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太陽の騎士団  作者: 丸居
第一章 人間の国の厄災
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第12話

ただの休暇ですよー


 ライゼンから命令書を受け取り、休暇を言い渡された。

 そのことが宿舎にいる兵士達の耳に入ると、歓喜の声が響き渡る。

 

 「よっしゃぁー! 久々の休暇だぜ! ひゃっほいー!」

 「最近、訓練ばかりで貨幣を使っていなかったから、明日は散財するぞ!」


 あまりのはしゃぎようであるが、それも仕方ない。

 文字通り死を感じる訓練を2週間も耐えたのだから、開放感があるのだろう。

 ただ、それはサニー達も一緒であった。


 「いったん、肩の力を抜けるな。指導側になるのは緊張した」

 「うん、そうだね」


 サニーはモグモグと朝食をとる。

 

 口に含んだものを飲み込み、アスラに話しかけた。


 「アスラって明日暇ー?」

 「暇だね」

 「ヘルメス兄は、槍使い同士で集まって遊ぶから、私とどっか出かけようよ! アスラなら色々と知ってそうだし!」

 「いいけど、あまり期待しちゃだめだよ」


 アスラはニコリと笑ってサニーの誘いに乗った。

 「……」


 ヘルメスはやったなとアスラに気付かれないようにサニーに言う。

 ヘルメスがなぜそう言ったのかというと、宿舎に来る前に遡る必要がある。

 ヘルメスに休暇であることを伝えたサニーは、悩みを打ち明けた。


 「アスラと距離を感じる?」

 「うん」


 ヘルメスはサニーの顔を見ると、本気で悩んでいることが分かったようだ。

 サニーが悩みを持った時は大抵、眉が下がり表情がちょっと暗くなる。

 不安げなようで、でも相手を心配させないように明るく振る舞っている顔は、兄として、家族として何回も見たことがある。


 「一緒に寝泊まりしてるけど、アスラって自分のことをあまり話さないの。私が村のことを話している時とかも、笑ってくれてるんだけど、ちょっと悲しそうな顔をして。いつも私から話しかけてるし、アスラから全然話してくれないし。なんだろ、何かを避けてる感じがして」


 地面に指でグルグルと線をかきながら、サニーは近況を話した。

 サニーからアスラに話しかけることが多いが、アスラからサニーに話しかけることは少ない。


 そして、ところどころでサニーをみてはちょっと眉を下げるのである。

 どうゆう理由か分からないが、距離を取られているとサニーは思っていのである。


 「そうか…まぁ、クールな性格してるし、自分から話しかけるタイプじゃないんじゃないか? 長い間、一人旅をしてたから、人と仲良くなるのが苦手なのかもな。ああ見えて、中身はシャイなだけかもしれんし」


 ヘルメスはそこまで問題視することでもないだろうと考えている。

 普段のアスラを見てても、特に違和感は無かった。

 そう言うものだろうという認識なのだ。

 だから、割と気楽な感じでサニーに言う。


 「そうかなぁ? うーん」


 しかし、何かが引っ掛かるサニーは首をうーんと曲げる。

 ああでもない、こうでもないと言いたげな顔だ。

 実際の当事者であるサニーにしか分からない違和感があるのだろう。

 それに、サニーは人の気配に敏感だ。

 無意識にアスラの雰囲気に違和感を感じているのかもしれない。


 「明日、休暇なんだろ? じゃ、聞けそうなタイミングで聞けばいいんじゃないか?」

 「うーん、そうしようかな。どうやって聞こう?」

 「そうだなぁ、旅をしてたくらいだし、一緒に観光でもすればいいんじゃないか? 服を見たり、食事をしたり、散歩したり、どっかで飲んだりとか。それで、聞けそうな雰囲気の時に聞く!」

