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王国の彼是  作者: 紗華
28/197

28:裏側 エルデ

「クリームは必要なかったわね…」


「そうですね。それと、あれだけ独占欲が強いと小さなヤキモチも無理でしょうね」


私の呟きに対するあり得ない返事に、思わず隣を仰ぎ見る。


「……ま、まさか…ネイト様…さっきの…き、聞かれて…」


「少しだけです。初心者の殿下には難易度が高すぎる要求でしたが、俺は挨拶のキスは大歓迎です。膝の上に乗せて手ずから食べさせるのは、うちの団長と同じ思考で笑えました。騎士なので抱き上げでベッドに運ぶのも問題ありません。ここからは男性としての意見ですが、指を絡めて髪にキスしながら口説くのは、カイン殿も言ってましたが、理性が保つ(もつ)か自信がないですね。」


努力はしますけど、などと言って笑ってるが、こっちはそれどころではない。

仕事なんて投げ出して、今すぐこの場から逃げたい。顔の温度がどんどん上がる。


泣いていいかしら、いや、今はダメよ、堪えるの。でも…泣きたい…


「~~すっ、少しって、全部じゃないですか!それに、カイン様もって……まさか…殿下も…?」


仕事中だからと聞き流すには、あまりにも衝撃が強すぎるネイトの話に声を潜めて抗議する。

聞き捨てならない名前(カイン様)まで出ており、このままでは己の進退に関わる。


「殿下が午前の仕事を早めに切り上げて、オレリア様の元に向かわれたんですよ。ノックしても返事がなかったので、様子を見るために、少し覗いたんです」


終わった…侍女として、オレリア様のおそばに在り続ける事も、望んではいないが貴族令嬢として嫁ぐ道さえも閉ざされた。

実家はダリア王国の海に面した、片田舎の領地を持つ伯爵家。特産品はオレンジ。

少ない雨量と、乾燥した土壌に糖度を高められた果実は、アズールオレンジと王都では評判だが、所詮は田舎伯爵。伯爵自ら果実を育て、社交は皆無。家族も領地も大好きだが、結婚は早々に諦め、公爵家に侍女として入った。


「……お嫁に行けないわ…」

「どこかに嫁ぐ予定でも?」

「ただの比喩です。それ程恥ずかいのです。…察して下さい」

「そうですか?どれも男としては嬉しい要求ばかりでしたよ」

「だ、だって、オレリア様がーー」


「頭を撫でるくらいじゃ、シシリア王女殿下と同列ですからね。忠告しときますが、殿下は撫でるというより、掻き回しますから。王女殿下も髪型が崩れると怒るくせに、頭を撫でろと強請るんです。あの2人の挨拶ですね」


何だろう、ネイト様のこの余裕は。3歳しか違わないのに、恥ずかしくて、悔しくて堪らない。


「ご、誤解のない様言っておきますが、先程のは本音ではありませんから」

「大丈夫、解ってます。オレリア様を煽ったんですよね?」

「煽ったわけではありませんが、あれ位言えば、もう少し欲を出して下さると思ったのは確かです」

「見ていてもどかしい位でしたからね」


「そうなのです。私だったらもっと積極的に…いえ、なんでもありません」


殿下との会話を聞いて常々思っていたが、ネイト様は巧みに相手を誘導する。奥に隠した本音を引き出して、翻弄して楽しむ。

護衛より尋問職、いや、貴族当主でもやっていけるだろう。


「男は意気地が無いですから、積極的な方が助かります」

「…はしたないと思われないのですか?」

「我儘気随なのと、積極的なのは違うでしょう?」

「それは、そうですけど…。申し訳ありません、仕事中に長話をしてしまいました」

「構いませんよ。仕事とはいえ、あの2人を見てるだけで砂糖が吐き出そうです。ウィルさんだったら無表情でいられるんでしょうけど。既婚者の余裕ってやつですかね」


それが騎士の通常ではないのかと思ったが、これ以上墓穴を掘りたくない。

微笑むに留めておいた。


ーーー


「ええっ!?クリームなしでいけたの!?」

「嘘でしょう…」

反応するのはそこなの?あんな破廉恥な話しを聞かれた事は恥ずかしくないのかしら?


「本当に恥ずかしくて…逃げ出したかったです」

「エルデさん、よく頑張ったわ」

「それにしても、クリームなしでキスに告白って、殿下も見どころあるわね」

「そうね。次はどの手で煽ろうかしら」

「煽るって…まさか…お2人は殿下達に気付いてたんですか?」

「オレリア様とエルデさんは扉に背を向けてたから、気付いてなかったけどね」

「そんな…」

「それにしても、理性が保たないって…フッ。若いわね」

「本当に、可愛いわねぇ」


そう笑う2人が既婚者だったと今思い出した

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