第七話 目標
僕とスカイは同い年でインペーナ王国の王子と王女にあたる存在だった。それでも許嫁…というか結婚が決まっていたのは僕には名前だけでインペーナの血が流れていないから。
スカイが4歳の時にインペーナ王国の治安が悪化していたあたりにプロウト・インペーナ王とラティ・インペーナ王妃…つまりスカイの家族による視察があってね、そこに僕がいたんだよ。その時僕は言葉は話せず両親もいない捨て子みたいな感じでね…倒れて死にかけてたんだけどなぜかスカイ王女に助け起こされて食べ物をもらってね…あの起こされて見えた水色の髪の可愛らしい彼女の姿はまるで雷に撃たれたような衝撃だったなあ…
まあそれで僕もスカイ達と一緒に視察をする事になったんだけどしばらくした後、覆面で顔を隠した3人組に僕たちは襲われた。王様と王妃は強いから僕とスカイを守りながら戦っていたんだけど相手の狙いは実はスカイだったんだよ。王様を斬る様に見せかけてフェイントでスカイを殺そうとした…でも僕にはそれをたまたま見破れて…僕はスカイを庇って瀕死の怪我を負った。
覆面の奴らの動揺から生まれた隙を突いて王様が相手を倒して覆面たちはいなくなった。僕はそのままだと死んでもおかしくなかったんだけどスカイたちの治療のおかげで僕は生き残ってインペーナ家の養子として迎え入れてもらえた。
「…さて、ここまで話して犯人の国はどこだったと思う?」
「わざわざこの話をするってことはヴェノス帝国なんじゃないですか?」
「そう、というのもこの世界には魔族っていう種族がいるんだけどインペーナ王国はそれを人族の一種として扱ってたんだけどヴェノス帝国は魔物の一種として扱ってたんだよ。それでインペーナ王国とヴェノス帝国は仲が良くなかったんだけど、前まではヴェノス帝国の方が強かったから何も起こらなかった、ただスカイが産まれてからパワーバランスが崩れた。ところでタイシ、髪の色を見て何か思ったことはある?」
そういえば…街中ではちょいちょい黒や茶色以外の目立つ髪型を見かけた。あとは目立つ髪色の人は冒険者や魔法使いの様な格好をしていたことが多かった。それをトラジに伝える。
「そうだね、髪色によってそういう格好の人が多いのには理由があるんだ。この世界はね、髪色によってある程度魔法の才能が分かるんだよ。魔法には炎、雷、光…みたいに属性があって炎系の魔法に才能があると赤っぽい髪色になったり、雷系の才能があれば黄色の髪になったりするんだ。じゃあもう一問聞くよ?スカイの髪は水色系の髪色だ。何が得意だったと思う?」
「水の魔法…とかじゃないですか?」
「まあ普通ならそう思うよね。でもそれぐらいの才能ならいくらあの国でも殺しには来ない。…タイシはさ魔力が何色か分かるかい?」
魔力の色…そういえばテルを使って出てくる魔力の線、あれは水色っぽい色だった。そしてスカイさんの髪色も水色っぽい髪色…
「魔力は多分水色だと思います…もしかしてスカイさんはどの魔法も得意だったとか?」
「正解だよ、タイシ。彼女は産まれた時から魔力の量が異常な程多くてさらに彼女は数年後に魔法の才能を開花させてどの属性の魔法も高い威力で連発することも出来た…それでこの視察の時以降も度々スカイは襲われた。ただしばらくは問題なく追い払えてたんだよ。ただ、どうしてもスカイを倒したかったのかあいつらは2年前に最後の襲撃をしてきた。タイシ、魂の話は聞いた?」
「えーと…人の力の源で胸の辺りにあって魔力を作ったり溜めたりしてる場所…でしたっけ?」
「うん、合ってるよ、じゃあもう一つ…魂に大きなダメージが入ったらどうなると思う?」
魂にダメージ…あくまで自分の考えだが魂、根源ともエレノアさんは言っていた。その根源に深い傷が付いたのなら…
「死んでしまう…」
