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王国の彼是  作者: 紗華
91/197

90:溶けた氷 フラン&オレリア

跪くオレリアの両脇に手を差入れ、掬う様に抱き上げる。


壊さない様に抱き締めるのが難しい…


ウィルと護衛達が、こちらに背を向けてガゼボを囲み、片手を上げてきた。


緊張と興奮で汗をかいたのであろう、額に張り付いた前髪を避けて口付ける。目尻、頬、顳顬、耳…顔を離すとオレリアがそっと目を開いた。


「フラン様…」


小さな顔を両手で包み、返事の代わりに口付ける。

己の名を紡ぐ愛おしい唇を啄み、甘く噛んで舌でなぞると、首に腕を回し、薄く唇を開いてきた。

迎えられるままに舌を入れ、甘くて柔らかい舌を絡めとり優しく吸い上げる。


「…っふ…ん…」


角度を変えて何度も口付け、腕の中で小さく跳ねる身体を撫でながら、舌を動かし上顎をなぞると、鼻から抜ける様にオレリアが喘ぐ。


……危なかった……自制が利かなくなる前に唇を離して、抱き締め直し、そっと周りに目を向けると、仕事が出来る護衛達は耳を塞いで立っていた。


指に絡む銀糸を握り締め、背中に回した腕に力を込める。


「辛い思いをさせて悪かった。リアの本音を聞きたくて、キツい事を言った。オスロー伯爵令嬢の事も…言い訳になるが、あの夜会で再会するまで彼女の事は忘れていた。取るに足らないとまでは言わないが、俺にとっても、勿論彼女にとっても、そこまで重要な過去ではないんだ。だけど、きちんと話すべきだった…傷付けて、酷い事を言って責めて…本当に、ごめん…」


目の前で涙を堪えるオレリアを責める事はとても辛く、涙を流すオレリアに、更に追い討ちをかける己にさえ憎しみを感じた。

固い決意で挑んだ事だが、あのウィルが止めに入る程に酷い事をしたのだと思うと、どれだけ謝っても全然足りない。


「私が臆病だったのです。お2人がとても自然で、私といる時よりもフラン様が安らいでおられる様に感じて…淋しくて、怖くて……本当は、あの様な事言いたくなかった…」

 

「彼女とは旧知という事もあるが、魔術師団員だった彼女は、思考も言動も貴族のそれとは遠いし、無礼な程に自然体の人間だ。そういった意味では気安いし、話しやすい事は否定出来ない…かな」


「…学園の授業以外でも、リディア先生とお話をする機会がありました。とても綺麗で優しくて、素敵で、大人で……私ではとても敵わないと、分を弁えなかった私への罰なのだと思ったら、ネイト様にお話を聞いても自信が持てず、今日の登城も連絡する勇気が出ませんでした…フラン様、本当にごめんなさい…」


オレリアの瞳に、再び涙が溢れる。

リディアの事に傷付き、ナシェルの事で心を傷め、更に今日の俺。


4年分の思いの丈を、全て吐き出すまでにはいかなかっただろう。だが、普段は泣く事などない、一分の隙も見せないオレリアが、流れる涙を拭いもせず、悲痛なまでに叫ぶ姿に、俺も、ウィルも、護衛達も、息が止まる程の衝撃を受けた。


「何度も言うが、俺はありのままの君を望んでいる。俺に対して分を弁える必要なはない。我慢などしなくていい。傷付けた俺が言うのもなんだが、頼むから1人で傷つかないでくれ」

「……はい」


「だが、今回の事も、オレリアに自信を持てないと言わせた事も、全ては俺の責任だ。今からその責任を果たすよ」

「………え?」


ーーー


「あの…フラン様…」

「ん?」

「お、お紅茶をーー」

「ああ、ほら熱いから気を付けて」


「ひ、膝から、降ろして頂ければ、フラン様のお手を煩わせずとも、1人で飲めますので…」


「却下」


フラン様の腰に回された手に力が入って、更に引き寄せられる。


何故、私はフラン様の膝の上に…責任を果たすとは、果たしてこの事なの…?