 「それでいこう! ありがとうヘルメス兄」


 と、こんな会話が繰り広げられ今に至る。

 無事にアスラを誘うことができて、第一目標は完遂だ。

 今日の訓練を終え、クリスに土下座して、夕食を食べ、第一部隊は休暇を迎えた。


 「アスラー、起きて〜!」


 ゆさゆさとサニーはアスラの体をゆする。

 「今、何時なんだい?」

 「早いとだけ言っておこう!」


 今は午前6時ごろだ。

 普段の起床時間は8時頃であるため、いつもより2時間は早い。

 しかし、サニーはなんだかんだアスラとの観光を楽しみにしてたため、早く起きてしまったようだ。


 「今日は観光する日だよ! いこうよ! ほら〜」

 「まだ店も空いてないよ。二度寝しよう、二度寝」

 「むー、分かった」


 サニーはベットに潜り、もそもそとする。

 寝やすい位置を探しているのだろう。

 そして、静かになった。

 時はたち、午前8時となった。


 またもや、サニーは飛び跳ねてアスラの体をゆする。アスラも今度は起きて、サニーと共に朝食をとった。

 まだ寝ぼけているのか、アスラはうつらうつらとしている。


 それに対して、サニーは元気が有り余っており、とてもいい笑顔でニコニコとしている。

 朝食を終えた2人は、部屋で外着に着替える。


 「サニー、それ、外着なのかい?」

 「え、これしかないよ?」


 サニーがきているのは、無地の服とズボンで質素なものだ。

 それに対し、アスラは旅をしていた時と同じ服装で、異国情緒を感じさせる。

 つまり、サニーの服はあまりにも地味だ。


 「まずは、服を見に行こうか。街を歩くにはそれなりの格好をしないとね」


 サニー達は服屋に来た。

 と言っても、貴族がくるような高級店ではなく、一般的なただの庶民店である。

 服屋の店番を頼まれているのか、娘が一人いる。


 「お客様ー、本日はどのような服をー?」


 かなりお気楽な雰囲気で接客をしている。


 「外着を少し見繕いたくて、あの子のなんだけど」

 アスラは並べられた服をじっくりと見ているサニーを指差す。

 娘はやる気になったのか、腕まくりをしてサニーを試着室へと連れて行った。


 「これはどうです?」

 「はー、きれいだね」


 色とりどりの服を見て、サニーは褒める言葉を溢す。ワンピースやズボン、フリルのついたスカート、カウボーイチックなものを試着する。 


 田舎から来たサニーにとってはどの服も手触りがよく、鮮やかに色付けされているため、綺麗としかいえない。

 そんなことを何度も繰り返している間、アスラは自分に合いそうな服を探して時間を潰していた。


 「1着でいいんですよねー? どれにします?」

 「うーん、じゃ、これで」


 サニーが選んだのは、女性の庶民服でよく見かける形式のものだった。

 白い肌着の上にオレンジ色のワンピースを着ている。それは、膝のあたりまであった。腰の部分で長いスカートを紐で締め、首には白と黒が混ざるスカーフを巻いている。

 サニーの活発さとカッコ良さを体現したような服装だ。


 「アスラー、決まったよー!」

 「似合ってるね」

 「えへへー」


 サニーは気に入ったため、その服を購入した。

 アスラは服を選ぶのは慣れているのか、自分で選び購入した。

 折角なのでこのまま来て行くようだ。

 アスラの服もサニーと一緒で庶民的な服だ。


 「アスラも似合ってるね!」

 「ありがとう」


 お互いに褒めあった後は、取り敢えず食事の場所を探す。食事ができるところと言えば、酒場ぐらいしかないので、サニー達はそこに行った。

 ラーハストには、酒場は数えるほどしかない。酒のイメージが強いが、子供もいる為に昼間から飲む輩はいない。

 その代わり、夜は昼間の静かさと打って変わり大騒音になるが。


