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執行官の皇子様  作者: Chaden
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9話

アリスとルフラとの模擬戦のあった晩。


「これで全部か。あとは雷帝の処分だけだな」


一軒家の屋根の上に立ちながら、武器の血を拭いている血のついた黒いコートの一人の男がそう呟いている。

その男は執行官となった状態のクリストフだ。

クリストフは今までティルファに渡された依頼書に書かれていた帝国の手引きをしていた貴族の処分をしていた。

幸いにもそれほど地位の高い貴族はおらず、後処理に時間をあける必要はなかった。

おかげで無駄に時間を食うことはなく、一時間未満でその処分は完了していた。

そしてこの後することは帝国四帝が一人、雷帝の処分だ。

クリストフは負けることはないと考えているが、簡単には終わらないと考えている。

幸いにも夜が明けるまでまだまだ余裕がある。

クリストフは確実に雷帝を殺すための下準備を始めた。



「【叡智の書】」


一度家に戻ったクリストフは自宅で雷帝のことを調べることにした。

ティルファに渡された依頼書に雷帝の本名が持っていたため、【叡智の書】でいくらでも情報を入手できるのだ。


「二つ名は雷帝。本名サリス・ベルゼリス」


その言葉に呼応し、【叡智の書】は自動で開かれ、そのページにどんどん文字が書かれていく。


得意魔法は雷系統、無系統。

他の魔法も使えるがそのレベルは一般兵程度。

24歳で魔法師部隊に配属され、30歳の時に隊長に任命される。

32の歳の時に起きた大戦で大きな戦果を上げ、それを切っ掛けに雷帝となる。

妻は二人で子は五人。

兄弟はおらず、両親も既に死別している。

満月の夜は月を見ながらワインをいつも飲んでいる。

新月の日は地下に長い間籠もり、国への報告書と妻への手紙を書いている。


それを見たクリストフは窓から外を見る。

今日は晴れているはずが月が見えない。


「今日は新月か……。なら楽に終わりそうだな」


【叡智の書】のことが本当ならば、今夜は地下に籠もっているため、異常が伝わるのが遅いはずだ。


「よし。行くか」


有意義な情報を手に入れたクリストフは窓から飛び降り、雷帝のいる国境付近の城砦に向かった。



雷帝のいる城砦についたクリストフはまずは目視で敵の居場所を探す。

門番が二人。

壁上に等間隔に置かれた兵士が多数。

壁内を巡回している兵士が五名。

それらすべてが一ツ星で構成されている。

その後、クリストフは情報をより確実なものとするため、【探知サーチ】を使って敵の居場所を突き止める。

雷帝は情報通り、地下の一室にいることを確認。

二ツ星、三ツ星はほとんどが自室におり、三ツ星の一人だけが見回りの兵士が異常を感じた際に伝える場所にいた。

敵の居場所をすべて確認したクリストフは次の段階に移る。

二本指を立て、魔法を唱える。

すると城砦の中心の上部から黒い膜がおり、城砦を包むように黒い半球ができた。

その黒い半球の役割は、敵の逃亡、侵入を防ぐこと。

加えて攻撃の補助としても使うことができ、音を遮断する能力がある。

新月の今日の夜は暗く、辺りがほとんど見てないため、そんなことが起きているとは誰一人として気づいていない。

膜が降りたのを確認したクリストフはすぐに行動を起こす。

