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The Virtual Detention  作者: 無一文
Chapter 2: The Kingdom of Flaen
12/19

地下牢の囚人

 牢の中で何もすることがない高杉は、ただひたすら現実と向き合っていた。


 まず大前提として、この場所から現実世界へ戻ることはできない。


 このゲームには安全対策として、二十四時間以上の連続プレイを防ぐ自動ログアウト機能が備わっているらしいが、今も正常に作動しているかどうかは分からない。


 唯一の救いは、まだ多少の時間的猶予が残されていることだった。現実の高杉は父親と二人暮らしだが、この日は父親が出張で不在なのだ。


「あっ……」


 そのことを踏まえて残り時間を計算していたとき、不意に大事なことを思い出した。木下や上野の存在である。


 彼女たちも同じゲームソフトを使っており、高杉がログインし続けている限り、彼女たちはこの世界に戻ってくることができない。


 そう考えると、時間はそれほど残されてはいない。二人がゲームを始める前までには──何としてでも現実世界へ戻らなければならない。


「しかし、いったいどうやって?」


 そんなことを、暗く狭い牢の中で延々と考え続けるうちに、高杉の心もまた、底の見えない闇へと沈んでいった。それはまるで、漆黒の奈落に堕ちていくような感覚だった。


 悶々とした時間のなかで、いつしか高杉は、これまでの限りなく空虚な人生を一人振り返っていた。


 思えば、幼稚園の頃から友達は少なく、小学校の遠足では、バスの座席決めで「余り物」になることも珍しくなかった。


 勉強も運動も平均以下。音楽も美術も、文章を書くことも苦手。そのうえ忍耐力もなく、中学で入った運動部も、わずか半年で辞めてしまった。


 思い返せば思い返すほど、自分はやはり“落ちこぼれ”なのだと痛感する。どう考えても、自分は人より劣っている。誇れるものなど、何ひとつない。


「……なんだかな」


 高杉は虚しさを見つめるように、心の中でそう呟き、思わず苦笑した。


 牢の中は、相変わらず静寂に包まれている。


 *・*・*


 ここに収監されて、どれくらい時間が経ったのだろう。もう日が暮れた頃だろうか。


 今朝はあれほど晴れていたというのに、いまはどこからか雷鳴のような音が響いてくる。


 高杉は、ユイから贈られた木彫りのペンダントを、ぼんやりと見つめていた。薄暗くて細部までは見えないが、滑らかに磨かれたその表面からは、丹念に彫られたことがうかがえた。


 もし、この世界が正常に戻ったら──彼女はどうなるのだろう。


 ふと、そんな疑問が高杉の脳裏をよぎった。しばらく思索に沈んだ後、高杉は苦笑しながら首を振る。


「……考えてもしかたないか」


 高杉は心の中で呟いた。もうこの牢から出られることは一生ないだろう。下手をすれば、明日にでも処刑されるかもわからない。この現実からは逃れられないのだ。


 ふと視線を横に向けると、トーマスもまた、抜け殻のように項垂れていた。


 それから間もなく、城の奥から何やらざわめきが聞こえ始める。ただの喧騒ではない。不穏な空気を含んだ、異様な騒がしさだ。やがて、慌ただしい足音とともに、一人の兵士が牢へ駆け込んできた。


 兵士は牢番に何事かを告げると、そのまま足早に去っていった。告げられた牢番は額に手をやり、明らかに動揺を見せている。


「何かあったのか?」


 囚人の一人が問いかけた。すると牢番は、「黙れ。貴様らには関係のないことだ」と毅然とした口調で突き放す。だが、その言葉とは裏腹に、焦燥を隠しきれていなかった。


 続報を待っているのか、牢番は何度も石廊の方へ視線を送り、いつしか貧乏揺すりを始めていた。


「……相当ヤバいらしいな」


「クーデターか?」


 囚人たちは声を潜めて言葉を交わす。


 先ほどまで抜け殻のようだったトーマスも、何とか状況を把握しようと顔を上げていた。


 *・*・*


 それからほどなくして、先ほどの兵士とは別の兵士が姿を現した。胸当てには王家の紋章が刻まれ、腰には手入れの行き届いた剣を携えている。おそらく、先ほどの兵士よりも階級が上なのだろう。


「ここは俺が引き受ける」


 その兵士は、牢番にそう告げた。牢番は一瞬驚いたようだったが、すぐに命令に従い、その場を去った。


 兵士はそれを見届けると、足早に高杉たちのもとへと歩み寄る。


「何があったんだ?」


 隣の囚人が声をかけたが、兵士は応じることなく、高杉たちのいる監房の前までやって来た。


「あの話、本当なんだろうな?」


 兵士は鋭い視線をトーマスに向けて言った。どうやら彼は、玉座の間でトーマスが繰り広げたあの熱弁を目の当たりにしていたらしい。


「無論だ」


 トーマスは迷いなく答えた。つい先ほどまで抜け殻のようだったとは思えないほど、力強い口調だった。


「よし……」


 兵士はそれだけ確認すると、周囲に素早く視線を走らせながら、無言のまま高杉たちの監房の鍵を開けた。


 突然のことに高杉とトーマスは戸惑ったが、「魔王軍が迫っている。逃げるなら今しかない」という兵士の言葉を信じるほかなかった。


 二人はすぐに監房の外へと一歩踏み出す。


「おい、何だよ。俺たちを見捨てる気か?」


 兵士と高杉たちが牢獄の出口へ向かおうとしたそのとき、背後から囚人たちの声が響いた。冗談めいた口調ではあったが、その声には明らかな怒気が滲んでいた。


 兵士はその声を無視して数歩進んだが、ふと足を止めて高杉たちを振り返る。視線を交わしたトーマスは、ただ黙って頷いた。

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