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執行官の皇子様  作者: Chaden
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10話

「どうしてこんなところに?」


クリストフはまずそれが疑問だった。


「いや、ここは我らに任せてくれと言ったじゃろ。まあ、その対応が難航していたせいでぬしの手を煩わせるような事態になったのは申し訳なく思っているのじゃ」


確かに前回あった最後のとき、そのような約束をしていた。

だが将来の国の担い手である学生に手を出された時点でそのようなことを言っている場合ではなくなっているのだ。


「確かにそうなってましたが、私の国に害をもたらしましたので」


正直、直接手を出されなければこうした事態にはなっていないのだ。


「それは聞いておる。だから務めを果たすためにここに来たのじゃろ。それに文句を言うつもりはない。だがの、雷帝を殺すのは待ってほしいのじゃ」


「なぜでしょうか?」


「あやつは我らの契約を結んだ国に手を出した。それ以外にも、いろいろ聞きたいことがあるんじゃ」


「処分はするんですよね」


「もちろん。やることををしてからじゃがの」


「なら任せます」


クリストフ自身は最後に処分してくれさえすれば、どうでもいいのだ。


「話がわかって助かった。それと、ぬしのお陰で計画を早めることが出来た。感謝するぞ」


「雷帝はあの部屋にいます。今は【影狼】結界を貼って、軟禁状態です」


クリストフは雷帝のいる部屋を指差し、リースに場所を教えた。


「そうか。あと、あの馬鹿がすまんかったのぉ。後でしっかりと教育しておくわい」


それはさっき攻撃してきたやつのことだろう。


「あれは誰なんです」


クリストフはその正体が気になった。


「我が面倒を見てやっている奴じゃ。ただ性格に難がなっての。困っておるんじゃ。まぁ、話はこれぐらいにしてそろそろ行くと良い」


「先に失礼します」


クリストフはその場からリアとルア、【影狼】を連れてその場から立ち去った。



「ん!なんだこの魔力は!」


【影狼】の結界がなくなった雷帝のいる部屋はようやく外の魔力などを感じることができるようになった。

雷帝は結界がなくなったのと同時に外を渦巻く強力な魔力に反応し、すぐ部屋を飛び出す。

そして部屋を飛び出したはずなのに、部屋の中に戻っていた。

それはなぜか。

雷帝自身が知覚できない程の速さでリースが部屋を飛び出したのと同時に殴り飛ばしたからだ。

雷帝が痛みに気が付いたのは部屋の壁に衝突し、倒れ、自分の腹のあたりが見えたときだ。

腹が見たことが無いほど凹んでいたのだ。


「ぶへっ」


その怪我に気づき、痛みを感じるようになると思い出したかのように血を吐く。

そして地面にうつ伏せに倒され、頭蓋骨が悲鳴を上げるほど強い力で頭を踏まる。


「ぐぁ〜〜〜!!」


痛みに耐えることができず、雷帝ともあろう人物が無様にも悲鳴を上げている。


(こいつ、何者だ!)


