離さない。
「ええ、ですが」
「逃げていいよ」
「はい?」
リリィーがメルビンを不思議そうに見つめる。
「まあ、明日の昼頃には厄災をラーハストに仕向けるけどね」
「その言葉を信じろというのですか?」
「うん、そうだね。ここで戦って君たちを殺すことに興味ないからさ。ダグラスも手を出すことはないよ。つまんないし」
大きな伸びをして、メルビンは面倒くさそうな仕草をする。
メルビンは信じて欲しいのか、騎士団が相手していた暗黒騎士の動きを止めた。
ぴたりと直立不動の魔物に異様な緊張感が漂う。
リリィはその言葉を信じられないが、薄い意識を保っていたサニーが口を開いた。
「リ、リリィ様」
「サ、サニーさん!」
「信じて、いいと思うよ。メルビンは、私を殺せたのに生きてるから」
「……」
サニーの言葉を聞いたリリィは悩みながらも、答えを出した。
「グラセム、サニーとヘルメスを抱えてください。私は後ろでシールドを張るので、全力疾走でお願いします」
「了解した」
リリィーの命令に了承したグラセムが騎士団に声をかける。
「一同! ラーハストに戻るぞ!」
号令を聞いた騎士団は即座に集まる。
そして、ラーハストに向けて走り出した。
その後ろ姿をメルビンは舌を舐めながら、ただ、見つめ、頬に手を当てて恍惚な顔をした。
ラーハストに帰還したサニーとヘルメスは、兵舎へと真っ先に運ばれる。
ライゼンの傷は癒えたのか、すでに意識は戻っていた。
兵舎の入り口でクリスに支えられて、どうにか立っている状態だが、思ったより元気そうだ。
それに対して、サニーとヘルメスは重症だ。
クリスも目を点にしていて、悔しそうな顔をする。
その顔を見たのかライゼンはクリスに言った。
「サニーとヘルメスの治療を頼む。俺は何があったか、聞かねばならない。リリィ様、グラセム様、話を聞かせてください」
只事ではないことが起こっていることは、ライゼンは長年の経験から感じていた。
そのため、リリィとグラセムはこれから先のことをライゼンと話すため、応接室に行った。
「ウィリス、クリス、二人を頼みました」
サニーとヘルメスを治療するのはウィリスとクリスになる。
その隣にはアスラもおり、心配そうな顔で座っていた。彼女たち二人の聖女の力があるのだ。
明日らの心配は杞憂に終わることは、約束されたも同然である。
そして、治療が始まった。
さて、第一部隊の兵士も帰還していた。
彼らは今、宿舎に集まっているが、空気は重苦しい。
それもそのはず。彼らは戦闘に参加することすらできなかったのだから。
そして、サニーたちが帰還したと聞き、満身創痍であることを知った。その事実に兵士たちは、自分の無力感に苛まれているのである。
兵士たちは、悪魔を追いかけるサニー達と合流する予定だったが、魔物と遭遇し時間を食ってしまった。
あたふたとしていると、騎士団が通り際に魔物を殲滅してしまい、意気消沈してしまったのだ。
追いかけけるべきだと誰が思った。しかし、同時に、あの騎士団に混じり戦闘をするには力不足過ぎるとも思った。
すると、自然と歩みが止まってしまったのである。
「くそ、おれら、弱過ぎるんじゃねえか?」
「ええ、そうですね。どうするべきか考えないといけません」
ガイアが悪態をつき、アリエルが冷静に同意する。
ラズルは考えるように腕を組み、じっと何かを考えていた。
「俺らって弱いと思うか?」
ラズルが兵士たちに聞いた。
「何言ってんだテメェ。戦いに参加することすらできなかったんだぞ!」
すかさずガイアが怒鳴り声を上げ、ラズルの襟元を乱暴に掴む。
ラズルはじっとガイアの目を見て、周りの兵士たちに改めて聞いた。
「俺らって弱いと思うか?」
ラズルに何か考えがあると理解したのか、ガイアはての力を緩めた。
兵士達は、ラズルの言葉に頷く。
「そうだ。俺らは弱い。だが、たったの2週間でここまで強くなれた。なら、もっと頑張れば、サニー隊長らに追いつけるんじゃないか?」
「あの三人は、強いですよ。私たちよりも長く、魔物の脅威の中にいたと思われる。ものの数ヶ月で追いつけるような背中ではないです」
アリエルの答えは的確だ。その事実は、兵士たちの気力を奪うものであった。その証拠に、俯く兵士達。
「ですが、私たちでも、邪魔者を消すぐらいのことはできるかもしれません。まずは、そこを目指しましょうよ」
「なるほどな。まずは、戦いの参加権を勝ち取ることから始めるべきか。やるべきことが決まったな」
あまりにも大きな目標は、達成するまでに時間がかかる。
過程を無視できるほど、兵士達は強くないのである。
だから、この目標は、兵士達にとって手が届くものであった。あとは手段を考えるだけだ。
「騎士団に教えを請おう」
ラズルがそう提案した。
「で、でも、俺達のことなんか相手にしてくれんのか? 迷惑だろ…」
ある兵士が俯きながら言うが、ガイアが叱咤する。
「テメェらよ、人は頼るべき相手に迷惑かけねぇと強くなれねぇんだよ。それに、魔物に家族殺されてる奴だっていっぱいいる。また、家族を失いテェのか。このままじゃ、終われねえだろ!」
ガイアの声に元気付けられたのか、兵士達は歓喜の声を上げる。
「なら、行きましょうか! 騎士団の元へ。訓練ぐらいには付き合ってくれるでしょう!」
そして、兵士たちは宿舎を飛び出して行った。
厄災が明日に来ることを兵士達は知らないが、彼らならば立ち向かう勇気を得られるだろう。
強さは簡単に手に入れられるものではないが、勇気を得るには、心の持ちようでどうとでもなるのである。




