第六話 同郷の人
オレンジ髪の彼女の意味深な言葉の意味を考えながら個室から出るとふと銀色が目に入る。それは間違える筈ない程の輝き、エレナさんがそこに居た。
「エレナさん?」そう声をかける。
「タイシ…くん?キミも冒険者だったんだ、さっきは急いで行ってしまってごめんね?昇級試験の受付が今日までで…キミも冒険者なら一緒にギルドに来れば良かったね…」振り返ったエレナさんは申し訳なさそうな顔でそう口にする。
「いっ、いえ!気にしないでください!登録をしたのはついさっきで…それにギルドに来る前にご飯も食べたので時間も合わなかったと思います。本当に気にしないでください。」トラジさんに色々教えてもらっていたのは自分なのだから彼女が重く考える必要は無い。そう思って大丈夫だと伝える。
「そっか、なら助けてくれたお礼でもしよっか…私は今日ギルドでやらなきゃいけない手続きは終わったし良ければ一緒に帰りながらなにかデザートでもご馳走する?こう見えてもお金は持ってるから好きなもの買ってあげれると思うよ…?」こう見えても、と彼女は言うが彼女の立ち振る舞いはまるでお姫様のような何処か上品さを感じさせるものなのでお金を持っていても特に違和感は無いだろう。
「お気持ちは嬉しいんですが…実はまだ手続きが終わっていないんです。それに師匠?みたいな人と一緒に来ているのでその人を放って置くわけには…」
「ん…分かった、じゃあお礼はまた今度させてもらうね。じゃあ、また…ね?」
そう言って彼女は少し出口に向かって歩いて行き、戻って来た。
「タイシ君なら多分テルは使えるよね…ちょっと手を出してもらえる?」そう言われてなんとなく左手を出すとその薬指に彼女は躊躇いもなく赤い透き通る様な石の付いた指輪を嵌めてくる。タイシは「えっ!?ちょっ!?」と焦って反応するがエレナは気にも留めずに話し始める。
「これは「繋がりの指輪」って名前の魔道具でね…キミにあげた指輪と私の指輪がペアになってるの、ペアの指輪を着けた人同士はテルを繋ぎ易くなったり相手を支援する様な魔法も遠くから掛けられる様になるの…キミと私には何か縁みたいなものがある気がするから…何かあったらこれで連絡してね?…じゃあ今度こそ…またね?」彼女はまた出口に向かって歩き出す。
「エレナさん!えっと…また今度!」タイシがそう口にすると彼女は立ち止まり振り返って言う。
「エレナ、で良いよ!」初めて聞く彼女の元気な声だった。
エレナがいなくなってタイシは指輪を見つめていた。
当然だろう、左手の薬指というのは自分の常識では結婚した人が指輪を嵌める位置だからだ。プロポーズでも指輪の嵌める位置は左手の薬指…しかしここに指輪を嵌めた張本人は一切恥ずかしがったりはしていなかったのだからそういう意味合いはこの世界では存在しないのだろうか?
「そうだ、とりあえずトラジさんのとこに戻らないと…」そこで少し思い付いた。自分を見ただけでトラジさんは「タイシには魔力がある」というタイシ自身にも分からないことを見抜いていた。そしてついさっきはエレナさんに「タイシならテルは使えるよね?」と使ったことがないのにそう判断された、ならばまだ使ったことはないだけで僕自身にはテルを使うことの出来るポテンシャルはあるのではないのだろうか。周りを見るとおそらくテルを使って会話をしている人がいて建物の外へと水色の線が伸びているのが見える…
あの門番さんがやっていた様に手のひらに視線を向けて、そして線が伸びるようにイメージをしてみる…
「おっ!」指から線が伸び…そこからほとんど出て来なかった。1、2cm程は伸びてくれるのだがそこから先はどんなにイメージしても伸びてはくれなかった…
(一度諦めるか?)そう思い始めた時タイシに声がかけられる。
「あら?タイシさん、もしかしてテルを使おうとしていますか?でもそんなに手のひらに集中してもうまく使えませんよ。私も昔そうでしたしね〜」一度イメージをやめ、声の方を向くとオレンジ髪の受付嬢がいた。さっきまではギルドのマークの付いたエプロンを着ていたが今は私服になっている。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はテルノアです!ノアと呼んでくださっていいですよ!あなたみたいに昔はトラジさんと…あっ!えと…まあ教わってたんですよ!」途中で少し言葉が詰まったのが気になったがスルーする事にしてどうやったらテルが使えるようになるかを聞いてみた。