その強さを前にし、雷帝はそんなことを思う。


「何者か、ねぇ。ぬしも薄々その正体にきづいておるじゃろ」


雷帝は心を読まれたことに驚いているが、それどころではない。

踏む力が徐々に強くなっているのだ。

なんとか反撃しようと魔法の使用を試みるが、意識がなくなりかけているため、不発に終わる。

そして雷帝はそのまま痛みで気を失った。


「リース様」


雷帝が気を失った直後、後ろから声をかけられる。

その人物は二ツ星として潜入していたリースの手先の者だ。


「場所はわかったの?」


「こちらです」


リースは雷帝を魔法で手のひらに乗せている小さな玉に収納し、呼びに来た者の後ろをついて行った。

その頃にはクリストフに攻撃した者も復活しており、三人で向かった。



「ここでございます」


リースが案内されたのは先程いた地下のさらにしたの隠されていた階層だ。

階段は偽装魔法をかけられており、普通ならば気付かないだろう。


「中は確認したの」


「いえ、まだです」


「付いてくるのか?」


「いえ、私は外の警戒を」


「そうか。ならブリズはどうじゃ?」


「俺はついていくぞ」


「なら行くぞ」


リースは配下から鍵を受け取り、部屋の鍵を開けて入っていった。

部屋の中は人ならば先が見えないほど暗い。

だがここにいる二人は人間ではなく、龍種。

そのため暗い場所でも目が見えるのだ。

中には等間隔に人型の何かがの入ったカプセルが配置されている。

それは人型というだけで明らかに人間ではなかった。

人と他種族を融合させたキメラ。

ここにいる者たちが魔兵と読んでいた者たちだ。

そんな部屋を通り抜け、リースたちは小さな個室を見つける。

そこも鍵がかかっており、先程の鍵で開けようとするが、穴が合わない。

なのでリースは指から炎を出し、扉を切り落としてなかに入る。

どうやらそこは研究の資料置場のようだった。

リースは部屋の中にある資料を片っ端から目を通し、情報を入手する。


「どうやら完成形は片手ほどしかいないようじゃな。大半が言うことを聞かず、兵力としては数えられんようじゃの」


「ここの処分はどうするんだ?」


「実験体、サンプル、薬、完成形。ここにあるもんは全て持ち帰る。紙の資料は重要なものも持ち帰る。あとは跡形のなく消し飛ばすんじゃ」


「わかった。ここを消せばいいんだな」


「そうじゃ。まあ、ぬしそれができるかどうかじゃがの」


「何だと!できるに決まってる」


ブリズは自分を侮るような発言をされ怒っている。


「ならやってみると良い。できなければ我がやるし」


リースは雑談をしながらも次々と資料の整理をしていく。

必要なのもは雷帝を収納した玉とは別の玉に収納し、実験体も次々と収納していった。

そして、リースがすべての回収が終わったとき、外で待っていた配下が部屋に入ってきた。


「どうやら帝国軍がこちらに向かっているようです。到着予想は15分後です」


「わかった。こっちもやることは終わったし、残りは跡形のなく消し飛ばすだけじゃ。ブリズ、任せたぞ」


「おうよ!」


ブリズは【人化】を解き、龍となって上空に現れた。

そして魔法とブレスを合わせ、ここいらを焦土と化した。


「どんなもんだ」


ブリズは自信満々で人の姿でリースの前に戻ってくる。

だがリースの顔は呆れていた。


「我は焼き払えといった覚えはない。消し飛ばせといったんじゃ」


そう言い残し、リースは上空に上がる。

だがブリズと違って【人化】は解いていない。


「滅べ」


それを聞いたリースの配下はブリズの首根っこを掴んですぐさまその場を離れた。

リースはそう言って、思い切り手を握る。

すると、そこから1滴何かが落ちていった。

それは魔力を凝縮したものだ。

たった1滴。

それが地面に触れるとそこを中心に巨大なクレートが出来る。

そしてそこから強風が吹き荒れ、その風は辺りの木を灰にしながら広がっていく。

最終的にはリースを中心に半径数キロの植物が灰となり、研究所や城砦があった場所には巨大なクレートが出来た。


「これが『終焉の創造主』の力……」


ブリズはその光景を見て思わずそう漏らす。

そして初めて見たリースの力に驚きを隠せていないようだ。

リースは空からゆっくりと降りてき、ブリズの下にやってくる。


「これが消し飛ばす、ということじゃ。精進するとよい」


「わかったぜ!」


目標が改めて決まったブリズは大きな声で返事をする。


「ですが、これは少々やり過ぎでは」


ブリズの横にいる配下は下の光景を見て、そんなことを漏らした。

真下には巨大なクレート。

辺りの植物は全て灰となり、空にはまだその灰が舞っている。

そしてその灰は地面に少しずつ積もっていっており、地面の色がだんだんと季節外れの雪のように白くなっていっている。


「うむ……。確かにそうかもしれんな。いや、若い世代にいいとこ見せようとして張り切りすぎたようじゃ」


リースも冷静になってその光景を見てやり過ぎだと感じているようだが、大きく口を開けて笑いながら言っているため、本心はどうかはわからない。


「さてと。ぬしは潜入捜査、ご苦労だった」


「いえ、大したことでは」


「よし!やることも終わったし、帰ろうではないか」


「おう」


「ええ」


リースの言葉に二人は返事をし、三人は空を飛んで帰っていった。



雷帝が襲撃を受けていると情報を入手した帝国はすぐに一個連隊をそこに派遣した。

これは雷帝のいる場所に派遣された連隊の記録だ。


ゴォォォーー


そんな大気を震わせる大きな音が聞こえたあと、大の大人たちを吹き飛ばすほどの風が吹き荒れる。

まだ連隊は雷帝のいる城砦まで数十キロの距離がある。

にも関わらず、何かが起きたことがわかった。

そして同時に戦いに終止符を打たれたとも理解する。

その風と音を聞いた連隊の隊員たちは皆、恐ろしいものを見たように顔を真っ青している。

それもそのはず。

この連隊の任務は現場に行くこと。

そして時と場合に応じて帝国に報告するか雷帝の援護をするかを決めろと言われている。

つまりいま先程の元凶のもとに行くことは決定しているのだ。


「お前ら、行くぞ!」


連隊長は隊員の鼓舞するため、大きな声を上げた。

だがその声も少し震えていた。



「いったいどうなっている?」


城砦まで数キロとなった連隊は世界がここらから変わったのかと勘違いをしそうになる。

突然辺りが白くなり、雪が積もっているようだ。

そして植物はすべてなくなっていた。


「連隊長!これは雪ではありません。すべて灰です!」


周りの確認のため馬から降り、地面を触っている隊員の一人がそういった。

それを聞いた連隊長も馬から降り、同じように確認をする。


「……確かに灰だ。ここらの植物がすべて灰になったとでも言うのか………」


連隊長の語尾はだんだんと弱々しくなっていく。

それはここらで起きた事への恐怖からだろう。

連隊の誰一人として城砦で何が起きたかすらも理解できず、少しずつ進んでいった。



進んでいった連隊はついに巨大なクレートについた。

そこは本来、雷帝の住んでいるはずの城砦があったはずが、その後は一切見当たらなかった。

連隊は皆その光景に唖然とし、連隊長までもが言葉を失っていた。


「すぐさま足の早い者で一個分隊を形成し、すぐさまこの現状を上に知らせろ」


言葉を取り戻した連隊長はすぐに命令を下す。

その命令でようやく元の世界に帰ってきた隊員たちはすぐさま足の早い者たちで分隊を作り、そのまま帝国に向かった。

ここに残った連隊は調査をするため、クレートを降りていく。

降りていく者は皆、小刻みに震えていた。


後に帝国はこれを天災として国民に知らせ、同時に雷帝の訃報についても伝えられた。



その男は暗い部屋で雷帝の訃報を知らせる紙に目を通していた。


「雷帝は死んだか……。恐らくは龍種の介入。研究データや完成形がなくなったのは苦しいが、薬自体はここにもある。これはせめてもの救いか」


男のいる机には何本なの試験管があり、それらはすべて詰まっている。

それこそが魔兵を作り出した薬であり、そこに置いているのはすべて完成されたものだけだ。


「これさえ複製できれば我が国も安泰だ」


男は完成された薬を眺めながら不気味な笑みを浮かべていた。


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