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王国の彼是  作者: 紗華
78/197

78:フランの過去 フラン&ネイト

「で?お前は何をやらかしたんだ?」


夜会を終えて戻った執務室。フランが座したソファの背凭れに浅く腰かけ、礼装軍服の首元の釦を緩めながら話しかける。


「何も…旧知と話をしているところに、リアが来ただけだよ」


「だけって…まさか、バルコニーで誰かと接触したのか?刺客だったらどうするつもりだったんだっ、お前は丸腰なんだぞ!」


「防御の結界は張ったよ…」

「そういう問題じゃない!もっと危機感を持てと言ってるんだ!」


フランにテラスの硝子戸を閉めて欲しいと頼まれたが、磨かれたシャンデリアが光を放つ会場から、硝子戸越しに見る薄暗いテラスは視界が悪い。更にフランを包む黒い軍服が夜と同化してしまう為、月に反射するフランの金髪を頼りに護衛するしかない状況に、ウィルさんと声を揃えて否と答えた。


厳戒態勢と言っても過言ではない護衛の意味はお互い分かっている。 それでも1人になりたいと食い下がったフランの顔を見た時、三度否とは言えなかった。


ウィルさんと共に入念に周りを確認してから、フランをテラスに残して硝子戸を閉めたが、会場に流れる音楽と人々の声でテラスの音が拾えない事に舌打ちしたのは致し方ないだろう。

目を凝らし、手摺に背を預け振り仰いで月を眺めているフランに集中する。手摺から離れて向きを変えて以降も大きな動きはなく、暫くしてフランを呼びに来たと言うオレリア様に、テラスの硝子戸を開いた。


その後のオレリア様の態度から、何かあった事は察したが、まさか王太子に接触した人間がいたとは…己の甘さがフランを危険に晒すところだったと考えただけで震えがくる。


「伯父上が知ったら、寝所に護衛のベッドを設置するだろうな。となると…またネイト殿と同室だな?」

「「断る!!」」


男色疑惑も漸く落ち着いてきたというのに、護衛を寝所に連れ込んでいるなどと噂を立てられる様な事があってはならない。


「…で?その旧知って誰なんだ?」

「…オスロー伯爵家のリディア嬢だ」


「エレノア以外に、友人と呼べる令嬢がいたとは驚きだが、オスロー伯爵家か…コーエン繋がりか?」

「そんなとこだ…」


閨教育や令嬢達に辟易していた中等学園時代、当時はまだ兄の婚約者だったエリスの実家が治めるオスロー伯爵領へ、半ば強引に兄に連れられ赴いた事があった。

そこで出会ったのがリディア。隣りのクラスだった事にも驚いたが、貴族の令嬢とは思えない程に気さくで自由、その上無礼なのにも驚いた。


そんな彼女がとても眩しく羨ましかった俺は、学園に戻ってからも学舎で会えば言葉を交わし、義務である結婚も、リディアとなら苦ではないかもと思える程度には親しみを感じていた。だが、そんな日々も長くは続かない…



『リディア、誰にやられた?』

『フラン様には関係ないわ』

『関係大ありだろ。君が言わないなら探し出して抗議するまでだ』

『やめてよ、ここで貴方が口を挟んだら余計に疑われるじゃない』

『だったら真実にすればいい、俺はリディアとだったらーー』


『私は魔術師になりたいの。爵位は長姉夫婦が継ぐし、次姉はコーエン様と婚約したから家の心配はいらない。魔塔に入って魔術師団に入団すれば、好きな事を仕事にしながら身も立てられる。だから高等学園は魔術科に進学するつもりよ。でもフラン様は違う。貴方は魔塔に入れないし、貴方がどれだけ拒んでも、その身に流れる血は変えられないわ…だからもう…私とは関わったらだめ…』



俺と関わる様になったリディアが、陰湿な苛めを受けていたと知り、関わった者達を教えろと追及した。

細やかな交流にも目を光らせ、手前勝手に関係を邪推した挙句、排除しようと攻撃する令嬢達の存在を、放っておくという選択肢はない。

これ以上邪推されたくないと言う彼女に、抗議する事も守る事も出来ない関係というなら、出来る関係にすればいいだろうと、食い下がった俺の言葉を遮ったのは、泣きそうな笑顔を浮かべた彼女と、己の身に流れる血だった。


彼女とはそれきり。俺と関わる事がなくなった彼女は苛めからも解放されて、高等学園の魔術科へ進み、魔塔へ入った。


「フランにも初恋があったのか…」

「初恋かどうかも分からんがな…俺にも打算があった」


「でも、結婚してもいいと思えるくらいには、特別な存在だったんだろ?」

「リディアはそうじゃなかったけどな」

「そもそも魔塔に入った令嬢が、何故夜会に参加しているんだ?」


「魔塔は辞したそうだ。嫁ぎ先を探していると言っていた。俺の手を取っていればよかったと冗談で話していた時に、リアが来たんだ」


「その会話を聞いたオレリア様が誤解したのか…側妃候補とでも思われたかもしれないな」



『ーー王妃とは国母である。故に国を第一に考え、責務を全うし、王に分を超えた愛を求むべからずーー』



妃教育で一番最初に教えられるのが正妃となる者の在り方。

正妃が王との間で築くのは信頼。王を癒し、寵を受けるのは側妃の役目と宣う、時代錯誤も甚だしいこの領分についての教育は、建国当初から内容が変わっていない…


「最悪だ…」

「暫く会えないんだろ?どうするんだ?」


夜会の後に時間を取る必要もなくなったオレリア様は、家族と共に屋敷へ帰り、明日からは学園の寮生活に戻る。両手で顔を覆ってソファに倒れ込んだフランも、遠征の準備や賓客の接待で忙しくなる為、剣術大会まで2人が会う機会はない。


「それが分からないから頭を抱えてるんだ!そもそもお前がもっと強く引き留めていれば、リディアに会う事もなかったのに…」


「理不尽極まりないな」

「八ツ当たりもここまでくると清々しさを感じるな」


「黙れ!俺を暴君にしたくないなら一緒に考えろ、名案が浮かぶまでは帰れないと思え」


「既に暴君だろ…」


何も浮かばないまま、夜を明かした執務室に届けられたのは、ナシェル殿が毒杯の刑に処されたという国王陛下からの書簡だった…




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