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王国の彼是  作者: 紗華
66/197

66:オレリアの護衛

近衛の濃紺より一段薄いデュバル領軍の紺青の軍服…


「……じゃ、ない…」


「…デュバル領軍は軍服の変更でもあったのでしょうか…」


「学生の研修制度に、戦う令嬢まで…ダリアは実に興味深い国ですね」


「……何故、ドレス?」


「令嬢がドレスを着るのは当然だろう」


「いや、そうなのですが…彼女達がリアの護衛を?」


むさ苦しい騎士達の汗の臭いが漂う訓練場。


目に飛び込んできた光景は半裸の男達と、男達に囲まれる場違いな程に着飾った令嬢2人。

ドレスを纏い、化粧を施し、白いレースの手袋を嵌めた手に持つのは扇。


紅を刷いた口角を上げ、高いヒールでステップを踏む様に斬りかかる騎士達を躱す姿は、まるでダンスをしているかの様だが、訓練場に半裸の野獣と美女の絵面はカオス。


「軍人は騎士の様に既得権益に頼る事が出来ないからな。デュバル領とセイド領の軍はあらゆる場面を想定した訓練をする。軍服を着ていなくても、帯剣していなくても戦える技術を仕込まれ、間諜、偵察、暗殺までを1人で担う事が出来る様になるまでは一人前と認めてもらえない」


貴族の子息で構成されている騎士と違って、軍人は平民が殆ど。戦いの場でその身に危険が迫った時、家名を振りかざして軍人を盾にする騎士は少なくない。

騎士団には間諜や暗殺の専門の部隊があり、偵察も訓練された斥候部隊が担う為、それぞれの役割に合った人選をし訓練するが、軍はその全てを一人一人に叩き込んでいるのか…。


「よく見ておけ、あれが生き残る為の戦い方だ」


騎士の剣技には型がある。個人の癖や体格、特徴によって個人差は生まれるが、その剣筋を見極め、最小限の動きで避けながら相手の懐に潜り込み急所を叩く。


剣以外で戦う事の少ない騎士達は、令嬢2人の動きに翻弄され、中には肩で息をする者もいるが、令嬢達の綺麗に結い上げた髪は一糸の乱れもない。


「ドレスを纏い、金扇を扇ぎながら踊る様に敵を倒したと云われる、デュバルの女傑の話はお前達も知っているだろう?それに倣い、デュバル領の女性軍人は軍服だけでなくドレスを着用した訓練もする。因みにオレリア嬢とアリーシャ、エレノアとセイド公爵家のヨランダ嬢もデュバル領で同様の訓練を受けているそうだからな、元帥閣下は護衛は不要と言ったんだが、宰相閣下の泣き落としで付ける事になった」


「エレノアとヨランダ嬢…?」


デュバル家のオレリアとアリーシャだけでなく、学園で三つ巴の死闘を繰り広げた相手が猛者だったと知り、背中に冷や汗が流れる。


「丸腰で挑まれたフラン様が、今ここに居るのは奇跡という事です」


「カイン、他人事の様に言っているが、お前も下手なダンスをしていると、エレノアの扇にやられるぞ」


「フッ…そう仰る叔父上も、エレノアが屋敷に来た時は、背後にお気を付けて」


「…ぶ、物騒だな…」


「生き残る為の戦いですか…デュバル領にも足を延ばしてみるとするかな」


うち(近衛)もドレスで訓練するか」


ゾマ講団長の貪欲なまでの向上心は見習いたいところだが、叔父上の提案には賛同しかねるだろ…


「……殿下、私も加わってきてもよろしいでしょうか」

「ウィル…構わない、ドレスで訓練だけは避けたいからな」


「副団長、殿下をお願いします」


ドレスで訓練と聞いて小さく反応し、訓練に加わりたいと申し出たウィルの目には決意が宿っている。


俺としても早朝からドレスを纏った騎士達に囲まれて鍛練するのは勘弁願いたい。

近衛の中でも上位に入る実力を持っているウィルは、彼女達の動きを見て勝機に繋がるものを見つけたか…


貴族出身の騎士は剣や己の身体にマナを流して攻撃を強化するが、貴族に比べて平民はマナの量が少ない。


戦闘に勝つ為にその少ないマナをどこに使うか…俺だったら剣ではなくーー


「そういえば、ネイト殿の姿が見えませんね」

「ここに居ますよ」

「何故、木の影から?覗きか?」

()()()()と言え」


「それで?()()()()()()()は?何か分かったのか?」


「ジーク副団長、くれぐれもエルデの前でそういう事は言わないで下さいよ…おそらく彼女達は、この場で使われている武器の扇にマナを流していません。身体のある部分に全振りしてます」


「目、耳、肌…」

「フランも気付いたか」


「俺ならそうするからな…短く、殺傷能力のない扇は、相手の懐に入り急所を突く必要がある。相手の動きを視覚、聴覚、触覚で察知し攻撃を躱すのが効率がいいだろう」


「体格や体力で劣る分、無駄な動きを避けてマナの消費量を抑えるには、攻撃ではなく回避に振るのがこの場合はいいからな」


「それで?お前も行くのか?」

「…その必要はないみたいだ」


「参りました」

「流石、殿下の専属騎士様…完敗です」


「疲れてきた頃に奇襲をかけました…無粋な真似をして申し訳ない。お怪我はありませんか?」


「戦いの場ですからお気になさらいで下さい」

「その様なお気遣いをされたのは久しぶりです。なんだか令嬢になった気分で嬉しいです」


「お2人共、とても素敵な令嬢ですよ。今夜の夜会ではオレリア様だけでなく、貴女方も十分に気を付けて下さい」


カーテシーでウィルに敗北宣言をする令嬢2人と、騎士礼で返すウィルの空気は和やかで話も弾んでいる。


「俺には殿()()()()()しか言わない男が…」

「話すに値しない男なんだろ」

「実のない会話しかしませんからね…」

「それはお前達もだろ」


「……殿下」


「…3人共に見事な模擬戦だった。2人は面を上げて楽にしてくれ、フラン・ダリア・スナイデルだ」


「過分なお言葉痛み入ります、フラン殿下。デュバル領軍所属のアミ・ダ・ホーフと申します」

「同じく、デュバル領軍所属のユラ・ダ・ゼーラと申します」


溜め息を吐くウィルの横で、片膝を着き首を垂れる令嬢2人は、改めて近くで見てもドレスに汚れはなく髪も乱れていない。先程ウィルにしていたカーテシーも重心がしっかりして安定しており、下位貴族の令嬢より上手だった。


姓を名乗られなければ平民とは気付かないまでに仕上がっている。


「アミ、ユラ、遠くからリアの為にご苦労だった。今宵の夜会では私もなるべくリアと共にいるが、男の私には限界がある。リアも身を守る術を心得ている様だが油断のない様に」


「「御意に」」


夜会の会場には化粧室や女性専用の休憩室など、男性が立ち入れない場所があり、外に見張りを置いても中の様子までは分からない。

リアだけでなく、シシーも社交デビューを控えている。このままこの2人を引き取りたいが、先ずは女性騎士の平民枠を作らなければならない。

ラヴェル騎士団長に王国軍に所属する女性軍人の技量と騎士になる意志を持つ者がいるかも確認する必要もある。


とはいえ、この2人程に仕上げるのもかなりの時間と労力を費やしそうだな…











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