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王国の彼是  作者: 紗華
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84:部屋割 オーソン&エルデ

3月の終わり、ナシェル様が廃太子宣言した夜会で幕を開けたダリアの社交シーズン。

1日経たずしてオレリア様は殿下と面会、春にしては日差しが強い日で、心労が癒えいまま登城したオレリア様は、気の利かない殿下のせいで倒れた。


執務に忙しい殿下と、療養していたオレリア様は、文通から交流を始めて、次に会えたのは4月の終わり。

城下町のお忍びの外出は、オレリア様の平民風のワンピースがとても……浮いていた。

5月に行われた殿下の立太子の儀と、殿下とオレリア様の婚約の儀。大聖堂で倒れたオレリア様は人形の様で、このまま目が覚めないのではないかと心配でならなかった。


王城で療養していた6月、オレリア様はナシェル様と面会。私はネイト様の求婚を受けて婚約…ラヴェル騎士団長様とネイト様のやり取りは、思い出すだけで今も震えがくる。

オレリア様が7月に復学して、直ぐに立神の儀と先日の夜会。ジークお義兄様と姉の話には衝撃を与えられ、エレノア様とヨランダ様には…色々なものを削られた。


『ナシェル』とだけ刻まれた石の上に置かれたダリアの花は、殿下が毎日1本ずつ添えたもの。

赤、橙、紫、青…色とりどりのダリアの横に、ナシェル様が好きだった黒ダリアを手向ける。


ナシェル様の好きな紅茶の種類、好きな花、好んだ髪型、好んだ化粧…オレリア様が叱られない様にナシェル様の様々な好みを覚えた。


「すっかりナシェル様の達人ね………憎めたらもっと楽だったのに…」


「本当にな」

「?!…殿下、ウィル様、今日は白いダリアですか?」


零した独り言に同意され、驚いた私が振り返った先にいたのは、早朝訓練の後、自室へ戻る前に、花を手向に寄るのが日課の一つに加わった軽装の殿下とウィル様。

殿下の肩には拭い布、手には白ダリアを持っている。


「エルデはいつも黒だな」

「ナシェル様は黒ダリアがお好きだったんですよ」

「そうなのか…」

「でも、一番好きだったのはオレンジの花なんです…」


オレリア様が初めてプレゼントしたのは、アズールオレンジの花で作った栞。いつも本を読んでいらっしゃるからと、ナシェル様の好きな花で作ったプレゼントだった…ナシェル様は、どんなに責めても、拒絶をしても栞だけは使い続けていた。だからだろうか、オレリア様を傷付けた事は許せなくても、憎む程にはなれなかった。


「それでは、私は仕事に戻ります」

「エルデ、君に話があるんだ。デュバル公爵も来るから後で執務室に来てくれ」


ーーー


執務室では、1人掛けのソファにそれぞれ座した殿下と旦那様、カイン様とレイン様は2人掛けのソファに、ウィル様は殿下の後ろに立っている。

カイン様の向い側にある2人掛けのソファを勧められ、ドナさんは当たり前の様に紅茶を淹れてくれるけれど、こんな扱いを受けるのは落ち着かない。今、紅茶を飲んだら間違いなく咽せる。そんな緊張している私を察した旦那様が隣りに移動してきてくれた。


「早速だが、エルデ、このまま王城に残らないか?」

「……王城にですか?」


「ネイトと結婚するのに、王城と学園で離れていてはと、オーリアが気にしていていね…学園にはアミとユラも居るし、ゲイル夫人も男爵が調査で王城を留守にしているから、学園に残っても構わないと言ってくれているんだよ」


「エルデ、ナシェルの事で伯母上とシシーは心を傷めている。エルデが公爵家へ戻って、義姉とオリヴィエ皇女も帰ってしまった後の2人が心配なんだ。伯父上と俺は執務で忙しいし、揃って気が利かないからね…甘えてばかりで申し訳ないが、エルデが居てくれると助かる」