まず初めに【影移動】を使用し、門番のすぐ後ろに立つ。

その後、【身体強化ブースト】を使い両者の頭を掴み、お互いを思い切りぶつけさせる。

身体強化ブースト】を使った影響で、両者の頭蓋骨潰れ、混ざり合う。

門番の処理が終わったクリストフは次に壁上の兵士の処理に移る。

誰一人としてクリストフの存在に気付くことなく、兵士は一瞬にして殺されていく。

門番と壁上の兵士たちの処理が終わったクリストフは次のフェーズに移行する。


「【黒滅球】」


クリストフがそう唱えると、頭上にいくつもの魔法陣ができる。

そしてその全てには黒い太陽のようなあった。

その魔法たちは城砦に向けて飛ばされ、城壁を飛んでいく。

飛んだあとは全てが消し飛び、黒い灰しか残っていなかった。


「敵襲〜〜!!敵襲〜〜〜!!」


ようやくクリストフの存在に気づいた敵たちは鐘を鳴らしながら大声で叫んでいる。

鐘の音を聞いた兵士たちはすぐさま飛び起き、装備を整えて外に出てくる。

うち何名かは雷帝を呼びに行ったようだが、その対策は既に打っている。

外に出てきた兵士は灰しか残っていない城壁の光景を見て絶滅している者が大半だ。


「貴様。何者だ!」


そんな中、一人の男が声を上げだ。

服を見ると、胸には三つの星がある。

どうやら三ツ星のようだ。

パッと見た感じではここには他の三ツ星がいないようだ。


「私は執行官。貴様らの狼藉はこれ以上見過ごすことはできん。刑を執行する」


クリストフは言葉に魔力を乗せて言う。

そしてそのおかげで敵は初動に出遅れた。

クリストフはその言葉を言い終わると同時に、地面の影から無数の爪を生やす。

その爪は眼の前にいる者たちを一瞬にして喰らい尽くす。

そんな中、一人だけ逃げることに成功した。

だがその一人の三ツ星はその攻撃で右脚と右腕を失った。


(魔法の発動速度が早い!)


三ツ星は負傷した部分を焼きながら、今まで戦ってきた敵とは格が違うと理解する。

初手で損害が大き過ぎるため、これ以上の戦闘は危険と感じた三ツ星は他の者たちと共闘するため、眼の前の敵から逃げることにする。


(厄介な……)


先の攻撃で全員を仕留めるつもりだったクリストフは苦悶の表情を浮かべる。

三ツ星のことは決して侮ってないない。

そのため正面戦闘では時間がかかると考えたため、この攻撃で仕留めたかったのだ。


「【黒槍こくそう】」


クリストフの背中を回るように漆黒の槍が浮いている。


「仕留めろ」


クリストフがそう一声かけるとその漆黒の槍は空にいる三ツ星を目掛けて飛んでいく。

三ツ星は急いで魔法障壁を貼り、正面からの攻撃を防ぐ。

だが三ツ星の魔法は怪我の痛みのせいか上手いこと使用できていない。

本来ならばこのような攻撃で魔法障壁を突破できないだろうが、今ならできる。

槍はその障壁を破るため一点に集中し、何本も槍が刺さる。

一枚、また一枚と魔法障壁を破っていく。

三ツ星は一点に攻撃を集中していることに気付き、防ぐために魔法障壁にすべての意識を向ける。

そしてそれを見抜いたクリストフは空高くに飛ばしておいた一本の槍を三ツ星の後ろに回す。

そして意識を魔法障壁を注いでいた三ツ星は後ろの槍に気付くことはなく、後ろから腹を貫かれる。

その痛みで魔法障壁の制御を誤り、障壁は一瞬で粉々となる。

そして三ツ星は何本もの槍に身体を貫かれて死んでいった。


(残りの三ツ星は二人か……)


