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王国の彼是  作者: 紗華
52/197

52:カインの嫉妬

制服に着替えて戻って来た2人が、フランの向かいのソファに並んで座り、カインは1人掛けのソファに座る。お茶を淹れたエイラとマリーは部屋から下がり、ネイトは壁に控えた。


「2人共、今日は見事な舞を楽しませてもらったよ。休む間もなく連れて来てしまったが、疲れていないか?」

「日々の練習で鍛えておりますから問題ありません。お気遣いありがとうございます。殿下」

「エレノア嬢とは、私がこの地位に着いてから会うのは初めてだったな」


カインと婚約しているエレノアとはキリング家で何度か顔を合わせており、それなりに付き合いは長い。

オレリアと婚約する前は、貴族令嬢の中で唯一、普通に接する事が出来る存在だった。


「先程は、お見苦しいところをお見せしてしまい、大変失礼致しました」

「構わない。()()()()()()だと聞いた」

「…()()……そう…ですね…」


「冗談だ、エレノア。2人共、悪いがここからはいつも通りでいいか?堅苦しいのは好まない」

「勿論です。実は私も居心地が悪くて…」


エレノアとヨランダ嬢の戦いに捨て身で挑んだのだ、皮肉も言いたくなる。

俺の嫌味に気付いたエレノアの気まずげな返事と、更にこのやり取りも居た堪れないといった表情に、少しだけ溜飲が下がった。


「あの…フラン様は今日は何故こちらに?」

「騎士科の特別研修に参加する生徒達の下見で来たんだ。昨日決まったばかりで、連絡も出来ずすまなかった」

「いいえ!立神の儀までフラン様とお会いする事は叶わないと思っておりましたので、とても…嬉しいです」

「そう言ってもらえて良かった。学園長に剣舞の公開練習の話を聞いて、時間を作ったんだ」


「あの模擬戦はわざとだったんですね?」

「…カイン」

「殿下の模擬戦ですか?私達も拝見したかったです」


「拝見しなくても、明日にはフラン様とネイト殿の模擬戦の話が耳に入るだろ。2人がマナの制御に失敗して、開始直後に模擬剣の破壊で続行不能になったとね」


「「カイン(殿)!!」」


「あ、あの、フラン様。エルデは…エルデは元気にしておりますでしょうか?」


俺とネイトの反応に、慌てた様子でオレリアが話題を変えてくる。


暫く会わない間に表情が豊かになり、言動にも堅苦しさが消え、佇まいも和やかになってきた。唯一羽根を休める事が出来る学園への復学を、オレリアが切望していた事に納得した。

