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王国の彼是  作者: 紗華
38/197

38:アズールオレンジ


「ラヴェル騎士団長、報告書に何か問題でも?」

「少しですが、海沿いの領地の魔物の出現率が上がっております」

海沿いの貴族領はそう多くない。東のデュバル公爵家と、西のラスター侯爵家が多くの面積を占めており、両家の領地の中に飛び地の貴族領が幾つか点在している。

両家は大きな港と海軍を持っており、海の魔物は皆無だが、仮に出現しても海軍が討伐に当たるので問題はない。


海沿いの領地の森の瘴気が濃くなっているのか…報告書を見る限り、数字は微々たるもので予算に影響はなさそうだが、領騎士団の出動率が前年より高くなっている。


「このままでは、アズールオレンジの収穫にも影響が出ます。なので、調査を兼ねた討伐遠征を検討しています」

「……アズールオレンジ?」

「殿下はご存知ないのですか?うちのエルデの実家で作っているアズールオレンジです」

「アズールオレンジは知っているが…()()()()()()?」

「ええ、うちの愚弟(ネイト)と結婚が決まりまして。今後とも、愚弟とエルデ(義妹)を宜しくお願い致します」

「ちょ、ちょっと待て。結婚なんて聞いてないが、いつ決まったんだ?」

「3日前です。ネイトと2人で囲い込み、無事勝利を納めました」

令嬢を囲い込むとはどういう状況?しかも勝利って、他に例えはないのか?

ネイトが脳筋と言っていたが、こんな人だっただろうか…


「3日前というと、ネイト殿がエルデ殿に結婚を申し込んだ日ですね」

「リアは何も言ってなかったが…。本当に結婚するのか?カインとウィルは何か聞いてるか?」

あの日、執務室でエルデに逃げられたままだとばかり思っていた為、下手に触れる事も出来ずにいたが、その日の内に結婚を決めていただと?

「私は何も聞いてません」

「私も聞いてません。この3日間、執務とジュノーの事で手一杯でしたからね。ネイト殿も時機を窺っているのでは?」

ナシェルとの面会が決まってからの3日間は、カインとネイト、ウィルの4人で王宮図書館と記録室を片っ端から調べて回っていた。

確かに、結婚を報告する様な空気ではなかったな…


「そろそろ交代の時間なので、本人に聞いてみてはいかがですか?」

ウィルの言葉に反応したかの様に扉がノックされ、ネイトが入ってきた。

「失礼します。ネイト・ファン・ソアデン。これより、フラン殿下の専属護衛任務に就きます。って……兄上…」

「待っていたよ、ネイト。俺に()()する事があるだろう?」

「…………」

この機会を潰すか…だがこっちは3人、必ず吐かせる。ラヴェル騎士団長とカインも小さく頷いた。


「……そうか…分かった…で?ラヴェル騎士団長は遠征を検討しているんだったな。アズール領だけか?」

「はい。他の領地は東と西に位置しているので、デュバル公爵家とラスター侯爵家が調査を請け負ってくれ事になりましたが、アズール領はちょうど真ん中の位置なので、我々が調査をする事になりました。ただ、調査は決定しましたが、遠征もとなると元々予定されている遠征との調整が必要になるので、社交シーズン後になると思います」

「アズール伯爵に連絡は?」

「これからです」

「その遠征には私も同行する。総司令官として現状の把握をしておきたい。私含め、王家はアズールオレンジが好物だからね。収穫に影響が出るのは困る」

「うちもアズールオレンジが大好物なんです。一度食べたら、他のオレンジは食べれません」

「キリング家もアズールオレンジは欠かせませんね、母は皮を乾燥させて紅茶に入れて飲むくらい好きなんですよ」

「アズールオレンジは大人気だな」

「ええ、ジークも言ってましたが、輪番護衛は争奪戦だそうです」

「だろうな。今頃、公爵家にも釣書が殺到してるだろう」

「私も、同寮だった文官に尋ねられました」

「…結婚します…」

()()()()?」

「この度!私ネイト・ファン・ソアデンは、アズール伯爵家ご令嬢エルデ殿に結婚を申込み、承諾頂いた事をご報告致します!」


「よくやった!愚弟よ。長い2年だったな…」

「「「……2年?」」」

「ちょっ、兄上それはーー」

「ネイトは2()()()前からエルデが好きだったのか?」

「ネイト殿は、2()()()何してたんですか?」

気さくで優しく、剣の腕も一流。爵位を継ぐ必要がないネイトは、入婿を探している貴族家からの人気が高く、隊舎に届く釣書はネイトが一番多かった。

ネイト自身の人気も高く、多くの令嬢がネイト目当てに訓練場へ足を運んでいる。

金に困っても、女性に困る事だけは絶対にないネイトが、2年も片想いをしていたとは…面白過ぎる。


「デュバル公爵令嬢に付き添っていたエルデ嬢に一目惚れしたそうなんですが、2年もの間、何の進展もなくアズールオレンジばかり食べてましたよ…王都に出る度に買い占めてました」

「……兄上、そろそろ戻ったらいかがですか?」

「そうだな。それでは殿下、次回は予算案の会議で。御前失礼致します」

「私も失礼致します。ネイト、結婚おめでとう」

ラヴェル騎士団長とウィルが下がり、ドナもお茶を淹れ直して執務室を出た。

カインと目配せをしてネイトに向き直る。

「で?何故報告しなかったんだ?」

ネイトは大きく息を吐き、観念した様に話し出した。

「……エルデと話し合って、ナシェル殿との面会の後に報告する事に決めたんだよ…隠してた訳じゃない、時機を見て判断しただけだ」

「気を遣わせたな…」

「お前にじゃない、オレリア様にだ」

「分かってるよ…それにしても、隊舎の部屋にいつもアズールオレンジを常備してたのは、疲れを癒す為だと思ってたが、拗らせてたのか…」

「アズールオレンジで我慢してたんですね…」

「「結婚おめでとう(ございます)」」


「ありがとうございます……その憐れむ様な目で見るのをやめろ」

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