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執行官の皇子様  作者: Chaden
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14話

学園祭の事件が起きてから数週間、落ち着きを取り戻してきた学園は遠征を行う時期になっていた。


「バーグ。家のことと二人のこと、それに母さんのことは任せたぞ」


「お任せ下さい。坊ちゃま。」


クリストフは家を出て、学園に向かった。



今日の集合場所は教室ではなく、グラウンド。

そこで一年生を全員集め、今日から始まる遠征についての説明がある。

朝礼台には一年の特進クラス担任、ハルトが立っている。

普通ならば校長等が立つべきなのだが、特進クラスの担任はその学年の責任者だ。

そのため、ひと学年だけの行事のときは全体の責任者ではなく、その学年の責任者がこういった場に立つことになっている、


「お前ら、今日から遠征を行う。場所はドワーフの里の隣街、リビラ。その近くにある魔境で魔物を討伐し、ドワーフに自分専用の武器を作ってもらうことが今回の目的だ」


この学園のほとんどが貴族だ。

そのため自分専用の武器を持っているものがほとんどなのだが、それは人間の鍛冶師の作ったもの。

ドワーフは気難しい性格のため、ドワーフの特注品はいくら貴族でも難しい。

そのためこの機会は貴族にとっても珍しいものだのだ。

そして多くのものがこの機会にドワーフに恩を売ろうと意気込んでいる。

ちなみに、なぜそんな気難しい性格のドワーフが学園の生徒のために武器を作るのかというと、王国がドワーフの里に多大な支援を行っているためだ。

そのためにいくらドワーフと言っても王国が作った国立学園の頼みを無視できないのだ。


「10分後からリビラ直通の駅に向かう。それまでやり残したことを済ませておけ」


(ドワーフの里か……)


クリストフは昔のことを思い出していた。

一度だけバーグと一緒に冒険者関係の依頼で来たことがある。

そのときに長老に気に入られ、鍛冶を教えてもらい、今でも鍛冶をしている。

クリストフはこの機会に久しぶりに長老に会おうと考えていた。



汽車は上のクラスほどいい席に座ることができる。

だが下のクラスも一般客や下の方の貴族からしても十分にいい席である。

特進クラスがいる席は普段は王族やそれに準ずる来賓のために使うもので、数人が入ることができる部屋だ。

部屋のメンバーはクリストフ、アリス、ミシャ、リード。

クリストフ自身も汽車を使うのが初めてであったため、この席には初めて座った。


「ねえクリス。ここ座るの初めて?」


「初めてだな。こんな場所に金をかけるくらいならもっと国政に金をかけてほしいものだがな」


クリストフは小さい頃からサティラとバーグのもとで育ってきた。

そのほとんどを訓練をし、王国の闇と深く関わってきたため、こんな場所に金をかけるくらいなら、孤児や麻薬などの対策に金をかけてほしいと感じている。


「それはいくらクリスでも言わないほうがいいよ」


「それぐらいわかっているさ。それに、これが必要な理由もわかるしね」


ここは王国の裕福さを他国にしらしめるものでもある。

そのためこういったものが必要な理由もわかってはいる。


「皇子様は随分と生意気なことを言うんですね」


横からリードからのやじが飛んでくるがクリストフとアリスは思い切り無視をする。


「ミシャはこの部屋どう?」


「……こんな場所、息苦しいだけ」


「だな。俺もそう思う」


そう言ってミシャは寝た。

この部屋は基本アリスが話し始め、クリストフに話を振る。

そしてクリストフの言葉にやじをリードが投げ、ミシャはほとんど喋らない。

なかなかに気まずい空気であった。



汽車に乗ってから約1時間半後。

汽車はようやく目的の場所に到着した。

ドワーフの里の隣街、リビラ。

鍛冶都市として有名な場所だ。

駅から降りると大きな山々がそびえ立つのが見える。

その名はミストリアヌ山脈。

鍛冶に必要な鉱石がよく取れる鉱脈が存在する山脈で、また頂上付近にはフロストジャイアントが住み着いている。

フロストジャイアントはAから準Sランクの魔物。

そして山脈の下のあたりに広がる森はFからCランク、中腹にはBランクの魔物がおり、そのため街には低ランクから高ランクの冒険者が数多く存在する。

リビラにはドワーフは住んでいないが、ドワーフの里にはリビラの中心街から徒歩で行ける距離にある。

リビラは近くに魔境、ドワーフの里があることによって成長していった都市で人口の5割がドワーフのもとで鍛冶を習っている鍛冶師。

4割が魔境目当ての冒険者。

残りは店を経営している者たちだ。

王都の比べて中心街には賑やかである。

王都では大声を出して店を経営する人などはいないがここでは客引きや大声で客を呼び込んでいるものが多い。

その分人の数は王都には少し劣るが賑やかなのだ。


「これから宿を探してもらう。自分でこのひと月泊まれる場所を探すのも訓練だ」


ひと月というのは遠征にしては長いかもしれないが、武器さえ作り、担任に報告さえすればいつでも帰れるシステムだ。

最長がひと月というだけで早いやつは一週間で帰っている。

(ほとんどの人は3週間近くは滞在している)


