表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
16/26

第16話



 アスラは身動きが取れない自分に脳が混乱し、胸の痛みに悶絶している。


 黒いモヤが出切った後は、思わず腰を屈め、どうにか両手で体を支えた。


 いち早く反応したのはサニーとヘルメス。その次にクリスだ。


 サニーとヘルメスは武器を持ち、悪魔に斬撃を浴びせる。

 だが、それは避けられてしまう。


 「あ、悪魔だ! 剣を抜けー!」


 兵士の誰かが、大声で叫んだ。


 「危ないわ。すごく攻撃的ね」


 ウィリスの魔法の準備が整い、錫杖から光が溢れ出した。


 「浄化」


 眩い光に悪魔の体からモヤが消え去っていく。


 「忌々しい光ね。ここで戦うつもりはないわ。町の外に来なさい」


 アスラやライゼンを守るように立っていた3人の前から、悪魔は消え去る。


 「アスラ、大丈夫?」

 「い、いけるよ」


 アスラは少し呻き声を上げるが、どうにか立ち上がることができた。


 「ライゼン! ライゼン、意識をしっかり持ちなさい!」


 クリスがライゼンに呼びかける。

 ライゼンはかすかに呼びかけに応じた。


 「すぐに直してあげるわ」

 「クリス、私たちは悪魔を追いかけるよ」

 「ええ、そっちは頼んだわ!」


 飛び出したサニー達を慌てて第一部隊の兵士も追いかける。

 3人は風の魔法を行使しながら、建物を高速で飛び跳ねていく。


 「いる!」


 遠くに悪魔が城壁へと向かっているのを認識したサニーは、見逃さないように追いかける。


 「絶対、逃さない」


 決意を秘めた表情で、剣を握る力を強めた。

 サニー達が悪魔を追いかける一方で、クリスは荒い息を吐いていた。


 「ク、クリス」

 「なに? 静かにしてて」


 回復魔法を全力で行使しながら、ライゼンの脇腹を癒やしていく。


 「悪魔は」

 「サニー達が追いかけてる。だから、安心して」


 ライゼンはクリスの手を強く掴んだ。

 力強く握られたことに驚いたクリスは、思わず手を止めてしまう。


 「ち、ちがう。はぁ、はぁ。追いかけるのは、まずい。あの悪魔は、違う」

 「違うって何が。今は静かにしてないと死ぬわよ!」

 「裏に、はあ、何かいるはずだ。あの悪魔は襲撃に関わって、いない」


 ライゼンはアスラの中に悪魔がいたのなら、襲撃は別の何者かが引き起こしたものだ。

 そして、悪魔は自分勝手。大人しく中にいたことが異常なのである。

 そう、懸命にクリスに伝えようとする。


 「裏に…まさか、悪魔を従える奴がいるって言いたいの? それなら、サニー達が危険よ!」


 「そ、そうだ。俺のポケットに用意してた手紙が入ってる。それを…王女リリィ・ラヴィエルの下へ、届けてくれ」

 「でも、あなたは」

 「いい、行け!」


 血反吐を吐きながら急かされるが、クリスは決めきれない。

 今、ここでライゼンを見捨てれば、確実に死ぬ。


 「クリス様! 何があったんですか!」


 しかし、騒ぎを聞きつけたリーズがやって来てくれたことで事なきを得た。


 「リーズ! これを伝令兵に!」

 リーズは脇腹が抉られたライゼンを見て動揺するが

すぐに手紙を受け取る。

 クリスに託されたことはやり遂げなければならない。


 「分かりました!」


 そして、走り去っていく。


 「絶対治すから」

 「すま、ない」


 ライゼンは気を失ったが、クリスは構わず治療を続けた。


 「サニー、頼んだわよ」


 危険な場所へといく友人に、独り言を呟いた。

 城壁を超えた先、悪魔は平野を駆け抜けていた。

 後方からは、3人の人間が追いかけている。


 「どこまで行く気なんだろ?」

 「さぁな。攻撃もしねぇのは妙だ。2年前に戦った悪魔と違いすぎる」


 森の中へと悪魔が入っていった。

 ここは視界が悪い。

 木々が林立しているため、太陽光も入りにくいからだ。

 だから、サニー達は速度を上げてもっと近づいた。

 悪魔を身失わないように。


 しばらく追いかけていると、悪魔が急に方向転換する。

 突然であったが、それに遅れるサニーではない。

 すぐに方向を変えで追いかけるが、悪魔の姿がない。


 「…消え」


 サニーは言葉を最後まで発することができなかった。

 一瞬の隙をついた悪魔の攻撃が直撃したからである。

 太い腕がサニーの真横から振りかぶられた。

 木の枝を渡りながら進んでいたサニーは、地面を転がり回る。


 「サニー!」

 「だいじょうぶ!」


 頭や腕から血が流れているが、大怪我はしていないようだ。