 「お金を払ってご飯を買うんだよね?」

 「ああ、そうだよ。サニーの村に貨幣はあったのかい?」

 「あったよ。でも、村は自給自足だったから、お金でご飯を買うのは初めて。お母さんから計算は習ったけど、うまくできるかな?」

 「旅を始めた頃は苦労したけど、そんなに難しくないよ。それより」


 サニーのお腹の虫が鳴った。

 お腹をさすり、腹ペコな顔を見せる。


 「入ろうか」


 酒場に入った二人は適当に席についた。

 中はかなり広く、人が集まるにはちょうどいい広さ。


 昼間は空いているが、夜になれば仕事を終えた大人が集まるのだろう。

 楽器のようなものもあるため、音楽をつまみにでもして飲み食いをするのだろうか。


 「けっこう空いてるね。もっと人がいると思ってた」

 「外食は珍しいからね。毎日食べるのは独り身か。それか、訳あって昼食を作れない時。もしくは私みたいな旅人や兵士かな」


 要するに、外食はしたくてできるものでもないらしい。

 サニーのように外部から来て兵士になった者は宿舎で食事を取るしかない。だが、酒場などで食事を取ることもできる。

 もともと市民だった者は、育った家で家族とともに食事を摂ったりするが、それは休暇中だけのことだ。わざわざ自分の家族の元に戻ることはない。


 「何食べるー?」

 「うーん、私はこれにしようかなあ」


 アスラが選んだのはステーキ定食である。

 とろみのついたスープと、厚切りの肉を鉄板で焼き、その上に卵を乗せる。肉のそばには濃厚なタレと、野菜が添えれている。


 「じゃ、私もそれにしようかな」


 店員に注文して、しばらく待つと、料理が運ばれてきた。

 サニーは目をキラキラとさせながら、初めて見る料理に大興奮である。

 ナイフでちょんちょんと肉をつつく。

 熱い鉄板の熱気を顔に浴びると、芳醇な肉の香りが鼻を通る。

 ナイフで切り込みを入れると、沸騰した肉汁が溢れだす。

 見る物全てが新鮮なサニーは、とても興奮していた。

 それを傍目で見てたアスラは、サニーの子供っぽい所を、くすくすと笑っている。


 「サニー、早く口に入れちゃいなよ」

 「あ、そうだね。あーん」


 フォークで肉を刺し、口に運ぶ。

 口の中で弾ける肉の味に、サニーは悶絶していた。


 「ははは、そんなに美味しそうに食べる人、初めて見るよ」

 「アスラも食べてみなよ! 絶対こうなるよ?」

 「えー、そうかな」


 アスラも肉を口に運び噛むと、頬に手を当てて、美味しそうに目をトロンとさせた。 


 「ほんとにおいしいねこれ」

 「でしょ!」


 2人は食事を楽しんだ。

 それからは、散歩をする。

 腹が満たされば、運動したくなるものだ。

 サニー達が来ていたのは、復興地域である南地区である。


 「あれ、瓦礫が結構無くなってるね」

 「兵士が朝昼晩に撤去作業をしているんだよ」


 襲撃から2週間は経った今では、随分と瓦礫が無くなっていた。

 兵士たちの頑張りもあるが、市民も積極的に手伝っているのも大きい。

 家も建設を始めており、街路の整備に取り掛かる職人達がいる。


 「あの時のおねえちゃんだー!」

 「ん?」


 サニー達の元にやってきたのは、襲撃の際に助けた少女である。後ろには母が焦った顔で見守っていた。


 「あの時はありがとうー!」

 「どういたしましてー!」


 サニーは少女を抱きしめて、怪我はなかったか聞くと、満面の笑みで少女は答える。


 「そう言えば、ごめんね。投げ飛ばしちゃって。怪我はなかった?」

 「なかったよ!」

 「それならよかったよかった」

 「あの魔狼はやっつけたの?」


サニーは腕に力を入れて、答える。

 「やっつけたよ」

 「すごーい!」


