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第2話

 荒い息遣い、ふたつの体温が密着した肌を汗で濡らす。それ以上にわたしの中は溢れちゃいそうに濡れて行く。気が遠くなりそうな長い時間、脳が痺れてぼーっとなるのに一枚の写真みたいに現実だったのか、一秒ごとが過ぎて戻らない。そんなセックスを、初めてしていた。淫らみたいなわたしが恥ずかしくてあなたの肩に噛みついた。わたしと同じ傷を、傷跡を残したかったのかもしれない。それでもわたしには強く噛む勇気がなくて、「すき」と言ってしまった。

 わたしはどうしてもあなたの血液をわたしの中に欲しかったけど、あなたは放つ事なくそのうち疲れて、隣に仰向けに休んだ。身体が痺れて、浮かぶみたいに、沈むみたいに。


 あなたがわからない。


 わたしがもっと、わからない。


 そんな時、女は本能に従うのかもしれない。わたしはあなたが眠りに落ちる前におねだりした。何度も応えてくれたあと、夜が白んでからあなたはこう言った。


「僕はあんまり信じてないんだ。それでも女に惚れられるってのは、少し自信になる。ありがとう。君が気持ち良い間、疲れて深く眠ったも少し先まで、僕は確かに生きて行ける。朝だよ、少しは眠らなきゃ。ね?」

 それからわたしは眠ってしまった。確かに肉欲はあった。でもそれだけじゃないの。一晩中絵空事の「愛し合う」事をあなたに求めたのは、あなたが消えてしまいそうで怖かったから。あなたの肩を噛みちぎってその血が止まるまで吸えば良かったのかも知れない。だけど、わたしは変に大人だった。その衝動を抑制した。かわりにあなたの白い血液を10ccだけでもわたしの海に溶かしたかったけど、それは叶わなかった。

 今になればそんな風に思うのだけれど、あの朝わたしはきっと後にも先にも味わう事のない肉体的快楽に支配されて思考を奪われていた。


 目覚めた時、あなたは居なくてそれきり。何故だかわたしはあなたが居なくなる事がわかっていた。家に帰るとさすがに死んだように眠って目覚めた午後。トイレで下ろした下着に少しの出血の跡が見えた。結局いつでもわたしは少しだけ血を出して、けれどそれが相手を汚す事なく癒えて忘れる。どこかで焦がれながら、二の足踏んですれ違って疲れてもとの世界へ戻る。


 今どうしてる?


 わたしは前の彼に抱かれて、その度あなたとのあの夜を思い出してる。

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