「えーと、先ほどステータスを解放した時にこの辺りが温かくなったのは分かりますか?」そうテルノアは胸の左辺りの心臓がありそうな場所を指差す。頷くと言葉を続ける。
「この辺りにはその人の力の源、魂とか根源とも呼ぶこともありますね。この魂は魔力が作られ貯められている場所でもあります。魔法を使う時はここから身体に流すようにイメージをするんです。テルを使うのであれば手のひらに流すように考えてみてください。」
アドバイスを元に心臓の辺りから手に魔力が流れるようにイメージすると…
「わあ!うまくいきましたね!」タイシの右手の指先から線が伸び今度は止まらずにフードコートの方へと伸びていく、そして…
「タイシ君かい?さっき僕は魔力線を切らなかったか?それかノアに頼んだのか?…まあいいやとりあえずカフェテリアにいるからノアと一緒においで、どうせ近くにいるんだろう?」そう言われたのでノアさんと一緒に実はカフェテリアだった元フードコートに行くことにした。
タイシはすぐにトラジを見つけることが出来た、理由は簡単である。何キロかありそうなフライドポテトをかなりのスピードで減らすテーブルがあったら目立つ、ただそれだけである。とりあえずトラジの向かい側に座るとノアはトラジから少しスペースをとり(人1人は入れそうなほどの空間を空けて)座る。トラジはすぐに気付きこちらを見る。
「タイシ、よければこのポテトを一緒に食べてくれないか?あまりにも安くなっててつい買っちゃったんだ。冷めないうちにノアも食べてくれ。」
タイシ好みの細めのポテトは美味しくてつい沢山食べてしまった。そして思った、
やっぱりフードコートかもしれない。
ポテトを片付けてひと段落した頃トラジがノアに聞く。
「なあノア、タイシはあとギルドカードが出来るだけで終わりかい?」
「はい、特に問題もなければ後はカードをお渡ししておしまいですよ。ただ魔法が使えるみたいなので上手くやればブロンズからスタート出来るかもしれませんけど…どうします?」ノアは突然タイシに聞いてくるが分かるわけがないのでトラジを見て助けを求める。
「昇級させてからスタートはさせなくていいよ、あとそれよりも気になることがある。さっきのテルはやっぱりタイシからか?」
「あれはタイシさんからですよ?どうかしました?」
「ノアは何かタイシにアドバイスしたか?」
「彼は魔力線を出すことは出来ていたので魂から魔力を流すようにと伝えただけですけど…?」
「マジか…なんとなく強くなりそうだから連れて来ただけだったのに…まさかこれ程までか…今からワクワクしてきちゃったよ。」
トラジは一度仕切り直すようにノアに向き直る。
「ノア、エリのこと覚えてる?今はエリ・アルドって名前の子。」
「はい、確か魔法の無い世界からいつの間にか来たっていう子でしたっけ?結構強い人でしたよね。えーと、サイタマっていう街?から来たっていう…」僕には分からない話が続いていて会話になかなか入れなかったが今の言葉に耳を疑った。
「今、埼玉って言いました?」
「そうだけど…もしかして知ってる?その子も今日の君と同じ湖の近くで迷子になっててね…」
「僕の世界ではえーと…東京って街の隣に埼玉って街があるんです。だからたぶん同じ世界からの転生者だと思うんです。」
「ちょっ、ちょっといいですか!?今日この世界や魔法を知ったばかりでテルを使えたんですか!?私は一か月はかかったのに…」テルノアはかなり驚いたようで最後には少しガッカリした様子だった。
「ノアだって十分早めの部類だよ…結局はイメージが上手く出来るか出来ないかだ。タイシ、エリって子は3日で魔法を使えるようになったんだ、イメージする力が強かったんだろう、何か共通点があるのかと思ってね。まさか同じ世界からだったのは驚きだけど…」
「その人に会うことは出来ますか…?」
「今どこに居るかによるかなぁ…ノア、エリの場所は分かるかい?」
そうトラジが聞くとノアは座ったまま窓口の方へと手を伸ばし窓口の奥からファイルを魔法で飛ばしキャッチしてそのままページをパラパラとめくり始める。
「タイシやエリがなんでこの世界に来たのか知るにはまずは情報が必要だから共通点を聞けると良いんだけどなあ…」
「ありました!エリ・アルド、ゴールド級冒険者で…最後に利用したギルドはヴェノス帝国支部…」テルノアの声は段々と尻すぼみになっていく。
「じゃあヴェノス帝国?に行けばいいんですか?そしたらエリさんに話を聞けそうですね。」そうタイシは聞くが返事が無い。2人を見るとノアは下のファイルの場所を見つめたまま動かない。トラジはただ一言口にする。
