12話
買い物に出かけたのは良かったが、二人はまさかの点で手こずることになってしまった。
それは王金貨の価値が高すぎるため、庶民的な場所での買い物は不可能だということだ。
庶民的で良い店を見つけた二人はそこで物を買うことにしたのだが、王金貨を出すと店が困った顔をしながら、これでは買えないと言ってきた。
その理由は普通の店では王金貨に対するお釣りを払うことができないのだ。
その後二人よくわからないまま、さっきの店員に言われた通り仕方なく高級店に入っていった。
店は普通と違い、それぞれの客に一人のスタッフが付きそってくれる。
そして客は皆、おしゃれをしており、一般的な服装の二人はかなり浮いていた。
その服装を見たスタッフや客からは冷ややかな目で見られている。
まあ、リアとルアはすぶといため、そんなことは一切気にしていない。
「お客様、何かお探しですか?」
二人に付き添っているスタッフが聞いてくるが、他の客への対応に比べると少し荒々しい。
お金を持っていないと思われているのだろう。
「衣服と机、椅子、ソファとかが欲しいかな」
「私は食器が欲しいね」
「ご予算はどれほどで……」
店員は予算を聞くかたちで所持金を聞き、帰ってもらうつもりでいた。
だが…
「予算は、えっと……」
二人はなおしていた王金貨を探し、店員に2人共見せる。
「予算はその4枚でお願い。足りるかな?」
「一人2枚ずつで」
王金貨を見せられた店員は慌てた様子で、少々お待ち下さい、と一声かけてから二人のもとから離れていった。
そしてしばらくしてから戻ってきたのはさっきまでの店員ではなく、ここの店長と副店長だった。
「大変お待たせしました。どうぞこちらに起こしください」
二人は店のトップ二人組に連れられ、表の客のいる場所とは違う場所に連れて行かれた。
そこはVIP御用達の場所で、十分に高級な表の家具を超えた物しか売っていない。
「いっぱいいいものあるね」
「そうね、ルア」
二人はその部屋を一望し、その製品の素晴らしさをすぐに理解した。
「どうぞ、気に入られたものがあればお好きにしてください」
二人は部屋のものの物色を始める。
そして二人はバーグに言われた通り、気に入ったものを片っ端から選んでいった。
最後の会計のとき、足りるのか不安になったが、持ち金はまだまだ余裕があった。
「これらの商品はどこにお持ちすればいいですか」
買った商品のほとんどは家具。
そんなものは今すぐ持ち帰ることは厳しい。
そのため店は後日運送するために持っていくべき場所を聞いている。
だが二人はここに来たばかりで、屋敷の場所もよくわかっていない。
どう答えようか迷っていると、この部屋に繋がる扉が開いた。
それに気づいた二人は音のなった方を見ると、そこにはバーグがいた。
「バーグさん」
二人とも驚いて声が出た。
バーグはそのまま二人のもとに向かう。
「会計は終わりましたか?」
そう聞かれたリアは運送場所で困っていると伝える。
やはりそうでしたか、とバーグは小さな声でいい、二人の対応をしている店員に、私と同じいつもの場所でのお願いします、といった。
そうして会計は終わった。
バーグはどうやらリアとルアの二人に屋敷の場所を伝えていなかったことを思い出して急いでここにやってきたようだ。
どうして場所がわかったかというと、王金貨の使える店は限られており、そしてそれを屋敷の近くで王金貨を使える店はここぐらいだからだ。
店を出た3人は屋敷目指して帰っていく。
「どうでした。欲しい物は揃いましたか?」
「揃ったね」
「もう大丈夫だよ」
3人の沈黙を初めに破ったのはバーグで、それに答えるためにリアとルアも声を出す。
「そうですか。では買ったものが家に全部届き次第、訓練を始めていきます」
「それで訓練って何するの?」
「魔法?それなら嬉しいけど」
「初めは基礎トレーニングです。魔法は体力と判断力を鍛え終わってからです」
「それくらいならもう出来てるよ」
「そうだよ。私達を侮らないで」
「では初めに模擬戦といきましょうか」
その後は何も話すことなく、屋敷に着いた。
★
そしてその3日後、屋敷に大量の馬車が出入りしていた。
