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王国の彼是  作者: 紗華
53/197

《儀式と夜会》 53:儀式の前々日 カイン&ネイト

章の作り方が分からない…ので、章のタイトルを《》で囲んでみました。分かりづらくてすみません。

最近になって気付いた事がある…


『私の顔に何かついてますか?エルデ嬢』

『っいえ…何も…失礼しました』


隣に立つジーク副団長の顔に時折そっと目を向けるエルデと、エルデの視線に何かあるかと問いかけるジーク副団長。

殿下の昼の鍛錬の迎えに上がる王太子専属侍女と、騎士達に激を飛ばす近衛騎士団副団長に意識を向ける者は皆無。俺も意識などしたことなかった。

あの日の2人の会話を聞くまでは…



『エルデ、あんな風に見ていたら周りから怪しまれるだろ…』

『だって…』


『だってじゃない。俺達の事は誰にも知られてはいけないとお前も分かってるだろ?』


『っ分かってる!けど、こんなに近くに居るのに、話もまともに出来ないなんて…淋しい』


『エルデ、責めてるわけじゃないんだ…俺も堂々とお前と話をしたいと思ってる。こうしてお互いの思いを打ち明けたのに…すまない』


『私の方こそごめんなさい…今度からは気を付けます。だから、たまにはこうして話す時間を作ってくれる?』


『分かった、約束する』


『ありがとう大好き…』

『俺も好きだよエルデ』



「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーっ」


「何事?!!五月蝿いぞネイト!!執務室で叫ぶな!」

「っ悪い…」


「お前が急に奇声を上げるから、驚いてペン先が折れただろ!全く…エルデはこんな男のどこがいいんだ…」

「………」

「まあいい、ちょうど一区切りだ昼の鍛錬に行く。カイン、後でエルデを迎えに寄越してくれ」


「っダメだ!!」

「………は?」

「エルデはダメだ。俺が迎えに行く」

「…迎えに行くって……お前も鍛錬だろう」

「………」


「エルデ殿には別の用事をお願いするので、今日は私がお迎えに上がります」


ーーー


「今日はエルデ嬢でなく、カインがお迎えか」

「ネイト殿の奇行が目立つ様になってきたので…」

「ネイトの奇行は今に始まった事ではないだろう」

「…叔父上、わざとですよね?」

「何の話だ?」


「恍けないで下さい。先程など執務室で奇声を上げてフランを怒らせてましたよ」

「ハハッ…まだまだ鍛錬が足りない様だな」


「…勘弁して下さい」


ジーク・ファン・クローゼル=キリング31歳、独身。榛色の瞳に癖のない長い黒髪、ドレスを着せても違和感を感じさせない中性的な美人顔をスラリと伸びた身長の上に乗せている。

