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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第13話

休暇を終えた第一部隊は、宿舎にある食堂に集まっていた。


 「今日から調査に入るよ」

 「たいちょー、何の調査なんだー?」


 兵士たちは何も聞かされていなかった。

 気になるのも当然であろう。


 「2週間前に襲撃があったでしょ? それ関係で、悪魔の調査をして欲しいってライゼンから言われた」

 「悪魔」

 「おいおい、悪魔と出会っちまっても戦えんのか?瞬殺されそうなんだが…」


 兵士たちはザワザワと騒ぎ出す。

 まだまだ、若い兵士が多いこの第一部隊は、強さに自信がない兵士が多い。

 だが、そんなことはないとサニーは一蹴する。


 「大丈夫だよ! みんな強くなったし、充分戦えると思うよ!」

 「ふむ、サニー隊長がそう言うのであれば」


 2週間のトレーニングでサニーの人となりを知った兵士たちはサニーの言葉を信用している。

 強くなった自覚はないが、それは実戦で身につけた力を試していないだけに過ぎないのである。


 「それで、調査ってどこにいくんだ? まさか近場ってことはないだろう」

 「近辺の村や小さな町はすでに調査済み。でも、手がかりは見つからなかった。だから、危険だけどもっと遠方の方にまで調査して欲しいってさ。遠征っていうらしいよ」


 ここで、アリエルが強化訓練を行った理由に

気づいた。


 「あー、だから強化訓練とかしたんですね。遠方でで魔物と戦っても絶対死なないように」

 「みたいだね」


 サニーもそれを肯定したため、兵士たちは歓喜に湧き上がった。


 「ライゼン兵士長が俺たちに期待してるってことか」

 「やる気みなぎってきたー!」


 そんな兵士たちとは反対に、アスラは浮かない顔をしている。


 「それって、どっち方面なんだい?」

 「北側だね。クリスが嫌な気配がするのはそっちだって言ってたから。私も街の外でちょっと運動した時にも感じたから間違い無いと思う」


 聖女は魔物や悪魔とは対極の存在。そのため、通常の人間より悪い気配に敏感になるようだ。


 「…そうなんだ」

 「アスラ? 大丈夫?」


 アスラの様子にサニーが心配するように顔を覗き込ませる。

 ヘルメスも顔には出さないが、内心は気にかけていたため、チラチラとアスラを見ていた。

 兵士たちはアスラの様子にコソコソと話し出す。


 「なぁ、アスラの姉さんどうしたんだ?」

 「わかんねぇ。だが、おかしいのは分かるぞ」


 兵士たちにも分かるぐらいにはアスラの様子は奇妙だった。

 だが、アスラは何でも無いよ、大丈夫と言ってその場を後にした。


 「…アスラ」


 サニーが手を伸ばして止めようとしたがやめた。

 しんみりとした空気が漂うが、ヘルメスは手を叩く。


 「はいはい、遠征の準備はもうしてもらっている。クリスに話を聞きに行こう」


 アスラの件をあらかじめ聞いていたヘルメスは、これ以上は詮索しないように、兵士たちには命令をする。

 兵士たちは誰が荷物持ちになるか揉めるが、荷物といっても少ない。

 基本的には携帯食糧を3日分をそれぞれが持つことになる。それは、塩漬けされた肉で硬い。後は、乾燥したパンである。


 大きな荷物といっても、なにかあった時に着替える衣服やタオル。水は川の水か魔法で解決する。

 水に関しては水筒を使う。水筒に魔力を込めれば、水の魔法陣が発動し、自動で水が溜まる。

 荷物をまとめているクリス達にこれらの説明をサニー達は受けていた。


 「この水筒は私が特別に作ったものよ。中には水の魔法陣を刻んでる。魔力を込めれば水が貯まるわ」

 「すごい。飲み放題だね!」


 魔力を込めたサニーは、水筒が水の中に溜まっていくのが見えた。


 「飲んでみたら?」


 ニヤニヤとした顔でクリスはサニーに勧める。

 サニーは進められるがまま飲むと、舌を出して渋い顔をする。


 「まずい! うえ」

 「魔法ってまずいわよね」


 サニーは吐き出しそうになるのを我慢するように両手で口元を抑えた。

 くっそ不味いため、遠征をする兵士からは不人気だが、いつでも飲める利便性があるため採用されているのだ。

 ヘルメスもちょっと飲んでみたが、舌に水が当たると咳き込む。

 それぐらい、舌先に苦味が伝わるのである。


