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王国の彼是  作者: 紗華
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96:アズール領

王都とアズール領を結ぶ、オレンジ街道の出発点のアズール関所を潜り、馬車は街中へと進む。


エルデは片田舎の小さな領と評してしていたが、デュバルとラスターの真ん中に位置するアズールは、両領地の通過点にもなっている為、街並みは整備されており、想像以上に栄えている。


「そろそろ大通りですね」

「叔父上、窓を開けてもいいですか?」

「どうぞ、領民達も喜ぶでしょう。近衛は殿下の視界を塞がない程度に少し下がれ」


窓を開けた叔父の指示で、騎馬が後方の車輪辺りまで下がると視界が大きく広がった。


海側の領地特有の白と青の塗料で彩られた建物にはダリア国旗が掲げられ、伯爵家の屋敷へ続く大通りの両側には、王太子一行を一目見ようと馬車に向かって手を振ったり、声をかけたりと、たくさんの領民が集まっている。

手を振り返すと歓声が一際大きくなり、その様子にお祭りの見世物になった気分になる。


「まるで見世物だな」

「…また頭の中を読んだんですか?」

「いや、顔に書いてある。お前もまだまだだな、笑顔の練習をしろ」

「………善処します」


領民達の熱い歓迎に応え続けて顔の筋肉が痙攣し始めた頃、漸くアズール伯爵家の屋敷が見えてきた。

白い壁と青い屋根の屋敷を囲む花壇には花が咲き、芝生が敷き詰められた広い庭園には、オレンジの苗木の鉢植えが整列している。


自らの手でオレンジを育てているというアズール伯爵の、オレンジへの愛情が窺える庭園に騎士団の天幕を張らせてもらうと聞いて驚いたが、アズールの遠征の際はいつもそうしていると話す叔父が指で示した先は、鉢植えが寄せられ、天幕を張る為の場所が作られていた。


馬車寄せで馬車を降り、騎士達が整列する玄関ポーチまで続く道を進むと、伯爵夫妻と後継親子、屋敷の使用人達が片膝を着いて首を垂れて待っていた。


未だ慣れない光景に苦笑いが漏れる。


「皆、楽に。フラン・ダリア・スナイデルだ。アズール伯爵、領を挙げての歓迎感謝する。暫くの間世話になるが厚遇は不要、常の通りで構わない。騎士団共々宜しく頼む」


「王太子殿下に拝謁致します。アズール伯爵家が当主、アラル・ファン・アズールにございます。殿下に於かれましては、ご清栄の事とお慶び申し上げます。この度はアズールの魔物の調査と討伐にご足労頂き、騎士団の皆様にも感謝申し上げます。又、娘エルデもお世話になり、重ねて感謝申し上げます」


「エルデ嬢には、私の専属侍女としてだけでなく、王妃陛下と王女の癒しにもなってくれている。両陛下から、アズール伯爵に宜しく伝えて欲しいと言葉を預かっているよ」


「勿体なきお言葉…至極恐悦にございます。中にご案内致します。団長方もご一緒にどうぞ」


通されたのは応接室ではなく、明かり取りの大きな窓から光が差し込むサロンだった。

硝子戸の向こうはテラスになっており、花壇に咲いた花を楽しめる様、日陰を作る高い木の下辺りにベンチが置かれている。


「騎士団長と近衛副団長の紹介は割愛させてもらうよ。侍従のカインと侍従補佐のレイン、専属護衛のウィルとネイト、専属侍女のカレンとドナだ」


「改めて、殿下並びに皆様に歓迎申し上げます。私の家族をご紹介させて頂きます。妻のエルザ、後継のフェリクス、息子の妻で義娘のアンジェでございます」


「エルデ嬢の美しさは夫人譲りなんだね。アズール伯爵は、宰相から話をよく聞いているからか、初めて会った気がしないな、寧ろ懐かしく感じるよ。フェリクス夫妻は叔父のジークと同窓だと聞いている。会えるのを楽しみにしていたよ。セシル嬢の事も…お見舞い申し上げる。セシル嬢が目覚める日を、叔父と共に待っているよ」


伯爵とフェリクスは、宰相と同じく、適度に日焼けした肌が健康的で、身体も騎士並みに出来上がっている。

凛としたエルデと儚さを感じさせる夫人は、種の違いはあるが、よく似ている。


「…か、過分なお言葉痛み入ります。私も宰相閣下から殿下の事を伺っております。お会い出来るのを楽しみにしておりました」


「ありがとう。早速だが、今回の遠征目的は出現率が上がっている魔物の調査と討伐。オレンジ畑の面積拡大の為の土壌の浄め、養蜂の実地試験。それから…ネイトとエルデ嬢の結婚のご挨拶かな?ラヴェル騎士団長、ネイト、エルデ嬢、君達は残って伯爵夫妻にご挨拶を。私達は…そうだな、オレンジ畑を案内してもらおうか、フェリクス、頼めるか?」


「「「「?!」」」」

「ん?」

「畑に…勿論に…ございます」

「…畑に、何か不都合が?であれば、騎士達と森の下見に行くから明日でも構わない」

「っいいえ!不都合など何も…フェリクス、頼んだよ」

「殿下、皆さんもご案内致します」


エルデの帰郷は久しぶりの事で、更に今回はネイトとの結婚報告も兼ねている。

慶事の挨拶は一刻も早い方がいいだろうと提案したが、伯爵達は大いに動揺した。

心の準備が必要だったかとも思ったが、どうやらオレンジ畑の案内に戸惑いがあるらしい…


何を隠しているのかは分からないが、人の良さが滲み出ている伯爵達に、悪い事ではない事だけは確信出来る。


緩やかな丘の海側の斜面に広がるオレンジ畑は、潮風と太陽の光を浴びる濃緑の葉と、白いアズールオレンジの花からは甘い香りが立ち、長閑な空間に満たされている。

だが、立ち入る事が出来ない様に柵が張られた、森に近い裏側の斜面は、魔物に荒らされ、土壌も瘴気で汚染されており、鬱蒼としている。


今回の遠征では、この森に出没する魔物の調査と討伐。そして、レインが捩じ込んだ土壌の整備と、畑拡大の計画が立てられており、柵の向こう側には、森の下見に来たのだろう騎士達が集まっていた。


「殿下、私も森の方へ行って参ります」

「レイン、逸る気持ちは分かるが、森はまだ危ないだろ。下見の報告を待ってからでもいいんじゃないか?」


騎士達を視認したレインが、目に光を湛えて騎士達の下見の同行を申し出てきたが、文官のレインは剣が使えない。

行かせてやりたいのは山々だが、危険な目に遭わせるわけにもいかない、どうしたものか…


「この日の為に、義兄から剣を習いました。騎士の皆さんのお手を煩わせない様、奥には行きません。なので、お願いします」


「ウィルに剣を…仕方ないな、ならウィル、レインと共に森の下見に行ってくれ」

「ですがーー」

「今日は俺も剣帯してるし、叔父上も輪番護衛もいるから問題ない。ですよね?叔父上」

「全く、こき使ってくれますね…仕方ない。ウィル、レイン、行ってこい」

「「御意」」


この日の為に剣を練習してきたと言うレインの腰には、既に剣が佩てある。

付け焼き刃の技量と自覚して、無理もしないと言われては、否とは言えない。

腰に佩た剣を抜剣する事のない様にと祈りながら、畑に足を踏み入れる。


その先に、思いもよらない人がいると、知らないまま…



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