「正解だ、タイシ。最終的に死ぬだけじゃなく傷ついた時点で気絶しない方がおかしいぐらいの痛みも味わうけどね。あの国は最後の襲撃で魂にのみ作用してそれ以外は通り抜ける特殊な武器を使いあの子の魂を真っ二つに切り裂いた。せめて魂が切られても魂がしっかり一個分残っていれば治せたかもしれない、でも切られた瞬間あの子の魂の半分は消えてそこには気絶して倒れるスカイと半分だけの魂が残された。…こんなことを命令する王がいる国にそれでも行きたいのかい?」
(正直そこまで言う国に行くと考えると怖い…でもエリさんに会って話したいのも事実だ)
「今すぐでなくても良いんです、ただいつかは…話を聞きに行きたいです。」
目を合わせながらの少しの沈黙の後トラジはクスッと笑う。
「分かったそんなに真剣に言われたら断るわけにもいかない、じゃあ条件を出そうか。今の君の冒険者ランクはノーマルだ、ゴールド…いやシルバーまでランクが上がればいい、ノーマルの次がブロンズでその次がシルバーだよ。シルバーまでランクを上げてレベルも2になればとりあえず大体は倒せる、あの国は一部の人が強いだけだからね。ここまでオッケー?」
「はい!」と元気に返事を返す。
とりあえず目標は決まった、一つ目はランクをシルバーまで上げる。二つ目はレベルを2に上げること。しかし疑問は当然生じる。
「ランクってどうやって上げるんです?」
「確かに説明してなかったな…えーと、ランクを上げるには昇級試験に受かる必要がある。知識、探索、戦闘の3項目で基本的に審査されるんだけど基本的に見るのは戦闘面だからそこを鍛えれば大丈夫。ブロンズなら魔法が使えれば大体受かるしね。ところでノア、次の試験って何日後?」説明をしつつほぼ空気と化していたノアさんにトラジは声をかける。
「次は確か明後日ですね…申し込みもさっき締め切りましたけど…」
「…ねじ込めない?」
「…やっておきます。ただやるからには絶対受からせて下さいね!本来ギルド職員と冒険者がしっかり話し合ってから受けるものなんです。もし事故が起きて話題にでもなったら私のねじ込みがばれる可能性もあるんですからね!」
そういってノアさんはカウンターの裏へと消えていった、なんだか申し訳ない…
「というか明後日の試験に今からで間に合うんですか?」
「まあブロンズだから大丈夫さ、この後魔法の練習をして簡単な魔法を使えるようにしてから明日ダンジョンの中に実際に入って魔物との戦い方を知ってもらう。まあだめでも来月にはまた試験があるからあまり重く考えないでやってみよう!」
(不安しかないなあ…)という言葉は言わないことにした。
「申し込みしてきましたよ~あとタイシさんの冒険者カードも出来上がってたので持ってきました~」疲れた様子でへにゃへにゃになりながらノアさんが戻ってきてカードを僕に手渡す。
「ありがと、ノア。」「ありがとうございます!」と2人でお礼を言いカードを見る。
白い色のカードの表面にはどうやらさっき書いたプロフィールと登録日が書いてあるようだ。裏面を見てみると[ステータス]と書いてある、しかし肝心の数字が入っていない。(もしかして…)と魔力をカードに流してみると数字が表示される。
「今のステータスを測って表示するためにそういう構造になってるんだけどよく分かったね。肝心の数字は──もう魔力が4になってるじゃないか…成長まで早いのか君は…なあタイシ、さっき僕が君にあげた指輪はその人のステータスを鍛えるために装備してる人の魔力を使う構造をしてるんだけどそんなに成長が早いのは君が初めてだよ。昇級試験、本気で受かりに行こう。」
僕はもちろんうなずいた。
その後、僕らはギルドから出て魔法を練習する場所を探すことになった。(疲れた様子のノアさんには流石に帰ってもらったが…)
そしてトラジの宿の近くで練習することになったのだが…
「トラジさん、なんか宿というよりホテルじゃないですか?」
もうホテルと呼んでしまうがまず建物が大きい、しかも敷地も明らかに広い、入り口の前には噴水もある。これをホテルと言わずしてなにをホテルというのか。