ヨランダ令嬢に見せた笑みも、今の困った表情も、常の無表情もどれも愛おしい。


こんなテーブルは退かせて今すぐオレリアを抱き締めたい…という邪な気持ちは微塵も出さずに微笑む。


「勿論元気にしているよ」

「良かった…エルデに宜しくお伝えください」

「エルデの事はネイトに頼むといい」

「…ネイト様に?」

「フラン様そっちのけで、エルデ殿の専属護衛をしていますから」

「ちょっ、フラン、カイン殿まで。余計な事を言わないで下さい!」

「ネイト様、エルデの事を宜しくお願いします」

「オレリア様まで…」


「殿下、ソアデン卿にご挨拶させて頂きたいのですが、ご紹介頂けますか?」

「エレノアはネイトと初対面か、気が付かなかった…そう遠いと挨拶も出来ないな、ネイト、お前もこっちに来て座れ」

「俺は護衛中だぞ」

「こんな時だけ、仕事をひけらかすな。叔父上には黙ってるよ」

「本当だな?今日の俺とお前は一連托生だからな」

「帰城したくないのは俺も一緒だ」


「相変わらずジーク義叔父様に頭が上がらないのですね殿下は。初めましてソアデン卿、ラスター侯爵家が長女、エレノア・ファン・ラスターと申します」


カインの向かいの1人掛けソファまで来たネイトに、エレノアがカーテシーで挨拶すると、ネイトも騎士礼で挨拶を返す。


「初めましてラスター侯爵令嬢。ネイト・ファン・ソアデンと申します。ネイトで構いません」

「ありがとうございますネイト様。私の事もエレノアとお呼び下さい」

「ありがとうございますエレノア嬢」


「…ふぁっ!」

「「「ん?」」」

「んん゛っ、失礼しました…」


「…フフッ。エレノアは令嬢達の憧れのネイト様にお会い出来るのを、とても楽しみにしていたのです」

「オレリア!?」

「……ほおー…憧れのネイト様ねぇ」

「…申し訳ありませんカイン様…余計な事を申し上げました」


カインの纏う空気が下がったのに気付いたオレリアが、居た堪れない様子でカインに謝罪する。


「オレリア様がお気になさる事はございません。ネイト殿の人気は皆が知るところですから」

「カインの言う通りだ、リアが気にする必要は全くない。それで?エレノアはネイトのどんなところに憧れているんだ?」

「あの…エレノアだけでなく、皆さんが憧れていらっしゃるのですが」


「勿論分かってるよ、なあ()()()

「フラン様の仰る通り、ネイト殿の気さくな人柄や、騎士としての強さは、女性だけでなく男性にも人気がありますから。今日も騎士科の生徒達がネイト殿の来校に騒いでいましたよ」


「そうでしょう?ヨランダ様だって、澄まし顔をしてたけど、ネイト様に熱狂しているんだから。今頃、寮の部屋でもんどり打ってるわよ」

「エレノア…ちょっと」


「そうだろうな、エレノアはこうしてネイト殿とお茶まで一緒にして、ヨランダ嬢にも自慢出来るだろう」

「そうね、ネイト様の御尊顔を拝見しながらお茶を飲めるなんて僥倖だわ。この間、皆んなで一緒に買った絵姿よりずっと素敵」

「それは…光栄です…」


「フラン様、今日はお時間を頂きありがとうございました。そろそろ寮に戻る時間なので下がらせて頂きます」

「そうだな。2人共、寮に戻ってゆっくり休んでくれ」


カインの誘導にまんまと乗せられたエレノアを、最早止めるのは不可能と悟ったオレリアが戦略的撤退を決断した。


「あの!ネイト様、最後に握手をして頂いても?」

「握手…ですか?いくらでも構いませんよ」


ネイトは手袋を外して、エレノアが震えながら差し出した手を握る。


「ぐっ…生身の手を…ありがとうございますネイト様」

「こちらこそ、とても楽しい時間でした」

「オレリア!私の手をこのハンカチで包んでちょうだい!」

「オレリア様の手を煩わせるまでもない、俺が巻いてやる」

「ちょっと!?カイン様!どうして手を握るの?!」

「手を取らないとハンカチを巻けないだろう?」

「やめてよ!なんで!?握りしめてるじゃない!!」

「カイン殿…大人気ないですね」


膝から崩れ落ちるエレノアを見下ろし、鼻で笑うカインにネイトが苦笑いを零す。


エレノアの元へ向かおうと一歩踏み出したオレリアの腕を掴みこちらへ引き寄せて額に口付けると、真っ赤な顔で膝から崩れ落ちてソファに座り込んだ。


「リア、この間は悪かった。ずっと謝りたかった…今日はリアが一番綺麗だった」


床に膝を着きオレリアの頭を撫でると、泣き笑いの表情を浮かべてお礼を言ってきた。


「カイン、ネイト帰るぞ」


開いた扉の外で待つエイラとマリーに2人の事を頼み、気分良く帰城した俺とネイトを待っていたのは、模擬剣が破壊するギリギリまでマナを注ぎ、制御しながら一晩中素振りをするという、叔父上の特別夜間訓練だった。


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