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The Virtual Detention  作者: 無一文
Chapter 3: The Architect's Trail
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簡易書留

挿絵(By みてみん)


「ちょっと、問題があってな……」


 高杉は、トーマスからこれまでの経緯を聞かされた。


 密告によって捕らえられたこと。フレン王国が魔族の軍勢に襲撃されたこと。地下通路を使い、どうにかフレンから脱出できたこと。


 そして今は、ハープ王国を目指し、岩陰に身を潜めて夜明けを待っているということ──。


「木下と上野って、クラスメイトがいるだろ?」


 トーマスが話を続ける。これから木下と上野をゲームの世界に戻し、高杉も夜明け前には再ログインする予定らしい。どうやら、そういう段取りのようだ。


「2人に連絡しておいてくれ」


 そう言い残し、トーマスの電話は切れた。


 高杉はスマホを耳から離し、画面を見つめる。LINEの通知がずらりと並んでいた。


 メッセージが8件。不在着信が3件。ほとんどが木下からのものだった。


「今すぐ家これたりする?」


 LINEのトーク画面にそう打ち込んでから、高杉はふと手を止めた。木下と上野は、まだ授業中のはずだ。


 だが、トーマスの話を聞く限り、放課後まで待っている余裕はない。とにかく、送信ボタンをタップした。


 ──「大丈夫? なんかあった?」


 すぐに木下から返信が届いた。少し間を置いて、上野からも似たようなメッセージが届く。


「あったらしい。それで──」


 高杉は、トーマスから聞いた内容をざっくりとまとめて送信した。そして改めて、今から来られるかどうかを尋ねる。


 ──「行けるようにする」


 木下からは、すぐに返事が返ってきた。どうやって早退するつもりなのかは書かれていなかったが、おそらく仮病でも使うのだろう。


 上野の方は既読にはなったものの、返信はなかった。


 *・*・*


 木下がやって来たのは、午後2時半を少し過ぎた頃だった。


「大丈夫?」


 開口一番、木下は高杉の目をじっと見つめて声をかけた。睡眠不足で赤く充血しているのが、一目でわかったのだろう。


「えっ? ああ……大丈夫、大丈夫」


 高杉は苦笑いを浮かべて、こめかみを軽く押さえた。


「それより、上野さんは?」


 気を取り直すように、高杉が尋ねる。


「わかんない。行くとは言ってたけど……」


 木下はバッグを置きながら答えた。その様子は、どこか上野のことを信用しきれていないようにも見えた。


「そっかぁ」


 高杉がそう返事をすると、木下はスマホを取り出して画面に目を落とした。高杉もスマホを取り出そうとポケットを探ったが、見当たらない。


 仕方なく窓の外に目を向けてみたものの、慣れないせいかどうにも落ち着かない。いつもなら木下は上野と話しているため、こんなふうに沈黙が続くことはほとんどないのだ。


「そういえば、暑くない? 平気?」


 気づけば、そんな言葉を口にしていた。シャワーを浴びたりしてエアコンをつけるのが遅れたのは確かだが、それほど暑いわけでもない。ただ、この沈黙が高杉にそう言わせたのかもしれない。


「大丈夫」


 スマホから視線を上げた木下は、高杉に向けて小さく首を振り、微笑んだ。もっと素っ気ない返事が返ってくると思っていた高杉は、その意外な反応に少し驚いた。


「アイスでも食べる?」


 ついには、そんな言葉まで口をついて出た。普段の高杉なら、まずそんなことは言わない。だが、疲れているせいか、この妙な沈黙のせいか──とにかく、そう尋ねていた。


「うん」


 木下はまた、ふわりと微笑んで頷いた。


 高杉はすぐに冷蔵庫へ向かい、冷凍室を開ける。中には、ガリガリ君とモナ王が仲良く並んでいた。


「ガリガリ君とモナ王、どっちがいい?」


 実はあずきバーもあったのだが、「中三の女子にあずきバーは渋すぎるか」と、高杉は勝手に選択肢から外していた。


 ──ピンポーン。


 ちょうどそのとき、インターホンが鳴った。玄関の近くにいた木下が、足早にそちらへ向かう。


「……簡易書留です。ハンコかサイン、お願いします」


 玄関のほうから、そんなやり取りが聞こえてくる。やがて木下は、肩を落としながら封筒を手に戻ってきた。


「ねえ、うちら、何時までに入んなきゃダメなんだっけ?」


 封筒を高杉に手渡しながら、木下が尋ねた。


「どうだろ……。とりあえず、4時前に戻ってきてくれれば、ログイン自体はいつでも構わないけど」


 上野が姿を現したのは──高杉がそう答えてから、30分ほど経った頃だった。


「ごめん。頭痛いって言ったら、熱とか測らされちゃってさ……」


 焦燥感を漂わせる木下とは対照的に、上野は玄関でスニーカーを脱ぎながら、どこか気の抜けたような苦笑いを浮かべていた。


 そのとき、時刻はすでに午後3時10分を少し回っていた。


 *・*・*


 高杉が目を覚ますと、空はすでに白み始めており、ひんやりとした朝の空気が肌をかすめた。時刻は午前四時十五分を少し過ぎたころだろう。


 周囲は、不気味なほど静まり返っていた。その異様な静けさに、ふと不安を覚えた高杉が身を起こそうとした──その瞬間だった。


「頭を上げるな!」


 鋭い声が耳を貫いた。声の主はトーマスだった。高杉は訳も分からぬままその指示に従い、身を伏せる。周囲では怯えた避難者たちが身を寄せ合っていた。


「何かあったんですか?」


 そう尋ねると、トーマスは親指で背後を指し示した。


 彼の話によれば──丘の上に数人の敵兵が現れ、こちらに気づくと狼を放ち、さらに弓矢による攻撃を仕掛けてきたという。


 言われて初めて、高杉は地面に倒れたまま動かない狼たちと、突き刺さった数本の矢に気がついた。そのすぐ先には護衛隊長たちの姿も見えた。


「いいか、まっすぐじゃなくて、ジグザグに走るんだ──」


 不安げな大学生くらいの男性に、フランクが身振り手振りを交えて何かを伝えている声が、かすかに聞こえてきた。護衛隊長も、男性たちと何やら話し込んでいる。


 しばらくして、護衛隊長が声を落として皆に告げた。


「これから攻撃を仕掛ける。合図があるまで、ここを動くな」


 そう言い残すと、フランクや護衛隊長たち数人は、身を低く保ったまま岩陰の端へと移動していった。


 作戦の詳細は明かされなかったが、断片的に聞こえてきた話から察するに──フランクたちが岩陰から飛び出して敵の注意を引き、その隙に大学生風の男性が敵に接近し、何らかの手段で打撃を与えるつもりなのだろう。

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