【短編】寡黙騎士が捧げるヒロインの取り扱いに対しての嘆願書〜本気は辞めてください聖女様〜
聖女様へ
お願いです。以下の事をお守りください。
ひとつ
俺の名前はちゃんと呼んで下さい。
ふたつ
騎士達に差し入れはご遠慮願います。
みっつ
不用意に他の方に近づかないで下さい。
よっつ
部屋を出る時は同行します。呼び出して下さい。
いつつ
必要以上に聖魔法を使わないで下さい。
むっつ
俺に手作りクッキーはくださらないのですか?
ななつ
ことあるごとに「眼が潰れる」と叫ばないで下さい。
ジュード より
俺は力強い字で『嘆願書』と銘打った要望を手紙に書いてから、何度か読み直した後に直接渡すために王宮の客間を訪れる。
やはり「ま、眩しい!」とテンション高めに叫ばれたが、何とか手紙は渡せた。
次の日「善処します!」と、手紙の返事が来たけれど、読み取った手紙の内容からコチラの意図が伝わっていないと落胆した。
同日、王妃様の茶会で護衛として壁際に佇んでいたが、コチラをチラチラと見て来る聖女様を微笑ましく思いながら、任務を遂行。
しかし、その数日後には王妃様から「普段から頑張っている方々にも」と、定期的に菓子の差し入れが入るようになって、聖女様が食べ物関係を俺にくださる事はなくなった。
本人的には嘆願書の内容に触れないように気をつけて過ごしてくれている数ヶ月後、耐えきれなくなって更に追加の手紙を聖女様に手渡した。
呼び捨てで構わないと言ったのに、今だに呼び方が変わらない彼女に、少しでもこの想いが伝わる事を願いながら。
サクラ へ
以下の事を守って下さい。
ひとつ
いい加減「ジュード」と呼んで下さい。
ふたつ
何度も言いますが、騎士団の訓練の見学はご遠慮願います。
みっつ
騎士に賄賂(菓子)を渡して戦闘訓練に参加しないで下さい。サクラの身は俺が守ります。
よっつ
目立ちたくないと言う割に、城を抜け出して色々やらないで下さい。
いつつ
1回で済むようにとか言って、広範囲魔法をブッ放すのは駄目です。
むっつ
甘い物が好きなんじゃなくて、サクラの作ったものだから食べたいんです。
ななつ
頼むから「てぇてぇ」と言って鼻血を出して倒れないで下さい。俺の名前は「推し」じゃなくて「ジュード」です。
ジュード より
3日後に「本気出して頑張ります!」と、手紙が来たが相変わらずの内容に頭を抱えた。
サクラ流に大事なことは2回言ったつもりだが、手紙の出だしが「神様へ」になっているので、むしろ悪化したかも知れない。
何を頑張ろうとしているのかよくわからないが、碌な事じゃなさそうだ。広範囲魔法の更に上でもあるのか?
異世界から召喚された聖女様の護衛担当を任されたが、天真爛漫な方。俺以外には。
何故か過度に崇められているような扱いに、コレではどちらが主人かわからないような態度で困ってしまう。
嫌われてはいないようだが、多分俺の好意とサクラの好意は違うものなんだろう。
一度直接「好きだ」と伝えたら、そのまま失神してしまわれたので落ち落ち口説けもしないので困り果てている。
次に会った時には告白の事は「あのドレスが好きだったのね」と、いつものように脳内変換されていた。流石にそうじゃないと言おうとしたらサクラの侍女に止められてしまった。サクラが憤死? するから真実は言うなと。
ちなみに護衛になった俺が自分のせいで騎士団の訓練時間が削れたと思い込んでいるサクラだが、自分が訓練を見学すれば近くにいるからいいのでは? と、明後日の方向に頑張り過ぎて一緒に戦闘訓練に参加しようとする始末。訓練もだが、色々と危なっかしくて気が気じゃない。
他に行くこともないが、前に進みもしないあの規格外の方に一目惚れしたのが茨の道だったと思えど、諦める事も出来ないでいる。
俺の声は好きらしいのだが、今のサクラには刺激が強すぎるので普段はあまり喋れもしない。
遠くから眺めているくらいが丁度いいと言っている、サクラの期待に応える事が出来ない俺はわがままな男なんだろうな。
俺への賛辞が並べられた……普段は口にするのは恥ずかしいからと、これでもかと文字が書かれた熱烈なラブレターを何度も読み直す。嬉しさと同時に虚しさを抱えつつ、この方をどうやれば攻略出来るのかと、暫く思考の渦に囚われた。
ジュードとサクラ。
攻防と言う名の不憫な推しVS超鈍感系主人公の歩み寄りは、その後周りの盛大な後押しにより2人が結婚するまで続いた。
ー
オマケ
ヒロイン
「はぁ〜♡……おはようございます。今日も素敵です。あぁ、好き過ぎるっ!?」
推し
「…………」(新手の拷問か?)
モブB
「ジュード様が困ってますから、それくらいにしてあげてください」
侍女
「鼻血出さないで直視して言えるようになっただけ、大分マシになりましたね聖女様」(感激)
お読みいただき誠にありがとうございました。