 悪魔は逃げることを止めて、アスラとヘルメスの前に立ち塞がる。


 「これぐらいでいいわね」

 「何が目的なんだい!」


 ヘルメスとアスラが魔力を用い、攻撃するがあっさりと防がれてしまう。


 「私は案内したにすぎないわ。美味な食事のためならなんだってするのが悪魔よ。あなたたちは最高の食材ね。特にそこの子は。気に入るのも理解できるわ」


 「誰に向かって喋っている」


 悪魔の一人語りは不気味だ。

 狙いが全く分からない3人は息を落ち着かせながらも、感覚を研ぎ澄ます。

 速さも力も知恵もあるのは、先程のサニーが攻撃されたことから明らかであるからだ。

 油断などできようもない。


 「お出ましよ」


 悪魔がそう言うと、森の奥深くから本能を削り取るような気配が近づいてくる。


 「なに…?」


 あまりの圧に三人は唾を飲み込む。

 厄災とは違う。悪魔でもない。

 何か異質なものが来る。

 人の悪意と悪魔の純粋な心が混ざりに混ざった何かが来る。


 「やぁ」


 現れたのは二人の人間だった。一人は細身の男。もう一人は大柄で筋肉質な男である。

 しかし、その二人は異質な姿だった。


 細身の男はどす黒い目と耳。体は青黒く、片方の目は赤い瞳孔でもう片方は真っ黒である。背中には黒い翼が生えており、角が頭の上に二つ伸びている。

 体の血管には赤黒い血が流れているのか、ひび割れたような線が体の至る所にある。それらの痛々しい姿を隠すかのように、薄い服を着ていた。

 大柄な男はより異質だ。

 まず、目につくのは背中の翼。白い羽と黒い羽が混ざり合っている。全身は金色と黒色のフルプレートアーマ。頭には黄金の角と黒い角が伸びている。

 左目は赤い瞳孔。右目は眩い黄色の瞳孔と瞳が見える。


 大柄の男が細身の男に血管を浮き彫りにしながら話しかけた。


 「メルビン、まだか?」

 「まだだよ。ダグラス。後1ヶ月はかかる」


 「そうか。こいつらは我が遊んでもいいか? 」

 「やめておいた方がいいよ。今遊んでも楽しくはないし、君が戦えばすぐに殺しちゃう」

 

 大柄の男はダグラス。細身の男はメルビンというらしい。

 メルビンとダグラスの会話についていけない三人だが、臨戦態勢は維持したままだ。


 そんなサニー達にメルビンはすまないと気楽に謝りながら、勝手に話し始める。


 「ごめんね。さて、初めまして。僕はメルビン。こっちはダグラスって言うんだ。君たちの名前は知っているよ。見ていたからね」

 「見ていた?」

 「そう、アスラの中にいた悪魔を通してね」


 ニコニコと笑いながら、メルビンは言う。


 「この悪魔は僕の眷属、というよりかは、僕の中にいる悪魔の眷属なんだ」

 「悪魔との…同化」

 「そう」


 メルビンがそう言うと、背中から悪魔が這い出てきた。


 「ぐへへへへへへ! 楽しみだな、メルビン!」

 「ああ、人生で最高の食事になるよ。さあ、援軍が来るまで遊んであげようか」


 メルビンが指パッチンをすると、サニー達を囲うように魔物が現れる。


 「逃げるぞ!」


 ヘルメスが慌てて言うが、メルビンはそれを許さない。


 「ダメだね。今は逃す気はないよ」


 メルビンが大量に魔力を放出すると、魔力が人型に変わり、黒く変色した。すると、暗黒騎士が生まれる。

 数十体もの暗黒騎士が、闘技場の観衆のように逃げ場を無くす。


 「これは、やばいね」


 アスラが青スジを浮かべる。

 倒すのに苦労した暗黒騎士が数十体もいるだけでも、卒倒しそうになる。

 しかそ、真打はメルビンとダグラスなのだ。


 この二人に勝つイメージが全く湧かない。

 このままでは、死ぬのは明白だった。

 しかし、暗黒騎士を見たサニーは恐れず、メルビンに聞いた。


 「あなたが襲撃を引き起こしたの?」

 「うん、そうだよ」

 「あの襲撃でたくさんの人が死んだよ。なのに、全く心が痛まないの?」


 サニーの質問に、メルビンは心底嬉しそうに答えるが、目が全く笑っていない。


 「全くだね。僕は人を殺すとね、幸せな気持ちになるんだ。でもさ、何度も人を殺すと飽きちゃうんだよねー」


 メルビンは目をどんよりとして、サニーを見つめる。

 サニーは徐々に語尾が強くなっていく。


 「なら、襲撃なんてしなくて良かったはずでしょ。なんでしたの?」

 「これは計画の内なんだよ。僕の幸せのためのね」

 「アスラの村を襲ったのも巻き込んだのも計画のうちなの?」

 「そうそう。ちょうど良かったんだよね。魔物を強化するのにも、ラーハストの状況を知るのにも。結果的に君を誘い出すこともできたし。一度だけ間近で見てみたかったんだー」


