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王国の彼是  作者: 紗華
99/197

98:静かな願い

それは…まるで一枚の絵の様だった…


「改めて。セシル嬢、快気の祝い申し上げる。フラン・ダリア・スナイデルだ。まじ…叔父上を止められず申し訳なかった」


「王太子殿下に拝謁致します。アズール伯爵家が長女、セシル・ファン・アズールにございます。殿下に於かれましてはご清祥の事とお慶び申し上げます。こちらこそ、はしたないところを…お目汚し大変失礼致しました」


お目汚しではないが、大変気まずい…

突然駆け出した叔父を追った先で、俺達が目にしてしまったのは…

何とも破廉恥で濃い……不可抗力とはいえ、目にしてしまった背徳感と、バレた時の恐怖が押し寄せ、踵を返そうとした俺たちだったが、オレンジ愛に溢れ過ぎた、フェリクスの空気を読まない一言に止められた。


()()と、言おうとしたか?」

「?!まさか…」


「お姉様…ジークお義兄様の事を魔人だなんて…失礼だわ」

「だって、本当に頑丈で、びくともしないんだもの…」

「あの程度、猫がじゃれついてる様なものだ」


「腕力では貴方に敵わないかもしれないけど、この丘の登り降りで鍛えた脚力ならーー」

「お姉様?!」

「?!だからっ、足を!スカートを捲るな!!」


「すごいな、叔父上をこんなに動揺させるなんて…」

「ええ、叔父上にも弱点があったんですね」


セシル嬢のスカートを押さえながら、慌てふためく叔父上からは何の威厳も感じられない。

俺達の守護女神となるセシル嬢は、伯爵夫人に似た儚げな美人だが、中身は対極にあるらしい…なんとも心強い。


「ジークはセシルにべた惚れですからね。月に一度、半日かけて馬で来て、一刻も居られないまま、又半日かけて王都へ戻る。これを8年間続けていたんです」


「フェリクス…お前は又余計な事を…」


「そうだったのか…セシル嬢、目覚めてくれてありがとう」

「本当に、目覚めて良かったですね。叔父上、幸せになって下さい」

「お前達が素直なのも、気持ち悪いな…何か企んでいるのか?」

「「………」」


日頃の言動が原因ではあるが、ここまで信用されていないのか…


「私は何も知らなかった…お義兄様が、お姉様と婚約したままだった事も、アズールにお姉様に会いに来てた事も…殿下の専属になる事が決まって、勇気を出してお義兄様に話をしに行って…本当に…驚いたわ」


「私も驚いたわ…目が覚めたら、赤ちゃんだった筈の甥と姪がベッドを覗き込んでるんだもの。お父様の髪には白髪が生えてるし…フフッ…流石お母様は、あまり変わってなかったわね……だけど、一番驚いたのは、鏡の中に私と似た大人の女性がいた事…そして、それが私だった事…家族は泣いて喜んでくれたけど、私は失われた8年の長さに絶望したわ。この8年があればって…目覚めてから何度も思った。誰にも会いたくなくて、自分の姿を見るのも嫌で、屋敷に篭って、鏡も全て外した……そんな鬱鬱とした日々を変えてくれたのは、開いた窓から入ってきたオレンジの花の香りよ…勇気を出して行ったオレンジ畑は何一つ変わっていなかった。そしてジークも、私を変わらず愛してくれてるって聞いて涙が止まらなかった…それからは、聖堂に通ったり、畑の手伝いをしたり…お母様の再教育も大変だったわね。でも一番大変だったのは、ジークがお見舞い来た時だった。寝たふりでいいのに、息まで止めちゃったりして…フフッ…」


8年…セシル嬢は笑顔で話しているが、失われた年月を受入れ、外への一歩を踏み出すまでに、どれ程の涙を流してきたのか、その涙を受け止める家族もどれだけ苦しんできたか、8年を含めた今日までの道程に、頑張ったなどと軽い言葉をかける事は出来ない。

言葉をかけようなどと考える己に、烏滸がましささえ感じる…


「寝たふりって…そんなに前に目覚めてたのか?!」

「王都に銀粉が降ったっていう日にね」

「銀粉が…アズールにも降ったと?」


「いいえ、私の夢の中でございます。この8年、夢を見ていたのか、見ていなかったのかも覚えておりません。ですが、あの日の夢は覚えております。暗闇に舞う銀粉がどんどん降り積もって…このままでは埋もれると思って手を伸ばしたら、可愛い姪が手を取ってくれて、目が覚めたのです」


加護の力が目覚めた時に銀粉が降ると、ナシェルが言っていた。オレリアの加護の力は完全ではなかったが、それでも…


「あるべきものを元の状態に戻した…」


『左様』


「「「鯨?!」」」

「「「?!眷属レナ?!」」」


声と共に姿を現したのは、夜会で目見えた時と同じ、白鯨の姿をした眷属。

子供の頭程の大きさの白鯨が、フヨフヨと空を漂う姿に、アズール兄妹は腰を抜かし、抱き合ってその場に座り込んだ。


『久しいな、伴侶よ』

「…何故…?レナが此処に…」

『寵児が汝等を護って欲しいと祈っておったのでな』

「リアが?だが、レナはリアのそばに居なくていいのか?」


『我は次元に干渉されない。汝等が半日、一日かけて走る距離と時間というのは我にはない』

「身も蓋もない事を…まあ、いい。セシル嬢の目覚めはリアの力だったと?だが、教皇は不完全だったと言っていたが?」


『不完全故の限定。寵児の強い願いの一つに加護が発動したということよ』

「オレリア嬢が、セシルの目覚めを願ってくれていたと?」

『それは寵児に聞くといい。我に寵児の願い事までは分からん』


「オレリア様が…私の為に」

「ずっとおそばに居たのに…知らなかった」

「オレリア様に感謝しなければな」


涙を流す妹2人を抱き締める兄の背も、微かに震えている。


そこに在るなら目覚めて欲しいという願いは、母を亡くしたオレリアだからこその、静かで強い願いだったのかもしれない。


今も、王都で俺達の無事を祈る、この世の誰より愛おしい人に会いたい、抱き締めたい。


それぞれが感動と郷愁に浸る中、花籠の上をフヨフヨ漂う白い物体。


『我は戻るが…それは食べられるのか?』


次元に干渉されない眷属は、人の感情に干渉しない…


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