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王国の彼是  作者: 紗華
55/197

55:立神の儀

女神ジュノーの立神と女神ユノンの還神の儀、リンデン聖皇国教皇リンデ12世の御来臨、ダリア王国王太子殿下の婚約披露夜会。


今日は立神の儀だけでなく、夜会の参加国も入国する為、王都に厳重な警備が敷れているが、民達は建国以来の慶事に湧き上がっており、街並みも王家の儀式色の紫と大聖堂の象徴色である白の二色で埋め尽くされている。


「ネイトのその傷はどうしたんだ?()()()()()()()じゃないか」


ネイトの左眉の上に当てられた傷当て布は、目立ちはしないが長い前髪の分け目から時折見える白い布に笑いが込み上げる。


二日前、カインの一声で突然始まった叔父上とネイトの模擬戦は、ネイトの一瞬の隙を突いた叔父が勝利を納めた。

カインも何故あんな事を言い出したのかは知らないが、ジーク副団長に挑むとは奇行の極み。


「くっ…白々しい…よろしければ殿下にも同じ傷を付けて差しあげましょうか?」

「成長しないな…お前達は…」

「……殿下、早く馬車に乗って下さい」 


呆れ顔を隠しもしない近衛騎士団長と副団長に促されて馬車に乗り込むと、馬車の中でも呆れ顔の伯父上が待っていた。


「……お待たせ致しました陛下…」

「…些か不安だが…何も言うまい…馬車を出せ」


ダリア国旗を振って大通りを進む王族の馬車を見送る民達の歓声に、馬車の中から手を振って応えながら大聖堂に到着すると、大司教の案内で伯父上と共に女神像の元へ案内された。


女神ユノンの双子の神と記されている女神ジュノー。だが女神ユノン像と並置された女神ジュノーの像は…


「この像は…」

「…赤児だな」


ユノン像の胸の辺りまで届く台座の上に、赤ん坊のジュノー像が()()()()()


「力を使った女神ジュノーは大神ヴァナの胎内(もと)へ帰るからな、赤児の姿なんじゃよ。【創世物語】にある()()姿()()()()()とは、母なる海で海なる母の()()()()()()()()と言うことじゃ」


「…駄洒落か、才能はないな…」

「?!フラン!リンデ教皇に対して何て事を?!」

「?!」


振り返った先に居るのは、教皇リンデ12世と、片膝を立てて青い顔をした伯父上だった。イアン団長達も片膝を着き首を垂れている。


神々の父と母である大神ザーナとヴァナを信仰し、数多の信仰国を擁する最高機関の聖皇国。その頂点に立つ人物、国を統べる王や皇帝が唯一首を垂れる教皇が眼前に在る。


「フラン、頭が高いぞ」

「しっ、失礼致しました…」 


伯父上に倣い、片膝を立てて首を垂れる。


「ハハッ…レオンも太子も楽にしてよいぞ、朕も()()()()()()には思うところがあるのじゃよ。誰が考えたか知らんが捻りがない、聖皇国は洒落の利かないつまらん国だと思われてしまう、引いては朕の心象にも繋がる一大事。で?太子の名は何と申す?」


「フラン・ダリア・スナイデルと申します」

「フランか、良い名だ」

「ありがとうございます」


教皇の許可を得て、伯父上に倣い姿勢を解いて立ち上がる。


真っ白な髪、真っ白な眉に、喉仏の辺りまで伸ばした真っ白な髭は綺麗に整えられ、真っ白な祭服を纏う教皇の唯一の差し色は、窪んだ目の奥で光る赤紫の瞳と、教皇の瞳と同じ色の糸で縁取られた肩に掛けたストラと、腕に掛けたマニプルスの刺繍のみ。神を思わせる風貌に畏怖の念が湧き上がる。


