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王国の彼是  作者: 紗華
77/197

77:声の正体

「リア、階段に気をつけて」

「…ご厚情、誠に痛み入ります」


大変、よそよそしい…差し出した手に、そっと指先だけを乗せて礼を言う姿は、初めて顔合わせをした日のオレリアを彷彿とさせる。


ウィルとネイトは、様子が変わったオレリアに目を丸くした後、何をやらかしたのだと訝しげな視線をこちらに向けてくるが、俺が問いたい。どうすればいい…


「リア、さっきの事なんだが…」


「殿下の御心のままに。今後は分を弁えます。故にこれまでの事はご容赦願います」


拗ねる事も、追及する事も、当たり散らす事もしない…悲しみも怒りも全て飲み込み、分を弁えんと律する姿は妃の鑑といえるだろうが、我慢を強いて築く信頼関係など砂城を水で固める様なもの。俺の望む関係ともかけ離れている…


「……それがリアの望みなのか?」

「…はい」

「分かった」


声をかけようとするネイトを、ウィルが手で制するのが視界の端に入るが、俺だって全力で誤解を解きたい。だが、今のオレリアを構成しているのは、4年の時をかけて叩き込まれた妃の領分と、ナシェルの支配とも言える教育。ここで食い下がれば、オレリアは更に萎縮するだろう。


陽当たりの良い窓辺に置き、光を当て過ぎない様、時に影を作り風を当て、少しずつ溶かしてきた硬くて脆い()は、開いた硝子戸から吹き込んだ風に晒され一瞬で元に戻った…いや、更に分厚い氷の壁となってしまったかもしれない。


冷たく重たい空気を引き摺って向かった先、カーテンが開かれたテラス席の御座所に居たのは、伯父上と教皇、ゾマ殿、そしてジーク叔父上とラヴェル騎士団長の5人。


「お待たせ致しました陛下…王妃様はどちらに…?」


「ああ、久しぶりの夜会で疲れた様だったからな、先に休ませた。其方らを呼んだのは話があってな」


「私もお時間を頂きたいと思っておりました」

「ローザの皇子達か?」

「お聞きでしたか…」


「大体の事は教皇に伺った。皇子達の滞在の延長はローザに遣いを出してある。皇子達が聖皇国への移住を希望するのであれば、聖皇国までの護衛も付けよう。他にあるか?」


教皇を混じえたローザとの話し合いはつい先程の事。夜会の後に伯父上の許可得て、明日から動こうと算段していたが、伯父上は既に根回しを終え、聖皇国への護衛まで対応していた。


「充分です陛下。それとは別件で、オレリア嬢の事でお話があります」


「……そうか、教皇いかが致しますか?」

「話を聞いてから考えるかの、オレリア?」

「あの…」


テラス席とはいえ、どこに耳があるか分からない。

加護の事を話すのに適所ではないと、戸惑いを見せたオレリアに教皇が微笑みかけた。


「心配はいらん。御座所に防音の結界を張っておるから、会話が聞かれることはない」


「かしこまりました…夜会の支度をしていた時に、眷属様がお声をかけてこられて…私の力が馴染むまではお姿を拝見する事は叶わないそうですが、加護のお話をお聞かせ下さいました」


「「「「「「「眷属?!」」」」」」」


「申し訳ございませんっ…直ぐにお話するべきでしたが、時機を窺えず、フラン様に夜会の後でお時間を頂ける様お願いするのが精一杯でした」


「頭を上げよ。今宵は夜会で忙しかったからな、眷属に時機を見計れと言うのも無理な話しよ。で?加護について話したと?」


「……はい、あるべき状態に戻す浄めの力と仰られておりました」

「ざっくりじゃな…」


夜会の支度で忙しくしていたオレリアと、警備の最終確認で部屋を空けていた俺が会えたのは夜会が始まる少し前。その後は公爵達に会い、陛下達と合流の後に入場。夜会が始まってからも、常に周りに人がおり、話せる状況にはなかった。


加護について情報があればあの場でもう少し上手く説明出来たかもしれないが、教皇の言葉で場も収まっている。

誰も責めていないと伝わる様に、深く頭を下げて謝罪するオレリアの手をそっと握る。その様子を見ていた教皇も、眉を下げて優しく声をかけた。


「…オレリアよ、姿は見えぬと言ったが、眷属に名前は付けたか?」


「はい、レナ様とーー」


『呼んだか?』


「「「「「「「?!」」」」」」」


「……レナ様」

『随分と賑やかな場だな…』

「この声は…大聖堂で聞いた…」

「ああ、あの時聞いた声と同じだな」

「眷属の声だったのか…」


『女神の声を聞けるのは契約者と加護者のみ。我は女神ジュノーの使命を受け、寵児の伴侶を選る為に声をかけたまで』


「ナシェルが聞いた声も眷属の声だったと?それに選るとは…王太子の伴侶となる者が加護者になるのではなかったのか?」


聞きようによれば手当たり次第に声をかけたとも取れる眷属の話に、伯父上が訝しむ様に問う。


『人は承認欲求が強く地位や名誉に拘るが、斯様なものものは些事。加護者は汝等の世界でいう身分に関係なく、神が気に入った者を選る神の気まぐれ。だが、契約者や加護者の伴侶となる者に必要な資質に、マナの保有量と親和性がある。故にに選られる者が多いのも事実』


「王族だからではなく、王族だけだったまでの事…か」

「加護者にはマナの保有量や親和性は関係なかった…」


気に入った者がいれば加護を与え、いなければ干渉しない…正に神の気まぐれ。


『女神ジュノーの寵児がこの時代に産まれた事を感謝するといい…で?そこにある物は我も食してよいか?』

「スコーンの事か?これは朕のなんじゃが…」

「……私のでよければどうぞ」


さり気なく自分の方に皿を寄せる大人気ない教皇に、苦笑いを浮かべた伯父上が皿を差し出す。

皿に並ぶスコーンをに興味を示す眷属は、口調こそ威厳を感じるが声は子供。女神ジュノーの像も赤児だったが、眷属もそれに近い姿なのかもしれない……



「ほぉ…白鯨か」

「それにしても小さいな…」

『本来の姿に戻ってもよいが、この場がなくなるぞ?』

「……このままでお願いします」


加護の力が馴染むまでは顕現する事は叶わないのではないのか…


「そろそろ夜会もお開きじゃろ、フランもオレリアもゆっくり休むといい」

「話はいいのですか?」


「充分じゃ」


大人気ない教皇は、スコーンを乗せた皿を片手に伯父上と共に席を立ち、スコーンに満足した眷属も、再び姿を隠した。
























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