「そうだね…昔泊まった時にここのオーナーさんが冤罪にかけられてて…それを解決してあげたらなんか凄い良くしてくれて…最初はタダで部屋を提供しようとしてきたから流石に悪いと思ってそれを断ってたら「じゃあただの安宿と思ってうちに住んでほしい。」って言われてそれを断り切れずに安宿の料金で住ませてもらってる…だから料金的には宿だよ…」
たぶんそのサービス精神によってこのホテルはここまで大きくなったのだろうと漠然と思った。
(オーナーが快く貸してくれた)敷地の一部の広い空間で僕らは魔法の練習をすることにした。
「さてと、タイシ!魔法に必要なことは何か知ってるかい?」
「イメージです!」魔法の練習のため距離を取った僕らは声を張りあげる。
「よし!じゃあこれから僕が使う魔法をしっかりイメージして打つんだ!行くよ!」
「【ルシェル】!」そうトラジが右手を出して口にすると野球ボール程の火の玉が手のひらからまっすぐ飛んできて僕から50cmほどの位置に着弾する。
「僕に向かって撃て!的があるほうがイメージしやすい!」
心臓の辺り、魂から右手に魔力を流すイメージをする、そして手のひらでファイアボールを作り…
「【ルシェル】!」言葉と同時に投げる。ハンドボールほどの火の玉はかの有名な2Dアクションゲームのように地面でバウンドし、
「あちっ!」トラジに被弾する。
「いや避けてくださいよ!」
「あまりにも不思議な軌道で飛んでくるからちゃんと威力があるか不安でね…当たってみた。」
まあ、人それぞれの魔法の解釈があるから不思議な魔法もあって面白いんだよね。とトラジは付け足した。
「じゃあ次!【トライン】!」トラジは人差し指と親指を伸ばし銃のようにしてからそう口にする。するとこちらに向けて1秒ほど、少し細いがあの光線が照射されすぐ横に当たって消える。
「さあ!真似してみて!」
「【トライン】!」前へ向けた人差し指から光線を出す様なイメージで…
光線はトラジと同じように1秒ほど照射されて行き…
「いてっ!」やっぱりトラジに当たる。
「今回は普通に飛んだじゃないですか!」
「い、威力が知りたくて…まあ攻撃はこの二つがあれば大丈夫だよ。次はシールドでもやろっか。」
そう言われた時、なんとなく出来そうな気がした。
「【シールド】!」右手を前に出しそこから傘のように魔力の層を作る。
トラジは流石に驚いた様子だったが笑いながら手をこちらに向けて来る。
「いいね!でもこう来たらどうする?」
「【テプロ】!【ルシェル】!」手を下から持ち上げるような動きの【テプロ】によって鏡の様な…魔法を反射しそうな壁が地面からせり上がり背後にできる。そして【ルシェル】の火球が背後の壁に反射しシールドを張ってない背後に迫ってくる…なら!
「【シールド】!」もう一度イメージし直し自分を円球状に囲むシールドを作り魔法を防ぎきる。
「頭の回転もいいね、今のは防げなくてもおかしくなかったのに。」トラジはそう言って拍手をしながらこちらに歩いてくる。
「じゃあもう遅い時間だし最後に回復魔法を覚えようか。タイシ、右手を怪我してるよ。見せてごらん?」
自分の右手を見ると先程【ルシェル】を使った時だろうか?やけどをしてしまっている。そのまま近づいて来たトラジに手を差し出す様に見せる。
「いいかい?怪我がゆっくりと治っていくのをイメージしながらこう言うんだ。【エルリラ】!」トラジが魔法を使うと魔力の光に僕の右手が包まれゆっくりと…しかし確実に手のやけどの赤みが引いて行く。
「こんなに綺麗に直ぐ治るんですね。跡が残ったりしそうなものなのに…」そう言うとトラジはこう返す。
「君もしっかり治るイメージをしたからだよ。あとは【エルリラ】を使う人が跡の残らないイメージをどれだけ出来るかだね。さあ、タイシもやってごらん?」
トラジは服をめくり自分の身体を指差す。僕の魔法で彼も少し怪我をしたようで【トライン】が当たった場所に傷が出来ていた。しかしトラジの身体には剣に斬られたような古傷たちが目立っている…なんとか治せないだろうか?
