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王国の彼是  作者: 紗華
31/197

31:義弟と姪 ユリウス

「このまま帰るのか、オーソン」

「義兄上…先程は失礼しました」

屋敷へ帰るデュバル公爵を呼び止めたのは、ダリア王国宰相で、デュバル公爵夫人、ノエリアの実兄でもあるユリウス・ファン・カイエン公爵。子供は息子ばかり3人だからか、オレリアへの溺愛振りはオーソンとアレンにも負けない。

フラン殿下を混じえた話合いは、いつもの流れで肝心な事(ナシェル)を話せないまま終わったが、おそらくデュバル公爵に時間を与える為に、陛下が一芝居打ったのだろう。デュバル公爵もそれに気付いているから、いつもより早く帰路に着いている。


「…あの2人の暴走はいつもの事だ、気にするな。それより、オーリアが王城に運ばれてから一度も会っていないだろ。オーリアに顔を見せなくていいのか?」

「私も顔を見たいのですが、今は…」

「ナシェル殿の事が気になる。か…」

オーソンの歯切れの悪い返事に、ナシェルを思い浮かべる。


ナシェルの常軌を逸した行動は、オレリアを困惑させ、傷付けた。

オレリアの言動一つ一つに指示を出し、小言を振りまく。身に纏うドレスやアクセサリーにまで干渉し、オレリアの全てを支配する様な執着を見せながら、公の場ではよそよそしく、交流も最低限。それもナシェルの気分を損う様な事があれば、オレリアを叱責し、そのまま置いて帰ってしまう拒絶も見せた。

両陛下が注意しても聞く耳を持たず、オレリアも王妃教育の賜物なのか、弊害なのか、常に無表情で凛とした態度を貫き、周りに悟らせる事はなく、傷を抱えてきた。


愛する姪が傷つけられる度に、ユリウスは血が滲む程に強く拳を握り締め、怒りを抑えてきた。

目の前に立つオーソンも、シスコンと評判のアレンも、表立っては示さないがナシェルに憤っている。それだけじゃない、ノエリアの忘れ形見(オレリア)を護れない自分達を責めてもいるだろう。


フラン殿下と婚約を結び直し、少しずつだが傷も癒えてきている。

これ以上ナシェルの事でオレリアを傷付けたくない。オーソンもきっと同じ思い。

だが、ナシェルの口から()()()()()()の名が出たからには否とは言えない。


「陛下には考えさせて欲しいと申し上げましたが、ナシェル殿との面会は承諾すると決めています。ですが、面会を承諾する事をオーリアに伝える勇気はまだない…一晩だけ時間をください」

「分かった。明日、オーリアとの時間を設けよう。私も同席していいかな?」

「義兄上、それはーー」

「なんだ?私だってオーリアに会えてないのだ。少し煽り過ぎた様で思いの外、殿下の囲いが強固でな」


ーーー


「お会いします」


嫌がる事も、ましてや悩む素振りもなく即答するオレリアに、父と伯父は固まった。

愛するオレリアを傷付る様な事はしたくない。だが、これも国の為と、一晩かけて心の整理をしてきた2人は、驚きで声も出ない。


「私は、デュバル公爵家の名を背負う者です。お父様や、伯父様がダリア王国の為と判断なされた事に否やはありません。ナシェル様との面会が謎の声の解決に繋がるのであれば、私は何度でもお会いします」


『私はダリアの貴族です。私の命一つで、ダリアの民達、愛する家族を助けられるなら本望』


10年前、大陸の各国が流行り病に襲われた。ダリア王国も多分に漏れず、多くの貴族が流行り病に罹る事を怖れて屋敷に閉じ籠る中、ノエリアは慰問を続け、民達を励まし、病に罹ってからは、自ら薬の臨床試験の実験体となり、最期まで闘った。

国の憂いを取り除く為、国の利となる為なら厭うことは何もないと答えるオレリアに妹の姿が重なる。


「…分かった。ここ(王城)にいる間に面会する事になるだろう。準備をしておく様に」

「承知しました…。ところで、お父様、伯父様。今秋開かれる剣術大会で着る剣舞の衣裳の試作品が届いたのですけど、見て頂けますか?」

悔恨と感傷に浸る2人を元気づける為か、明るい声で話題を変えてきたオレリアに応える様に、2人は笑顔で頷いた。

「殿下にまだ見せていないのだろう?私達が先に見てもいいのか?」

「いっ、いいのです。フラン様には完成した衣装を見て頂きますからっ」

「なんだ、私達は殿下のお試しか…」

「~~っ、伯父様までっ、揶揄わないで」


愛する姪の為に、ジュノーについてもっと調べなくては…面会迄に、どんな些細な事でもいい。ノエリアの時は見守る事しか出来なかったが、今度こそ護る。


ーーー


「オーリア……その衣装は誰が考案したんだ?」

「エレノア様達です。放浪民族の踊り子の衣装を参考にしたと手紙に書かれてました」

「…そうか、ラスター侯爵家の令嬢か」


東のデュバルと西のラスター。領地に大きな港を持ち、貿易が盛んな両家は、海路を通じて貿易国から商品だけでなく、流行や情報も仕入れている。

王太子の婚約者であるオレリアは王都を出る事は殆どないが、ラスター家の令嬢は長期休暇の度に領地へ戻り、流行を仕入れて王都で流行らせる。言うなれば社交会の華。

学園生活でも、ナシェルの事で傷付いたオレリアに寄り添い、支えてきた恩人とも言える友人なのだが…

試作品だという衣裳は一見すると、普通のAラインのドレスにフェイスベールなのだが、ウエスト部分で上下が別れており、剣を振り回す度に肌が見える。


「オ、オーリア?それは、お腹が冷えないのか?」

「剣を持って舞うので、暑くなるくらいです」

こんな風にと、剣を両手に掲げて一回転するが、裾に切れ目まで入っているではないか!?

「オーリア…そんなに回っては目が回ってしまう!」

そして肌も出てしまう!

「伯父様の目にその様に映るという事は、私の剣舞はまだまだ未熟なのですね…もっと精進致します」

「あっ…いや、そうではなくてな…?」


隣で優雅にお茶を飲むオーソンの視線が、とても冷たく感じるのは気のせいではあるまいな。



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