 サニーの腕の中で少女は騒ぐが、母が嗜めて、親子はその場を後にした。


 「サニーは子供と関わるのが上手だね」

 「ん? そうかな?」


 アスラはうんと頷いて、親子の後ろ姿を見守る。


 「今日はありがとうね。誘ってくれて」

 「うん、また一緒に遊ぼう!」


 そこで、サニーは自分が何でアスラを誘ったのか思い出した。


 「あー!」

 「な、なんだい?」

 「そう言えば、アスラに聞きたいことがあったんだった!」


 サニーはアスラとのお出かけが楽しくて、本来の目的を忘れていたのだ。

 サニーは聞き辛そうにアスラに目線を向ける。


 「えっとね、アスラってさ、私のことあからさまに避けてる時があるでしょ? 私が故郷の話をする時とかさ。悲しそうな顔してるし」

 「それは」


 アスラはサニーの目線から逃れた。


 「ごめんね、これは私の問題だから。あまりみんなには言いたくないんだ。でも、サニーが嫌いなわけじゃないよ。それだけは、勘違いしてほしくないかな」


 「…分かった。でも、言いたくなったら言ってね? アスラの話なら何でも聞くから!」

 「ありがとう」


 嫌われてはいないことを知ったサニーは、安堵の表情だ。

 そして、理由をアスラが秘密にしたいため、それ以上は聞かずに帰ることになった。

 宿舎に帰ったサニーは、食堂でヘルメスと対面する。


 「それで、どうだったんだ?」

 「嫌われてはないってことがわかった! でも、理由は教えてくれなかったよ…」


 「人には隠し事の一つや二つあるからな。アスラが言いたくなるまで待つしかない…か。一様、俺も気にかけておくよ」


 ヘルメスの決まりにサニーは頷いた。


 「ヘルメス兄は今日何してたの?」

 「槍使いの連中と一緒に、ビリヤードって言うゲームで遊んでたんだ。楽しかったぞ」

 「ピリヤード?」


 兄妹は今日の話を語り合っていた。

 食堂を後にしたアスラは、治癒園にやってきていた。サニーを置いて、一足早くに浴場で体を拭きにきたのだ。


 「何でも聞くよ、か」


 今日のサニーの言葉をつぶやく。

 同時にため息をついた。

 自分の秘密を打ち明ける想像をしているのか、体は動かない。

 外からわかることは、みるみる顔が沈んでいくことだけだ。


 「だめだね。甘えたら、だめ」


 そう、目をぐらぐらとさせて、また、手を動かす。

 だが、どんどんと顔が悪くなっていく。

 そんなアスラに声をかける者がいた。


 「あなた、アスラ、だったかしら。どうしたの?」

 「…あ、クリス、さん」


 聖女クリスである。今日は仕事が早く終わったのか、浴場にきたアスラと鉢合わせることになった。

 アスラの顔色を見たクリスは、すぐさま聖女の顔つきになる。


 「顔色悪いわよ。熱でもあるのかしら?」


 手を額に当てて、クリスは風邪があるか確かめる。

 すると、クリスは驚いたように目を見開いた。

 そして、同時にアスラが叫ぶ。


 「触らないで」


 手を弾き、クリスを糾弾した。


 「ごめんなさい、急だったわね」

 「いや、いいよ。気にしないで」


 アスラはそういって、いそいそと浴場から去ってしまった。

 見られたくない、何かを隠すように。


 「はぁ、あの子に謝らなきゃね。つい、体が動いてしまうのが玉に瑕ね」


 自分の良さが時に人を傷つけてしまうことに、クリスは傷心する。

 そして、クリスは自分の手の感触を確かめるようにじっとりと見た。


 「なんだったのかしら。なにか嫌な気配がしたような」

 クリスの胸がざわめきだす。


 「気にかけておいた方がいいわね。あの子のこと」


 神妙な顔をして、クリスは一人そう決意した。

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