駄洒落がどう教皇の心象に繋がるのか全く理解出来なかったが、己の放った言葉が失言だった事だけははっきり分かる。


最早ダリアもここまでか…


「デュバル公爵ご令嬢、オレリア様がお見えになりました」


案内の助祭と共に翼廊から姿を現したオレリアは、今日もウィスタリアカラーをその身に纏っている。


ダリア王族に名を連ねる存在になる事を強調する必要があると伯父上が指示した為だが、伯父上の姑息な考えなど、教皇の前では全く意味を成していない気がしてならない。


大聖堂の儀式の為、華美にならない様に気を使った、スレンダーラインのドレスの装飾は、ドレスと同色の刺繍と腰に飾られたダリアの花飾り、アクセサリーは小振のブルーダイヤモンドのネックレスのみ。


公の場で見せる常の無表情に些か緊張の面持ちを含ませたオレリアが、教皇の前でドレスの裾を捌き片膝を着いて首を垂れる。


「其方がダリアの未来の王太子の妃か……名は?」

「デュバル公爵家が長女、オレリア・ファン・デュバルと申します」


「……加護を持っておるのは其方だったか」


然り(しかり)


「「「「「「「?!」」」」」」」


少しの間を置いたのちに放たれた教皇の言葉に緊張が走る。

オレリアは首を垂れたまま戸惑う事なく答えた。


これが神に選られし者の力なのか…


教皇の地位は世襲制ではなくヴァナの天啓と呼ばれる指名制で、今代の教皇が母の胎内にいる次代の教皇を指名する。


一国の王子となる赤児であったこともあれば、娼婦が孕った父親も分からない赤児であったこともあるらしい。

産まれた赤児は次代様と呼ばれ、成人を迎えるとリンデの名と教皇座を受け継ぎ、聖皇国の新しい教皇となる。


教皇が千里眼で次代様を見つけ出すとも、胎内にいる次代様が母を聖皇国に向かわせるとも言われているが、今代のリンデ12世は二百歳とも三百歳とも言われており、真相を知る者はいない。


「楽にしてよい」

「ありがとうございます」


立ち上がったオレリアをじっと見据え、オレリアは微動だにせず教皇の視線を受け止める。


赤紫の瞳は何をどこまで見通しているのか…俺を含め、この場に居る誰一人として教皇を止める事も、オレリアを護る事も出来ない…己の地位も、付随する既得権益も、教皇の前では無意味なのだと思い知らされる。


「オレリアよ、朕と共にリンデンに来る気はないか?」


「ダリアの利となるのであれば喜んで。ですが、私の身が聖皇国の者に変わろうとも、私の魂の帰る場所はこのダリアです」


「これは…一本取られたのう…。やはり洒落とはこうでなくてはなん。帰る、変える、孵る、カエル…だめじゃ、()()()ばかりで分からん様になってしもうた…レオンよ、其方はどれがいいと思う?」


「……これまで通りで宜しいのでは?」

「レオンよ、朕の認識能力が落ちとるからと適当な事を言ってるのではあるまいな?」

「……私も分からなくなったのです」

「…リンデ教皇、そろそろお時間です」

「おおっと、儀式の事をすっかり忘れておった。まあ、儀式と言っても像に祈りを捧げて、証書に署名するだけじゃからな。茶でも飲みながら始めるかのう」


「「「「「「「………」」」」」」」


本当に認知能力が落ちてしまっているのでは?

一国の神を立神する儀式を雑に扱う教皇に、儀式を促した大司教も口元を引き攣らせているが、誰も突っ込む事は出来ない。


心中不安な俺達を尻目に、教皇は女神像二体の前に向き直ると教典を開いて、軽い調子をそのままに祈りを捧げ始めた。

厳かな雰囲気とは程遠い奔放過ぎる教皇に戸惑っていると、大司教が苦笑いを浮かべて侍祭達に目で合図を送り、侍祭達が翼廊と身廊に続く扉を開くと聖職者達が入って来て側廊に並列する。

助祭に案内された参列席に陛下とオレリアと並んで座り、祈りに耳を傾けているとオレリアが手を握ってきた。


「…リア?」



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