王妃陛下とオリアーナ妃殿下、シシー様がナシェル様のお墓を参ったのは一度だけ。

泣き崩れるお2人の横で、王妃陛下はナシェル様の名前が刻まれた箇所を一度だけ撫でられた。

あの時の王妃陛下の横顔は一生涯、忘れる事はないだろう…


「………分かりました。殿下、旦那様、王城に残る事をお許し下さい」


「エルデ、誠心誠意お仕えしなさい」


よかった…殿下方が居るからここでは言えないが、セシル嬢をカイエンで預かる事が決まった。

ジーク副団長と結婚するセシル嬢が、王都生活に慣れる様にと義兄が伯爵と相談して決めたのだが、エルデが学園に戻ったら会う事が難しくなってしまう。

娘もエルデとネイトが離れて暮らす事を気に病んでいたが、これで安心するだろう。


「ありがとうエルデ。早速だが営舎の部屋の移動を頼む」

「……部屋の移動?どちらに移動するのでしょうか?」

「どちらにって…ネイトの部屋だよ」


「何故ですか?!」


「エルデはネイトと結婚するのだろう?さっきネイトとすれ違った時に言ってたぞ?今度のアズール遠征に結婚証明書も持って行くと」


殿下の言葉に驚き固まるエルデの頭を撫でて、緊張が解れる様、出来る限り優しく話す。


「ネイト殿の遠征目的は伯爵にご挨拶だと言っていましたしね」


カインの言う通り、遠征目的が私情と化してはいるが、唯一となった殿下の護衛騎士であるネイトの仕事は責任も重く、纏まった休日を取るのは難しい。そんな重責を負う彼には、癒される存在と少しでも長く過ごせる時間を作ってやりたい。


「ネイトもその為に既婚者用の部屋を選んだしな」

「ですが、未婚の男女が……ど、どどど同衾…なんて…」

「半月くらいの誤差だろう…構わないんじゃないのか?」


義兄は白目を剥いていたが、遅かれ早かれ致す事。

何れ産まれる娘の子供と2人の子供は乳兄弟となるのか、感慨深いな…


「半月ではありません!結婚式までです!」

「「「「?!何故?」」」」


思いもよらないエルデの言葉に、場に居る全員の声が揃う。

辛うじて言葉を飲み込んだウィルは、口元を手で押さえているが、見開いた目が口程にものを言っている。


「何故?当たり前でしょう。いいですか?結婚とは署名をして成立ではありません。愛する人と共に誓い、神に認めてもらい、皆に祝福してもらう…その儀式終えて初めて夫婦になるのです!初夜だってそうです。今日から夫婦だから致しましょう?何を巫山戯た事を…仕事じゃないんです。初夜とは神聖な儀式なんです!閉じた蕾を愛で開き、その花弁で作られたウェディングドレスを、一枚ずつ、丁寧に、愛を込めて!脱がしていくのです!!」


「理性が機能しないと言っていたネイト殿には苦行ですね…」

「花弁を一枚ずつって…無理だろ、ネイトなら()()()()()

「その前に下のネイト殿が暴発するのでは?」


殿下方の言う通り、エルデ大好きネイトには耐えられない、白いドレスがネイトの鼻血で紅に染まる…


「エルデ?君の夢は叶えてやりたいが、男にも事情というものがだなーー」


「事情?そんな自制の効かない事情は切り落として下さい」

「……なんて恐ろしい事を」 


縮む……殿下も、カインもレインも、その後ろで護衛するウィルまでさり気なく押さえている。


「だ、だがな?エルデ…ウェディングドレスは作りが複雑だから、男が1人で脱がすのには無理があるんじゃないか?」

「そうですね、ドレス風の寝巻きで手を打つのはどうでしょう、私も自信はありませんから」

「その様な事はありません!だって…だって騎士様は優しく、丁寧に、王女様のドレスを脱がしてました!」


「「「「………()()()?」」」」


「【アキレアの咲く丘で】です。女性は皆、一度は読んでる続き物の小説です。ドレスの作りが複雑?男の事情?そんなものは些事…女性の夢を叶えられないのなら、男で在る事を辞めるべきですね」


「……閨教育を抜本から見直す必要がありますね…項目にドレスの脱がせ方を追加する必要があります」

「レイン様は分かってくれるのですね。大丈夫、貴方はまだ若いから間に合います。よろしければ、私の小説をお貸ししますよ?」


「………ありがとう…ございます」


ネイト…すまない。エルデの前に我々はあまりにも無力…全てはエルデの閨教育を怠った私の責任だ。






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