それはリアとルアの購入した家具などを運び込むためだ。
門ではバーグが持ち込む場所の指示を出し、部屋ではリアとルアの各々が配置を指示している。
家具はほとんどいちからの用意であったため、作業は朝に始まり、終わったのは昼過ぎになっていた。
「お二人共。休憩が終わり次第、模擬戦をしますので、私の部屋に来てください」
慣れない作業で疲れたリアとルアが屋敷の広間で休憩しているのを見つけたバーグは二人にそれだけ伝えるとすぐどこかにいってしまった。
「お疲れ様も言えなかったね」
「だね。バーグさん、すぐどこか行っちゃうし」
リアとルアはバーグに会ったら今日のことで感謝の気持ちを伝えようとしていたが、バーグは自分の用件を伝えるといつもすぐどこかに行ってしまう。
そのため伝えるタイミングがなかなかない。
この3日、共に過ごした二人の感想はどこからともなく現れ、そしていつも間にかどこかに行ってしまっている不思議な人だ。
バーグが出ていったあとも三十分程休憩を続け、その後二人はバーグの部屋にやってきた。
「バーグさん。リアです」
「ルアです」
リアが扉を叩き、その後二人は自分の名前を言った。
「どうぞ。お入りください」
バーグから許可が出たため、二人は失礼します、と言いながら入っていった。
入った二人は部屋の中身を見て驚いた。
部屋中の壁に魔導具や様々な武具、防具がかけられており、その全てが一等品だと素人の目でもわかる。
これが今まで部屋に二人を入れなかった理由なのだろう。
「お二人共。休憩は十分取れましたか?」
「はい」
「お陰様で」
「ではこの部屋の好きなものを模擬戦で使ってください」
「え!」
「本当に!」
二人はそれに喜んだ。
誰しもこんな高級品を使ってみたいのだろう。
だがすぐに不安そうな顔になる
「でも壊れても知らないよ」
「壊れたからって弁償は無しでね」
二人は壊れたときのことが気になり、使いたいが使えないという心理状態になっているのだ。
その二人にバーグが助け舟を出す。
「壊してもらって構わないですよ。むしろ壊してみて欲しいです。耐久テストがまだ終わっていないのが大半なんですよ」
二人はそれを聞いて喜んだ。
だが最後の言葉に少し引っかかる。
「どうして耐久テストがいるの?」
「店側がしておいてくれるものじゃない?」
耐久テストなんてものは本来店が事前に行ってから、商品として店頭に出される。
なのにここの大半は耐久テストがまだだというのだ。
「お二方とも勘違いなさっているようですが、これらは店で購入したものではなく、坊ちゃまが趣味で作られたものですよ」
「??」
「????」
二人とも頭にハテナを浮かべる。
バーグの言った意味がわかっているが、理解が追いついていないのだ。
「とにかく、好きな武器を適当に選んでください」
リアとルアは深く考えることはやめ、武器を選ぶとこにした。
★
武器を選び終わった二人はバーグに連れられ、また地下にやってきた。
地下は知られてはいけない情報や設備が数多く存在する。
そのため地下は常時構造を変化させたり、方向感覚を狂わせる魔法をかけたり、ゴーレムなどの兵士を使いでその秘密を守っている。
この地下に登録されたものはそういったものの影響は受けないが、リアたちは登録されていないため、すでに登録されているバーグが二人を案内しているのだ。
「着きました。ここが地下闘技場です」
そう言われて入った部屋は十人も入れない小さな個室だ。
そんな場所ではとても戦えたものではない。
「本当にここなの?」
「こんな場所じゃ何もできない」
「もう少し待ってください」
二人はバーグに言われた通り、その部屋の中で待っていた。
すると3人の前に上が円形に凹んだ石柱と樽の形をした石柱が出てきた。
「手のひらを円の中に置きながら、その樽の中に持ってきた武器を入れてください」
バーグは二人に説明をしながら、その説明通りの行動をしている。
リアとルアもそれを見習い、バーグと同じ動きをした。
「お二人共。終わりましたか」
「ええ」
「うん」
二人が完了したのを確認したバーグは突然大きな声で叫んだ。
「では。【起動】」
それと同時にその部屋は光に包まれた。