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王国の彼是  作者: 紗華
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85:団長と… ネイト

今となっては唯一の王太子であるフランの護衛は、これまでになく厳戒で、輪番護衛に就く近衛騎士も人選が徹底されている。


王太子の専属護衛はウィルさんと俺の2人のみ。

当初は男色疑惑に巻き込まれたと思っていたが、フランとの相性は勿論の事、実力もそれに含まれていると自負している。


基本は24時間護衛。昼間はほぼ休憩なし、夜は輪番の騎士と順に仮眠を取り、翌早朝にウィルさんと交代するが、儀式や夜会等の公務、お忍びの外出時は2人で付き、そうでなくても何だかんだと(主にエルデ絡みで)行動を共にしている為、これまでまともな休みは取れていない。が、今日は、一日、絶対に、誰にも、邪魔はさせない…


「ネイト、今日は休暇だったよな?」

「?!無理です!」


ウィルさんと交代して、早朝訓練で軽く汗を流し、仮眠を取ってから…なんて考えず営舎に戻ればよかった。訓練場で声をかけてきたジーク副団長に嫌な予感しかしない。


「…まだ何も言ってないだろ」

「言わなくて結構です。今日は大事な用事があるんで無理です」

「大事な用って…大聖堂に結婚証明書を取りに行くだけだろ?」


「だけとはなんですかっ、俺にとっては()()()ですよ!」


「出かけるついでに、学園に寄ってくれ」

「人の話を聞いてます?!」


大変失礼ながら、伯爵にはエルデをソアデンに迎えたいと手紙を送り、オレンジの苗木と共に承諾の返事を頂いた。

エルデ曰く、アズールでは娘を嫁に送り出す際、新居に植えるオレンジの苗木を持たせる風習があるという。

残念ながら結婚してからも暫くは営舎暮らし、苗木は実家の庭園の一番陽当たりのいい場所に植え、家族が、特に脳筋が丹精込めて世話している。


今回のアズール領への遠征で、脳筋と共に伯爵夫妻に正式に挨拶をして、結婚証明書に署名をもらう。

大いに私情を挟んだフランの同行に多少の後ろめたさはあるが、レインだってオレンジの為に行くのだから、俺もエルデの為に行ってもいいだろう…


「研修の修了証を届けるイアンに同行するだけだ、直ぐに済む」


本来であれば、夜会の警備に就いた学生達を労い、研修の修了証を持たせて学園へ帰さなければならなかったのだが、あの日酔い潰れてしまった3人は立ち上がる事もままならず、仕方なく学生達を手ぶらで帰した。


「修了証、渡せないまま学園に帰したんでしたね。揃いも揃って酔い潰れるなんてあり得ないでしょ…」


「ナシェル殿を悼んでたんだ」

「……貸しですよ」


俺の中のナシェル殿の印象は、人としてはあまり知らないが、王太子としては良、エルデ絡みでは最悪だった。

その良であった印象も、あの日の夜会で霧散し、当初の罰であったボーエン辺境伯領の騎士団入りには甘いくらいだと思っていた。


面会の日に、ナシェル殿の口からエルデの名前が出た時は、陛下の言葉も護衛の本分も吹き飛ぶ程の怒りが沸いた…目の前の憎たらしい小僧には、何れ相応の罰を与えられるのだと己に言い聞かせて、強引に溜飲を下げたが、その何れがこんなにも早く、相応の罰が命を散らす事だとは思ってもいなかった。


あの夜会の後、俺達が下らない問答をしている時に、団長達は静かにナシェル殿を悼んでいた…酷い有様に鼻を押さえたが、赤く腫れた目に、有事があったらどうするんだと責める気にはなれなかった。


ーーー


「先に大聖堂へ行くか」

「…イアン団長と一緒にですか?」

「なんだ、不満か?」

「いえ…」


「祈ろうと思ってよ……ナシェル殿の最期の晩餐に付き合ったのは俺でな、立太子前のナシェル殿の専属護衛だった俺に、別れの時間を作ってくれたんだろ…陛下がワインを持たせてくれて2人で飲んだ…身勝手な理由でオレリア嬢を傷付け、フランに全てを丸投げし、国を揺るがした。お前達にとっては憎むべき相手だっただろう…だけどな、俺からしたら認められたいと必死にもがく不器用な小僧でもあったんだよ…」


「憎たらしいとは思っていましたが、憎んではいません。フランも…空っぽの墓に毎日通って、話しかけてますよ」


「……空じゃない…ナシェル殿の身体はないが、小説が2冊入ってる」

「小説?」


「ナシェル殿とオレリア嬢の分のな、あの小説がなければ…あるいは……なんて、フランには言うなよ?あいつは狭量だからな」

「言いませんよ…」


フランも、イアン団長も、オレリア嬢も…それぞれナシェル殿を悼み偲んでいる。俺は彼等の悲しみが昇華されるのを見守るだけ…


「そういえば、エルデ嬢は王城に残るって?」

「……ええ」

「あんまり嬉しそうには見えないな…もしかして飽きたのか?」

「…違いますけど、言いません」


「なんだよ…俺は上司で、人生の上でも先達者だぞ?いいから言ってみろ」

「その先達者である団長も経験していない事ですから、言っても解ってもらえません」



『エルデ…その荷物は?』

『ネイト様、私も今日からこの部屋で暮らす事になりました』

『公爵家には戻らないのか?!』


『はい、殿下と旦那様と相談して決めました。事後報告になり申し訳ありません』


『いや…仕事に関する事に俺は決定権もないし、フランと公爵と相談してエルデが決めたんだろ?アズールから戻ったら籍も入れるし、いいんじゃないか?』

『良かった…ありがとうございます。宜しくお願いします』


『それじゃあ…エルデ…』


『待って下さいネイト様っ、初夜は!先日も申し上げた様に結婚式の後です!』



荷物を抱えて部屋にやって来たエルデは、王城でフランの専属侍女を続ける事と、俺の部屋に引越す事、そして、やはり、結婚式まで初夜はお預けという事を話してくれた……同じベッドで寝起きしているのにキス止まり、エルデの安らかな寝顔を見ながら()()()を慰める俺は最早変態…


俺の苦しみを知らない無防備なエルデが悪魔に見える。こんな決定をしたフランと公爵が憎い…


「経験していないって…まさか…エルデ嬢の夜が激しーー」


「その対極にある問題です」

「……致してないと?」


「初夜とは、白い身体に纏った白いウェディングドレスを、夫が脱がせるところから始まると…そんな夢を語られたら何も出来ませんよ」


「……小説の読みすぎだろ」


「寝起きのエルデ、常装の釦を留めるエルデ、ワインにほろ酔う上機嫌なエルデ、風呂上がりのエルデ、寝返りを打って抱きついてくるエルデ…」


「……拷問だな」

「ここまで聞いたのなら、助言はしてくれるんですよね?出来ないと言うなら、俺と同じ目に遭って下さい」


「俺に死ねと言ってんのか!?」


「死にませんよ…下の団長が辛いだけです」

「そんな体験はいらん!」

「体験するのではなく、しないんです」


「だから!体験しない体験は要らんと言っている」


「体験しない体験をしないと俺の気持ちが分からないでしょ!」


「…何を言ってるのか分からなくなってきた…ナシェル殿のついでにお前の事も祈ってやる」


静謐な空気を汚す様な祈りなんかしたら、女神ジュノーに蹴飛ばされるぞ…





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