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第4話

  

「うん。開けてみれば、はっきりするのよね」

 他人様(ひとさま)の引越荷物を勝手に開封するなんて、あまり褒められた話ではないだろう。

 でもその程度ならば、許される悪戯(いたずら)の範疇かもしれない。そもそも行先表示の(ふだ)が私の名前になっているのだから、気づかずにうっかり開けたとしても、責められるのは私でなく引越業者の方だ。


 自分に対してそんな言い訳をしながら、私自身の10箱より先に、他人の謎の箱を開封。

 すると……。

「あれ?」

 中には何も入っていなかった。

 これでは軽いのも当然。そう思った直後、独特の香りが鼻腔をくすぐる。

「これって……。そういう空気を閉じ込めていた、ということかしら?」


 香ばしい匂いの中に、甘さも混じっている。心地よい香りだった。

 どこかで口にしたこともあるような……。

「ああ、これ、おつまみのナッツ類……。アーモンドの香りだわ!」

 でも、わざわざそんな匂いを詰め込んで、それが何故「青」なのだろう?

 改めて内容表示の書き込みに考えを向けた途端、ピンときた。

 頭に浮かんだのは、探偵小説やサスペンスドラマなどでよく出てくる話。そういう物語でよく使われる毒薬の青酸ガスは、アーモンドの匂いだ……という話だった。


「じゃあ『青』は『青酸ガス』の略……? 私が今、吸ったのは……。この箱に詰められていたのは、毒ガスだったの……?」

 背筋がゾッとすると同時に、気分が悪くなる。


 本当に青酸ガスの(たぐ)いが入っていたのか、確かめる(すべ)はなかった。

 しかし少なくとも、私は「青酸ガスだ!」と思い込んでしまったのだ。

 だから、その「思い込み」に体も反応したのだろう。あるいは思い込みでも何でもなく、本当に毒ガスだったのだろうか。

 いずれにせよ。

 私の意識は、だんだんと失われていき……。




(「知らないうちに増えていた引越荷物」完)

   

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