「先生。宿はどこでもいいんですか?」


「泊まれる場所ならどこでもいいが、報告に来たときにあまりにひどかったら変えてはもらうぞ。あと、宿代は全額学園が出す。平民だからといって宿泊料で場所を決めるな。立地で決めろ。では、解散!」


ハルトの解散の合図と同時に学園の生徒たちは飛び出していった。

いち早く良い宿を手に入れるためだ。

その理由は宿には学園が独自にランクをつけているからだ。

好立地で低価格、それが一番ランクが高く、そこを取れたものは成績によく反映される。

逆に立地が悪く、宿泊料が高い場所なんかを選ぶと成績に悪く反映される。

まあまず、立地の悪い場所に宿泊料が高い場所なんてものは存在しないのだが。

そしてこの行事も長い間続けられているため、成績によく反映される宿なんてものは皆知っている。

そのため毎年解散合図直後に皆がその場に向かって走り出すのだ。

だがクリストフは普通に歩いていた。


「早く行かないといい宿なくなっちゃうよ」


アリスが心配して声をかけてくる。


「場所はもう決まっているから大丈夫だ」


「でも……」


アリスの言いたいことはクリストフもわかる。

クリストフの行くと言っている場所もほかの生徒に取られてしまうかもしれない。

それが不安で少しでも早く行くべきだと言いたいのだろう。


「クリストフ。私も連れてって」


後ろから声をかけてきたのはミシャ。

彼女は身長が小さく、寡黙な人だ。

そして、魔法師としてある界隈でそこそこ有名な人でもある。

その界隈は占い。

分類としては精神系統魔法とされており、彼女はその中でも異質な予知夢を見ることができる魔法師だ。

彼女がこういったことを言うのは珍しい。

おそらくは行きの汽車で同じ部屋で寝ていたため、クリストフの何かを見たのだろう。


「いいよ。ついてきなよ」


面白いと思ったクリストフは同行を許可する。

アリスはミシャが女性であるためか、二人きり手間はなくなったためか不満そうにしていた。



クリストフが向かった場所はリビラの中心街のあたりではなく、ドワーフの里。

ドワーフの里には鍛冶屋しかなく、当然宿なんてものは存在しない。

だがクリストフはなんの迷いもなくドワーフの里に向かっていった。

ドワーフの里は鉄の打つ音が鳴り止まないリビラの街よりも鉄の打つ音が鳴り響いていた。

それものそのはず。

リビラの人口の5割が鍛冶師なのに比べ、ドワーフの里は全員が鍛冶師。

人数にしてリビラの1.3倍の鍛冶師がおり、そしてその全てが上位鍛冶師以上の位を持っている。

中でも一番の技能を持つ最高位鍛冶師は里の長老として君臨しており、その人数はたったの5人。

その長老のもとでドワーフの里は5分割されている。

そして今クリストフが向かっているのは義理堅いことでよく知られる長老の家だ。

長老の家についたクリストフは扉を叩く。

しばらくして中から声がし、一人のドワーフが出できた。


「なんでしょ…う?」


明らかに人間を見て困惑している。


「ウェルト長老はいますか?」


「ウェルト長老は今、長老会議で出てておらん。というかここは人間のくる場所じゃねえ。とっとと帰れ」


出てきたドワーフは人間ということがわかったからか、口調が荒くなった。


「いつ戻られます」


「知らん。とっとと帰れ!」


ドワーフの男はそう言って扉を締めた。


「ミシャ。いつ返ってくるかわかる?」


「もうすぐ」


ミシャの言葉を信じてクリストフは家の前のベンチで休むことにした。

10分後、大量の馬車がここにやってきた。

そして、


「貴様ら!ここで何をしている!!」


長老の護衛の戦士のドワーフに槍を向けられて囲まれていた。



もうすぐ家だというのに馬車が急に動かなくなった。

そして先頭の方が何やら騒がしくなっている。


「長老!長老の家前に人間が3名、そのうち1名が長老の知り合いだと言っています。どうなさいますか?」


(儂の知り合いの人間?)


少し考えたが今の時期に来るような奴は思い浮かばなかった。

とりあえず直接会ってみようと考えた。


「儂が直接行こう。ついてこい」


「かしこまりました」


ウェルトは配下を連れて馬車を降りた。



槍を向けられたまま囲まれていたクリストフは面倒なことになったと感じていた。

3人とも手を上げて降伏の姿勢をしてはいるが、アリスがだんだんといらついてきている。

もしもアリスがここで暴れたら自体はもっとややこしくなってしまう。

そんなことを考えていると、奥の方に見知った顔の男が見えた。


「お前ら、槍を引け」


「ですが……」


「2度同じことを言わせるな!」


「はい!」


クリストフたちのことを囲んでいた戦士たちはその男の一声で皆槍を引いた。

クリストフはその男の前でひざまずく。

それに習って二人も同じようにする。


「お久しぶりです師匠」


「久しいなクリストフ。いい男になったもんだ」


クリストフとウェルト、実に8年ぶりの再開だった。

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