#4.少女は何を伝えようとしたのか?
※一部改変 2024 07 25
机には沢山ノートが立てられていた。この子のことをもっと知りたい。その一心で凛音は罪悪感を押し込みそのノートに手を伸ばした。計十冊に及ぶノートのタイトルには学校の授業のものだけではなく自己分析のようなタイトルのものまであった。まるで誰かに自身のことを知ってもらうために書き”残した”ように。
『能力とその使用方法について』『日記』『スマホの使い方』『周りの人間について』など。
手始めに、『能力と使用方法について』というノートを見てみることにした。ノートを開くと万年筆のようなもので綺麗にその日に習得したことや広げた解釈が記されていた。剣聖時代に使用していた能力は『氷結』や『火炎』のようなものとかけ離れておりあまり応用力が問われるようなものではなかった。そのため凛音は能力の解釈を広げることよりも剣術を優先したのだ。
「とんでもない量じゃな……」
人並はずれた努力の起源は一体どこから湧き出てきたのだろうか。プレッシャーからか、それとも何か成し遂げるべきものがあったのか……。
――――――――
半分ほど読み込むとこの少女に宿っていた能力について理解を深めることが出来たのだが、一つ不可解なことがある。
能力は魂に宿るとされているため少女の肉体に柊の魂が入り混んだ今の状況では、ワシの能力が使用可能で少女の能力は使用不可となるはず。しかし今その状況は真逆になっている。
「しかし、ワシに意識権限が乗り移っとるということはワシの魂の方が強いはずじゃし不可解じゃのぅ」
こればっかりはいくら考えても答えに辿り付かないため、とりあえず今使える能力の解釈を広げることにした。この少女の能力は万物の創造を司る『錬成』というものらしい。制御が難しいが万能というだけあって多種多様な物を創造できる。紙から食材そして能力や概念まで。ノートから読み取った情報からは物体、簡単な能力までは達成できたとのことだった。能力の使用方法や注意点、コツが詳しくまとめられていた。
もう一度読み込み、凛音は実際に試してみることにした。創造するものは小さな一枚の紙きれ。しっかりと形をイメージし、能力を発動する。眩い光と共に物質が段階を踏み、形を形成していく。だが、出来上がったのは不細工な紙きれ二枚だった。
「とても強い能力じゃが、ワシの苦手な分野じゃ! なんだか、ムズムズするのう……!」
数十分練習をしてなんとなくコツを掴むも飽きがきてしまい次のノートに手を伸ばした。それは若者の象徴である電子機器『スマホ』の使い方が記されているものだった。
「七十六歳のじじいにこれが使いこなせるかのぅ? 城に居たときに紫音に教えてもらったのじゃが……結局分からず使わなかったからのぅ」
紫音。この国の最高勢力は師走と呼ばれ、生前は凛音を含む十三人で構成されていた。紫音は外見は元気な幼子のようであった。しかしその実力は師走の名に恥じないものであった。
「紫音……この世界がワシの死んだ六日後の世界線であるならば、王城へ行けば誰かしらに会えるじゃろうが……」
「この姿では、なんと言われることやら……む、これが電話機能というやつかのぅ?」
机の傍らに置かれていたスマホを手に取り説明の書かれたノートと実際に照らし合わせる。『電話』と書かれたアプリをタップすると大量の名前がリスト状に出現する。不意に『奏音』という文字の指が触れる。すると『発信中』という文字が画面いっぱいに表示される。
「あわわ!? どうすればいいのじゃ!?」
すると『発信中』という文字は瞬時に『通話中』という表示に変わった。
「もしもし? 凛音? どうしたの?」
連絡先に登録されていた『奏音』というのは姉であった。
「ご、ごめん。間違えて電話をかけてしもう……ちゃったの!」
焦りながらも、じじい語に気を付け、簡潔に状況を説明する。
「そう? ならいいけど、そろそろご飯できるから下に来てね」
家事は母ではなく姉が担当しているのじゃろうか。簡単に返事をし、赤色の通話終了の文字をタップする。
「ふぅ~! 何はともあれ初通話成功じゃわい!」
数十年戦い続けた『スマホ』との戦いに制した元剣聖は心躍らせ食卓へと向かった。再び敗北することも知らずに……。
まだ精神と肉体が安定しませんがどうなるのでしょうか。
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