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王国の彼是  作者: 紗華
46/197

46:余裕

感傷に浸る宰相から伯父上がお呼びだと伝えられ、目頭を押さえる宰相と、カインと共に伯父上の執務室に向かう。

「…宰相閣下は、どうされたのですか?」

「娘の嫁入りに感傷的になっているだけだ」

「………娘?」

宰相が涙する理由を小声で問うてきたカインにエルデの事を話すと、カインはそっと宰相にハンカチを渡して背中を摩った。


「失礼致します。今日も3()()()()()()……?大司教?」

伯父上の執務室で待っていたのは、いつもの3人と大司教。

王城に来る事など滅多にない大司教が居るという事は…

「女神ジュノーの立神が決定した」

「…精査もなく立神が是認されたと?」

「そうだ。女神ユノンは一時還神、夜会の前日に立神と還神の儀を執り行う。それだけではない、教皇が翌日の夜会に出席する事になった」


女神ジュノーの立神の申請が、精査もなく認められた事には驚いたが、それよりも教皇が夜会に出席するなど万が一にも考えていなかった。建前上、形だけの招待状を送ったが、欠席するものと踏んで何の準備もしていない。滞在期間の王城や、夜会の警備計画案も見直しが必要になる。オレリアの事を報せる時機にもよるが、オレリアにも護衛を付ける必要があるか…いや、友好国ばかりが出席する夜会に護衛を付けるのは警戒を疑われ、却って不自然になるか…

 


「…ン、フラン、フラン!」

「?!失礼しました」

「考え事は話の後だ。女神ジュノーの立神は聖皇国から各国の大聖堂を通じて報ぜられる事になった。よって、立神の儀は大聖堂の国内行事として行う。オレリア嬢の事は緘口令を敷いておるから、参列するのは余とフランとオレリア嬢のみ。教皇は大聖堂に滞在する事になるから、警備計画の見直しは夜会だけで構わん。オレリア嬢については大司教と話し合った結果、女神ジュノーの立神と併せて、夜会の場で教皇から報せて頂く様、申し入れる事になった」


立神の儀と、教皇の滞在先については大聖堂が仕切ると聞いて安堵した。夜会の警備計画の見直し程度なら問題はない。

オレリアの事も、教皇の口からダリアでの存在を認めると言われれば他国は口を挟めない。だが、その教皇が保護を大義名分にオレリアを求めてきたら…

「聖皇国からオレリアを求められた暁には、いかがされるおつもりですか?」

「…国の利となるのであればやむを得ん」

「フラン、お前も王太子として、如何なる結果も受入れる覚悟をしておけ」

「殿下、娘もダリアの一貴族です。如何なる結果になろうとも、ご心配には及びません」

3人の迷いのない決断に苦い思いが迫り上がる。

「警備計画案の見直しもあるだろう。下がってよいぞ」

「………失礼致します」


「全く…お前達は底意地が悪いのう」

肩を落として退室したフランとカインを見送った大司教が、澄ました顔でお茶を飲む3人に眉を顰める。

「これしきの事で振り回されて、余裕をなくす様では王太子など務まりません。国を背負う者は取捨選択の連続です。私情を捨て、物事を見極め、国の利となる選択をする。護りたいものが害とならぬ様、利にする術を持たなくてはならない。息子も、オレリア嬢を護りたいのであれば教皇を味方にするしかないんです」

「既にナシェルの事で余裕がなくなっておるがな。オレリア嬢とも喧嘩して、訓練場で剣を振り回しておる」

「大聖堂に来た時はいい雰囲気だったが?」

「娘の一歩引いた態度が良くなかった様です」

「なんじゃ、嫉妬か?若いのう…そういえば、お前達もよく懺悔しに来ておったな、懺悔と言うより泣き言だったがな。心にゆとりを持てとよく説いてやったものよな…」

「「「………」」」


「して?ユリウスは何故涙しておるのだ?」

「…大司教。娘の幸せを願ってやれない狭量な私の懺悔を聞いて頂けますか?」

「…………娘とな?」


ーーー


『国の利となるのであればやむを得ん』

頭を振って切り替える。今は夜会の警備案を見直す事が最優先。

ラヴェル騎士団長とイアン団長が待つ会議室へ向かう。


「フラン、今度の夜会の警備に着く学生の名簿が届いたぞ。学生の下見にはジークが行く予定だが、お前はどうする?」

「同行する。いつだ?」

「明日だ。今回の夜会は教皇も参加するからな、指導を含めて研修期間を長めに取りたい」

「分かった」

王立学園の騎士科の学生には、王城の警備や夜会の警備に着く特別研修制度がある。

卒業して騎士になってから即戦力として使えるよう騎士の経験値を積ませる事を目的としており、研修に一定期間参加しないと卒業出来ない。今度の夜会は研修の経験豊富な最高学年の生徒のみが対象なので、さほどの心配はないが、教皇の参加にオレリアの事もある。自分の目で確認しておきたい。


「研修生は総勢50名、夜会当日は全員、馬車寄せと庭園の警備に着ける。監督の騎士は馬車寄せに2人と庭園に3人」

「この案なら、夜会当日の王城の警備の人数を増やせます。客人が滞在する期間の南棟警備は、騎士と研修生の2人体制で巡回警備に当たります」

「問題ない、陛下にはこの案で報告する。学園には研修期間の延長の申し入れと、明日は過分な出迎えは不要と伝えてくれ」

「「御意に」」


「フラン、明日はオレリア嬢との時間を取るか?」

「いや、その必要はない。オレリアは復学したばかりだ、学業に専念させてやりたい」

「学業って…早期卒業出来る程なのに?」

「……」

「イアン、当人同士で解決する事だろ。外野が口を出すな」

「そう言うお前は、ネイトより先に口説いてだだろうが」

「指を咥えて見てるだけの愚弟を手伝ってやっただけだ。まあ、思いが通じたところで何も変わってない様だがな」

「さっきも消沈してたよ、毛ほども関心を持たれてないってな。籍は先に入れるんだろ?」

「早くて今シーズンの明けになりそうだな」

「シーズンが明けるまで、ネイトは落ち着かないな。いや、籍を入れても落ち着かないだろうな」

「エルデを見てれば分かるのに、視野が狭まって本当に余裕のない…見ているこっちが恥ずかしい」

「…エルデも同じ事を言っていた。悲しくて辛いとも…」

「当たり前だろう。囲う事に必死で本人を見てないんだからな。お前だって、ナシェル殿に影響されて、オレリア嬢を見ていないだろう」

「話す時間は取れずとも、様子を窺うくらいの時間は取れるでしょう。愚弟は時間が無くても窺い回ってますけどね」

「俺もいよいよネイトと同列か…」


この時の俺はまたまだ余裕があったのだと、思い知る事になる…


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