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王国の彼是  作者: 紗華
42/197

《束の間》 42:心の距離

「リア、少し遠回りをして帰らないか?」

「よろしいのですか?」

「構わない。ウィル、王立庭園に向かう様、御者に伝えてくれ」

「御意」


王城と大聖堂の間に位置する王立庭園。

四季の花を楽しめるだけでなく、絵画や美術品を鑑賞しながら、お茶を楽しむ事ができるサロンに、広い庭園には人口池もある。

余暇を過ごす貴族達に人気の王立庭園は、社交シーズンの今は、花にも負けない色とりどりのドレスを着た夫人や令嬢達で賑わっている。

庭園の馬車道を通る王太子の馬車を、貴族達が頭を下げたり、カーテシーで見送る中を進み、馬車寄せに到着すると、オレリアの手を取って馬車から降りる。


「此処まで来たのは初めてだが、すごいな…」

王家の為の庭園は、王家の人間か、許可された者しか入れない特別な区画で、一般に解放している庭園とは、庭の造りも花の種類の数も全然違う。

「私は、王妃様とシシー様と何度かご一緒させて頂きました。覚束ない足取りで、花の中をお歩きになるシシー様はとても可愛らしくて…花の妖精の様でした」

その日の光景を思い出しているのだろう、微笑みながらシシーの話をするオレリアの寛いだ様子に、安堵する。

ナシェルとの面会でも、先程の大聖堂でも表情には出ていなかったが、握った手はとても冷たく緊張が伝わってきた。

今も冷たさが残る手を、指を絡めて繋ぎ直すと、弱く握り返してきた。


「フラン様は、休日はどの様に過ごされていたのですか?」

自ら話す事をナシェルに許されていなかったオレリアは、当初は俺にも啓上の許可を取っていた程で、今でも滅多に話しかけてはこない。

花を眺めて気分が良くなったのか、だとしても、オレリア些細な変化を見られるのは喜ばしい。


「学園にいた頃も、騎士だった頃も家には帰らず、町へ行ったり、訓練したりして過ごしていたよ」

「それでは…今日の様に庭園に来られた事は…あるのですか?」

「何度か来た事はあるが、花には明るくなくてね。ボート遊びをしたくらいかな」

「……そうなのですね…」

「?リア?」

俺の返答が不満だったのか、オレリアが力なく返事をする。

オレリアが気を落とす原因も分からない上に、機微に聡くない俺はこの状況に戸惑う事しか出来ない。


「……殿下、オレリア様への啓上の許可を頂けますか?」

ネイトと違って、護衛中は殆ど声を発しないウィルが、これまた珍しく声を掛けてきた。しかもオレリアと話しをしたいとは…少しの好奇心と、この状況を何とかして欲しいという期待を込めて許可すると、ウィルがオレリアの前に進み出てきた。


「オレリア様。誤解のない様、申し上げます。殿下の仰るボート遊びとは、釣りの事です」

「…………釣り?」

「ええ、殿下が近衛騎士だった頃は、よくネイトと2人で夜の庭園に忍び込んで、釣りをしておりました。そのまま眠り込んでしまい、早朝訓練に遅れる事もしばしば。ジーク副団長に叱られて走らされておりました」

「ウィル?!」

何故、許可を得てまで話すのが釣りの話題なんだ?しかも後半は間違いなく余計だろう。すかさずウィルを止めに入るが、今度はカインが横から出て来た。


「学園に通われてた頃は、寮を抜け出して、夜中に泳いでもいましたね」

「カインっ、その話はーー」

「脱ぎ捨てた服を盗まれて、友人達を連れて、下着姿で私の屋敷に助けを求めに来た事もありました。その節は丁重にお帰り願いましたが、フラン様は、あの後どうされたのですか?」


学園の近くに位置するキリング家には幼い頃から世話になっており、学園に通っていた頃は実家に帰らず、長期休暇もキリング家で過ごしていた。

カインは既に王城の文官として出仕していたが、呆れながらも面倒を見てくれていた。

あの時も、カインに叱られて追い返されはしたが、全員にガウンを渡してくれた。

「…………全員で…走って帰ったよ」

「という訳で、オレリア様。ボート遊びなどと小洒落た事を申しておりますが、している事は紳士とは程遠いものですから、ご心配には及びません」

「そう…………ですね…」

「2人共…下がれ」


「あ、あの…フラン様、申し訳ございませんでした…ボート遊びと聞いて、令嬢といらっしゃった事があるのかと…本当に申し訳ございませんでした」

俺が令嬢とボートに乗ったと勘違いして沈んでいたとは…他の令嬢なら、拗ねるなり追及するなりしたかもしれないが、ナシェルのせいで自己評価が低いオレリアは我慢するだけで何も言わない。解っていても、その姿に感情が波立つ…ナシェルと面会してから余裕がなくなっている。


「いや、俺の言葉が足らなかった。女性と庭園に来たのはリアが初めてだ。男色の噂が立つくらい俺が女性を苦手としている事は、オレリアも知ってると思うが…学園でも、騎士になってからも男同士で連んでばかりいたよ」

「……噂の事も、女性が苦手だという事も存じております。ですが、フラン様は学園にいらっしゃった頃から、沢山の令嬢に慕われておりましたから…皆無ではないと思ってしまったのです」

「リアとは在学期間が2年程同じだったか」

「私は中等学園の生徒でしたが、フラン様の事は、才に長けた、紳士で秀麗なお方とよくお耳にしておりました」


「…ハッ、随分と歪曲されてるな」

厚かましい令嬢達に辟易していた俺は、紳士の欠片もない程に当たりが強かったと自覚している。

手前勝手に評価する令嬢達に冷笑し、吐き捨てる様に呟いた俺を見て、オレリアが俯く。


「ご気分を害された様でしたら、申し訳ありません」

「害してなどいない…リア、以前にも言ったが、俺に対して畏まる必要はない。その遠慮が過ぎる態度もだ」

「……はい、善処致します」

後ろから、カインとウィルの大きな溜め息が聞こえてきたが、どうしても言わずにいられなかった。

ナシェルの影響が色濃く残るオレリアを見ていると酷く苛立つ。


「……そろそろ戻ろう。オレリアも公爵家へ戻る準備をしなくてはならないだろう」

「はい…フラン様の御心…いえ、はい」

美しい花は色褪せて見え、貴族達の笑い声さえ煩わしく感じる。

帰りの馬車は向かい合って座り、言葉を交わす事もなかった。


ーーー


「エルデが、俺の専属侍女?」

気まずいまま、オレリアと別れて、陛下への報告と執務を終えて自室に戻ると、カレンが耳を疑う様な話をしてきた。


「はい。王妃陛下が王城でエルデさんを預かって、直々に教育をされると張り切っております。その間、殿下の専属侍女として仕える事も、デュバル公爵から了承を得ているそうです」

伯母上は、オレリアと同様にエルデの事も気に入っているらしい。

「随分根回しが早いな…だが、エルデの作法に問題はないと思うが、何の教育だ?」

「ダンスや社交の教育をされるそうです」

「必要最低限の教育しか受けてないとエルデも言っていたが…伯母上の希望なら仕方ない…エイラ、暫くの間オレリアの専属侍女として、学園の寮に行ってもらえるか?デュバル公爵には私から話しておく」

「承知致しました。誠心誠意お仕えさせて頂きます」

「それにしても、時機が良くないな…」


カインから庭園での話を聞いたカレン達に、こっ酷く叱られた…


翌日、他人行儀な挨拶を交わし、オレリアは公爵家へ帰った。








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