「行かない方がいい」
それを口にしたトラジの眼や雰囲気にただならぬものを感じタイシは背筋がぞくりとした。しかし、何故ダメなのかぐらいは知っておきたい。
「それは…どうしてですか?トラジさんがついて来てくれるなら大丈夫じゃ──」
「タイシ、じゃあ昔話をしよう」トラジは言葉を遮り雰囲気は落ち着いたが眼は真剣なまま話し始める。
「僕にはね昔結婚するはずだった人が居た。いわゆる許嫁ってやつだ、名前はスカイっていうんだけどね…」
月一投稿を目指していたら3か月経っていました…
まだまだこれからというところで終わらせたので次話は早く投稿しないとですね…
ちょっと人や単語が増えてきたので簡単な解説を入れようと思います。
タイシ(松坂 大志)…ラノベ好きの高校生、現実が退屈であまり好きではない、主人公
エレナ(エレナ・マリン )…ノーマル級冒険者、魔法が得意、ヒロイン
トラジ(トラジ インペーナ)…シルバー級冒険者、体力と防御が高い、過去に何かあった師匠
スカイ(スカイ インペーナ)…ゴールド級冒険者、素早さと力が高い、トラジの許嫁
ノア(テルノア)…元シルバー級冒険者、ある出来事で冒険者を引退した、トラジとスカイの弟子
エリ(エリ アルド)…ゴールド級冒険者、よく知る意味での転生者、トラジとスカイの弟子
冒険者ランク、下から
ノーマル、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと分かれているが例外としてプラチナ級より明らかに強いとアクアマリン級、それにも収まらない強さならミスリル級となる。
昇級試験、ノーマルからブロンズ、ゴールドからプラチナというような例外ではないランクになる際に受ける試験でありペーパーテスト、ダンジョン攻略試験、試験官との対戦などの項目によって点数が付き1項目100点満点で合格ラインを超えれば合格。ちなみにプラチナクラスでも合格ラインが最大200点のためペーパーテストが0点でもダンジョン試験と対戦で100点を取れば合格できる。
セントルーア王国、人の通行がかなり緩めで冒険者を目指す人が集まってくる国、自由度は高いが最近は様々な人が入ってきて治安の悪い場所が出てきている。
レイリーン湖、あまり有名ではない湖でエンス貝という貴重な貝が沢山生息している。水が綺麗でそのまま飲んでもお腹は壊さないしなんなら元気になる。
テル、魔力で出来た線を繋ぎ会話をしたり視界を送ったりと情報のやり取りが出来る。魔力消費がほとんどない。
自動翻訳魔法、スカイが復活させた会話のみ翻訳することの出来る翻訳魔法だが工夫しないと普通の魔力量では連続で5時間ほど使うと魔力を切らすことになる。
自動翻訳魔法(改)、トラジが改良した文字も翻訳することができる翻訳魔法だが普通の魔力量では連続3時間ぐらいで魔力を切らすことになる。
エルティナ鉱石、近くの空間から魔力を集めて保持してくれる金属で水色に輝く。魔法を刻むことで魔力が集まった後自動で発動させることも出来る。
エンスの真珠、レイリーン湖に多く生息するエンス貝がエルティナ鉱石を食べて作る宝石で水色、エルティナ鉱石よりも性能が高く魔力が集まっていないと光が通らないが魔力が溜まっていると透き通った見た目になり加熱をすると宝石から金属の性質に一時的に戻る。魔法を刻むことで魔力が集まった後自動で発動させることも出来る。
アボシュルド鉱石、周りから魔力を集めることはないが魔力を溜めることに特化しておりエルティナ鉱石とエンスの真珠と比べると同じサイズで1:10:1000ほど魔力を溜めることの出来る量が違う。金属だが魔力が溜まると宝石のように透き通る。また魔力を流さずにいくつかに分けることによってそれぞれに繋がりができ、その繋がりはテルで作れる魔力線よりも強力。
翻訳の指輪(改)、トラジが昔作りタイシに渡した指輪。エンスの真珠による宝石とエルティナ鉱石のリングで出来ており自動翻訳魔法(改)が刻んであり自動翻訳魔法の多い消費魔力を近くから魔力を集めることによってほぼ0に抑え僅かに自分の魔力を使う事によって魔力のステータスを上げる事もできる。
繋がりの指輪、エレナが昔貰ったアボシュルド鉱石で作った2つの指輪、エレナとタイシが持っており一つの指輪にタイシ1人分ほどの魔力を溜めることが出来る。
ちなみにエンスの真珠の石言葉は「大切な人」
アボシュルド鉱石は「絶対に離さない」