 「クリスは知ってたんでしょ!」

 「知らなかったわー」


 知らんぷりをしていたクリスにサニーはわーわーと文句を言う。だが、額に手を乗せて、サニーを抑えた。


 「遠征中の食糧だけど、できれば現地調達をした方がいいわね。腹持ちはいいけど、味はそんなに良く無いわ」

 「うえ、こっちも不味いのか?」


 ヘルメスが嫌そうな顔をしたが、現実は変わらない。


 「ええ、そうよ」

 「絶対、獣、狩る」


 兵士たちも高速で頷いた。

 食事がまずいのはいかんせん、人間は耐えられない生き物なのである。


 「美味しいご飯を食べたかったら、早く帰ってくることよ。あなたたちなら、3日程度で終わるでしょうし、悪魔に近づけば、サニーが気付くでしょう」


 そして、クリスは言いつけるように言葉を放つ。


 「悪魔がいても戦わないようにすること。サニー達は眷属の暗黒騎士を倒しちゃったけど、本来は聖女の浄化の力が必要なの。だから、手がかりを見つけたら帰ってくるようにして。それに、誰かが死にそうになったらすぐに帰ってくるように。決して、無理をしちゃだめよ!」


 クリスは第一部隊が無理をしないか心配していた。

 隊長であるサニーが無理をすれば、兵士たちも倣って死ぬ寸前まで戦うかもしれない。


 鍛えたのはサニー達3人であるから、クリスの心配も自然である。

 当然、クリス自身は兵士が死ぬことは珍しくないことは知っている。


 だが、言わずには言われないのである。

 人一倍、優しい心を持っているのだから。


 「クリス、だいじょうぶだよ」

 「ええ」


 満面の笑みで答えるサニーに、クリスは笑顔で返した。

 アスラは壁際でそれを見つめるだけで、あまり輪に入ろうとしない。


 ヘルメスやクリスはそれに気付いているが、特に何か行動を起こそうとはしなかった。

 ヘルメスは先程のアスラを知っているため、余計にどうすればいいか悩んでいた。

 だが、サニーはそんなことお構いなしである。


 「アスラー! 行くよー!」


 そう言い放ち、アスラに猛突進する。


 「わぷ」


 サニーなりの気遣いなのかもしれない。

 輪に入りにくくなったアスラを元気に引き入れようとしているのだろうか。


 「…行くから、あまり、抱きついちゃダメだよ」

 「いーやだー。アスラはどっか行っちゃうから捕まえとかないと」


 アスラが表情を緩くするのを見たヘルメスはサニーを心の中で褒める。

 改めて、サニー達は北門でクリスと別れる。

 ライゼンも一緒だった。


 「いってらっしゃい」

 「うん、行ってくる!」


 そして、第一部隊は北方面に広がる平原を走り抜けていった。


 「行ったな」

 「ええ、サニー達なら大丈夫よ。そんなに心配しなくてもいいんじゃないかしら」


 若い兵士が多い第一部隊をライゼンは心配していた。いくら、将来のための戦力増強とはいえ、若い兵士達だけに任せたのは失敗だったのでは無いかと考えているからだ。

 だが、ベテランの兵士は件の襲撃と暗黒騎士との戦いで数が減ってしまった。


 遠征中にラーハストを攻められては、残る兵士に指揮を取れるものが存在しなくなる。


 「仕方ない、か」

 「…ライゼン、一様、言っておきたいことがあるわ」

 「なんだ?」


 クリスはアスラに対して感じた奇妙な気配を伝えた。


 「そうか。覚えておこう」

 「ええ、そうして」


 そして、二人は北門から離れて、いつもの仕事に戻っていった。


 金の刺繍と赤色の絨毯が地平線まで伸びているように感じる。

 廊下を歩くのは、紳士服を着た若い背年だ。

 いや、若く見えるのは顔つきが精悍であるからだろう。


 一児の父であるこの青年は、王家を支えてきた家系の子孫であり、そして、現在の宰相である。

 手元には丁寧に封がされた手紙があった。


 宰相の側には緑色の髪と聖女服を着ている少女。手には金の錫杖を持ち、目は凛とした目付き。

 ウィリスだ。


 「ラーハストは大丈夫なんでしょうか」

 「この手紙で分かるだろう」


 王都にもラーハストの襲撃は伝わっていた。

 ラーハストにある連絡水晶の破壊により、王都との連絡網の麻痺が起こっていた。

 水晶は貴重な代物で、滅多に手に入らない。鉱山の中に存在するが、傷をつけずに掘り出すのも難しいのは、割れやすいからだ。修理することは不可能だったため、ライゼンは手紙で伝令を送ることにしたのである。

