6:甥 ジーク
あの背中は、相当怒ってるな…
王宮へ戻るフランを近衛騎士団本部の入口で見送る。
フランは怒ると少し背中が丸まる。小さな頃から変わらないなと、思わず笑いが漏れる。
「お前、あれは可哀想だろ」
隣からイアンの呆れた声が聞こえてきた。
「お前も、昨日は腹を抱えて笑ってただろう」
「笑っただけで、誰も煽っちゃいない。お前と一緒にするな」
陛下の執務室から戻ったイアンとフランは正に明と暗。
笑いが収まらないイアンを尻目に、疲れと苛立ちを隠し切れないまま報告するフランの姿に気の毒になった。
脳筋と言われているが、コルベット男爵家出身のこの男は厳重に爪を隠している。それを知るのは学園時代から共にしてきた腐れ縁の俺とラヴェルくらいだろう。
「それにしても、昨日の話合いは拷問だったな。ずっと尻を抓って耐えるのが大変だった…おかげで痣になったよ…ククッ」
昨日の事を思い出したのか肩を震わせ始めた。
フランは陛下や公爵達に男色と思われていた事に驚いたらしいが、俺だって今朝の宰相閣下と義兄の訪問に驚いた。
あらぬ方向へ舵を振り切っている2人に笑顔で対応しながら、どう方向修正すればいいのかと思案していると、イアンの震える姿が視界に入った。
宰相閣下までとは聞いてない。
今朝のやり取りを思い出し、剣でも振って頭を切り替えようと訓練場に足を向けると、イアンが笑顔で話しかけてきた。
「この後の、デュバル公爵令嬢との面会も楽しみだな、もうそろそろ着く頃か?」
「おい、まさか…デュバル公爵令嬢もなのか?」
「さあな。心配ならフランの付き添い許可するぞ。後で報告頼むな」
手を振って近衛騎士団本部に戻る我らの団長は、国王も身内も笑いのネタ程度にしか思っていない。
イアンの背中に黒い羽根が見えた。…気がした。