離れているとはいえ、周りに人が居るから恥ずかしい、勿論2人きりでも恥ずかしい。


フラン様は普段から人に囲まれてるから、羞恥の基準が常人とはズレていらっしゃるのかもしれない…


「リア、明日から暫く王都を離れるから、今日は俺の我儘を聞いて欲しい」


「…フラン様が遠征へ赴かれる前に、お会い出来て嬉しかったです。ナシェル様の墓参は試験後の予定だったのですが…遠くからでも、お姿を拝見出来たらと思って、陛下とお父様に我儘を申しました。どうか、お身体に気を付けて…お帰りをお待ちしております」


王都を離れるフラン様、遠征先のアズール領は魔物の出現率が上がっていると聞いている。


お願い、誰も私からフラン様を奪わないで…


祈る様に抱き締めた腕に力を込めると、フラン様が胸元で呻いた。


「リ、リア……腰に…くる…」

「っ申し訳ございません…重かったでしょうか…?」

「いや…リアは軽いが…下の…」

「?下…?」


俺の頭を抱えたオレリアの腕に力が入った…ご褒美などと喜んではいられない、その甘い香りと柔らかさは凶器。

先日のエルデもだが、デュバル家の閨教育はどうなっているんだ…あまりにも無防備が過ぎる。


「いや、何でもないよ…そうだ、エルデがもう直ぐここに来る。久しぶりだろう?」

「エルデが…はいっ!」


エルデよ、オレリアをこんな笑顔にさせられる君が憎くて羨ましい。

こんな事を口にしたら狭量と言われるだろうから声には決して出さないが、エルデの席を用意しながら呆れた視線を寄越すカレンは、間違いなく気付いている。


「オレリア様、お久しぶりです。お膝の上でお紅茶を飲む…1つ叶いましたね」

「?!エルデ!!」


デュバル直伝の身体能力で、俺の膝から飛び降りたオレリアが、エルデに駆け寄り抱き締める。

麗しい2人の笑顔の抱擁は眼福。距離を置いて立つ護衛達の顔も弛み切っている。


「オレリア様?殿下のお膝から飛び降りて、駆けるなんて…はしたないですよ」

「もっ、申し訳ございません…フラン様」

「構わない、エルデは明日の準備は出来たのか?」

「はい…ネイト様が準備をしてくれました」

「あいつは…本当に張り切ってるな…」


結婚証明書を常に持ち歩き、暇さえあれば、暇がなくても、胸元から取り出して眺めている。弛み切った顔を晒すネイト諸共斬り捨ててやりたいと、何度思ったか…


「エルデ、貴女がネイト様と一緒に住んでるって、伯父様が泣いてらしだけど…本当なの?」


登城した時に挨拶をした伯父様から、エルデとネイト様が同じ部屋て暮らしていると聞いてとても驚いた。

ハンカチをお渡しする間もなく、共に登城したお父様に引き摺られて行ったけれど、エルデは未婚の令嬢なのに…本当であったら、お父様ときちんとお話しなくてはならない。


「……はい」

「そんな?!それじゃあエルデは……ネイト様と…ど、同衾を?その…大丈夫なの?」


エルデの話に衝撃を受けたのだろう…オレリアは俺の事なんぞ忘れて、エルデの身を心配をしているが、俺はネイトの身を心配している。


「そうですが…大丈夫です。オレリア様と一緒に頂いた、ユリウスおじ様の教育本の通り、初夜は結婚式とお伝えしましたから」


「そう…なら大丈夫なのかしら…?」

「ユリウスおじ様も心配して下さっていますが、今のところは大丈夫です」


2人の会話に聞き捨てならない名前と言葉。宰相の閨の教育本とは?オレリアも一緒?妃教育にもある閨教育はどうなっている?


「……君達、つかぬ事を伺うが、その()()()とは?」


「?!わ、私…なんてはしたない事を………どうか御容赦下さい、フラン様」


「本当に申し訳ございません…殿下」


「却下だ。君達の教育本とやらは宰相が?」

「「………はい」」

「その本、見せてもらえるか?」


オレリアとエルデの閨教育は、宰相が妨害工作をしていた事が判明。

没収した本の中身は閨の()の字も見当たらない。

医学書を丸写しにした、男女の身体の構造の違いが本の大半を締め、肝心の閨については例の小説を筆頭に、巷で流行っている恋愛小説の題名と、上記の小説を参考にとしか書かれておらず、それらの小説はどれも、エルデの言うウェディングドレスを脱いだ後、次の行で朝を迎えてしまっている。同様の場面は全て数行で収まっており、全く教育になっていない。

ネイトの心配をしている場合ではなかった…


そんなネイトはこれから数時間後、その弊害に見舞われる



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