騎士にそぐわない品のある柔らかい物腰に、切長の目は見つめられただけで腰が砕けると妙齢の夫人の間で囁かれているが、腹の中は真っ黒。


そんな悪魔の化身にも、1人の女性だけを想い続けている一途とも執念とも言える一面がある。

それを知るのはごく少数。フランもネイト殿も、付き合いの長いイアン近衛騎士団長や、ラヴェル騎士団長さえも知らない。

その()()()()()()()()が今回のネイト殿の奇行の原因なのだが…


「エルデは元気か?」


「ほぼ毎日エルデ嬢と顔を合わせてるでしょう?誤解も解けて()()()()()きているのでは?」

「そうかもしれないな…」


「…そこは素直に認めるんですか…エルデ嬢の誤解が解けたからといって全て解決したわけではないでしょう。それよりも、()()()はどうするんです?」


「ネイト次第だ」


叔父上と俺が向けた視線の先には、令嬢達の黄色い声援を浴びながらフランと剣を交えるネイト殿。

令嬢達の人気をさらうネイト殿が奇行に走り、更に奇声まで上げる様になったのは、あの日の2人の()()()()()()()、現場を目にしなかったから。



『お2人共、ネイト殿に気付いてましたね』

『途中からだけどな』

『急にわざとらしい台詞を吐き出したから驚きました』


『エルデもたまには意趣返ししたいだろう?黄色い声を浴びながら鼻の下を伸ばしてるネイトに』


『エルデ嬢、叔父上の口車に乗せられてはいけませんよ。と言っても遅いですかね…』


『調子に乗ってしまいました…申し訳ありません』

『私と叔父上は構いませんが、エルデ嬢は覚悟しておいた方がいいですね』


『……覚悟?』



翌日からのネイト殿は気の毒な程に必死で、時に醜かった。

エルデ嬢は自業自得だが、余波に巻き込まれる事になった俺は堪ったものではない。


「叔父上、あまり過ぎるとエルデ嬢に()()嫌われますよ」


ーーー


「エルデ嬢。今日は特別暑いですから庇の下で待つといい、案内しましょう」

「お気遣いありがとうございます」


「夏も本格的になって陽射しも強い、美しい肌を晒すわけにはいきませんからね」

「そう……ですね?」


「お茶はいかがですか?水分の補給はしっかりしておかないと…可憐なエルデ嬢が倒れてしまわないかと心配です」

「か、可憐?!」


「ハハッ…顔が真っ赤だ。可愛いらしいですね」

「あ、あの…ジーク副団長様?」

「何でしょう?エルデ嬢」


なんだあれは…隠すどころか完全に開き直っている。

エルデも何故頬を染める、お前の婚約者はこの俺だろ!


鍛錬を終え、片付けを始めた騎士達の手も止まる。

視線の先には、エルデを庇の下に置かれたベンチに座らせ、甲斐甲斐しく世話を焼くジーク副団長…いや、世話ではない、最早口説いている。


「ネイト、叔父上のあれは一体何なんだ?!」

「いいんですか?ネイト殿」

「「カイン(殿)?!」」

「ネイト殿、()()はいいんですか?」


「全く良くないですよ!何ですかあれ、節操なさ過ぎでしょ!」

「そう思われるならどうぞ」

「…何ですか?これ(模擬剣)


「ジーク副団長!ネイト殿がエルデ殿をかけて模擬戦を申し込みたいそうです!!」


「「「はぁっ?!」」」


カイン殿の口から出た突拍子もない台詞に、俺だけでなくフランとエルデも慌てふためくが、ジーク副団長は落ち着き払っている。


「その申し出、受けよう」

「「「受ける?!」」」

「さあ、ネイト殿」


「お、おいっカイン、お前は何を言い出してるんだ!?」


「フラン様は審判をお願いします」


近衛騎士団副団長と近衛騎士団屈指の剣士の間で突然始まった模擬戦に、騎士達は片付けの手を止めて2人の周りを囲む。

初めこそ戸惑っていたネイトも、ジークと対峙する頃には目付きが変わっていた。


「両者剣を前に…始め!」


騎士達が固唾を飲んで見守る中、フランの合図で始まった模擬戦。

ジークとネイトは微動だにせず睨み合う。


「どこからでもいいぞ、ネイト」


「随分と余裕ですね…では、遠慮なく…行かせてもらいますっ」


ーーガキィィンンッー


「…フッ、剣がブレてるな…()()()が見てるぞ?」


「気安く……呼ぶなっ!」


後ろに飛び退き態勢を整え、つま先を蹴り、斜め上から斬りかかる。ジーク副団長は難なく刃を避け、右足を後ろにずらして腰を落とし、斜め下から剣を弾き返す。


「脇が甘いぞ、ネイト」


ーーガッキンー


ジーク副団長が態勢を低く保ったまま、剣の持ち手をそのままに俺の空いた脇に斬り込んでくる。

己の剣を地に差し刃を受け止める。


「何のつもりですか?ジーク副団長」

「お前こそ、俺の許可なくエルデと婚約とは何のつもりだ?」


「貴方の許可など必要ないでしょう!」


「必要に決まってるだろ、エルデは俺の……」

「………は?」


ーーゴツッー


「痛っってええー」


叔父上がネイト殿の耳元で何か囁くとネイト殿の剣を持つ手が一瞬緩み、その隙を狙った叔父上が剣の柄をネイト殿のおでこに叩き込んだ。


「勝負あったな…フラン合図を」


「……勝負あり!勝者、ジーク・ファン・クローゼル=キリング」


「骨のない男にエルデは渡さん」


おでこを押さえてもんどり打つネイト殿に捨て台詞を吐いた叔父上は、フランとエルデ嬢を連れて訓練場を後にした。






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