 ライゼンの早い判断により、王都はすで援助体制を整えることができている。

 その中で来た、手紙の内容を知りたくなるのは当然なのかも知れない。

 

 宰相は扉を開けて、続け様にウィリスも入る。

 王宮では礼儀作法など厳しくはあるが、リリィは自分の部屋では無礼講でいいと言っているので、この場では許される。


 「リリィ様、ライゼン殿から手紙ですよ」

 「宰相、ありがとう。受け取りますね」


 封を破り、手紙の内容をじっと読み込む。

 ラーハストの今後の動向と現状について記されていた。

 「ラーハストは復興中。無事に襲撃の傷を乗り越えることができそうですね」

 「よかったですね! リリィ様!」

 「はい」


 ウィリスはその報告に喜ぶか、リリィは顔を険しくする。

 「リリィ様?」

 「ウィリス、襲撃はどのように起こるのか分かりますか?」

 「えっと、強力な魔物が魔物を従えて、人の街を襲うのですよね?」

 「はい、ただ、今回は暗黒騎士が出たと聞いています」

 「でも、悪魔はいなかったらしいですよ? 本来なら、悪魔も一緒に居るはずなのに」


 リリィが指をトントンと考え込んでいる。

 そして、口を開いた。


 「悪魔はいなかった。調査も行ったようですが、手掛かりは掴めなかったため、いないと考えられる。ですが、ライゼンは聖女クリスが持った違和感を信じて、遠征を行うようです」

 「と言うことは、つまり」

 「はい、そうゆうことです」


 悪魔はいるかもしれない。

 その情報がリリィは欲しかったのである。

 手紙の内容により、騎士団を動かす理由ができたのだ。

 本来なら、確実な情報でなければ騎士団は動かさない。

 なら、なぜ、騎士団を動かそうしたのだろうか。


 「あー、そうゆうことですか。グラセムに伝えてきますねー。きっと、喜びますよ」

 「宰相、よろしくお願いしますね」

 「はいはいー」


 ウィリスは二人のやり取りに疑問符を浮かべる。

 宰相が出ていった後、リリィは手紙を指で挟んで、ウィリスにいたずらな笑みで言う。


 「ウィリス、もう一つ、私にもあなたにとっても大切な情報がありますよ?」

 「え、なんですか?」

 「旧友に会いたくはありませんか?」

 「きゅう…ゆう」


 リリィの真意に気付いたのか、ウィリスは目を見開いて、笑顔を綻ばせる。


 「サニーさんとヘルメスさんですか!」

 「ええ、暗黒騎士を倒したみたいですね。もう一人仲間がいるようですが」

 「え」


 二人に仲間がいることを言った途端、ウィリスは固まった。


 「私をおいて、他の人と先に…ですか」

 「ウィリス、落ち込みすぎですよ。旧友に会いに行くんです。そんな顔をしてはいけません。立派な聖女になったんですから」


 2年の月日を経て、ウィリスは聖女になった。


 「そのお仲間さんは聖女ではありませんから、あなたの役は残ってますよ」

 「そうなんですか! よかったです!」


 どうやらウィリスは自分の役所を取られた勘違いしていたようだ。

 聖女ではないことを知った途端、元気になる。


 「では、ウィリス、私たちも準備しましょうか。ラーハストに行きましょう!」


 あの小さなサニーがどれほど強くなり、逞しくなったのか、2年の月日を経て見る彼女の姿はどんな姿なのだろうか。

 そんな思いをもって、リリィはウィリスと共に部屋を出た。

 ちなみに、宰相がサニーとヘルメスのことをグラセムに伝えると、グラセムは「そうか」と頷くだけだったらしい。

 しかし、宰相が言うには、「笑みが溢れていたので、内心は嬉しくてたまらないのでしょう」とのことだ。

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