怪我をし、痛みで魔法制御が粗くなっていた三ツ星一人相手に数分もかかってしまう。

それを考えると次の相手に不安がよぎった。



城内のある大きな一室。

そこには二人の少女がいた。

その二人はベットの上で手を絡ませながら繋いでいる。


「リア。外が騒がいしね」


「そうねルア。どうしたのかしら?」


二人の服には三つの星がついていた。

それは今ここにいる最高戦力に含まれるということだ。


「今日の警備責任者はヘルドだよね」


「そうねルア。明日になったらボコボコにしないとね」


「そうだねリア」


二人はさっきまで寝ていたのだが、外から聞こえる大きな騒音と振動、魔力の波動で目を覚ましたのだ。

二人は今日の警備責任者のヘルドに文句を言っているが、既にヘルドは亡きものになっている。

二人はその後も文句を言っていたがいつまでも止まらない騒音と振動、魔力の波動ににおかしいと思い、二人は装備を整えて、外に行こうと部屋から出ようとする。

するとそこに廊下を走ってきた二ツ星の兵士がやってきた。

そして二人の前でしゃがんだ。


「リア様、ルア様。起きていたのですか」


「今さっきね」


「外、どうかしたの?」


眼の前の兵士は息を切らし、身体も服もボロボロだ。

それを見たリアはその兵士に外の情報について求めた。


「ここは今、襲撃を受けています。その者は執行官と名乗っており、圧倒的な強さで我々を蹂躙しています」


「敵は何人?」


「ヘルドは何してるの?」


二人は各々の思ったことを質問する。


「敵は一名。ヘルド様は敵と戦闘し、戦死しました」


「うそ…」


「ほんと?」


二人はその情報に驚きを隠せない。

三ツ星は雷帝がその実力を認めたものしかなることができないため、数人しかいない。

その実力者がほんの数分で敗れたのだ。


「事実です。加えて一ツ星、二ツ星のほとんどが戦死。生き残っている者が数名いますが、戦意をなくしています。ここにはすでにろくな兵力が残ってません」


「「主は?」」


「サリス様は現在城内で捜索中ですが、居場所がわからりません」


「今日は新月でしょ?」


「なら地下じゃないの?」


ここにいる者たちは皆、新月の夜に雷帝が何をしているのかを知っている。

そのためいつもの場所は探したのかと聞く。


「初めにそこに行かせたのですが、いなかったようで……」


「私達でもう一度探してみるね」


「それまでの時間稼ぎは魔兵を使ってよ」


「魔兵ですか!?ですがあれはまだ実験段階で、味方にも攻撃を……」


ルアから出てきた言葉に随分と男は驚いている。

それもそのはず。

魔兵は今は実験段階の兵力で、敵味方の判別がつかず、目についた者を片っ端から頃そうとする兵器だ。

そんなものを導入すれば、今の状態以上に酷いことになるはずだ。


「でもその味方ももういない」


「なら思う存分暴れれる」


確かにその通りだ。

だが男は迷っている。

あんな兵器を使用していいのかと。

そうして考えている間も大きな音と激しく揺れが伝わっており、外の戦闘の激しさがよくわかる。


「迷ってる場合じゃないよ」


「あとの責任は私達が持つ」 


その言葉に男の決心がついた。


「わかりました。あの部屋の鍵は持ってますか」


「ハイこれ」


リアから部屋の鍵を投げられる。


「頑張ってね」


ルアからは最後にねぎらいの言葉をかけられた。

そして三人は分立てに別れていった。



『リース様。魔兵のいる部屋の鍵を手に入れました。あともう一つ、緊急事態が』


男は魔兵と呼ばれる兵士のいる部屋に走りながら、【通話メッセージ】の魔法で通話をしていた。

その相手は竜王国の実質的な盟主であるリース・カタストロフだ。


『よくやったの。それで緊急事態とは何じゃ』


『王国の執行官がここに攻めてきました。その攻撃は非常に激しく、研究所が壊れる可能性があります』


『なんじゃと!』


その報告にリースは随分と驚いている。

そして小声で「任せておけといったのじゃがな…」と聞こえてくる。


『攻めてきた理由はわかっておるのか?』


『もちろん正当な理由があります。ただ証拠がなくなると困るので……』


『わかった。我が向かおう。数分っておれ』


『お手数かけます』


そして【通話メッセージ】が切れた。

リースと連絡を取っていたこの男の正体、それは竜王国の密偵だ。

クリストフのおかげで雷帝がきな臭いことをしていることがわかったため、その証拠を見つけ、その研究成果を潰すために送った者だ。

だが研究所は三ツ星からしか入ることはできず、そのせいで調査は難航していたのだが、思わぬことで鍵を入手できた。

だが今の状態では素直に喜ぶことができないのだ。

部屋の前についた男は部屋が潰れないこと、潰れていないことを祈りながら、部屋の前で待機し始めた。



「主がいないね」


「でも気配は感じるね」


リアとルアは地下に到着し、いつも雷帝がいる部屋を開けていた。