「【エルリラ】!」トラジの身体に手を当て傷を治すイメージをすると身体は光に包まれ【トライン】の傷は消える…しかし古傷は消えなかった。
「ありがとね。昔の傷まで治そうとしてくれようとする君の気持ちも嬉しいよ。でもこの傷はかなり腕の良い人じゃないと治せないよ。」
「跡が残るってことは昔治すのに失敗でもしたんですか?」疑問に思い聞いてみる。
「昔はひどい戦場に居てね…治す暇が無くて跡が残った傷も多いんだ、時間が経つと治し切るのが難しくなっていくからね。ところでタイシ、【ルシェル】を跳ねさせるんじゃなく飛ばすことは出来るかい?」
昔居たと言う戦場も気になるが…とりあえず【ルシェル】を飛ばすことに挑戦する。
「【ルシェル】!」
…しかし、魔法は出なかった。もう一度イメージを固め、撃とうとするがやはり魔法は出ない。
「もしかして魔力切れかなぁ…タイシは魔法メインで戦って貰おうかと思ったけどこれじゃ厳しいか…明日は剣の練習もしよう。」
『魔力切れ』──自分の読んでいた作品でも出てきた言葉…魔法を使いすぎると起きる現象だろうが…いくらなんでも早すぎるだろう。もしかして僕には魔法の才能が…無いのだろうか?
「タイシ?そんなに絶望感漂う顔しなくても大丈夫だよ。冒険者カードを見てごらん?」
ポケットに入れていたカードを取り出しステータスを見つめる…
「魔力が12まで増えてる…」
「いいかい?タイシ、魔力の量は才能で決まる部分ももちろんある、でも君の魔力のステータスが上がれば上がるほど君の魔力量自体も増えていく。だからひとまず剣をメインに使って魔法を牽制や補助として使うようにしていって魔力量を増やして行こう。」
「こんなにすぐ魔力切れになるのに本当に増えていくんですか?」正直自信が無くなってきた…本当にダンジョンなんて行けるのだろうか。
「タイシ、僕だって昔は全然魔法を連続して打てなかったんだよ。でもほら、今ではこれだけ魔力のステータスも上がったんだよ。」そう言ってトラジは冒険者カードを見せてくる。ステータスは[素早さG.8,体力G.16,力F.102,防御C.414,魔力C.426]となっているが…
「僕と違いすぎてよく分からないんですけど…」
「ま、まあ…このぐらいステータスが高くなれば全然違うからさ…頑張って一緒に上げていこう!ただもう君は魔力も切れたみたいだし部屋で休もうか。続きは明日にしよう。」そう言ってトラジは歩いて行くので着いて行く。
その後、ホテルの部屋に着いてシャワーで汗を流し、トラジが用意してくれた服(外出用とパジャマが置いてあった)その中から適当に選びベッドに入る…
「よく考えたらなんでこんなに良くしてくれるんだろう…」トラジはシャワーを浴びているため呟きは誰の耳にも入らずに消える。
「でも…」ここまで一緒に行動し悪い人間だとは思わなかった。だからきっと、困っている人を放っておけないのだろう。後は…魔法の練習の時に見せた楽しそうなトラジの顔を思い出す。もしかしたら純粋に自分が育てた人が強くなるのが嬉しいんだろうな…
そんな風に考え事をしていると瞼が重たくなってきていつの間にか眠っていた。
ギリギリ月一投稿達成した〜!!!
そういえばこのシリーズで聞きたいことがあれば感想などで質問して貰えると嬉しいです!
あと書いてて思うんですけど文章量がどんどんインフレしてますね…今回は話進めたくて大体6200字なんですけど何文字ぐらいが一番読み易いんですかね?2000〜3000?
まあとにかく次話はお待たせしないように6月前半には投稿したいですね…
魔法簡単解説
【ルシェル】炎属性下級魔法 火の玉で攻撃する。
【トライン】光属性下級魔法 細い光線で攻撃する。
【エルリラ】小規模治療魔法 軽い怪我を治せる。指が欠けたり、体に穴が空いたというような怪我は基本治せない。
【シールド】魔力をイメージ通りに固める魔法。魔法の防御に特化しているが使い手次第で化けるし、形も変わる
【メイズド】創造魔法、魔力を物質に変換し物を作り出す魔法。
【テプロ】トラジの作った魔法。メイズドを壁作りに特化させたもの。魔法を反射するような特殊な効果を付けることも出来る。