 メルビンはヘラヘラと笑う。

 アスラは自身が利用されたことを知ったのか、ハンマーを持つ手に力が入った。


 サニー達を危険な目に合わせたのは自分が原因であることに怒り心頭なのだろう。


 「質問攻めは好きじゃないんだ。緊張するからね。折角だから、君たちがどこまで強いのか見てあげよう」


 メルビンの号令に合わせて、魔物と暗黒騎士の攻撃が始まる。

 囲まれた三人を分断するような動きだ。


 「くそったれが」


 ヘルメスが悪態をつきながらも、全身全霊で攻撃を捌いていく。

 アスラはハンマーで近づいてくる弱い魔物を吹き飛していった。

 サニーは魔力剣を用い、暗黒騎士もろとも両断しようとするが、簡単に受け止められてしまう。

 ジリジリと三人は追い詰められていった。

 もはや、助けがなければこの場から逃れることすらできない。

 そんな三人を、メルビンは美味な食事の前に舌舐めずをした。

 

 場面は変わる。


 クリスから手紙を受け取ったリーズは伝令兵の元まで走っていた。

 兵舎にも伝令兵はいるが、今は厄災の調査により各地に散っているため、一人もいなかった。


 「城門の前まで行かないと」


 城門になら、常に滞在している伝令兵がいる。

 王都方面の城門には、王家御用達の伝令兵がいるのだ。


 人混みの中を走り抜けていき、城門についたリーズは荒い息遣いをしながらも簡潔に話す。


 「王都に伝令を送ります!この手紙を!」

 「承った。だが、その必要はない」


 城門にいる兵士に手紙を差し出したリーズの手を誰かの手が掴む。


 「どうしました?」


 金髪の眩しい髪と聖女服を着た女性だった。

 リーズはその人が誰かすぐに理解できた。

 クリスから教えてもらい、絵姿も見たことがある。

 うわずんだ声で叫んだ。


 「リ、リリィ様ー!」

 「私が受け取りますね」


 リリィの後ろにはグラセムを擁する不動の騎士団。

 サニーの故郷を救った騎士団がいた。

 何人か顔ぶれは変わっているが、ウィリスやゼルもいた。


 リリィは垂れ目でじっとりと流し読みをしていく。


 「悪魔の存在は確定ですか。ライゼン兵士長はどこにいますか?」

 「ライゼン様は、その。クリス様が治療中です!」

 「治療中です…か?」


 「わ、脇腹が抉られて、その、何があったのか知らなくて」

 「いえ、大丈夫ですよ。とりあえずライゼン兵士長のところに行きましょう。どこにいますか?」


 リリィはあわあわと話すのを落ち着かせるように言う。


 「へ、兵舎にいます!」

 「では、そちらに行きましょうか」


 リリィはリーズを子供を持ち上げるかのように抱えた。


 「あわわ、り、リリィ様」

 「案内がいるでしょう?」


 リリィ達は街路をまっすぐに駆け抜けていく。

 大きな地響きもあるため、市民は道を自ずと開けていく。

 兵舎に到着すると、第一部隊の宿舎にて倒れているライゼンを治療するクリスの姿があった。


 「クリス、ライゼン兵士長は無事ですか?」

 「話しかけないで!」


 クリスは油汗を大量に吹きながら、回復魔法を行使していた。今は誰に邪魔されたくないほどに集中しているのである。


 「く、クリス様! 王女様です。リリィ様です!」


 リーズが叫ぶが聞こえない。リリィは特に怒ることもなく、治療を手伝うことにしたようだ。

 クリスの横に座った。


 「ウィリス、全力でやりますよ」

 「はい」


 手伝いに来た二人の聖女が誰か、クリスもようやく気づいたようだ。しかし、すぐに治療に専念する。


 「タイミングを合わせましょう。せーのでいきますよ」

 「せーの」


 語尾が終わると共に、回復魔法を三人同時に発動し、それぞれの魔力が乱れないように息を合わせる。

 すると、みるみると抉られた脇腹が治っていく。

 三人の聖女、それも熟練の回復魔法の使い手が集まれば、欠けた肉体でさえもすぐに治すことができるだ。


 「はあ、はあ、ありがとう。リリィ様」

 「いえ、よく持ち堪えてくれました。ライゼン兵士長の身に何があったのですか?」


 落ち着いたクリスがことの経緯を話す。


 「悪魔はサニー達が追いかけているわ。だけど、ライゼンが襲撃を引き起こしたのは別の何かだって。悪魔を従える奴がいるみたいね」


 状況を知ったウィリスが二人の無事を心配している。


 「サ、サニーさんとヘルメスさんが危険です!」


 「…そうですね。どこにいったか分かりますか?」

 「分からないわ。私はここにずっといてたから。悪魔の気配は消えちゃったし」


 リリィがどうしようかと悩んでいると、南方面、悪魔が逃げ出した方向から、邪悪な気配が漂う。


 「リリィ!」

 「ええ!」


 ゾッとするような気配にリーズやクリスも背筋が凍る。

 聖女でない者でも、気づいてしまうほどだった。

 

 「サニー、ヘルメス。死んではダメですよ」

 

 気配のする方向にいるであろう二人をリリィーは心の中で身を案じ、走り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