43:聖皇国
リンデ聖皇国。数多の神の父と母である大神を信仰する聖皇国は、各国が信仰する神々を管理する役割を担っており、新たに出来た国、淘汰された国は聖皇国に立神や還神の申請をする決まりになっている。
一国が立神出来るのは一神としており、人気があるのは、富と力の男神ガーラと、気象の女神ユノン。
その女神ユノンを信仰するダリアから、新たに発現した女神の祝福が降りたと立神の申請が上がってきた。
「ダリアに女神ジュノーが発現したか…」
「いかが致しますか?」
「精査の必要はない、このまま立神の是認を、女神ユノンは一時還神とする」
「承知致しました」
教皇座に座す教皇リンデン12世は、ダリアからの立神申請書を持って現れた宰相に指示をして立ち上がる。
教皇向かった先に立つのは、世界を創世した男神と女神の像。
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『創造と終焉の大神ザーナと、知恵と悟りの女神ヴァナの夫婦神は、数多の神を産み、その神々が創造した世界は発展し繁栄を極める。だが、その繁栄も知恵を持った人間達の争いにより混沌と化し、世界は終焉を迎えるまでになった。
このままではないけないと悟った人間達は、世界の再生を願い、ザーナとヴァナに祈りを捧げ、その祈りに応えて産まれたのが、気象の女神ユノンと再生の女神ジュノー。ジュノーが世界を再生し寝に就いた後、ユノンが光と水を操り、四季を織り成し、神々と共に世界を見守り続けている』ーー【リンデ聖皇国機密記録書】
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『神々に愛される末神ジューノに嫉妬した女神ヘーレは、神々の戦いを引き起こし、世界に厄災を落とした。神々は相討ちとなり、世界は荒れ果て、生きとし生けるもの達は、終末の時を迎えるの怯えながら待つだけ。
嘆き悲しんだジューノは世界を再生する為、地上に降り海となり、雨を降らせ、万物を再生し潤した。
大神のザーナとヴァナに処刑されたヘーレの嫉妬は厄災となり、度々世界を襲ったが、ジューノの加護が退けた。
ジューノの意志を受け継いだ神々は今も世界を見守っている』ーー【創世物語】
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【創世物語】は人間の話を神々に擬えた物語。
女神ヘーレは人間、ヘーレの嫉妬は人間達の欲と負。
各国の地理学者達が魔障を調査するのは出現する魔物を討伐する為だけではない。溜まった瘴気によって起こる魔障嵐を防ぐ為でもある。そして、この魔障嵐こそ、本物の厄災と云われている。
実は、人間達は己の負の感情から作られた魔障と戦い続けているという、なんとも滑稽な話。
人間の業を神に擬えるなど罰当たりではあるが、子供達に聞かせる物語として神話にしているのだ。
【創世物語】の元となっている機密記録書を片手に、リンデ12世は真っ白な髭を撫でる。
「長い歴史の中で、これまで眠っていた女神ジュノーが目覚めたという事は厄災の前触れを意味しておるのかもしれないのう。ならば、女神ジュノーと契約した者、もしくは加護を持つ者も発現しているはずじゃ。聖皇国で保護する必要があるか見極めたいところじゃが…ダリアからの申請書には契約者や加護持ちの記載はなかったのう。他国に知られるのを怖れているか…ならば、経緯も詳細も知らぬまま我等が追及するのは悪手か…」
「立神の儀には教皇自ら立ち合う事になります。来月にはダリアの王太子殿下の婚約発表の夜会もありますから、ついでに出席されてはいかがですか?何か分かるかもしれませんよ」
「朕が行っては、皆が楽しめないじゃろう」
「なら、夜会の招待状は欠席と記して送っておきます」
「……出席する」
「出席で送ってありますよ。老害と言われない様、せいぜい大人しくしておいて下さい」
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「大司教から女神ジュノーの立神の申請が通ったと連絡があった。残念だが、女神ユノンは一時還神となった」
「随分早いな、精査に時間がかかると思っていたが、やはり、祝福が降りた事が効いたのかもしれないな」
「女神ユノンは一時とはいえ還神ですか…」
「来月はフランとオレリア嬢の披露目の夜会の前に、大聖堂で立神と還神の儀が行われる事が決定した。それだけではない、リンデ教皇が夜会に出席する」
女神ジュノーの立神とフランとオレリアの披露目の夜会まで約一ヶ月。
大聖堂は女神ジュノー像の作製に取り掛かり、王城でも、各国からの夜会の出欠の返事が揃って準備に忙しい。
「それはまた…珍しいですね。他国の催しには参加しないお方なのに…」
「女神ジュノーの立神の儀のついでといったところか…オレリア嬢の加護の事はどうする?」
「2人の披露目の後に女神ジュノーの立神の儀、オレリア嬢の加護の事を報せるのは、立神の儀の後にと考えておったからな…」
大聖堂から報された女神ジュノーの立神と女神ユノンの一時還神。そして、国王に届いた教皇の夜会出席の返事。
慶事ではあるが、オレリアの事を考えると手放しでは喜べない。
聖皇国が女神ジュノーを認識しているとは知らない3人は頭を抱える。
「精査もなく女神ジュノーの立神が是認されたという事は、聖皇国は女神ジュノーについて何か知っているのやも…でなければ、夜会にまで参加するとは思えん」
「大司教と相談する必要があるが、オレリア嬢の事を教皇に話してもいいかもしれないな。教皇がオレリア嬢の事を認めれば、他国も表立っては行動出来ないだろう」
「その聖皇国がオレリア嬢を保護すると言い出したら?」
「フランが放っておかないだろう。それにしても…あの女嫌いの息子が、嫉妬でオレリア嬢とケンカとは…」
「あれはフランの八つ当たりだろうよ」
「それ程、娘を思って頂けてるのであれば、喜ばしい事です」
「で?オレリア嬢はどうしてる?」
「暗い顔で学園に向かいましたが、娘もいつまでもナシェル殿に縛られていては、殿下と歩み寄る事も出来ませんからね。これを機会に多いに悩めばいいんですよ」
「厳しいな…オーソン」
「義兄上は泣きそうでしたけど…ノエリアならば、そう考えると…」
「確かに…ノエリアならそう言うだろうな…オレリア嬢にその思いが届けば良いのう」