そこには誰もいないが、二人はこの層から雷帝の気配、魔力を感じているのだ。

それを不気味に二人は感じている。


その原因は【影狼カゲロウ】の魔法だ。

クリストフに地下に送られた【影狼】は地下全体に方向感覚を狂わせる魔法をかけており、二人はその術にはまっているのだ。

二人が雷帝のいつもいる部屋も思って開けた部屋も実際は全く別の部屋だ。


そしてもう一つの魔法をかけており、それは雷帝のいる部屋を囲うようにかけられており、それは音と振動、魔力を遮断する法だ。

その魔法のせいで雷帝は外の騒動に気づいていないのだ。


三ツ星の双子が地下にいることに気付いた【影狼】はクリストフに文句を伝える。


『三ツ星の双子が地下に来てるぞ。それに二人はここを怪しく思ってる。バレるのは時間の問題だ。早くどうにかしろ』


『わかった。すぐ向かう』


それを聞いたクリストフは雑魚処理をやめ、地下にすぐさま向かった。



クリストフは簡単に三ツ星二人のいる場所に行くことができた。

その理由は【影狼】の居場所がわかることを利用し、その近くまで【黒滅球】で穴を開けたおかげだ。


「君が執行官?」


「私達と一緒で若そうだね」


二人は一番はじめにそう声をかけてきた。


「ねぇねぇ」


「良ければ取引しない?」


そして二人は取引を持ちかけてくる。


「……内容次第だ」


クリストフも別に殺したくて殺しておるわけではない。

そのため殺さなくていいのならば、殺さずに済んだほうが良いのだ。


「私達は好き好んで主の配下でいるわけじゃないんだ」


「魔法を極めたいから、配下になっているんだよ」


「だから私達は」


「雷帝より確実に強い君のもとで」


「「魔法を学びたいんだ!!」」


最後の言葉は声を重ならせながら行った。

その魔法への探究心は偽りないものだと事前に【叡智の書】で情報を入手してるためわかる。

そして学校、それと王族としての公務のせいで忙しくなっているため、助手の一人や二人がほしいとここ最近思っているのは事実だ。

だが立場が立場のため、絶対に秘密にしてもらわなければ行けないものが多いのも事実だ。


「……今は答えることは少々難しい。期間が必要だ」


クリストフはここでの返答は危険と感じ、答えは保留にする。


「答えはいつ聞けそう」


「それまで隠れとかなきゃ」


二人は現在は帝国軍所属の兵士。

それが帝国を裏切り、こちら側につこうとしているのだ。

その裏切りはほぼ確実に帝国に伝わるだろう。

そうなると二人は命を危ないのだ。


「返事は明日。返答場所は……」


返事をする待ち合わせ場所を言おうとしたとき、クリストフは突然後ろを振り返った。

その理由はこの辺り一帯を覆っている結界の一部に穴が空いたからだ。

そしてその開け方は力に物を言わせた開け方だ。


「どうしたのよ?」


「大丈夫?」


二人に心配されているが、クリストフはそれどころではないのだ。

クリストフはすぐさま入ってきた二人組の魔力と姿を見る。


(援軍……?。いや別勢力か!)


その者の姿は帝国兵の服装で、魔力は人族の魔力をしている。

だがその魔力は偽装したあとがある。

人族に偽装するということは、そいつは人族ではないということだ。

もう少し詳しく調べようとしたが、その前にその者は突然消えた。

いや、見失ったのだ。

そのタイミングとほぼ同時にクリストフの後ろにそのうちの一人が現れた。

それと同時に攻撃をしてきた。


「っ……!」


後ろに立たれたのに気付き、クリストフはその者から離れるために思い切り飛びのいたため、攻撃を食らうことはなかった。

だがリアとルアはその攻撃をもろに食らい、その衝撃で吹き飛びんで壁に当たり、そこで気を失っている。


(あれは尻尾か)


よく見るとその前の者の後ろには長い何かが生えている。

それ自体も生きているように動いているため、尻尾だと判断する。

そして先程の攻撃はその尻尾でされたようだ。

クリストフがなんとか反応できる程の速さの尻尾での薙ぎ払い。

そして、この者以外にもうひとりいる。

魔力の波長的に眼の前の者が結界に穴を開けたのではなく、もう片方の者が開けたのだろう。


(予定外の敵。逃げることはできるだろうか……)


見たところこの者たちはクリストフ、執行官に用があったのではなく、雷帝に用があるようだ。

そしてそれ恐らく薬に関することだ。

依頼よりもいちばん大事なのはクリストフ自身が捕まらないこと。

そのためこの場から離れようとしていると、


「馬鹿者が〜〜!」


突如そんな声が聞こえ、驚いているとまた驚くことが起きる。

眼の前に立っていたものが思い切り殴り飛ばされ、リアたちのように吹き飛んだのだ。

そしてよく見ると、その殴った本人は知っているものだった。


「もしかして、リースさんですか?」


「ん、そうじゃ。久しいのぉ」


その人物は竜王国第一席次、リース・カタストロフ本人だった。

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