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#3.少女は何を託したのか?

 カフェテリアのように爽やかな鈴の音が扉の開閉を知らせるように響き渡る。玄関の先には自然と調和したログハウスが広がっていた。


 玄関の正面には綺麗な食卓が構え、玄関に背を向ける形でキッチンがあり、その奥には一つの通路が通り御手洗や脱衣所に繋がっていた。食卓の右側には一つの小さな部屋がある。

 

 左側には二階へ続く階段があり、家の中は電気は灯っているものの人気が感じられない程の静寂に包まれていた。親や兄弟はいないのだろうか。一階を見回りながらそんなことを考えていると二階から足音が響いた。重く力強い足音で苛立ちを感じとれた。 


 父親だろうか?そう考え凛音リンネは二階へと続く階段の方へ歩もうとするとその人物は階段を揺らしながら一階へと降りてきた。


 降りてきたのは父親ではなく兄?だった。その男の身長は凛音リンネの頭がその男性の顎下に届くか、届かないか。その程度だった。橙色の短髪で戦士のように鍛えあげられていた。その表情は理由は分からないが険しかった。その憤怒の視線は明らかに凛音リンネに向けられていた。


(なんじゃこやつ? 何故怒っておるのじゃ? 家から出る前に喧嘩でもしたのかのぅ?)


 視線を合わせ男の表情から思考を推し量っていると男は床に穴が開くような歩みで凛音

《リンネ》との距離を詰める。


凛音リンネ!!」


 その力強い言葉と同時に腕を振り上げ凛音リンネの顔面目掛けて拳を振り下ろした。


(こやつ、自分の下顎ほどの背丈の妹に手を上げるとは……。これはかなり厄介なやつじゃのぅ)


 顔を傷つける訳にはいかないので左腕でその打撃を受け止める。すると男の表情が一瞬、驚きに変わったがすぐにそれは怒りへと変化する。


「貴様……!!」


「教育? 暴力では何も解決せぬぞ。阿呆」


 みるみる赤く染まり、それど同時に拮抗していた腕にかかる触圧が段々強くなる。


(まずい、じじい語がでてしもうた……。こんなのが兄なんて可哀そうじゃのぅ。まぁ他人事ではなくなったのじゃが)


 鍛え抜かれた兄の力と慣れない肉体から出力される凛音リンネの力では当たり前ではあるが凛音リンネが次第に押されていく。腕を逃がし受け流し後方へ一歩下がり距離を空ける。しかし次の瞬間、時間が飛んだかのように兄の蹴りが凛音リンネの左方に出現する。


(これは……能力……!!)


 突然の出来事に判断が鈍り攻撃の命中は逃れられなかったため、瞬時に左手を挟み衝撃を軽減する。しかしその努力も虚しく凛音リンネの体が右方へ飛び食器棚に衝突していまった。食器棚から平皿が凛音リンネの体目掛け落下し頭、背中、右腕に衝突しその破片は耳に響く音と共に徹甲弾のように凛音リンネの肌を削る。


「ふん……」


 地面に倒れこんだ凛音リンネの左手を踏みつけ兄は脱衣所のほうに向かっていった。兄が角を曲がると同時に二階からドタバタと駆け足の様な足音が下層に響く。


「ねぇ、ちょっと何事!?」


 兄と同じほどの背丈をした女性が皿の割れる大きな音に驚いたのか一階に様子を身に来たのだ。血だらけで倒れこむ凛音リンネと無関心に立ち去る兄を見て母のような風貌をした女性は声を荒げ凛音リンネの元へ駆け寄る。


魁人カイト!! あんたまた凛音リンネに手を上げたの!? 馬鹿じゃないのどうしてあなたは妹を大切にできないのよ!」


 彼女の心からの叫びは兄である魁人カイトの耳に届くことは無く魁人カイトはそのまま脱衣所へ向かっていった。


(母? 姉? どちらにせよこちらはちゃんとしているようじゃのぅ)


凛音リンネ!? 大丈夫? 立てる? 今度は何されたの?」


(今度……? 定期的に兄から暴力を受けていたのか? この話し方的には姉じゃろう)


「あ、ありがとう。ちょっと蹴られただけじゃ……だよ」


「え!? 凛音リンネその眼どうしたの!? それにそんな服持ってたっけ?」


 姉はそういい凛音リンネの右目の瞼に細く繊細な指を当てる。


(まずいのぅ……。眼の言い訳を考えて無かったわい)


「あ、朝起きたらこんな色になってたの。普通に見えるから大丈夫!服は出先で御者にもらったのじ……よ」



 その言葉に姉は胸を撫で下し、収納に入っていた医療箱のようなものから外傷を保護するテープを傷口に貼り付けてくれた。その後何やら『能力』を使用しその傷を癒してくれた。治癒系の能力かのう?


「ごめんね凛音リンネ。あいつも分かってるはずなんだけどさ、どうしても無意識に当たっちゃうんだよ。何も気にしなくていいからね」


(こやつの言いぶり的に兄妹間で何か起きたのじゃろうな)


「あれは誰に対する手紙なの? 辛いことがあったらお姉ちゃんになんでもゆってね」


(手紙……? 心当たりが全くないのぅ)


 優しく抱擁を受け凛音リンネもそれに応じ、抱き返す。


「私片づけておくからさ! 部屋に行ってていいよ!」


 なんて優しく包容力のある女性なのだろうか。まるで母親のように感じるのう。あの魁人カイトとかいう兄とは大違いじゃ。


 ワシは礼を述べ、木目がくっきりと刻まれた階段を上り二階へと上がった。二階に上がると賃貸住宅のように部屋が横に並んでいた。”私は”何かに無意識に一番奥の部屋の前に歩み扉を開けた。まるで元からこの部屋が自室であることを知っていたかのように。


 部屋の広さに反し物は少なく整頓されていた。不思議な感覚だ。今、ワシは凛音という少女本人だ。しかし、彼女が配置を決め、彼女が装飾した部屋それがワシにとっては赤の他人の部屋のよう。まるで変装して家族に紛れているようなどこか落ち着かない感覚だ。そして度々脳裏に過る思考がある。


『ワシがこの少女の命、生活を奪ってしまったのではないか』というものだ。まるで夢のような、悪いことをしているような。


 部屋を見渡すと机の上に一つの紙切れがあることに気付いた。まさかこれが姉が言っていた手紙ではないのかと。覗き込むとそこには震える文字で文が綴られていた。


********************


ごめんなさい。


私はもう居場所のないこんな生活には耐えられない。


努力も報われず私は能力の持ち腐れって


『奴ら』に追いかけまわされて家族や友達を危険にさらして……。


私を救ってください。私の人生を塗り替えてください。


私という人間は存在しなかったって。


********************


 

 紙に点在する円状の染み。震えて細くなった文字。辛さが文面から滲み出ていた。


 この子は一体。まるでワシがこのような状況になることを見透かしていたかのように。


「……大丈夫じゃ」


 胸に手を当て自分とこの子に言い聞かせるように。


 幻聴だろうか。少女の嗚咽が耳を掠めた。




少女に一体何がおきたのでしょうか起きたのでしょうか。


いいね、感想宜しくお願い致します。


順次投稿していきますのでブクマもよろしくお願いします。


誤字、語彙訂正も受け付けております。


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