ゲームの歴史
現実世界の高杉は、隙間時間を見つけては「Seal of Time」の情報収集に没頭していた。膨大なプレイヤー数を背景に、ネット上にはその歴史を巡る様々な議論や憶測が渦巻いていた。その中で、最も信頼できそうな大手まとめサイトの見解は、以下のとおりである。
──Seal暦 元年
発売当初、「Seal of Time」の世界は、自由度と利便性を重視した仕様となっていた。24時間ルールは体験版のみに適用され、通常版には30日間の猶予期間が設けられていた。さらに、通常版には、プレイヤーが多忙でログインできない間も自動で進行する「オートプレイ機能」まで備わっていた。
そのため、この時点では、プレイヤーがゲーム内に「残存」するような現象は一切発生せず、誰もが自由に出入りできる状態だった。
──Seal暦 2年
発売から1年半が経過した頃、突如としてバグが発生。24時間ルールを破ったプレイヤーの中から、ゲーム内に「残存」するケースが報告され始める。当初はその数が極めて少数であったため、各国は残存者を隔離し、牢獄に収容することで問題を封じ込めようとした。
──Seal暦 4年
ある人気インフルエンサーが、「ポリゴンショック」による健康被害を訴えたことを契機に、ゲームを離脱するプレイヤーが急増。この波紋は瞬く間に広がり、その影響で数万単位のプレイヤーが「残存」する事態が発生した。
残存者が急増する中、各国の対応は限界を迎え、やむを得ず彼らを「島流し」として処遇する方針が採られた。孤島や荒廃した土地へと送られた残存者たちは、厳しい環境と食糧不足に直面し、多くが命を落とした。
それでもなお、一部の残存者は荒れ地の先住民からの支援を受けることで生き延びた。彼らは次第に新たな環境に順応し、小規模ながらも共同体を形成し始めた。
──Seal暦 7年
残存者たちの中から、一人の指導者が現れた。彼は「王国側によるシステム管理を終わらせれば、この世界のあらゆるバグが取り除かれ、正常な状態に戻る。そうなれば、自分たちは現実世界へ帰還できる」と唱え、その考えは残存者の間で急速に支持を集めていった。
──Seal暦 8年
指導者を中心とした残存者たちは、荒れ地の先住民や周辺の少数部族と協力体制を築き、経済力と軍事力を着実に拡大。それに伴い、隣接する王国との間で次第に軋轢が生じ始める。
一部の王国の指導者は市民に向けて、「魔族(残存者)こそが世界の混乱を招いた元凶であり、彼らを一掃すればすべての問題が解決する」と喧伝した。さらに、以前から各王国の都市では、「新規」残存者による窃盗などの被害が相次いでいたこともあり、市民の間で彼らに対する視線は一層厳しくなっていった。
──Seal暦 9年
マイン、ベイル、ノースの北部三王国は協議の末、魔族の軍勢の討伐を決定。三国は連合軍を編成し、宣戦を布告した。しかし、魔族の軍勢は「魔王」と呼ばれる指導者のもとで団結を強め、数で劣りながらも連合軍を退けることに成功。
──Seal暦 11年
魔族の軍勢が、王国側への反転攻勢を開始。わずか数日で複数の集落を制圧し、その圧倒的な軍事力を誇示した。 そして数カ月後、マイン王国は戦火を避けるため無血開城を決断し、魔族の手に落ちた。
──Seal暦 13年
北部の要塞国家として知られたベイル王国とノース王国は、徹底抗戦を続けていたものの、魔族の猛攻を受けついに陥落。両国の王族は捕らえられ、処刑された。残された民衆の多くは、命からがら近隣の諸国へと逃れた。
──Seal暦 14年(現在)
魔族の軍勢はかつてないほど膨張し、この世界最大の経済大国であり最強の軍事国家でもあるフレン王国の制圧に向け、着々と体制を整えている模様だ。
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また、まとめサイトには「Seal of Time」について、以下のような情報が記載されていた。
【24時間ルール】
ゲームを開始(再開)してから24時間以内に、ゲームの世界に帰還すること。24時間以内に帰還できない場合は、ログインIDがシステムから削除される。なお、上記のルールを破り現実世界で記憶障害を発症するケースが年々増加。
またゲームを開始(再開)してから6時間は、例え短時間で現実世界に戻ったとしてもゲームを再開することはできないというルールも存在。
【催眠術】
ゲームの没入感を高めるため、プレイ前後に何らかの催眠術が施される。この効果により、初回ゲーム開始時を除いて現実世界の記憶をゲーム内に持ち込むことはできない。また、「24時間ルール」による記憶障害も、この催眠術が解けないことが原因とされている。
【オートプレイ機能】
プレイヤーがログインできない間、アバターはノンプレイヤーキャラクターとして、食事や睡眠といった日常生活を自動的にこなす。しかし、この間の記憶は完全に欠落しており、魔法の習得や特技の成長といった進展は一切期待できない。
【支払い方法】
銀貨や通貨による支払いが一般的。
一方、ゲーム内の宿屋でクレジットカードや銀行口座の情報を登録(登録に同意)したプレイヤーは、市場など多くの場所で後払い(ツケ払い)を利用できる。ただし、支払日に口座残高が不足していた場合には、代金の倍額罰金や身分証明の差し押さえなど、厳しい措置が科される。
【プレイヤー】
初回ゲーム開始時の出発地点はランダム。
現実世界での容姿や能力は、そのままの形で反映される。ただし、所持品等は一切持ち込むことができず、衣服に関しては体格や性別に応じてシステムが自動的に適切なものを選択する仕様となっている。
ほぼ全てのプレイヤーは、木下のようなアウトプッター(記憶を現実世界に持ち出せる者)で、上野のようなノンアウトプッター(記憶を現実世界に持ち出せない者)は極めて稀な存在。
【プレイヤーの残存】
プレイヤーが24時間ルールを破った際、システムのバグによりゲーム内に取り残された存在。現実世界との接続が絶たれるため、クレジットカード等が使用できず、衣食住の確保に苦しむケースが多い。
外見や能力はプレイヤーとほぼ同じだが、残存者には、両目の下から頬の中間部まで延びるタトゥーのような黒い線が現れるため、プレイヤーと見分けることが可能。
【ノンプレイヤーキャラクター】
元々この世界に存在していた住人で、尖った耳が特徴。世界人口の9割以上を占め、国王から平民に至るまで幅広い階層が存在する。
【禁断の果実】
ゲームの世界には、筋力を増強する効果を持つ禁断の果実が存在する。この果実を思春期前の男子が長期間摂取し続けると、成長期の終わりには身体が異常に巨大化し、筋肉が過剰に発達。それに伴い、攻撃性も著しく増大する。その結果、人間だった頃の面影を失い、粗野な戦士へと変貌する。
さらに、この作用は動物にも及ぶ。この果実を主食とする動物や、それを捕食する動物は、現実世界の同種と比べて体格が1.2倍から1.5倍に成長し、強靭な肉体と卓越した俊敏性を兼ね備える。
【魔法】
プレイヤーだけが使える特別な力。手や杖から灼熱の炎や、激しい突風を生み出す。さらに修練を重ねた者は、天空から雷を召喚することも可能。